One's Note

総論的勉強法・使用教材紹介・起案記録

本試プレテスト憲法(第1問のみ) 構成メモ

近時のLO型に近い司法試験プレテスト第1問を復習しました。

小題が2つあり、1つ目で憲法上問題がある要綱を箇条書きさせ、2つ目でそのうち最も違憲の疑いが強いものを取り上げて憲法上の問題及び違憲性を解消するために必要な手段を論じさせる形になっています。 現在の傾向と合わないので、演習時は「提出された要綱の憲法上の問題点及びその問題点を解消するために採るべき措置を検討しなさい。必要に応じて、反対の立場及び判例の立場にも言及すること。」と改題しました。

 

1. 雑感

本試の問題としてプレテストを含めるならば、史上最も「黒い」法案といっても過言ではない。その気になればすべての要綱について憲法上の問題点を指摘できるが、紙幅と時間の関係上それは得策ではない。演習段階では、明らかに違憲であると思われる要綱第5~7のみ検討した。

個人的に難しいと感じたのは要綱第6,7。

要綱第6はそもそも何の判例を軸に検討すればいいのかがピンと来ず、緊急逮捕合憲判決を援用した。最判昭和30.4.27も近いと言えば近いが、主体が捜査機関ではない点が悩みどころ。

要綱第7は川崎民商事件や成田新法事件が頭に浮かんだが、捜査機関主体の刑事手続であるためこれらの判例は用いなかった。

プレテストは簡潔な出題趣旨しかなく、ぶんせき本等による解説も見当たらない。以下の構成メモが適切な解答筋であるか不明だが、演習される際には批判的検討題材として利用されたい。

 

2. 構成メモ

 1 要綱第5
⑴ 特定国際テロリズム組織への情報提供につながる情報発信行為を禁じる要綱第5は、国民が情報発信をする自由を侵害し、憲法21条1項に反しないか。
⑵「表現」(憲法21条1項)とは、自己の内面における精神活動を不特定多数人に向けて公表する行為をいう
 情報は事実に過ぎないから、不特定多数人に向けて発信する行為に精神活動は伴わず、「表現」には当たらないとも思える
 しかし、知覚・記憶した事実を再構成する段階には知的作業が伴うから、事実の発信も精神活動を外部に公表する行為といえる
 したがって、情報の発信は、自らが知覚・記憶した事実を不特定多数人に向けて公表する行為であるから、「表現」にあたる(博多駅事件判決)
 よって、国民が情報発信をする自由は、表現の自由として憲法21条1項で保障される
⑶ 情報の発信は、国民が様々な情報に触れて人格を形成し民主政の過程に参加する上で欠かすことのできないものである したがって、情報を発信する表現の自由は、極めて重要な権利である
 要綱第5は、情報発信行為を含む「特定国際テロリズム組織のためにする」行為の一切を禁止しているから、表現の自由を制約している
 当該制約には懲役・罰金という刑罰が伴うから、事後規制とはいえ制約は強度である
また、規制は「特定国際テロリズム組織のためにする」行為か否かという表現の内容に着目して行われるから、公権力の恣意が働く危険が高い
したがって、憲法適合性は厳格に審査すべきである
具体的には、形式面において過度広汎な規制であると認められる場合、表現に対する萎縮効果を生じさせるとして要綱第5は憲法21条1項に反し、実質面において①当該規制の目的がやむにやまれぬ必要不可欠のもので②当該規制が目的を達成する手段として必要最小限度といえない限り違憲と解する

