One's Note

一橋ロー入試対策情報・司法試験過去問・修習雑記

【2021/2/23修正】本試平成22年刑事訴訟法 構成メモ

 

1. 雑感

 The・物量ゲー。とにかく書くことが多い。捜査➀②はごみの持ち帰り・開披・内容物であるメモ片の復元についての問題である。領置の典型事例だが、占有取得段階・開披段階でそれぞれ検討すべき被制約利益が複数あるため、論ずべき点がとても多くなる。

捜査③は当初「必要な処分」(111Ⅱ)の問題かと思ったが、検討中に「捜索差押許可状でそこまでできるのかって話なのかなあ」となり、若干方針転換した。両論ありうるので結果的にはどっちでも良かった。

設問2はおとり捜査の適法性・秘密録音の適法性、そのうえ伝聞法則まで問うとんでもないボリューム(しかも検証調書に準じた検討をさせる最多量タイプ)。

時間内で書きあげるには、設問2をさっさと書き上げることが肝要だと思う(最悪そっちから入ってもいいかもしれない)。

2. 構成メモ

【 設問1】
1 捜査①
⑴ 公道上のゴミ袋の持ち帰り
 領置(221)として許容されるか
「遺留した物」の意義を示す
 公道上に甲が置いて行った→「被疑者が遺留した物」にあたる
→領置としての必要性・相当性が認められれば許容
→適法
⑵ 開披・内容物の確認
ア 強制処分性
 内容物について知られないという権利は重要か?
→公道上に置かれたごみなので第三者の接近は想定される、重要でない
→強制の処分にはあたらない
イ「必要な処分」(222Ⅰ前段・111Ⅱ)or任意処分の限界
証拠物としての関連性を確認するために必要 /内容物の確認は必然的に選択される手段であるから相当
⑶ 復元
必要な処分(111Ⅱ)として許容されるか
領置目的の達成に必要+記載内容が読み取れる程度に裁断されていただけなので、その復元は手段として相当
2 捜査②
⑴ 集積所内への立入り、ごみ袋の開披・内容物の確認
 強制処分該当性のQ
 マンション敷地内に甲が置いて行った
→マンション管理者の敷地内に侵入されない権利を侵害+合理的意思に反する
→捜索にあたる。令状を得ていないので違法*1
⑵ 持ち帰りと復元
持ち帰りは領置になるが、マンション管理者の占有がなお及んでいるため「遺留した物」にはあたらない
→違法
復元についても、違法に収集された押収物について「必要な処分」が許される余地はないから違法
3 捜査③
捜索差押許可状で押収物の復元・分析まですることが出来るか
→予定されているプライバシー侵害を超えるか否かの問題
→可視性・可読性の失われた情報を復元するだけで、情報の破壊や改変に至るものではない
よって、予定されていた以上のプライバシー侵害は伴わない
したがって、令状の効力(or「必要な処分」)として押収物の復元・分析も出来る
→適法
【設問2】
1 前提になる捜査の適法性
⑴乙・丙に捜査協力をとりつけて、甲に対する拳銃譲渡の働きかけをさせ、甲がこれに応じたところを逮捕した
→おとり捜査の適法性のQ
⑵ おとり捜査は将来の事件に関する捜査であるが*2、拳銃譲渡が将来において行われる蓋然性があることから許容
 また、被疑者の意思決定の自由を制約するわけではないので強制処分にもあたらない
 もっとも、おとり捜査は国家が詐術を用いて犯罪を行わせ、法益侵害の危険を惹起する側面がある
→おとり捜査が任意処分として許容されるかは、おとり捜査の必要性と相当性を考慮して決する
⑶あてはめ
 甲らに犯罪の嫌疑アリ
 拳銃は殺傷能力の高い凶器→譲渡罪は重大犯罪につながる→早期に犯人確保をする必要性
 一方、密行性が高く、法禁物の取引に過ぎないので直接の被害者もいない
 また、甲らは拳銃の売却を慎重に行っており通常の方法では捜査が困難
→おとり捜査の必要性あり
 乙から甲への働きかけは執拗なものではない
 拳銃密売が過去から継続的に行われていることからして、甲は機会があれば犯行に出ると考えられた
→おとり捜査の相当性あり
→おとり捜査は適法
⑷秘密録音(①―③)
予備で出題済み。強制処分ではないが会話の相手方の了承を得ていない点で会話の内容について知られない自由は制約される
→任意処分の限界を超えるか検討
必要性
相当性
→いずれも適法
2 捜査報告書の証拠能力
実況見分調書とパラレルに考えるのがポイント
⑴伝聞証拠該当性の定義
⑵本件では甲の犯人性が争点→捜査報告書に記載されている通り、甲乙間及び甲丙間の会話が存在した事実が認められれば、甲の犯人性を推認することができる
→要証事実は、甲乙間及び甲丙間の会話が存在したこと
捜査報告書は公判外における録音をKが反訳して記載したもの→要証事実との関係で記載内容が真実であることの証明に用いられる→伝聞証拠にあたる
⑶伝聞例外の検討 
Kの供述書であるが、捜査報告書は口述より書面による報告が適切である点で検証調書と共通
→321Ⅲを準用し、Kが真正に作成したものである旨証言すれば証拠能力が認められる
⑷甲乙間、甲丙間の会話及び乙による説明を記載した部分についての検討
この部分に、別途伝聞法則の適用があるか
→要証事実との関係で内容の真実性が問題になるか検討
ア 甲乙間、甲丙間の会話部分
要証事実は、甲乙間、甲丙間において記載されている会話が存在したこと
→その存在をもって、甲による拳銃譲渡の事実を推認しようとするものであり、会話の内容の真実性は問題にならない
→この部分は伝聞証拠に該当せず、別途伝聞法則は適用されない
イ 乙による説明を記載した部分
要証事実は、甲が乙に対し拳銃2丁を譲渡したことになる(?)
乙自らが知覚・記憶した会話内容を供述した部分→その内容が真実であることをもって、甲乙間、甲丙間において記載されている通りの会話が存在したことを証明する
記載中の乙の説明そのものを、会話の存在を証明する独立の証拠として用いる
→この部分は伝聞証拠にあたり、別途伝聞法則の適用を受ける
(ア)伝聞例外の検討(2021/2/23修正)
甲→乙→ICレコーダー→K→捜査報告書
当該記載部分については乙の供述録取書とみることができる。なお、321Ⅰ柱書より署名押印が必要とも思えるが、準用される321ⅢによりKに対し公判廷で反訳の正確性を吟味することは可能である。そこで、要件をみたすかぎり、乙の署名押印は不要と解する*3

