One's Note

一橋ロー入試対策情報・司法試験過去問・修習雑記

本試25年商法 構成メモ

1.雑感

 問われている論点はスタンダードなもので、現場思考を要する場面も少ない。それだけに、少しでも基本をおろそかにすると書き負けるので危険だと感じた。26年は「実はこの点も問題になるよ」という示唆に富んだ出題であったが、そのスタンスは25年でも一応意識されていたのだろう。

設問1については、分析本や下の構成メモとは真逆の結論(145は適用されない)で書いてしまったが、これが不適切な処理なのかは正直分からない。採点実感を確認しておくことにする。そのほかの設問については、指摘落ちもいくつかあるが、おおむね沈まない形で書けたのではないかと思う。

 

2.構成メモ

第1 設問1

1 株式譲渡の効力

(1)甲社は非公開会社(定款5条、2➄参照)・株券発行会社であるから、株式の有効な譲渡には株券の交付及び役会決議による承認が必要

今回は株券交付はあるが承認がない。したがって、株式譲渡はEF間では有効だが(137条参照)、会社との関係では無効となりそう

(2) Eが譲渡承認請求(136)してから2週間会社の応答がないことから、145条1号の規定により会社の承認があったものとして会社との関係でも譲渡が有効とならないか

 本件で会社が2週間何の応答もしなかったのはAが譲渡承認請求があった旨を他の取締役に伝えなかったからであるが、このような場合にも145条のみなし承認がされるかが問題となる

ア 145条の趣旨は、会社の対応遅滞により株式の譲受人を長期間不安定な地位におくことを防止する点にある 趣旨は株式譲受人の保護にあるから、適用除外は限定的に解するべき

  そこで、譲渡承認請求のあった事実が譲渡人の側から隠匿された等会社が対応の遅れた事についてなんら帰責性がないと認められる特段の事情がない限り145条の適用はあると考える*1

イ 本件でEの側に譲渡承認請求の事実を隠匿した事情はないし、取締役であるAが譲渡承認請求のあったことを知りながらこれを告げていない点で甲社に帰責性がある

(3) よって、本件株式譲渡は145条により会社との関係でも有効となる

 

2 株主総会でFを株主として取り扱うことの当否

(1) 株主総会における議決権行使について基準日が設けられていないことから、甲社としては株主総会における株主名簿名義人を株主として扱えばよい

上記の通り、株式は有効にFに譲渡されているが、名義書換がなされていない この時、Fを株主として扱ったことは適法かが問題となる

(2) 130条の趣旨は絶えず変動する株主について会社に事務処理上の便宜を図る点にある

 したがって、名義書換未了であっても、会社が自己の危険において譲受人を株主として扱うことは問題ないというべき

(3) 以上より、甲社がFを株主として扱ったことは適法

 

第2 設問2(1)

1 Bとしては、株主総会決議取消の訴え(831Ⅰ)を提起して本件報酬決議の効力を否定することが考えられる

(1)訴訟要件

 Bは甲社株主、ゆえに「株主等」(831Ⅰ,828Ⅱ①括弧書)にあたる したがって、Bは本件報酬決議から「三箇月」以内に、甲社を被告として(834⑰)、甲社所在地を管轄する裁判所に(835Ⅰ)上記訴えを提起することができる

(2)本案勝訴要件

本件株主総会で問題になるのは、①招集通知に記載のない事項について決議したこと ②BによるQの議決権の行使を拒絶していること ③Aが議決権を行使していること である これらが決議取消事由を構成するか、以下検討する

ア ①について

309条5項より、取締役会設置会社においては招集通知に記載のない事項について株主総会決議をすることができない にもかかわらず招集通知に記載のない事項について決議をした場合、決議方法の法令違反にあたり決議取消事由を構成する(831条1項1号)

→裁量棄却の余地はない

イ ②について

BによるQの議決権行使は有効か 106条にいう「権利を行使する者一人」はどのように「定め」るべきかが問題となる

 株主権が分割されていない以上、共有者全員の同意により決すべきとも思えるが、このように考えると一人でも反対者がいる場合には権利行使者を指定することが出来ないことになり、これでは会社の事務処理の便宜に反する

