本試平成21年刑法 構成メモ
1. 雑感
今回の問題で厚く論じるべきは、①乙にA社の預金に関して占有が認められるか②乙が途中で甲の意図に気付いていることから、甲にいかなる犯罪が成立するかの2点であろう。
間接正犯と途中知情については、平成24年でも出題されている。主観と客観との齟齬に着目して共犯の錯誤という形で処理すればよいと思う。
監禁や偽計業務妨害などのマイナー犯罪もついでに聞かれているが、上の論点に比べれば難しくない。
2. 構成メモ
乙の罪責
1 A社名義の口座から80万円を送金した行為(「本件送金行為」)
預金通帳等を受け取っている点を考慮すれば単純横領罪
2 同口座から現金120万円を引き出した行為(「本件出金行為」)
単純横領罪
3 甲をかくまうために駆け付けた警察に対し虚偽の説明をした行為
犯人隠避罪
4 罪数
①A社との関係で横領罪②甲との関係で横領罪③犯人隠避罪
甲の罪責
1 乙の本件送金行為
業務上横領罪の間接正犯が成立するか
乙は甲の指示に従っていたものの、甲の意図を見抜いた上でそれに協力する形で本件送金行為を行った
→乙の意思決定の欠如を利用したとはいえないので、間接正犯は成立しない
業務上横領罪の間接正犯を実現する主観で、単純横領罪の教唆犯の客観を実現した
単純横領罪の教唆犯の成立要件検討
共犯の錯誤の処理→重なりあうのは単純横領罪の教唆犯の限度
※ぶんせき本は、乙が故意ある幇助的道具であるとして甲に間接正犯を認めているが、これは厳しいのではないか。
基本刑法の立場に従うならば、故意ある幇助的道具である被利用者は、自ら構成要件を実現する意思で構成要件該当行為をしている以上正犯として罪責を負い、利用者には教唆犯が成立することになるから、間接正犯の問題にならないはずである。
また、そもそも甲の犯意に便乗したに過ぎない乙が「道具」といえるかという問題もある。指示に従ったことをもって間接正犯性を肯定するなら、組長が手下に犯罪を指示したような典型的な共謀共同正犯場面でも間接正犯が成立することになってしまう。果たして本問の事情から、甲が乙の意思決定の自由の欠如を利用した(=道具として一方的に利用した)と説得的に述べることが可能かは慎重に検討する必要がある。*1
乙の正犯性を否定し、送金行為が甲との関係で幇助犯にとどまると解した場合には、非占有者・非業務者が加功した場合に成立する犯罪というお決まりの問題も出てくる。自分は正犯性を肯定しているので書いていない。
2 乙の本件出金行為
業務上横領罪の間接正犯は成立しない
(教唆犯の構成要件も満たさない)
3 乙を車のトランクに閉じ込めた行為
監禁罪
→特定の場所からの脱出を不可能又は著しく困難にする行為だが、被害者による承諾があれば構成要件該当性が否定される
しかし、犯罪を隠蔽する目的での監禁に社会的な相当性はないから、構成要件該当性は否定されない
→成立
4 虚偽の通報をした行為
5 罪数
①横領罪の教唆犯②監禁罪③偽計業務妨害罪
以上
*1:出題趣旨や採点実感では、間接正犯を肯定するルートも可としています。もっとも、その場合には乙の途中知情や正犯性といった本問の特殊事情を踏まえて説得的に論証しなければなりません。