One's Note

一橋ロー入試対策情報・司法試験過去問・修習雑記

本試プレテスト憲法(第1問のみ) 構成メモ

近時のLO型に近い司法試験プレテスト第1問を復習しました。

小題が2つあり、1つ目で憲法上問題がある要綱を箇条書きさせ、2つ目でそのうち最も違憲の疑いが強いものを取り上げて憲法上の問題及び違憲性を解消するために必要な手段を論じさせる形になっています。 現在の傾向と合わないので、演習時は「提出された要綱の憲法上の問題点及びその問題点を解消するために採るべき措置を検討しなさい。必要に応じて、反対の立場及び判例の立場にも言及すること。」と改題しました。

 

1. 雑感

本試の問題としてプレテストを含めるならば、史上最も「黒い」法案といっても過言ではない。その気になればすべての要綱について憲法上の問題点を指摘できるが、紙幅と時間の関係上それは得策ではない。演習段階では、明らかに違憲であると思われる要綱第5~7のみ検討した。

個人的に難しいと感じたのは要綱第6,7。

要綱第6はそもそも何の判例を軸に検討すればいいのかがピンと来ず、緊急逮捕合憲判決を援用した。最判昭和30.4.27も近いと言えば近いが、主体が捜査機関ではない点が悩みどころ。

要綱第7は川崎民商事件や成田新法事件が頭に浮かんだが、捜査機関主体の刑事手続であるためこれらの判例は用いなかった。

プレテストは簡潔な出題趣旨しかなく、ぶんせき本等による解説も見当たらない。以下の構成メモが適切な解答筋であるか不明だが、演習される際には批判的検討題材として利用されたい。

 

2. 構成メモ

 1 要綱第5
⑴ 特定国際テロリズム組織への情報提供につながる情報発信行為を禁じる要綱第5は、国民が情報発信をする自由を侵害し、憲法21条1項に反しないか。
⑵「表現」(憲法21条1項)とは、自己の内面における精神活動を不特定多数人に向けて公表する行為をいう
 情報は事実に過ぎないから、不特定多数人に向けて発信する行為に精神活動は伴わず、「表現」には当たらないとも思える
 しかし、知覚・記憶した事実を再構成する段階には知的作業が伴うから、事実の発信も精神活動を外部に公表する行為といえる
 したがって、情報の発信は、自らが知覚・記憶した事実を不特定多数人に向けて公表する行為であるから、「表現」にあたる(博多駅事件判決)
 よって、国民が情報発信をする自由は、表現の自由として憲法21条1項で保障される
⑶ 情報の発信は、国民が様々な情報に触れて人格を形成し民主政の過程に参加する上で欠かすことのできないものである したがって、情報を発信する表現の自由は、極めて重要な権利である
 要綱第5は、情報発信行為を含む「特定国際テロリズム組織のためにする」行為の一切を禁止しているから、表現の自由を制約している
 当該制約には懲役・罰金という刑罰が伴うから、事後規制とはいえ制約は強度である
また、規制は「特定国際テロリズム組織のためにする」行為か否かという表現の内容に着目して行われるから、公権力の恣意が働く危険が高い
したがって、憲法適合性は厳格に審査すべきである
具体的には、形式面において過度広汎な規制であると認められる場合、表現に対する萎縮効果を生じさせるとして要綱第5は憲法21条1項に反し、実質面において①当該規制の目的がやむにやまれぬ必要不可欠のもので②当該規制が目的を達成する手段として必要最小限度といえない限り違憲と解する

ア 形式面
 法案の目的は日本におけるテロ活動を防止する点にある また、情報の提供は物的手段の提供と並んで規定されている 趣旨及び規定から、「特定国際テロリズム組織のためにする行為」は、表現との関係では特定国際テロリズム組織の活動に寄与する情報を当該組織に直接提供する行為と合憲限定解釈できる            
したがって、要綱第5のうち間接的に情報を提供することにつながる行為をも規制している部分は、過度に広汎な規制として憲法21条1項に反する
イ 実質面
要綱第5は、アメリカにおいて大規模な同時多発テロが発生し、日本もテロの標的とされていることに鑑み、国民の生命・身体、ひいては国家の安全を保護するために定められたものである 国家の存立や国民の生命・身体は最も重要な法益であるから、目的はやむにやまれぬ必要不可欠のものといえる(①充足)
 これらの極めて重要な権利は一度損なわれると取り返しがつかないから、予防的措置としてある程度強度の規制をする必要がある 情報発信行為を規制すれば、特定国際テロリズム組織の情報収集が阻害されるため、テロの防止につながる よって、上記目的と情報発信行為を規制することとの間には関連性及び必要性が認められる 
 しかし、現状の要綱第5は規制範囲が過度に広汎であり、最小限度とは言えない
 したがって、必要最小限度の規制とはいえない(②不充足)
⑸ 以上より、要綱第5は21条1項に違反する。違憲性を解消するためには、規制対象となる情報提供行為につき、「特定国際テロリズム組織に対し活動に寄与する情報を直接に提供する行為に限る」などの限定を付す必要がある
2 要綱第6
⑴ 一定の場合に令状なくして捜索差押えが行えるとする要綱第6は、令状主義に反し憲法35条1項、2項に反しないか。
⑵ 判例は、事前の令状発付を要しないとする緊急逮捕について、①明示された一定の重大犯罪に限定されていること②緊急やむを得ない場合のみ認められるとしていること(刑事訴訟法210条1項前段)③逮捕後ただちに令状請求しなければならないとしていることを理由に、憲法35条に反しないとしている(緊急逮捕合憲判決)
 憲法35条1項、2項も33条と同じく令状主義について定めているから、要綱第6が憲法35条に反するかは、上記①②③の観点から検討する
⑶ 
ア ①について
要綱第6の1は犯罪の主体を特定国際テロリズム組織に限定しているが、犯罪について明示の限定はしていないから、捜索差押えが可能とされる範囲の限定は不明確である
イ ②について
「証拠を保全する緊急性があり、かつ裁判官の令状を求めることができないとき」という限定は緊急逮捕の規定に準ずる限定といえる
ウ ③について
 要綱第6の2は裁判官による事後の許可を要求し、許可がなかった場合押収物の還付等を義務付けている 
 しかし、捜索については事後に不許可となっても何ら制約がないうえ、令状の発付が必要ない点で捜査機関の権限濫用に対する歯止めがない
 以上より、①③の点で緊急逮捕とは異なるから、要綱第6は憲法35条1項2項に違反する
⑷ 違憲性を解消するためには、特定国際テロリズム組織の犯罪行為を明確に限定し、事後の許可ではなく令状請求を義務付けるべきである
3 要綱第7
⑴ 質問や記録の閲覧請求を拒んだり虚偽の答弁をしたりした金融機関職員に対し、刑罰を科す要綱第7は、憲法31条に反しないか。
⑵ 要綱第7は刑事罰を科すこととしているので、31条により適正手続の保障が及ぶ
 しかし、金融機関の職員に対する手続について何らの規定もされていない
⑶ したがって、要綱第7は31条に違反する 違憲性を解消するためには、事前に特定国際テロリズム組織による犯罪行為と関わりがあると信じるにつき相当の理由があることを裁判官が認めている場合にのみ許容するなどの限定を付す必要がある
                                     以上