One's Note

一橋ロー入試対策情報・司法試験過去問・修習雑記

本試平成25年経済法 構成メモ

 

1. 雑感

 

 第1問が価格カルテル、第2問が不公正な取引方法(拘束条件付取引)。

・第1問

価格カルテルとなると、意思の連絡・競争の実質的制限について重点的に論じなければならず、必然的に分量が増える。拾うべき事情も多いので、考慮要素を前出しする等して事情を使う場所を振り分けるのが大切だと思う。また、単に事実を摘示して評価を加えるのみならず、規範に対応させた評価まですることで説得力を持たせなければ差がつかない。

以下の起案はこの記事を作成する過程でそのまま書き下ろしたもの(一部に表記の簡略化がある)。何も見ずだいたい1.5hで書いているので現実的な出来かなあと思っているが、4枚に収めるには相当詰めて書かないとだめかもしれない。

・第2問

ゼミにて起案したもの。なぜか結論→理由という変わった構成にしているが、普通に書く方が目立たないと思う...。

「不当に」のあてはめは、ガイドラインと異なりあくまで一般的な判断枠組みをとっている。拘束条件付取引については、ガイドラインや基本書に即して行為類型ごとに整理しておくとあてはめがしやすくなるのでお勧め。

 

2. 起案

 

【第1問】

設問1

1 不当な取引制限(独占禁止法2条6項、以下法名略)に該当し、3条後段に違反しないか。

⑴4社及びYはいずれも甲の製造販売業者→「事業者」(2Ⅰ前段)にあたり、同一商品をめぐり競争関係に立つから相互に「他の事業者」(2条6項)にあたる。

ア 「共同して」とは、意思の連絡をいう。ここにいう意思の連絡とは、複数の事業者が相互にその行為を認識ないし予測し、これと歩調を合わせる意思があることを意味する。その判断に際しては①事前の交渉の有無②交渉の内容③事後の行動の一致の有無を考慮する。

イ A社ないしD社

(ア)4社は以前甲の値上げについて交渉・合意したことがあり、2回とも成功している→そうだとすれば、再び4社の中で値上げの打診が行われれば、いずれの会社も値上げを相互に予測しえたといえる。

(イ)A社から甲の販売価格を1キロあたり10円をめどに引き上げることについての打診あり。Dはこれに賛成している→この時点でA社の値上げを予測しこれと歩調を合わせる意思があったといえる。

一方、Cは意見を留保し、Bは値上げは時期尚早であるとしている→したがって、両社ともにA社が再び値上げを計画していることについては認識・予測できたといえるが、これをもってただちにA社と歩調を合わせる意思があったとはいえない。

(ウ)A社がB・C・D社に対し8月分からの販売価格を値上げする旨のメールを送信したところ、A社の値上げ発表からわずか数日で、A社と同じく8月販売分からの値上げについて顧客と交渉を開始している。また、いずれの会社においても値上げ幅はほぼA社と一致している→値上げ実施時期及び値上げ幅がおおかた一致しており、その発表時期も極めて近接しているから、偶然に4社の発表時期が重なったということは考えにくい。各社が独自の判断で値上げ実施時期・値上げ幅を検討した事実もないから、4社は相互に甲の値上げについて歩調を合わせる意思があったと認められる

→4社については意思の連絡が認められるから、「共同して」の要件をみたす

ウ Y社

(ア)以前に4社と値上げについて交渉したことはないため、事前に4社の値上げを予測することは通常ない。また、4社もY社の値上げを認識・予測しえない

(イ)YはA社の新聞発表を受けて値上げに踏み切っているだけで、4社との交渉はない

(ウ)値上げの実施時期は4社と同じであるが、事前に交渉がないこと、4社と相互に値上げを認識・予測しうる関係になかったことに照らすと、歩調を合わせる意思があったことを推認させるものではない

→Yと4社との意思の連絡は認められないから、「共同して」の要件をみたさない

⑶「相互に...拘束」とは、当該合意が①共通の目的の達成に向けられた②事業活動を相互に制約するものであることをいう

 4社間での合意は、いずれも甲の値上げという目的の達成に向けられた(①)、甲の販売価格決定という事業活動を相互に制約するものである(②)→「相互に...拘束」の要件をみたす

