本試平成28年刑法 構成メモ
1. 雑感
事務処理系の流れを汲んでいる問題。おそらく重点的に検討すべきは、甲について共犯関係の解消が認められるか・丙の金銭持ち去り行為に強盗罪の共同正犯が成立するか(承継的共同正犯の肯否)の2点。他は淡々と要件充足性を検討すれば良いだろう。
例年に比べると難易度は低かったように思われるが、丁などは明らかに時間超過を狙って付加されている。記述のメリハリ付けを強制するためだろう。
2. 構成メモ
乙の罪責
1 V方に立ち入った行為
2 Vの顔面を蹴りふくらはぎをナイフで刺すなどして現金を強取した行為
強盗致死罪(240条、236条1項)
各要件、とりわけ問題にならない(死亡結果も強盗の手段たる暴行から生じている)
3 罪数
①住居侵入罪②強盗殺人罪が成立、②は甲と共同正犯 両者は牽連犯
甲の罪責
1 乙のV方立入り行為について
共謀共同正犯の成立要件3つはこっちで論証・定立しておく
甲は中止指示をしたにもかかわらず、乙はその後にV方に立ち入っている→共犯関係の解消が認められるか
たしかに、甲が乙に対して支配的な地位にあるから、中止指示をもって解消が認められるとも
しかし、犯行に用いる凶器や開錠器具を購入する資金を提供している→物理的因果性が及んでおり、共犯関係の解消にはこれらを回収するなど物理的因果性を遮断する措置まで必要
甲はこのような措置をとっていないから、共犯関係の解消は認められない
共謀共同正犯の要件はいずれもみたす
2 乙が現金を強取した行為について
・共謀に基づく行為といえることは若干丁寧めに書いておく。
・強盗について共謀が認められるので、結果的加重犯である強盗致死罪についても共同正犯として責任を負う
3 罪数
①住居侵入罪の共同正犯②強盗致死罪の共同正犯 ①②は牽連犯
丙の罪責
1 V方に立ち入った行為について
住居侵入罪
2 現金を持ち去った行為について
共謀に基づき、強盗罪のうち財物奪取だけに関与した者の罪責
→承継的共同正犯の問題。書きやすいのは積極利用説。
→強盗罪については肯定できよう。もっとも、反抗抑圧状態を利用しただけで、顔面を蹴った行為やふくらはぎを刺した行為自体を自己の犯罪の実現のために利用したとは言えない
→致死結果については帰責されないので、強盗罪の限度で共同正犯が成立する
3 罪数
①住居侵入罪②強盗罪の共同正犯 ①②は牽連犯
丁の罪責
1 V方に立ち入った行為について
住居侵入罪
2 キャッシュカードをポケットに入れた行為について
窃盗罪
キャッシュカードの「財物」性
3 キャッシュカードの暗証番号を聞き出した行為について
2項強盗罪の成否の問題
・丁の脅迫は単体では本罪の「脅迫」たりえないとも思えるが、甲によって作出された犯行抑圧状態を継続させるに足りるものではあったから、なお「脅迫」にあたる
・財産上の利益の具体的かつ確実な移転に向けられていることを認定
成立
4 盗取したキャッシュカードで現金を引き出す意図の下ATMのあるX銀行Y支店に立ち入った行為
建造物侵入罪(管理権者の承諾の範囲外の立入りであることを端的に認定すればOK)
5 ATMから現金を引き出した行為
銀行に対する窃盗罪
6 罪数
①住宅侵入②窃盗罪③強盗罪④建造物侵入罪⑤窃盗罪
①②・①③が牽連犯、全体として科刑上一罪 ④⑤が牽連犯 両者が併合罪
以上