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一橋ロー入試対策情報・司法試験過去問・修習雑記

本試平成26年経済法 構成メモ

 比較的レア?な本試経済法の復習メモです。といっても、平成26年度以前は「1冊だけで経済法」に載っていますが。

 

 

1. 雑感

 第1問が排他条件付取引+私的独占、第2問が不当な取引制限(入札談合)という、R3で狙われそうな行為類型の組み合わせ。極端な捻りはないので、淡々と事実摘示・評価を繰り返して要件を検討することになる。

・第1問について

不公正な取引方法については、毎度「正当化理由になりそうな事情をどこで検討するか」で悩まされる。

いつかの採点実感で、不公正な取引方法において正当化理由を検討する場合、条文上の何かしらの文言に引き付ける形で検討すべし、という指摘がされていたと思うので、今回の起案では、「不当に」に引き付ける形で展開した。

・第2問について

この手の問題は適用法条について悩まなくていいものの、事実にひねりがあるため摘示と評価をおろそかにすると書き負けやすい。基本合意の存在の推認など、丁寧に書くように努めたが、成功しているかは不明。

 

2. 起案

 

【第1問】
1 A社の行為は排他条件付取引(一般指定11項)に該当し、独占禁止法19条(以下法名略)に反しないか。
2⑴ A社は甲製品を製造販売するメーカーであるから、「事業者」(2条1項前段)にあたる。
⑵ A社が「相手方が競争者と取引しないことを条件として」取引したといえるためには、相手方による取引条件の遵守が契約上義務付けられているか、それに従わない場合に経済上の不利益を課すことによって現実に実効性が確保されている必要がある。
 A社は大口利用者向け販売業者に対し、購入に占める自社製品の割合の多寡に応じた割戻金を支払う旨約束している。これにより、A社は大口利用者向け販売業者をしてA社製の甲を取り扱うインセンティブを与え、他社製の甲を排除させようとしているものと認められる。大口利用者向け販売業者としては、A社製の甲を相当割合確保しておくことが重要となっている。そうすると、大部分の大口利用者向け販売業者はA社から割戻金を受け取ることとなるから、他社製甲の取扱量を減らしてA社製甲の取扱量を増やさない場合には他の競争者より受け取れる割戻金が少なくなるという経済上の不利益を負う。したがって、A社の取引条件については現実に実効性が確保されているから、「相手方が競争者と取引しないことを条件として」取引するものにあたる。
⑶ア 「不当に」とは、自由競争減殺を意味する公正競争阻害のおそれがあることをいう。ここにいう公正競争阻害のおそれは、市場閉鎖効果が生じる場合、すなわち当該行為により新規参入や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するおそれが生じる場合に認められる。
イ 市場閉鎖効果の有無を検討するにあたっては、行為の影響が及ぶ取引の範囲を画定することが有益である。そこで、①商品・役務の範囲②地理的範囲から市場を画定する。その際には、主に需要者にとっての代替性を考慮し、必要に応じて供給者にとっての代替性を考慮する。
(ア) 甲製品の用途には乙も用いることができるが、品質面において甲に大きく劣るため、需要者にとっての代替性はない。また、大口利用者向けの甲と小口利用者向けの甲とでは取引数量や取引価格に大きな差が存在するため、両者には需要者にとっての代替性がない。よって、①は大口利用者向けの甲と画定される。
(イ) 甲については日本全国に大口利用者、および販売業者が存すること甲は海外でも製造されているが、殆ど輸入がされていないことから、国産の甲と海外製の甲とで需要者にとっての代替性はないと考えられる。したがって、②は日本国内と画定される。
以上より、国内の大口利用者向け甲の販売市場(以下、「本件市場」という。)における市場閉鎖効果の有無を検討する。
ウ A社は国内における甲製品の販売シェアで70%を占め、本件市場において最も有力な地位にある。また、A社製の甲は強いブランド力を有しているため、大口利用者向け販売業者としてはA社製甲を確保しておくことが重要になっている。そのような地位にあるA社が上記の取引条件を導入すれば、大口利用者向け販売業者は競争上不利な地位に立たないようにA社製甲の取扱比率を上昇させ、従来からA社製甲のみを取り扱う業者はその方針を継続すると考えられる。したがって、A社の行為には、新規参入者や既存の競争者の取引先を奪うことで本件市場から排除し、又は取引機会の減少を生じさせるおそれがある。よって、形式的には市場閉鎖効果が認められ、「不当に」の要件をみたす。
⑷ もっとも、A社の行為は、自社製品の販売先を確保することで甲製品の製造コストを大幅に削減する目的でなされている。そこで、独占禁止法の究極の目的(1条)に反しないといえ、実質的には「不当」性が認められないのではないか。上記の究極の目的に反しないかは、①行為の目的の正当性②目的達成のために当該行為をする必要性・相当性で判断する。
 製造コストの削減は、それが販売価格に還元されるのであれば、競争促進に向けられた目的と言えるから、正当性が認められる。
 しかし、A社がこれまで高水準の価格を維持してきていることからみても、削減された製造コストが販売価格に還元されるとは考えられない。よって、目的としての正当性は認められない(①不充足)。
また、製造コストの削減は原材料や製造過程の見直しから検討すべきであり、最初から取引先を囲い込むことは手段としての相当性を欠く(②不充足)。
よって、A社の行為は1条の定める目的に反しないとはいえず、なお「不当」性が認められる。
⑸ 以上より、A社の行為は排他条件付取引に該当し、19条に違反する。
3⑴ また、A社の行為は私的独占(2条5項)に該当し、3条前段に違反しないか。
⑵ A社が「事業者」にあたるのは前述の通りである。
⑶ 「排除」(2条5項)とは、人為的行動によって他の事業者の事業活動の継続や新規参入を困難にする蓋然性のある行為をいう。なお、公正競争阻害のおそれが認められる行為については、これにあたることは明らかである。したがって、A社の行為は「排除」にあたる。
⑷ 「一定の取引分野」としては、本件市場が画定される。
⑸ 「競争を実質的に制限する」とは、競争自体が減少して市場の諸般の条件をある程度自由に左右できる状態をもたらすこと、すなわち市場支配力の形成・維持・強化をいう。
 A社の行為は、前述の通り大口利用者向け販売業者の囲いこみによって既存の甲メーカーの事業活動の継続を困難にし、甲の製造販売を計画している事業者の新規参入を断念させるものである。実際に、新規参入を計画していた事業者は計画を取りやめ、既存のメーカーも取引機会を失って市場から撤退し、取引数量も減少を余儀なくされていることからも、これは明らかである。