⑷「一定の取引分野」とは、①商品・役務の範囲②地理的範囲によって画定される市場をいう ①②の範囲は、主として需要者にとっての代替性を考慮し、必要に応じて供給者にとっての代替性も考慮する

①につき、甲に代替する製品はないから、甲と画定される。

②につき、甲は日本全国に需要者がおり、東日本地区と西日本地区とに範囲が分けられる。需要者の取引先は固定的であることに照らすと、地区間で需要者にとっての代替性は認められない。また、工場立地等の関係より、一方の地区で製造していた事業者が他方の地区に進出することは困難であるから、地区間で供給者にとっての代替性も認められない。よって、②は西日本地区と画定される。

したがって、「一定の取引分野」は西日本地区における甲の製造販売市場と画定される(以下、「本件市場」という)

⑸「競争を実質的に制限する」とは、競争自体が減少し、市場における諸般の条件をある程度自由に左右できる状態をもたらすこと、すなわち市場支配力の形成・維持・強化をもたらすことをいう。

本件では、本件市場において82パーセントものシェアをしめる4社によって値上げの合意がされていることから、価格競争の回避に与える影響は強い。

一方で、X社及びY社の供給余力は乏しいため、有効な競争圧力として機能するとは認められない。上記シェアが10数年変化しておらず、顧客が固定的であることからしても、競争的行為に出るより協調することによって利益を上げるインセンティブの方が強く働くと考えられる

→本件における合意は、本件市場における市場支配力の強化をもたらすと認められ、「競争を実質的に制限する」といえる

⑹ 本件のようなハードコアカルテルについて、「公共の利益に反して」いることは明らかである。

3 以上より、4社の行為は不当な取引制限にあたり3条前段に違反する。Y社の行為は独占禁止法に違反しない。

設問2

1 4社の行為は不当な取引制限に該当し3条後段に違反しないか

⑴4社がそれぞれ「事業者」「他の事業者」にあたることは前述の通りである

⑵4社は平成23年2月15日の部長会において甲の値上げについて合意しているから、明示の意思連絡が認められ、「共同して」をみたす

ア もっとも、C社はその後4月販売分の値上げについて交渉を行わず、同年4月10日の部長会について欠席している。そこで、合意からの離脱が認められないか検討する

 不当な取引制限の処罰根拠は相互拘束による競争制限にあるから、合意からの離脱が認められるためには、内心において離脱を決心したにとどまらず、少なくとも離脱者の行動等から他の合意参加者が離脱者の離脱意思をうかがい知るに十分な事情が存在していたことが必要と解する

イ C社は離脱に際し、他の3社に何ら連絡をとっていないため、離脱意思を明らかにしていない。また、欠席の連絡についても虚偽の連絡をしているため、3社としては合意から離脱する意思にもとづいて部長会を欠席したことをうかがい知ることができない。したがって、C社は内心において離脱を決心していたにとどまり、他の3社をして離脱意思をうかがい知るに足りる十分な事情は存在していなかったから、合意からの離脱は認められない

⑷ 値上げの合意が4社を「相互に...拘束」することは前述の通りである。

⑸ 「一定の取引分野」である本件市場において「競争を実質的に制限する」といえるか検討する。

 4社の本件市場シェアが82パーセントにのぼること、及びX社Y社の供給余力の乏しさに照らすと、4社の合意は前述と同様市場支配力を維持・強化するものといえる。たしかに、D社は大口取引先に拒否され値上げ交渉に失敗しているが、少なくとも値下げに関しては行えなくしている以上、競争制限効果を否定するものではない。