ア 形式面
 法案の目的は日本におけるテロ活動を防止する点にある また、情報の提供は物的手段の提供と並んで規定されている 趣旨及び規定から、「特定国際テロリズム組織のためにする行為」は、表現との関係では特定国際テロリズム組織の活動に寄与する情報を当該組織に直接提供する行為と合憲限定解釈できる            
したがって、要綱第5のうち間接的に情報を提供することにつながる行為をも規制している部分は、過度に広汎な規制として憲法21条1項に反する
イ 実質面
要綱第5は、アメリカにおいて大規模な同時多発テロが発生し、日本もテロの標的とされていることに鑑み、国民の生命・身体、ひいては国家の安全を保護するために定められたものである 国家の存立や国民の生命・身体は最も重要な法益であるから、目的はやむにやまれぬ必要不可欠のものといえる(①充足)
 これらの極めて重要な権利は一度損なわれると取り返しがつかないから、予防的措置としてある程度強度の規制をする必要がある 情報発信行為を規制すれば、特定国際テロリズム組織の情報収集が阻害されるため、テロの防止につながる よって、上記目的と情報発信行為を規制することとの間には関連性及び必要性が認められる 
 しかし、現状の要綱第5は規制範囲が過度に広汎であり、最小限度とは言えない
 したがって、必要最小限度の規制とはいえない(②不充足)
⑸ 以上より、要綱第5は21条1項に違反する。違憲性を解消するためには、規制対象となる情報提供行為につき、「特定国際テロリズム組織に対し活動に寄与する情報を直接に提供する行為に限る」などの限定を付す必要がある
2 要綱第6
⑴ 一定の場合に令状なくして捜索差押えが行えるとする要綱第6は、令状主義に反し憲法35条1項、2項に反しないか。
⑵ 判例は、事前の令状発付を要しないとする緊急逮捕について、①明示された一定の重大犯罪に限定されていること②緊急やむを得ない場合のみ認められるとしていること(刑事訴訟法210条1項前段)③逮捕後ただちに令状請求しなければならないとしていることを理由に、憲法35条に反しないとしている(緊急逮捕合憲判決)
 憲法35条1項、2項も33条と同じく令状主義について定めているから、要綱第6が憲法35条に反するかは、上記①②③の観点から検討する
⑶ 
ア ①について
要綱第6の1は犯罪の主体を特定国際テロリズム組織に限定しているが、犯罪について明示の限定はしていないから、捜索差押えが可能とされる範囲の限定は不明確である
イ ②について
「証拠を保全する緊急性があり、かつ裁判官の令状を求めることができないとき」という限定は緊急逮捕の規定に準ずる限定といえる
ウ ③について
 要綱第6の2は裁判官による事後の許可を要求し、許可がなかった場合押収物の還付等を義務付けている 
 しかし、捜索については事後に不許可となっても何ら制約がないうえ、令状の発付が必要ない点で捜査機関の権限濫用に対する歯止めがない
 以上より、①③の点で緊急逮捕とは異なるから、要綱第6は憲法35条1項2項に違反する
⑷ 違憲性を解消するためには、特定国際テロリズム組織の犯罪行為を明確に限定し、事後の許可ではなく令状請求を義務付けるべきである
3 要綱第7
⑴ 質問や記録の閲覧請求を拒んだり虚偽の答弁をしたりした金融機関職員に対し、刑罰を科す要綱第7は、憲法31条に反しないか。
⑵ 要綱第7は刑事罰を科すこととしているので、31条により適正手続の保障が及ぶ
 しかし、金融機関の職員に対する手続について何らの規定もされていない
⑶ したがって、要綱第7は31条に違反する 違憲性を解消するためには、事前に特定国際テロリズム組織による犯罪行為と関わりがあると信じるにつき相当の理由があることを裁判官が認めている場合にのみ許容するなどの限定を付す必要がある
                                     以上

本試平成25年民法 構成メモ(改正法準拠)

1. 雑感

典型的な論証を使う場面がほとんどなく、趣旨に遡った思考や判例の射程の検討など純粋な法的思考力が試される点である意味"異色"の問題。本試験の民法では一番好き。

なかでも自分の民法学習の中で強く印象に残っているのが設問1。

設問1は、「それっぽい筋」を書くこと自体は簡単に出来る。例えば、446Ⅱの趣旨は保証人に慎重な判断を期すことにあるから、保証人が保証契約の締結に関与していれば足りる、今回は電話で追認の意思表示を示しているからOK、という感じだ。

自分は上のような流れで答案を書き終えた後に違和感を覚えた。電話の追認でいいなら、法が書面での締結を定めた意味がないのではないか、と考えたのである。

原因は簡単で、趣旨に遡った後規範を定立するのに必要なワンクッションとなる「法の規定によりその趣旨が満たされる理由の説明」がないからだ。

今回の場合、「書面であれば慎重な判断を期することができる理由」を説明して初めて、446Ⅱの趣旨に遡った規範が定立できる。それを欠くと、「保証契約に保証人が関与することが必要な理由」を答えただけになる。

趣旨に遡った思考が必要な問題では、➀趣旨に遡る②当該規定がどのようにして①の趣旨をみたそうとしているのか思考を「バック」させる③②を補助線にして規範を立てるという流れを押さえる。このことを分かりやすく教えてくれた設問であった。

 

 

2. 構成メモ

 

【設問1】

1 AのCに対する保証債務履行請求に際し、Aは以下のような主張をする必要がある。

①主たる債務の発生原因事実

②保証契約の締結

③保証が書面でされたこと

2 保証債務の履行請求に必要な要件(一般論)

要件①②③を列挙。これらをみたす旨の主張をする必要がある。

3

(1)①

AB甲土地売買契約締結の事実を主張すればよい

(2)②

保証についての合意は、ACではなくABでされている

→Cへの効果帰属のためには、Bによる有権代理(99Ⅰ)が認められなければならない

ア 有権代理の要件は(1)法律行為(2)顕名(3)(1)に先立つ代理権授与

イ ・Bは保証契約の締結という法律行為をAとの間でしていること→(1)充足

・AB間で作成された書面(以下、「本件書面」という)のBの署名にはCの代理人であることが示されていたこと→(2)充足

  しかし、Bは保証契約締結に先立ってCから代理権を授与されていない→(3)不充足

無権代理になる

ウ 本件ではCが事後的に電話でBによるAC保証契約の締結につき異存がない旨述べている→この事実を主張することにより、Bの法律行為につきCの追認(113本文)があったことを基礎づける必要もある。

(3)③

ア 本件書面は、Bが勝手に作っており、作成にCが関与していない。 446Ⅱの「書面」は、保証人によって作成されたことが必要かが問題になる。

446Ⅱの趣旨は、重い責任を負う保証契約の性質から、軽率に保証人になることを防止し慎重な判断を求めることにある。書面によることで、保証契約の内容が正確に把握でき、その保証意思が書面の形で外部に表示されることで慎重な判断を促せるからである。

 →書面としては、必ずしも保証人が作成した必要はなく、保証人となろうとする者が記載された保証契約の内容を正確に把握し、保証債務を負う意思を書面において表示していれば足りる*1