 したがって、A社の行為は本件市場における市場支配力を強化するものであるから、「競争を実質的に制限する」といえる。

⑹ 以上より、A社の行為は私的独占に該当し、3条前段に違反する。
                                    以上

 


【第2問】
1 15社の行為は不当な取引制限(独占禁止法2条6項、以下法名略)に該当し、3条後段に違反しないか。
2⑴ A社ないしO社の15社は、いずれも建設業者であるから「事業者」(2条1項前段)にあたる。また、各社はX市発注の特定舗装工事をめぐり競争関係にあるから、相互に「他の事業者」にあたる(2条6項)。
⑵「共同して」とは、明示的又は黙示的な意思の連絡が認められることを意味する。入札談合の存在は基本合意と個別調整の二つから認定されるところ、基本合意の存在があった場合には意思の連絡が認められると解する。基本合意の存在が明示的に認められない場合でも、個別調整の存在を間接事実として基本合意の存在が推認できるならば、意思の連絡を認め得る。
 本件において、15社がX市発注の特定舗装工事50件について受注予定者を決定する旨の明示的な合意は存在しない。
 もっとも、50件中40件については、受注希望者を確認した上で、希望者が1社のみならその業者を受注予定者とし、希望者が複数いる場合には受注希望者間で受注予定者を決定していたことが認められる。また、受注予定者は入札価格を決定したうえで他者の入札すべき価格を決定し、その旨連絡していた。15社のいずれも同様の行為をしており、しかも受注予定者は地域性や継続性と言った諸般の事情を考慮したうえで決定されていた。15社間でこのような詳細な調整を行うことは、大枠となる基本合意がなければ著しく困難である。

 したがって、15社間において、40物件について基本合意がされたことが推認される。よって、意思の連絡があったといえ、「共同して」をみたす。
 一方、50件中10件については、受注希望の表明及び価格の連絡が行われた事実は確認されていないから、基本合意の存在を推認することはできない。したがって、10物件については15社の意思の連絡があったとはいえず、「共同して」をみたさない。
⑶ 「相互に…拘束」とは、当該合意が①共通の目的の達成に向けられたものであって②行為者のそれぞれの事業活動を制約することをいう。本件基本合意は、高価格で工事を受注するという共通の目的の達成に向けられている(①充足)。また、15社の入札価格決定という事業活動を相互に制限するものである(②充足)。A社ないしD社は50物件のうちいずれも落札していないが、自社が受注予定者となることを期待して受注予定者の落札に協力し、他社の入札価格決定に制約を加えていた以上、この結論を覆すものではない。したがって、「相互に…拘束」をみたす。
⑷ 「一定の取引分野」は、①一定の期間内において②特定の官公庁等が発注する③特定の商品・役務の入札市場として画定される。入札談合においては、基本合意の期間内におけるすべての入札が影響を受けていると考えられるから基本合意の対象期間内におけるすべてがその範囲内に含まれると解する。
 本件においては、①平成24年4月1日から平成25年3月31日までの間に②X市が発注する③特定の条件をみたした道路舗装工事50件が「一定の取引分野」として画定される。
⑸ 「競争を実質的に制限する」とは、当該合意によって、競争自体が減少し市場における諸般の条件をある程度自由に左右できる状態をもたらすこと、すなわち市場支配力の形成・維持・強化をいう。
 本件の入札に参加できるのはA社ないしO社及び5社の20社のみであるところ、本件の基本合意はそのうち75パーセントを占める業者によってなされているから、入札をめぐる競争の回避に強い影響を与えたと認められる。50物件の落札率が平均して97パーセントと極めて高かったことからも、競争回避に対する影響が強いことがうかがえる。
 また、40物件のうち37物件が15社のうちいずれかの業者によって落札されていること、受注調整のなかった10物件のうち7物件についても当事者たる15社のうちいずれかの業者によって落札されていることから、アウトサイダーである5社は競争圧力としては有効に機能していなかったと認められる。
 したがって、本件における基本合意は、本件の入札市場における市場支配力を形成したものといえる。
 以上より、本件の基本合意は「競争を実質的に制限する」ものといえる。
3 よって、15社の行為は不当な取引制限にあたり、3条後段に違反する。
                                     以上