 よって、4社の合意は「一定の取引分野」における「競争を実質的に制限する」といえる

⑹ 「公共の利益に反して」いることは前述と同様明らかである。

3 よって、4社の行為は不当な取引制限に該当し、3条後段に違反する。

                                    以上

 
【第2問】

1 結論
X社の実施しようとしている方策①②は、独占禁止法2条9項6号を受けた一般指定12 項に規定される拘束条件付取引に該当し、法19 条に違反する。
2 理由
⑴ X社は、食品メーカーであるから、「事業者」(2条1項)にあたる。
⑵ では、X社は、方策①②により薬局・薬店に対し「拘束」(一般指定12 項)を課したといえるか。
「拘束」があるといえるためには、必ずしもその取引条件に従わなければならないことが契約上の義務として定められている必要はなく、条件に従わない場合に何らかの経済的不利益を伴うことにより現実にその実効性が確保されていれば足りる。
本件で、X社が甲の名で販売している製品αは、栄養の体内吸収率の点で他社製品よりも優れ、X社の知名度や有名タレントを起用したCMによって高い人気を得ており、市場占有率は40%と2位以下を大きく引き離している。そして、甲を指名して購入する消費者も少なくないことから、販売業者としては甲を取り扱うことが事業継続の上で必要不可欠となっている。
かかる事情に照らすと、方策①を実効化する手段として設けられた方策②は、X社の①の要請に従わない場合に甲を取り扱えないという、事業者にとり経済上重大な不利益が伴うことになる。甲の供給停止はX社が容易に行えることからすれば、事業者が条件に従わない場合の経済上の不利益により、要請の実効性を現実に担保しているものと認められる。したがって、X社の方策①②は、薬局・薬店に対し「拘束」を課すものである。
⑶ 上記の「拘束」は「不当に」なされたものか。
ア 「不当に」とは、自由競争減殺を意味する公正競争阻害性をいう。
自由競争減殺の有無の判断にあっては、影響を受ける取引分野を画定することが有益である。市場については①商品役務の範囲②地理的範囲によって画定する。その際には需要者にとっての代替性を考慮し、必要に応じて供給者にとっての代替性も考慮する。
イ ①について、αには類似品βが存在するが、栄養機能の点でαに大きく異なり、需要者にとっての代替性もほとんどないことから、①についてはαと画定する。
②について、X社は甲を日本全国で販売していることから、日本全国と画定される。
以上より、本件で検討すべき取引分野は日本全国のα販売市場である。
ウ では、X社の拘束には公正競争阻害性が認められるか。
まず、αについては消費者が価格より品質を優先していることから、価格競争がほとんど存在しない。したがって、販売価格は基本的に小売価格によることになるが、新たに登場したネット販売業者は、甲をそれよりも低価格で販売することにより、甲ブランド内における競争を喚起していたものといえる。
しかし、多くのα販売業者が方策①に従うと考えられ、その実効性が方策②で確保されていることからすると、X社の「拘束」によりネット販売業者への甲の横流しは容易に遮断される。また、代理店卸売の体系が採られているので、卸売段階においてブランド内での価格競争は生じにくい。
そうすると、本件拘束により甲のブランド内競争は回避されることになる。
そして、α市場にはシェア10パーセント を超える事業者が3社存在するが、前述した消費者の傾向からして価格競争に対するインセンティブははたらかない。また、製法や原料の点で新規参入にコストがかかることから、新規事業者の参入による競争圧力もはたらかない。
よって、本件拘束は、α販売市場における価格競争の回避をもたらす蓋然性が高いといえるから、「不当に」されたものといえる。
⑷ もっとも、方策①②は甲のブランドイメージ保護のためになされたとして、正当化事由が認められないか。
公正競争阻害性が認められる場合であっても、自由競争経済秩序の維持という公益と当該行為により守られる利益とを比較衡量して、独禁法の究極の目的(1 条)に反しない場合には、不公正な取引方法には該当しない。この目的に反しないかは、当該行為の目的の正当性及び手段としての相当性の観点から判断する。
ア a の点について
甲のもつ優れた栄養機能を十分に発揮させることは、他社製品との差別化を図るうえで重要であるから、その目的は競争促進の観点からして正当といえる。しかし、用法等の説明はネット上の画面で行うことも十分可能であり、目的達成のためにはネット業者にその説明の表示を義務付ければ足りるの
であるから、横流しを禁じるという方策は手段としての相当性を欠く。
イ b の点について
a と同様、甲の品質保持が他社製品との差別化を図るうえで重要となるから、流通段階での品質保持を要求する事には目的としての正当性が認められる。しかし、ネット販売においても冷蔵保管やクール便での配達を義務付けることで十分目的は達成可能であり、横流しの禁止まで講じることは手段としての相当性を欠く。
以上より、X 社の方策①②に正当化事由は認められない。
⑸ よって、上記の結論が導かれる。
                                     以上