イ Cは本件書面の作成はしていないが、Bから示された本件書面を現認し吟味のうえで保証契約の締結につき承諾している→内容は正確に把握している

しかし、電話での追認では外部への表示を目に見える形で残したとはいえない。追認の意思表示についても書面でする必要があった

 →Aとしては、請求に際しCが電話で書面を追認した以上446Ⅱの要件をみたすと主張することになるが、この主張は認められない。

 

【設問2】

1 Kg

債務不履行責任の追及

(1)債務の本旨に従った履行がない、という要件の検討が重要。

いかなる債務の履行をしなかったか指摘するのが問題になるが、善管注意義務として構成するのが穏当。

※用法遵守義務(616・594Ⅰ)にいう用法とは、使用収益の種類を意味するものであり(居住用につかう、店舗に使う…etc)、「壊さないように注意して●●に使う」というようなレベルまで要求されるものではないと考えられる(野球のバットに例えれば、用法は「野球のボールを打つのに使うこと」、善管注意義務の内容は「折損しないようにすること」)。今回は、カフェ店舗に使うという用法は遵守している。

Hが誤った工事で亀裂を生じさせた→借主側の人為的事由により賃借の目的物を損傷させたから、善管注意義務違反になる。

※ここで、借主が依頼した業者が亀裂を生じさせているが、これが借主側の事情であることは、貸主からみて変わりない。「違反があったかなかったか」というのを結果から客観的にみて認定する。

(2)損害の発生及び額

壁に生じた亀裂の修繕に要した費用100万円が損害。

(3)因果関係(416Ⅰ)

問題なく認められる。

2 E

(1)①606Ⅰ本文の修繕義務としてBが負うべきものだから、Fは責任を負わないという主張と、②壁の亀裂は専門業者Hが生じさせたものであり、415Ⅰ但し書にいう「責めに帰することが出来ない事由」が認められるとの主張が想定される。

もっとも、①は本件修繕がFの責めに帰すべき事由により生じたものである場合認められない(606Ⅰ但し書)。そこで、まず②について検討する

(2)主張②について

業者のミスであることをもって借主は責任を免れるのか、の問題。415Ⅰ但し書の解釈とあてはめをしていくことになるが、条文の文言には「契約の発生原因」「取引上の社会通念」に照らして判断する、としかない。今回、第三者である専門業者Hが亀裂を生じさせているところ、BがHによる内装工事を承諾しているという特殊事情がある。

段階的に考えてみる

①借主が目的物について工事をし、工事中のミスが原因で損傷が生じた場合、その工事のリスク(ミスに伴う責任)は貸主と借主のいずれが負うべきか?(同意の法的性質は無視)

→直感では、借主が負うべき

②それはなぜか?

→借りた物を現状に復して返還するという賃貸借契約の本質、及び利益を享受すべき者に損失・責任もまた帰するという原則からすれば、借主がリスクを負うべきである。←根幹にある価値判断。

③では、このリスク負担の話は、貸主が工事を承諾していた場合にも妥当するか?

→妥当する。承諾といっても、原則として許容されない工事について承諾しているだけで、それに伴う責任を借主について免除する意味を有しないから。

④本問における事情は、「責めに帰することができない事由」といえるか?

BはHを利用した工事について承諾しているものの、前述のようにこれは責任免除を意味するものではない。したがって、Hの誤りによって損害が生じた以上、善管注意義務違反の責任は工事を依頼したFが負うべきである。

→Fの善管注意義務違反は、「責めに帰することができない事由」とはいえない。*2

 

【設問3】

Gの相殺の主張→必要費償還請求権(608Ⅰ)につき30万円の限度で賃料債権と相殺する

Dの主張根拠:SCH13.3.13より、相殺をもって対抗できないとの主張

 

Q1:本件判例の判断の基礎・価値判断はなんだろうか?

A1:相殺に対する期待の保護の要請と、登記による公示からくる、物上代位を実現する要請の比較衡量。

事例においては、抵当権の優先弁済的効力が物上代位においても妥当し、これが保証金返還債務を相殺することによる事実的優先弁済の期待を優越したと判断された。

→抵当権に基づく物上代位>相殺

 

Q2:本問事例で上記価値判断にしたがうなら、どうなるか?

A2:債務の性質の違いに着目するのがアプローチとして取りつきやすい 必要費は本来貸主が負担するはずの費用であるから、相殺に対する期待は単なる金銭債権よりも高いのではないか

                                     以上

 

 

                      

*1:書面性を要求する趣旨について、判断の前提となる契約の内容を正確に把握することを重視する見解と、書面に意思を表示することを重視する見解とがあるため、結論はどちらでもよい。

*2:今回の場合、内装工事の利益は専ら借主に帰属するものといえる。したがって、「利益の帰するところ損失もまた帰する」という考えから、借主がリスクを負うべきことが素直に導かれる。

 しかし、①②③に加え、④が以下のような事情であった場合はどうだろうか。

(1)工事が目的物を使用収益可能な状態に戻すために必要だった場合

まさしく原状回復の過程で生じたこと・利益は貸主のみに帰属することを考慮すると、そのリスクは貸主が負うべきと考えられる。

(2)引き渡す前に貸主の側で工事をする予定であったが、業者選定能力に長ける借主に工事を依頼していた場合

引渡前の工事については貸主がリスクを負うべきであり、借主は「原状」の設定を代行しただけで、依頼を受けたことをもってリスクまで移転したと解するべきではない。→リスクは貸主が負うべきと考えられる。

