本試平成27年刑法 構成メモ
1. 雑感
占有がメインテーマの出題。行為者が3人いる時点で大変なのに、占有の有無を丁寧に検討する必要があるほか、正当防衛の検討までさせられる。占有の認定が重要であることは言うまでもないが、理論面で地味に難しいのが、カバンの取り返しについて、窃盗の既遂時期との関係でどの段階まで「急迫不正の侵害」があると認めるかという問題。
2. 構成メモ
甲の罪責
1 新薬開発課の部屋に立ち入った行為
建造物侵入罪
端的に認定でOK
2 新薬の書類を持ち出した行為
窃盗罪
⑴他人の財物
部長には書類の占有が認められるといってよい
↓
もともとは新薬開発部におり、部長として書類の管理も任されていた
確かに後任の部長に引き継ぎ金庫の暗証番号も教えている
しかし、暗証番号自体に変化はないため甲も金庫を開けることができる
→甲は新薬の書類につき占有を喪失していない
もっとも、後任部長も新薬の書類について占有している
→後任部長との関係では「他人の財物」にあたる
⑵窃取
窃取の定義
→「窃取」にあたる
※既遂時点については、何故カバンに入れた段階で書類の支配が甲に移転したかを「答案に記載する」ことで説得的になる 例えばカバン内が私的領域と評価できるから、とか。
⑶ 故意及び不法領得の意思
端的に認定でOK
3 C所有のカバンを奪った行為
⑴ 問疑すべき罪
強盗罪と窃盗罪の区別→「暴行」が人の反抗を抑圧するに足りるか
・暴行の態様
→そこまでには至らない(ひったくりの本質は、人の反抗を力づくに排除するわけではなく、反抗の余地がないことを利用して奪取する点にある。今回の行為態様で本当にそう言うことができるか、という話)。そこで窃盗罪と傷害罪に問疑
⑵ 窃取
端的に認定でOK
⑶故意及び不法領得の意思
故意→客体を誤認識しているが、故意を阻却しない
不法領得の意思→肯定(自己物として利用する意思あり)
⑷ 自己物の取戻し→正当防衛の成否
そもそもC所有のかばんなので、急迫不正の侵害がない→否定
※急迫不正の侵害の定義についてきちんと書くこと。
⑸ 責任故意の阻却―誤想防衛の成否
ア 規範/理論
イ 個別具体的検討
・窃盗罪はCが待合室を出て改札口に差し掛かった段階で既遂に達しており、「急迫不正の侵害」が終了しているとも
しかし、既遂に至った直後であれば、いまだ占有の侵害が現に存在しているといいうる
→本件でも、Cが持ち去ってから1分しか経過していないので、甲の主観では「急迫不正の侵害」が認められる
・「防衛の意思」→あり
・「やむを得ずにした」の定義
→あてはめ
必要性:電車に乗られた場合追跡が不可能・Cも話に応じずホームに向かおうとしていた
→電車に乗られる前にかばんを取り戻すために対抗行為をする必要があった
手段としての最小限度性:Cの体への接触を伴っていないが、転倒させるほどの力で引っ張っており、手段として必要最小限度であったとはいえない
→やむを得ずにしたとは言えない
⑹ 誤想過剰防衛の成否
・過剰性を基礎づける事情について誤認識していたとはいえない
→準用否定
⑺結論
窃盗罪成立。
⑻傷害罪
端的に傷害罪の成立を指摘。
→窃盗罪と同様誤想過剰防衛が成立。
4 罪数
①建造物侵入罪②窃盗罪③窃盗罪④傷害罪が成立、①②は牽連犯(54Ⅰ)、③と④とが観念的競合(同項)、両者が併合(45前段)
②③について36Ⅱが準用される旨論証
乙の罪責
1 甲の新薬書類持ち出しにつき窃盗罪の共謀共同正犯が成立するか
⑴ 共謀共同正犯の成立要件
⑵ あてはめ
特に共謀の射程が問題になるが、乙が甲に異動の事実を伝えた後も新薬の書類と引き換えに300万円払う旨の意思表示をしている
→共謀成立時において、甲の所属部署にかかわらず犯行を実行することがその内容になっていたと認められる
→甲の行為は基づく実行といえる
⑶ 共犯の錯誤
共謀段階では業務上横領罪の主観であったが、客観的には窃盗罪を実現している
・抽象的事実の錯誤(主観>客観)
→重なり合う限度で軽い罪の故意が認められる
→懲役刑では上限に差がないが、罰金刑が定められている点で窃盗罪の方が軽い
物を領得することで財産権を侵害する点で両罪は共通
→乙には窃盗罪の限度で故意が認められる
2 乙には窃盗罪が成立し、甲と共同正犯になる
丙の罪責
1
⑴甲のかばんを持ち去った行為に窃盗罪が成立するか
⑵「他人の財物」に当たることは端的に認定。
⑶「窃取につき」前述の定義に従い検討すること、及び占有の考慮要素を先出し
⑷個別具体的検討
・占有肯定方向
距離20m
1分しか経過していない
意図的に離れている
待合室の出入り口は1か所のみ
当時甲と丙のほかに出入りしていない
・占有否定方向
甲はかばんについてみていない
待合室は誰でも出入りでき、ガラス張りで外から内部状況が確認できる
→占有アリ、丙は甲のカバンを「窃取」したといえる
⑸ 故意及び不法領得の意思
故意→○
不法領得の意思→甲のカバンを窃取することによって留置施設にいって寒さをしのぐというのは、甲のカバンを経済的用法に従い利用処分することで得られる効用ではない
→利用処分意思がない
⑹ 窃盗罪は不成立
2 器物損害罪
⑴「損壊」の定義
⑵ 個別具体的検討
カバンの持ち去りは甲がカバンを使用収益できなくする点で効用を害する
→損壊を肯定
⑶成立。ただし、自首(42Ⅰ)により刑が任意的に減免される
以上