また株式が共同相続された場合株主権は準共有となるところ、権利行使者の指定は共有物の管理(民法264条、252条)にあたる

そこで、本条の権利行使者は持分の価格に従い過半数で決すべきである

BCはBをQの議決権行使者と定めた ABCの持分が相等しいものと推定されること(民250)からすれば、これは持分の価格の過半数をもって決せられたといえる したがって、BCは「権利を行使する者一人」を「定め」、これを甲社に「通知」している よって、BによるQの議決権行使は有効

そうすると、Aの議決権処理は違法

かかる違法な議決権処理は本件決議の決議取消事由(831条1項1号)を構成

株主の議決権行使を妨げている点で違法の事実は重大であり、適切に議決権が行使されたとすれば本件報酬に係る議題については否決決議がされていたはずであるから、決議に影響がないともいえず、裁量棄却(2項)の余地はない

ウ ③について

 Aが議決権行使したことは適法か Aは「株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者」にあたらないかが問題となる

 「株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者」とは、当該決議について他の株主と共通しない特殊の利益を得る者をいう

 本件株主総会においては報酬総額を引き上げる旨の事項について決議がされている 確かに従来の報酬総額より大幅な増額がされているが、この時点ではAらの報酬の具体的な額が定まっているわけではない したがって、Aは特別の利害関係を有するとはいえない

 ③の点は決議取消事由を構成しない

(3)Bは上記手段により決議効力を否定出来る 

 

第3 設問2(2)  

1 不当利得返還請求

 今回は会社が取締役に対してする請求であるから、甲社は353条により代表者を定めたうえで、原状回復義務履行請求(民法121-2Ⅰ)をすることが考えられる

25総会が取り消されることにより、上限は23総会の6000万円だったことになる(839反対解釈)

そうすると、25役会でなされた総額2億6700万円の報酬を支払う旨の決議は全部無効になる

取締役の報酬請求権は総会・役会で個別に額が定められて初めて発生するから、ADGの報酬は無効な決議により給付されたもの

 →請求は認められる

※「代表者を定めて」:非監査役設置会社(定款8条2項、2条9号括弧書)のため、353条により会社を代表する者を定めて請求することになる

 

 

第4 設問3

1 ①

・発行差止め(210)/発行差止めの仮処分(民事保全法23Ⅱ)

(1)2号該当性

2号にいう「著しく不公正な方法による発行」とは、募集株式の発行のうち、(支配権の維持等)不当な目的を達成する手段としてなされるものをいう。

もっとも、資金調達という正当な目的と不当な目的とが併存する場合は、そのいずれが主要な目的かにより、「著しく不公正な方法」であるか否かを決すべきである。

たしかに、持株数に応じて株式を割り当てるという等しく機会を与える方法 払込金額も従前から変動がなく、BCが払い込めなかったといっても異常な額というわけではない*2

 しかし実際に報酬全額を払込んだとしてもAが支配権を握る結果になる

 →主要な目的は支配権維持にあったといえる

 著しく不公正な方法による発行

(2)不利益を被るおそれ

・持株比率の低下

著しい損害→持株比率の低下は賠償により事後的に填補できない

⑶上記のような著しい損害が生じる危険が切迫しているから、差止請求権を被保全債権として差止めの仮処分を申し立てることができる

2 ②

(1)訴訟要件はさっと認定

(2)本案勝訴要件

不公正発行は新株発行の無効事由を構成するか

無効事由→取引安全の要請を犠牲にしてでも既存の株主の利益を保護すべき場合、すなわち重大な法令定款違反がある場合に限られる

非公開会社である甲社においては既存株主の保護が強く要請される+株主割当てであるため取引安全を考慮する必要はなかった*3

既存株主の利益を重視すべきことに照らすと、本件株式発行には無効事由を構成する重大な違法があるといえる

(3)以上より、Bは株式発行無効の訴えによって株式発行の効力を否定することが出来る                          

                                    以 上

 

 

 

*1:ここの問題は、既存株主構成の維持という利益と譲受人の地位安定という利益をいかに調整するかに帰着するだろう。

*2:後に続く本問の特殊事情を強調すべく、反対事情は指摘したいところ。

*3:後者は指摘を忘れやすい点だが、無効事由を構成する決定的な論拠となろう。