(3)工事が貸主・借主の双方に利益をもたらすものであった場合(有益費)

賃貸借の本質からすれば借主がリスクを負うべきであるように思われる

本試平成24年民法 構成メモ(改正法準拠)

1. 雑感

 改正による影響を露骨に受けている過去問の1つで、40点もの配点がある設問2は殆ど条文摘示で終わってしまう。当時は現場で混合寄託契約を考え、妥当な結論を導く処理が求められたことだろう。

他の設問はオーソドックスで、丁寧に条文・要件を挙げて検討していくのが差をつけるポイントになると思う。

設問3は債務不履行責任における債務不履行の有無と損害の範囲が問題になっており、後者は書き方に悩んだ。

2. 構成メモ

 

 設問1
1 小問⑴
⑴ Fの主張は、Bが甲土地の所有権を有することを前提にして、AB間の売買契約により甲土地の所有権がAに移転し(555,176)、Aを単独相続したことによりFが所有権を取得したというもの(882,887Ⅰ,896本文)
Bが甲土地の所有権を有していれば主張は基礎づけられるので、この点について検討する
⑵ BはDの唯一の子でありDの妻はすでに死亡しているので、DがCから甲土地を単独相続したといえればBが単独相続により甲土地の所有権を取得することになる
 もっとも、Cの相続人はDだけでなくEもいる→遺産分割協議が行われた事情はないので、甲土地はDEに共同相続され、Dは甲土地につき2分の1の持分を有するにとどまる(898,899)
 したがって、Dを相続するBは甲土地の2分の1の持分を相続するに過ぎないから同土地の所有権を有していない
⑶ よって、FがEに対し甲土地の所有権が自己にあることを主張することはできない
2 小問⑵
⑴ 長期取得時効による時効取得の条文上の要件は、①20年間②所有の意思をもって③平穏かつ公然と④他人の物を⑤占有したこと(以上につき162条1項)、及び⑥取得時効の援用(145条)である
⑵ ①について、ある時点での占有及びそこから20年経過した時点での占有を証明すればその間継続して占有したものと推定される(186Ⅱ) また、Fは占有者たるAの承継人であるから、Aの占有を併せて主張できる(187Ⅰ)
 Aが甲土地に直接的な支配を及ぼし占有を開始したのは、柵で囲み看板を立てた1990年11月20日。Fはこの時点での占有及び2010年11月20日時点での占有を証明すれば①をみたす
②③は186Ⅰにより推定されるところ、これを覆す事情はないからみたす
⑤もみたす
⑥について、Aは1990年11月15日にBから甲土地を買い受けている この下線部事実によれば、甲土地はAが占有を開始した時点でAの所有だったことになるから、「他人の物」にあたらず⑥をみたさないのではないか 占有客体が「他人の物」であることは時効取得の要件となるかが問題になる
取得時効の趣旨は、長期間継続した事実上の状態を法的に保護すること及び所有権の帰趨をめぐる立証の困難性を解消する点にある 占有客体が自己の物でも他人の物でも、上記趣旨が及ぶことには変わりない
→条文上の「他人の物」は占有客体の例示であり、実体法上の要件ではないと解すべき
→下線部の事実は取得時効の成立を妨げるものではなく、法律上の意義を有しない

設問2
1⑴ 寄託契約書6条・665-2Ⅱに基づく返還請求が認められるか
⑵ 混合寄託契約該当性
665-2Ⅰに照らし混合寄託契約に該当するかを検討
・「複数の者が寄託した」→FGが寄託している
・「物の種類又は品質が同一」→和風だし2000箱は種類及び品質が同一
・「各寄託者の承諾を得た」→寄託契約書3条により承諾がされている
→混合寄託契約に該当
→665-2Ⅱ・寄託契約書6条に基づきGのHに対する返還請求権は基礎づけられる
⑶ Hの主張
665-2Ⅲにより、Gが返還請求できるのは500箱
この主張が認められるか。寄託契約書には665-2Ⅲに対応する規定がないところ、本件寄託契約によって同条の適用は排除されるかが問題になる
665-2Ⅲは、寄託物の割合に応じた数量の返還を認め、返還を受けられなかった分については別途損害賠償請求を認めることで寄託者間の公平を維持する趣旨の規定
→趣旨を尊重するべく、契約内容の合理的解釈からこれと異なる合意がされたと認められない限り、本条の適用は排除されないと解する
→寄託契約書4条が寄託した物の数量の「割合」に応じた持分権を確認している 他にこれと異なる割合での権利を認める規定がないことから、FGH間の契約は寄託者間で公平を図る内容であったと解釈するのが合理的 割合も665-2Ⅲと対応しているから、これと異なる合意をしていたとは認められない
→665-2Ⅲの適用は排除されない
→Hの主張は正当。1000箱滅失しているから、Gはそれぞれの持分に応じて500箱の返還を請求できるにとどまる

