One's Note

一橋ロー入試対策情報・司法試験過去問・修習雑記

本試26年商法 構成メモ

1.雑感

 一番好きな問題。聞いてくる論点は基礎的なものが多いが、「条文をきちんと読んでいるか」を試されていると感じる。また、設問2では幅広く構成を検討し各構成の関係についても整理する必要があるので、純粋に会社法の復習・リハビリ問題として好適であろう(と自分は思っている)。

 

2.構成メモ

設問1

(1)新株発行不存在確認の訴えの提起

Cとしては新株発行不存在確認の訴え(829①)を提起し、株式発行不存在事由を主張する

→着目点:総会決議(199Ⅱ)があったと評価できるのか・Eが発行している点をどう評価するか

※非公開会社の募集株式発行に際しては201条の読み替えは生じない

反対事情

・株主全員が出席した会合で発行について話されており、一応総会の形をなしてはいる

出資の履行はされている(207Ⅸ④に該当するため検査役選任等は不要)

消極事情

・Cは出席こそしたが反対して退出、Aは態度保留、D,Eは賛成

→309Ⅰの定足数はみたしているが、過半数の賛成があったとは言えない

 にもかかわらず、賛成があったものとして株式を発行している

→総会決議があったと評価することはできないから、総会決議を欠く株式発行となる。非公開会社では少なくとも無効事由を構成する

 

・適法な選任手続を経ないEが代取として発行している

→株式発行は会社の業務執行に準じた取扱いを受けている(202Ⅲ,201Ⅰ,199Ⅱ。役会は業務執行の決定をするとされていることから(362Ⅱ➀)、株式発行についてこのような評価をすることができる。) 代表者が発行した場合はともかくとして、平取が発行した場合は正当な業務執行をしたとはいえず、瑕疵が大きい(おそらく無効事由)。今回の場合、本来取締役ですら無いEが発行しているため、その瑕疵は極めて重大といえ、不存在事由に該当する

 

※新株発行無効の訴え出訴期間徒過により不可。出訴期間徒過後における新株発行無効の訴え提起を認めた裁判例はあるが(名古屋地判平28.9.30)、射程が狭いので、安易に用いない方がいい。

(2)Eに交付された株式・本件建物・その使用利益についての処理

→不存在になった場合、839のように遡及効を否定する定めない

→遡及的効果を有すると考えるべき

では発行された株式及び出資された本件建物をめぐる法律関係はどうなるか?

【アプローチ1】840類推

840は無効の訴えが認容されたときの規定であるため直接適用出来ない

840は法律関係を覆すことにより法的安定性が害されるのを防ぐ趣旨で原状回復の範囲を制限したもの その趣旨は新株発行不存在確認の訴えについても妥当

→840類推の基礎あり

→株式については登記を変更することを請求可。引換えに、会社は財産の給付時における価額相当分の金銭を支払わなければならない もっとも、現物出資にかかる給付物の返還請求は出来ないことから、本件建物及びその使用利益の返還請求は出来ない

【アプローチ2】原状回復義務構成

民法121-2Ⅰの原状回復義務の履行を請求できるとする。

※不存在の契約に基づく履行の給付についても同条が直接適用・類推適用されるのかは不明。弁護士の先生曰く、適用自体は肯定しても問題ないと思われるとのこと

→株式・払込金銭の返還が必要。使用利益については、甲社が善意占有者であることから不当利得返還請求できない(民法189Ⅰ)

 

※不存在の主張が認められないとした場合は株式の帰属は変わらない。もっとも、Cは持株比率低下という損害を被っているので、429や民法709の適用の可否を検討することになる。だが、こちらは恐らく出題趣旨に沿っていない

 

設問2

Hの主張

354の類推適用により、甲社が本件借入れにつき責任を負う

→Eは本来取締役ではないので、354の直接適用は出来ない

908Ⅱの直適により、甲社が本件借入れにつき責任を負う

 甲社の主張

①Hの主張する①②についてのHの悪意重過失

借入れに際し、Eの説明があいまいであった→資格徴憑あり

Hには事業計画に関する資料の交付を求める等の調査義務が生じていた

Hは交付を一度求めたものの、結局見ないまま貸付けに応じた→重過失あり

②決議を欠く多額の借財

362Ⅳ②に該当し、取締役会によって決定する必要あり

※借入金が2億であり甲社の年商に匹敵することから、多額の借財にあたることは問題ないであろう

Hとの関係でEが取締役に当たるとしても、本件借入れは取締役会の決議を経ずしてなされたもの→民法93Ⅰ但し書類推適用により、悪意有過失の相手方との関係では多額の借財も無効と解する

Hに過失あり→本件借入れの効果は甲社に帰属しない

③Eの権限濫用      

Hとの関係でEが取締役に当たるとしても、本件借入れは妻Fが取締役を務める乙社に融資するという私的目的でなされたもの→代表権濫用にあたる民法107直適or類適(代表者は代理人ではないといえば類推になる)

Hに過失あり→本件借入れの効果は甲社に帰属しない

※③は、908Ⅱ類推適用によりHとの関係でEが代表取締役でないことを甲社が対抗できない場合に対応する主張。

 

設問3

D331Ⅴ・346Ⅰでなお「役員等」として責任を負う

→362Ⅱ②の監督義務を負う。Dとしては、他の株主に報告するか、監査役に報告すべきであった(357Ⅰ)

にもかかわらずこれをしていない

→任務懈怠あり

E

Eは甲社との関係では使用人に過ぎない(選任決議をかく登記簿上の取締役)。そこで、423責任を追求することが考えられる(類推)

さらに、本件土地の登記名義人はEのままであるため、土地の移転登記請求もしたいところであるが、取引によって負った責任も423の責任に含まれるかを論証する必要がある

含まれるとする自説にたつ限り、移転登記請求もすることが可能。

 

                                    以 上