→323③には該当しないうえ、321Ⅰ①②にもあたらないので、321Ⅰ③を検討
(イ)あてはめ
・乙は死亡しているので「供述することができない」場合にあたる
・「証拠として欠くことのできない」場合とは、その証拠が採用されない場合事実認定に著しい差が生じることを意味する
→録音においては甲乙が売買の目的物を何としているかが判然としない→乙の説明部分によって、目的物が拳銃であることが明らかになる。この部分が証拠として採用されない場合、甲の拳銃譲渡の事実を認定することは困難になる
→事実認定に著しい差が生じるのでこれをみたす
・絶対的特信性
乙による説明は、甲との会話の直後、記憶の鮮明なうちになされたものであり正確性が高い
乙の説明内容が、乙方においてリンゴの入った段ボール及び拳銃2丁が発見されたという客観的事実と整合
→供述の正確性が担保されているので、これをみたす
→この部分は321Ⅰ③の要件をみたし、証拠能力が認められる
3 結論
本件捜査報告書は、Kが真正に作成されたことを供述すれば、321Ⅲの準用及び321Ⅰ③により証拠能力が認められる                       

                                    以上

*1:近時の裁判例で、マンション内のごみステーションにあったゴミ袋を持ち帰った行為が適法とされた事例があった。

*2:ここについて書いている人はほとんどいないが、おとり捜査が将来捜査にあたることは確かなので論証すべき、というのがゼミの先生の談。基本的に認められるので、一言で認定すればいい

*3:ぶんせき本の答案構成例では供述書になっているが、疑問がある。供述書とは、原供述者が自ら作成した書面をいう。この定義に照らすと、乙の説明部分が供述書としての性質を有するというためには、捜査報告書のうち乙の説明部分は乙自らが記載したのと同視できるといえなければならない。この理解によって検討すると、「乙の説明部分は、ICレコーダーによる録音過程と、Kによる反訳過程を経るところ、前者は機械的過程であるから伝聞法則の適用がない。後者についても、反訳である以上伝聞性を帯びない。したがって、乙が自ら記載したのと同視できるから、供述書としての性質を有するといえる」ということになろうか。しかし、反訳を機械的録取過程と同視してしまうのはどう考えても無理があるように思える。そこで次に、供述録取書として捉えるアプローチを検討してみる。解釈上は素直なのだが、このアプローチを採る場合、乙の署名押印は必要なのではないかがなお問題になる。機械的録音により署名押印が不要になるのは、原供述者による録取の正確性を確認する必要がない場合、すなわち原供述者→書面等の間にある録取過程が機械的にされている場合である。しかし、今回の場合、乙→ICレコーダー→Kの部分が機械的にされており、ICレコーダー(乙)→K→捜査報告書の録取過程についてはなお正確性を確認する必要が残っている。したがって、乙の署名押印が必要だったのではないか、ということになるのである。ここで、捜査報告書の証拠能力が認められるためには、321ⅢよりKが公判廷において証人尋問を受け、捜査報告書の真正な成立を述べなければならないことになっていることに思い至る。いずれにせよ公判廷で反対尋問にさらされるのならば、反訳の正確性についても公判廷で吟味することが可能であるから、伝聞法則を適用する趣旨が妥当しないのではないか。したがって、反訳に係る録取過程については、乙の署名押印による正確性の担保を要しないと考えることができる。出題趣旨に特に言及はないが、厳密にはここまで論証する必要があると思われる。