設問3
1 
⑴ 「債務の本旨に従った履行をしない」
Hは無償寄託契約により負う注意義務(659)に違反したといえるか
自己物であっても、山菜おこわ500箱は相当な価値を有するものであるから、通常人であれば他人から盗取されないよう施錠して管理する
Hは質屋を営んだ経験もあるから、自己の物であっても通常人より注意能力が劣っていたとは考えられない
→Hは自己の財産に対するのと同一の注意義務として、山菜おこわを管理するに際し施錠する義務を負っていた
→山菜おこわの滅失はHの施錠忘れが原因であるから、Hは上記注意義務に違反したといえ、この要件をみたす
⑵ 「これによって生じた損害」
上記債務不履行との因果関係が認められる「損害」の範囲を検討する
416Ⅰは「通常生ずべき損害」として債務不履行と相当因果関係を有するものを「損害」とする旨定めている。2項は債務不履行時に「当事者」、すなわち債務者が「予見すべきであった」事情を判断基底に加え、これと相当因果関係を有するものをも「損害」とする旨定めている
・FQの契約が解除されたことにより逸失した利益である300万円は「通常生ずべき損害」だから、損害賠償請求できる。
・全店舗販売ができなくなったことの損害は「通常生ずべき損害」ではない
また、FはHに寄託するに際し交渉に入ったことを伝えているが、全店舗販売がされることは寄託段階において確実ではなかったから、Hをして山菜おこわが滅失すれば交渉打ち切りによる大きな損害が生じうることを予見することは容易ではなかった
→交渉打ち切りにより山菜おこわを取り扱ってもらえなくなることはHが「予見すべきであった」事情ではないから、判断基底に加えられない
よって、交渉打ち切りによる逸失利益は「これによって生じた損害」にあたらない
2 FはHに対し415Ⅰに基づき交渉打ち切りによる逸失利益の賠償を請求することはできない
                                                                                                                                                                                 以上

 

                      

本試平成18年刑法 構成メモ

1. 雑感

 

 正当防衛は新判例を踏まえたR3での出題が予想されている。R2の出題がH19の焼き直しに近かったことを考えると、正当防衛における急迫性の限界事例ともいえるH18もアレンジされる可能性がある。ということで、新判例の基準を使って再検討することにした。

しかし、H18で一番難しいのは正当防衛の検討そのものではなく、丙の致死結果を生じさせた暴行が特定されていないことである。ここの処理は構成段階で深く考える必要があり、刑法では珍しい水面下での思考が要求される。

分析本の再現答案や趣旨・実感を参照していないので参照の際は注意して欲しい。

2. 構成メモ

第1 各人が帰責される行為の確定

1 丙は左頸部切創及び左上腕部切創の傷害を負い、前者による頸動脈損傷で死亡している

しかし、各傷害結果が甲乙のいずれの暴行から生じたか明らかでない

→各人が責任を負う行為について確定する

2 乙が丙をカッターで切りつけた行為について

⑴甲は共謀共同正犯として責任を負うか

成立要件を論証

⑵意思の連絡

問題の事実から甲乙間に意思連絡があったといえるか?

「カッターの受け渡し」については少なくとも認識を共同していた。しかし、甲について「乙が渡したナイフで丙を切りつけること」までの認識があったといえるだろうか。

◆肯定方向

カッターナイフを渡せといったら、そいつはカッターを使って切りつけるのが普通。

現状乙は興奮して胸倉をつかんでいるのだから、切りつけもありうる

◆否定方向

乙は甲ほど粗暴な性格ではないことからすると、いきなりカッターで切りつけるまでには至らない可能性が高い。

乙は完全に頭に血がのぼっており、甲と共同して犯行を実現する意思を有していなかったのではないか。

→意思連絡を肯定

(2)共謀に基づく共同実行

乙の切りつけ

⑶正犯意思

あり

→乙の切りつけ行為について、甲も共同正犯として責任を負う

3 甲が丙をカッターで切りつけた行為について

甲乙間で前述の共謀が成立する前の行為なので、乙が共同正犯として罪責を負うことはない

→207条の要件を充足することはない(同一の機会性は認められないだろう)

→甲のみが責任を負う*1

 

第2 乙の罪責

1 カッターで切りつけた行為

傷害罪の構成要件に該当(捜査結果から、いずれかの切創傷害については責任を負う。ただし、死亡との因果関係は不明のため致死結果は帰責不可)

2 罪責

傷害罪が成立し、甲とは同罪の限度で共同正犯となる

 

第3 甲の罪責

1.丁をバットで殴った行為

傷害罪(204条)

(1)構成要件該当性

現にけがをしているので、実行行為性を厚く論じる必要まではない。

傷害結果も端的に認定すればよい。

故意は特に問題のない限り「欠けるところはない」で流せばよい

(2)違法性

「急迫」性を基礎づける積極事情・消極事情をピックアップする

規範:正当防衛は、公的機関に救済を求める余裕がない緊急の事態において、私人による対抗行為を例外的に許容する趣旨の規定である

したがって、侵害の「急迫」性については、上記法の趣旨から、対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況に照らして判断すべきである

そして、上記の法の趣旨に照らして対抗行為が許容されないといえる場合には「急迫」性が否定される

急迫性を肯定する方向の事情

・甲は当初からバットを振ったわけではなく、殴られたのに怒って振った(対抗行為に及んだ際の意思)

→積極的な加害意思に基づく行動とはいえない。

・バットで肩しか狙ってない→枢要部を狙っておらず、積極的な加害意思があるとはいえない(対抗行為自体の状況)

急迫性を否定する方向の事情

・甲丙丁の不仲→口論が喧嘩に発展する可能性は高かった(侵害の予期)

・侵害も、胸倉をつかむというもので予期と齟齬するものではない(侵害の予期)

