One's Note

一橋ロー入試対策情報・司法試験過去問・修習雑記

本試平成24年民法 構成メモ(改正法準拠)

1. 雑感

 改正による影響を露骨に受けている過去問の1つで、40点もの配点がある設問2は殆ど条文摘示で終わってしまう。当時は現場で混合寄託契約を考え、妥当な結論を導く処理が求められたことだろう。

他の設問はオーソドックスで、丁寧に条文・要件を挙げて検討していくのが差をつけるポイントになると思う。

設問3は債務不履行責任における債務不履行の有無と損害の範囲が問題になっており、後者は書き方に悩んだ。

2. 構成メモ

 

 設問1
1 小問⑴
⑴ Fの主張は、Bが甲土地の所有権を有することを前提にして、AB間の売買契約により甲土地の所有権がAに移転し(555,176)、Aを単独相続したことによりFが所有権を取得したというもの(882,887Ⅰ,896本文)
Bが甲土地の所有権を有していれば主張は基礎づけられるので、この点について検討する
⑵ BはDの唯一の子でありDの妻はすでに死亡しているので、DがCから甲土地を単独相続したといえればBが単独相続により甲土地の所有権を取得することになる
 もっとも、Cの相続人はDだけでなくEもいる→遺産分割協議が行われた事情はないので、甲土地はDEに共同相続され、Dは甲土地につき2分の1の持分を有するにとどまる(898,899)
 したがって、Dを相続するBは甲土地の2分の1の持分を相続するに過ぎないから同土地の所有権を有していない
⑶ よって、FがEに対し甲土地の所有権が自己にあることを主張することはできない
2 小問⑵
⑴ 長期取得時効による時効取得の条文上の要件は、①20年間②所有の意思をもって③平穏かつ公然と④他人の物を⑤占有したこと(以上につき162条1項)、及び⑥取得時効の援用(145条)である
⑵ ①について、ある時点での占有及びそこから20年経過した時点での占有を証明すればその間継続して占有したものと推定される(186Ⅱ) また、Fは占有者たるAの承継人であるから、Aの占有を併せて主張できる(187Ⅰ)
 Aが甲土地に直接的な支配を及ぼし占有を開始したのは、柵で囲み看板を立てた1990年11月20日。Fはこの時点での占有及び2010年11月20日時点での占有を証明すれば①をみたす
②③は186Ⅰにより推定されるところ、これを覆す事情はないからみたす
⑤もみたす
⑥について、Aは1990年11月15日にBから甲土地を買い受けている この下線部事実によれば、甲土地はAが占有を開始した時点でAの所有だったことになるから、「他人の物」にあたらず⑥をみたさないのではないか 占有客体が「他人の物」であることは時効取得の要件となるかが問題になる
取得時効の趣旨は、長期間継続した事実上の状態を法的に保護すること及び所有権の帰趨をめぐる立証の困難性を解消する点にある 占有客体が自己の物でも他人の物でも、上記趣旨が及ぶことには変わりない
→条文上の「他人の物」は占有客体の例示であり、実体法上の要件ではないと解すべき
→下線部の事実は取得時効の成立を妨げるものではなく、法律上の意義を有しない

設問2
1⑴ 寄託契約書6条・665-2Ⅱに基づく返還請求が認められるか
⑵ 混合寄託契約該当性
665-2Ⅰに照らし混合寄託契約に該当するかを検討
・「複数の者が寄託した」→FGが寄託している
・「物の種類又は品質が同一」→和風だし2000箱は種類及び品質が同一
・「各寄託者の承諾を得た」→寄託契約書3条により承諾がされている
→混合寄託契約に該当
→665-2Ⅱ・寄託契約書6条に基づきGのHに対する返還請求権は基礎づけられる
⑶ Hの主張
665-2Ⅲにより、Gが返還請求できるのは500箱
この主張が認められるか。寄託契約書には665-2Ⅲに対応する規定がないところ、本件寄託契約によって同条の適用は排除されるかが問題になる
665-2Ⅲは、寄託物の割合に応じた数量の返還を認め、返還を受けられなかった分については別途損害賠償請求を認めることで寄託者間の公平を維持する趣旨の規定
→趣旨を尊重するべく、契約内容の合理的解釈からこれと異なる合意がされたと認められない限り、本条の適用は排除されないと解する
→寄託契約書4条が寄託した物の数量の「割合」に応じた持分権を確認している 他にこれと異なる割合での権利を認める規定がないことから、FGH間の契約は寄託者間で公平を図る内容であったと解釈するのが合理的 割合も665-2Ⅲと対応しているから、これと異なる合意をしていたとは認められない
→665-2Ⅲの適用は排除されない
→Hの主張は正当。1000箱滅失しているから、Gはそれぞれの持分に応じて500箱の返還を請求できるにとどまる

設問3
1 
⑴ 「債務の本旨に従った履行をしない」
Hは無償寄託契約により負う注意義務(659)に違反したといえるか
自己物であっても、山菜おこわ500箱は相当な価値を有するものであるから、通常人であれば他人から盗取されないよう施錠して管理する
Hは質屋を営んだ経験もあるから、自己の物であっても通常人より注意能力が劣っていたとは考えられない
→Hは自己の財産に対するのと同一の注意義務として、山菜おこわを管理するに際し施錠する義務を負っていた
→山菜おこわの滅失はHの施錠忘れが原因であるから、Hは上記注意義務に違反したといえ、この要件をみたす
⑵ 「これによって生じた損害」
上記債務不履行との因果関係が認められる「損害」の範囲を検討する
416Ⅰは「通常生ずべき損害」として債務不履行と相当因果関係を有するものを「損害」とする旨定めている。2項は債務不履行時に「当事者」、すなわち債務者が「予見すべきであった」事情を判断基底に加え、これと相当因果関係を有するものをも「損害」とする旨定めている
・FQの契約が解除されたことにより逸失した利益である300万円は「通常生ずべき損害」だから、損害賠償請求できる。
・全店舗販売ができなくなったことの損害は「通常生ずべき損害」ではない
また、FはHに寄託するに際し交渉に入ったことを伝えているが、全店舗販売がされることは寄託段階において確実ではなかったから、Hをして山菜おこわが滅失すれば交渉打ち切りによる大きな損害が生じうることを予見することは容易ではなかった
→交渉打ち切りにより山菜おこわを取り扱ってもらえなくなることはHが「予見すべきであった」事情ではないから、判断基底に加えられない
よって、交渉打ち切りによる逸失利益は「これによって生じた損害」にあたらない
2 FはHに対し415Ⅰに基づき交渉打ち切りによる逸失利益の賠償を請求することはできない
                                                                                                                                                                                 以上