・降りなければ喧嘩にならないのに、降りていった(侵害の回避可能性)

→警察等への通報が十分可能であり、緊急の事態だったとはいえない

・バット・カッターナイフを持って行っている

→侵害に対する事前準備をしていた(事前準備)。私的闘争に近く、緊急事態とはいえない。(これだけでは積極的加害意思を認定できない)

まとめ

公的機関に救済を求める余裕がない緊急の事態にあるとは言えず、対抗行為が許容される状況だったとは認められないから、「急迫」性はない。違法性は阻却されない

⑶傷害罪成立

2.丙をカッターで切りつけた行為(自身による切りつけ行為と乙の切りつけ行為とを合わせて検討する)

(1)構成要件該当性

傷害致死

※自身の切りつけ行為と乙の切りつけ行為のいずれから生じた結果についても罪責を負うから、死亡結果についても帰責できる

(2)違法性阻却

急迫不正の侵害は問題なく認められよう。

問題は相当性。すでに丙が手で肩をつかんでいることを前提に採り得る手段を考える

素手で払う

体格差がある以上振り払うのは不可能に近い

・カッターで脅す

既に手がかかっており、脅すのでは防衛に足りない(可能性がある)

・カッターで切る

ひるませるには有効。しかし、部位としては足や手の先でも良く、肩をめがけて切る必要まではない

→「やむを得ずにした」とはいえない

→過剰防衛が成立

※正当防衛の否定が若干無茶。しかし、仮にここで正当防衛の成立を認めた場合、誰にも致死結果を帰責することができなくなる。酷な要求をする分量刑上考慮する、という処理の方が結論としては妥当と考え、このようにした。*2

傷害致死罪が成立するが、過剰防衛により刑が任意的に減免される

3.丙の顔面を殴った行為

暴行罪

4.罪数

①丁に対する傷害罪②丙に対する傷害致死罪③暴行罪が成立。③は②に吸収、②は傷害罪の限度で甲と共同正犯になり、刑が任意的に減免される 両者は併合罪

                                     以上

 

 

                      

*1:H28,R2で207条の適用に関する判例が出され、意思連絡の有無は不問になり、機会の同一性が要求されることになりました。今回の場合、甲の切りつけについては乙との意思連絡を認めることができないほか、乙による切りつけとの機会の同一性もないので、乙が致死結果について責任を負うと解するのは難しいでしょう。

*2:致死結果を帰責させるという結論ありきの思考過程です。自身の切りつけ行為と乙の切りつけ行為を別個に捉える→前者について正当防衛の成立を認め、後者について死亡結果との因果関係を否定して傷害罪の限度で成立させる、というのもありだろうと思います。弁護士の先生との検討会では両方のアプローチを検討しましたが、本文の処理の方が穏当ではないかという結論に至っています。

本試平成21年刑法 構成メモ

1. 雑感

今回の問題で厚く論じるべきは、①乙にA社の預金に関して占有が認められるか②乙が途中で甲の意図に気付いていることから、甲にいかなる犯罪が成立するかの2点であろう。

間接正犯と途中知情については、平成24年でも出題されている。主観と客観との齟齬に着目して共犯の錯誤という形で処理すればよいと思う。

 

監禁や偽計業務妨害などのマイナー犯罪もついでに聞かれているが、上の論点に比べれば難しくない。

 

 

2. 構成メモ

 

乙の罪責

1 A社名義の口座から80万円を送金した行為(「本件送金行為」)

預金通帳等を受け取っている点を考慮すれば単純横領罪

2 同口座から現金120万円を引き出した行為(「本件出金行為」)

単純横領罪

3 甲をかくまうために駆け付けた警察に対し虚偽の説明をした行為

犯人隠避罪

4 罪数

①A社との関係で横領罪②甲との関係で横領罪③犯人隠避罪

併合罪

 

甲の罪責

1 乙の本件送金行為

業務上横領罪の間接正犯が成立するか

乙は甲の指示に従っていたものの、甲の意図を見抜いた上でそれに協力する形で本件送金行為を行った

→乙の意思決定の欠如を利用したとはいえないので、間接正犯は成立しない

業務上横領罪の間接正犯を実現する主観で、単純横領罪の教唆犯の客観を実現した

単純横領罪の教唆犯の成立要件検討

共犯の錯誤の処理→重なりあうのは単純横領罪の教唆犯の限度

※ぶんせき本は、乙が故意ある幇助的道具であるとして甲に間接正犯を認めているが、これは厳しいのではないか。

基本刑法の立場に従うならば、故意ある幇助的道具である被利用者は、自ら構成要件を実現する意思で構成要件該当行為をしている以上正犯として罪責を負い、利用者には教唆犯が成立することになるから、間接正犯の問題にならないはずである。

また、そもそも甲の犯意に便乗したに過ぎない乙が「道具」といえるかという問題もある。指示に従ったことをもって間接正犯性を肯定するなら、組長が手下に犯罪を指示したような典型的な共謀共同正犯場面でも間接正犯が成立することになってしまう。果たして本問の事情から、甲が乙の意思決定の自由の欠如を利用した(=道具として一方的に利用した)と説得的に述べることが可能かは慎重に検討する必要がある。*1

乙の正犯性を否定し、送金行為が甲との関係で幇助犯にとどまると解した場合には、非占有者・非業務者が加功した場合に成立する犯罪というお決まりの問題も出てくる。自分は正犯性を肯定しているので書いていない。

2 乙の本件出金行為

業務上横領罪の間接正犯は成立しない

(教唆犯の構成要件も満たさない)

3 乙を車のトランクに閉じ込めた行為

監禁罪

→特定の場所からの脱出を不可能又は著しく困難にする行為だが、被害者による承諾があれば構成要件該当性が否定される

しかし、犯罪を隠蔽する目的での監禁に社会的な相当性はないから、構成要件該当性は否定されない

→成立

4 虚偽の通報をした行為

偽計業務妨害

5 罪数

①横領罪の教唆犯②監禁罪③偽計業務妨害

併合罪

 

                                     以上

 

                      

*1:出題趣旨や採点実感では、間接正犯を肯定するルートも可としています。もっとも、その場合には乙の途中知情や正犯性といった本問の特殊事情を踏まえて説得的に論証しなければなりません。

本試平成24年刑法 構成メモ

 

1. 雑感

 新傾向での出題を予想する受験生が思いつきやすいであろう「業務上横領罪と背任罪の区別」「名義人の意義」「業務上横領罪に加功した者に成立する犯罪」という論点をすべて含んでいるため、直前期の確認として復習した。今回の出題で厚く論じたのは、判例と異なる処理をする最後の点のみ。

なお、甲の抵当権設定行為、甲乙の本件土地売却行為については詐欺罪の成立を検討する余地もある。Dの主観に関する事情は、同行為が財産的損害に向けられた「欺」く行為といえるかというところで用いることになる。メインは業務上横領罪だと思うので必須ではないだろうが、ここまで含めて書ききればAは確実だろう。

名義人に関してはいずれのアプローチも考えうる。ここで採るアプローチによって罪名・適用法条が変わってくるので、起案の際は決め打ちするのがベターかもしれない。

 

2. 構成メモ

 

甲の罪責

1 A社所有の本件土地に抵当権を設定する契約(以下、「本件抵当権設定契約」)を締結した行為

A社との関係で業務上横領罪

※A社のために事務を処理する者が本件土地に抵当権を設定しているため背任罪と業務上横領罪のいずれに問疑すべきか問題になるが、両罪が法条競合の関係にあるため、業務上横領罪を先に検討。今回は業務上横領罪が成立する

 

2 A社が本件抵当権設定契約を承認した旨の議事録(「本件議事録」)を作成した行為

無印or有印私文書偽造

本件議事録も「事実証明に関する文書」に該当することは認められる

Q作成者は甲だが、名義人は誰か

アプローチ1 文書に表示された意思観念に基づく法律効果が帰属する主体、すなわち「A社社員総会」と捉える

アプローチ2 文書に表示された意思観念が帰属する主体、すなわち「A社社員の互選により選任された甲」と捉える

→いずれのアプローチを採るにせよ、作成者と名義人との人格の同一性を偽ったと認められるから「偽造」したといえる

→アプローチ1によるなら無印私文書偽造罪(159Ⅲ)が、アプローチ2によるなら有印私文書偽造罪(159Ⅰ)が成立する 今回はアプローチ1を採用する

3 本件議事録をDに交付した行為

同文書行使罪

4 本件土地をEに売却した行為

⑴A社との関係で業務上横領罪

既遂時期は登記を移転した時点

⑵Dとの関係で背任罪

5 罪数

①業務上横領罪②無印私文書偽造罪③同文書行使罪④業務上横領罪⑤背任罪が成立。②③が牽連犯、④⑤が観念的競合。これと①とが併合罪

 

乙の罪責

甲がEに本件土地を売却した行為

⑴ 業務上横領罪の共謀共同正犯

Q共謀共同正犯の成立要件をみたしている(狭義の共犯との区別のため、正犯意思は厚く書く)が、単純横領と業務上横領のいずれに問疑するか

判例は業務上の占有者を構成的身分として65Ⅰを適用し業務上横領罪の成立を認めつつ、科刑については単純横領を基準とする(∵占有者たる身分の者が加功した場合、65Ⅱで単純横領が成立するにとどまることとの均衡)

しかし、成立する犯罪と科刑がずれるのは罪刑法定主義の観点から支持できない

乙は占有者たる身分を有していない→65Ⅰで単純横領罪の共謀共同正犯が成立すると解すべき       

⑵背任罪の共謀共同正犯

成立

2 罪数

①横領罪の共同正犯②背任罪の共同正犯が成立、①②は観念的競合             

                                     以上

 

                      

本試令和2年刑法 構成メモ

 

1. 雑感

 

 新傾向の出題3年目。設問2の事実抜き出し問題は、相当因果関係説を採って犯罪の成立を否定させる変わったものが含まれていた。判例が因果関係の判断基準について明示していないうえ、複数の見解の想起が比較的簡単なので、TKC模試の刑法設問3よりはマシであろう。

しばらくの間は、強い誘導の下で①罪責を絞り理論的対立のある部分について重点的に論じさせる設問②これまで通り複数の罪責を処理させる設問③②の一部について異なる結論を導く構成を検討させる設問のセットが続くんだろうか。

2. 構成メモ

設問1

1 甲が暴力団員を装い、脅迫的言辞を用いてBに対し600万円を自己の口座に送金するよう申し向けた行為

Q1.詐欺罪と恐喝罪のいずれに問疑すべきか

Bが600万円を送金したのは、甲を暴力団員と誤信した結果弁済しないと家族などに危害を加えられると畏怖したから+甲が暴力団員を装ったのはあくまでBを畏怖させる一手段→恐喝罪に問疑

口座の金銭についてはその名義人が自由に引き出せることから、1項恐喝に問疑する

Q2.構成要件該当性

⑴「恐喝」

財産の処分行為に向けられた、反抗を抑圧するに至らない程度に人を畏怖させる暴行又は脅迫

→脅迫に該当

⑵「財物を交付させた」

畏怖に基づく交付行為があったといえる

⑶ 財産的損害

・①の見解

財産的損害は実質的に捉えるべき。恐喝がなければ600万円は交付しなかったといえるのだから、600万円全額が財産的損害となる。権利行使の手段として恐喝を行ったことは違法性のところで考慮すれば足りる

・②の見解

財産的損害は同じく実質的に捉えるべきであるが、意思に基づいて債務の弁済をしたに過ぎない以上、債務額を超える部分についてのみ財産的損害が生じたと考えるべき

したがって、100万円が財産的損害となる

・どちらが妥当か

恐喝により600万円を支払うのと、任意の弁済として600万円を支払うのとは質が異なり、別個の支払と評価できる

→実質的損害は600万。①によるべき

600万円が財産的損害となる

⑷恐喝行為・畏怖・600万円の交付・財産的損害との間に因果関係あり

⑸故意

甲はBを畏怖させ600万円を交付させることを認識認容して本件行為に及んでいる→故意あり

⑹Q3違法性が阻却されるか

恐喝罪の構成要件に該当する行為であっても、①権利行使という正当な目的があり、②権利の範囲内において行った行為で③その行為が社会的相当性の範囲内にあるといえる場合は違法性阻却

→少なくとも②はみたさないだろう。違法性は阻却されない

2 恐喝罪成立

設問2

1 事実① 混入させた睡眠薬が人を死亡させる危険性を有していなかった事実

理由 殺人罪の実行行為性がない

2 事実② Aが特殊な心臓疾患に起因する心不全で死亡した事実

理由 刑法上の因果関係を、条件関係を前提にして、行為から当該結果が生じたことが行為時点において一般人が認識し得た事実・行為者が認識していた事実を基礎にして相当といえるかで判断する

甲が睡眠薬入りワインを飲ませなければAは死亡しなかった→条件関係あり

Aの特殊な心臓疾患は、一般人として行為時点で認識できないし、甲も認識していなかった→因果関係の判断の基礎から除外される

→甲が睡眠薬入りワインを飲ませた行為からAの死亡結果が生じたことは相当とは言えない

3 事実③ 甲が睡眠薬で死ぬことはないと思っていた事実

理由 ワインを飲ませた時点でAが死亡することの認識認容を欠いている→殺人罪の故意がない

設問3

1 預金の払戻しを請求した行為

Aとの関係での横領罪(252)

Q.600万円は「自己の占有する他人の物」か

正当な預金の払戻権限を有する者は、預金債権を行使して銀行が占有する不特定物たる金銭を預金額の限度で自由に引き出せる

→銀行が保有する不特定物たる金銭について預金額の限度で法律上の支配力を及ぼしているといえる

→「自己が占有する」といえる

Aから使途を定めて委託されているが、刑法上金銭所有権は寄託者に帰属するから「他人の物」といえる

Q.既遂時期

払戻請求時点

2 Aに睡眠薬入りワインを飲ませた行為

⑴強盗殺人罪

Q1「強盗」該当性―第1行為が「暴行」たりうるか

肯定でよさそう

Q2「強盗」該当性―具体的な財産的利益の確実な移転に向けられたものといえるか

肯定できそう

Q3睡眠薬飲ませた行為と死亡との間の因果関係があるか

危険の現実化説に立てば肯定可能

Q4強盗殺人罪は殺人の故意ある場合も成立するが、睡眠薬飲ませる時点では甲に強盗殺人の故意なし。→第1行為を強盗殺人罪の実行の着手とみることができるか

→実行の着手は構成要件的結果発生の現実的危険性を惹起する行為

→実行行為と密接に関連し、法益侵害実現の現実的な危険性があれば実行の着手といえる

睡眠薬飲ませる行為を第1行為、ガスを発生させ吸引させる行為を第2行為とすると、人を死亡させる現実的危険性があるのは第2行為。ゆえに、第1行為が第2行為と密接に関連し一連一体と評価でき、第1行為の時点で死亡結果の発生に至る現実的危険性があるならば、第1行為をもって強盗殺人罪の実行の着手があったといえる

→本件では、①第1行為はAを動けない状態にし、第2行為を容易かつ確実に行うために必要不可欠であったといえる②Aが眠ってしまえばガスの発生は甲が任意に行える→障害となる事情なし③時間的場所的にも近接している

→第1行為は実行行為たる第2行為と密接に関連しており、第1行為の時点で死亡結果を実現する現実的危険性がある

→第1行為の時点で強盗殺人罪の実行の着手があったといえるから、甲にはそれに対応する故意もあった

因果関係も構成要件的評価において一致するから問題なし

→成立

3 Aの腕時計を上着のポケットに入れ持ち去った行為

窃盗罪 特に問題点なし

4 罪数

横領、強盗殺人、窃盗

→併合

                                     以上