One's Note

一橋ロー入試対策情報・司法試験過去問・修習雑記

本試24年商法 構成メモ

1.雑感

監査役の権限や地位がメインテーマの問題だった。設問1は現場思考チックなのでさっさと済ますとして、設問2のFの権限や設問3のFの責任追及については条文を知らないと思いつくのに時間がかかるので、日ごろから条文を読んでおく重要性に気づけた過去問であった。

 

2.構成メモ

【設問1】

○問題点

①選任可能人数

②得票数上は選任されるはずのQ,Rについて集計をとっていない点

○法律構成

・①について

②の方が目につきやすいため若干分かりにくい。

定款による人数制限は業務執行の機動性や相互監視体制の確保を図るべく設けられるものであるから、その制限は実際に選任された取締役との関係で問題になる。したがって、実際に決議される人数が上限の範囲内にあればよく、提案段階では候補者数に制限はかからないと考えるべき。

 

・②について

議長の裁量権(315)から切り込み、決議の方法にも議長に一定の裁量権が認められるとしたうえで、304条の提案が適法になされている以上はQ,Rについても選任の当否を審査すべきであり、これをしなかったことは裁量権の逸脱濫用にあたる、とするのが比較的思いつきやすい。

「得票数集計は全員について議場で行うべき」「得票数の多い順に選任すべき」という裁量権の限界を理屈づけたい。前者については304から、後者については342Ⅳから導出し、QRについて集計せず、得票数でQRに劣るBを選出した点に裁量権の逸脱濫用が認められるとする筋が分かりやすいだろう。

→Bを取締役として選任したことは適切でなかった(831Ⅰ①)。ただし、出訴期間徒過によりこの決議の効力は否定されない。

 

【設問2①】

1.Aの権限

⑴株主としての差止請求(360Ⅰ)

⑵要件―株式保有期間

端的に満たすと指摘すればOK

⑶要件―法令違反行為

利益相反取引(356Ⅰ②) ∵乙社はPの一人会社であるから、実質的にPの名義で甲社と取引したものと同視できる

「重要な事実の開示があった」といえるか?

→「重要な事実」:当該取引が会社に与える影響を判断するのに必要となる事実

 「開示」:取締役として一般的な理解力を有する取締役が会社に与える影響を判断できるだけの説明がされたこと

→Fは説明が不十分としているが、他の役員が納得していることからすると、重要な事実の開示があったといえるだろう

善管注意義務違反(思いつかず) 

経営判断の合理性

乙会社はペーパーカンパニーであり、返済の見込みはない。にもかかわらず資本金の2分の1に相当する15億円の無担保貸付けをする旨決定したことは、経営判断としても著しく合理性を欠くものであり、善管注意義務(355,330,民法644)に違反する

⑷要件―損害要件

15億の損失が出た場合、甲会社が経営悪化の一途をたどっていること、乙社からの十分な返済は見込めないことからして、倒産という回復できない損害が生じるおそれがある

 

2.Fの権限

監査役としての差止請求(385Ⅰ)

監査役会で問題視しないことにしたのにFがかかる請求をする事の可否

監査役の独任制(390Ⅱ但)に照らし、各監査役監査役会の決定(同項3号)にかかわらず権限行使ができる。差止請求及び調査の双方にかかわる話なので、最初に言及しておくとよいだろう

⑵要件―法令違反行為

1と同じ

⑶要件―損害要件

385は重大損害要件にとどまるので、こちらも肯定される。

差止請求権の前提としての調査権限の行使(381Ⅱ,Ⅲ)

これは指摘するだけでよい

※今回は会社法上の権限しか問われていないので必要ないが、差止請求のときは民事保全(仮処分の申立て)も気を付けておく。採点実感いわく、385Ⅱにより仮処分の申立てで担保(民保14Ⅰ)が不要となることは言及できると望ましいらしい

 

【設問2②】

1.A,Fの責任追及

⑴Aは847Ⅰ,Ⅲ・423Ⅰ、Fは386Ⅰ①で会社を代表し、423Ⅰ

⑵損害

15億円

⑶任務懈怠

ア H

423Ⅲ②で任務懈怠が推定

イ D

423Ⅲ③で任務懈怠が推定

ウ P

423Ⅲ➀で任務懈怠が推定

任務懈怠推定があっても具体的事情については書いた方がいいが、分量上厳しいので「これを覆す事情はない」くらいにとどめておいていいかも

⑷因果関係

端的に認定

⑸故意又は重大な過失

HDについては少なくとも過失があるとすればよい

Pについては、428Ⅰより無過失であっても責任を負うことに言及する

※429についてはAの請求適格を否定する論証を書くことが出来るが、メインではないので書かなくていいと思う。ぶんせき本は広く株主も第三者に含めて間接損害の賠償請求を認めているものの、株主の一人に回復利益を割取させるのが妥当とは思えない。

【設問3】

1.議案1について

否決決議取消訴訟の可否については否定(831Ⅰの「決議」にあたらない)、というのが穏当

2.議案2について

⑴訴訟要件関連

Fは監査役でなくなっているが、原告適格認められる(831条1項後段,346Ⅰ)

※831Ⅰ後段・346Ⅰで原告適格が認められる者

「その決議が取り消されることによって」法令・定款上の員数を欠く結果、346Ⅰによって権利義務を負う者

⑵主張事由

ア Fの意見陳述権(345Ⅳ,Ⅰ)の侵害

イ Qが監査役に選任されることの可否

 設問1では、BではなくQが選任されるべきであった。これを前提とする場合、Qを監査役として選任する旨の決議には335Ⅱに違反する取消事由があるのではないか

監査役との兼任を禁じられる者が総会で監査役に選任された場合、特段の事情がない限りその者は従前の使用人たる地位を辞したものと推認される

また、335Ⅱは取締役を監査役の欠格者と定めるものではない(=選任決議の効力要件ではない)から、その者が従前の地位を辞さなかったとしても決議の効力に影響しない(最判平元.9.19)

→取消事由はない

※イは必須ではない?

⑶主張の可否

アについて、Aとの関係では第三者に対する手続上の瑕疵を主張できるかを簡潔に論証する。

⑷主張の当否

ア→831Ⅰ①に該当。また、違法は重大であり裁量棄却(831Ⅱ)の余地はない

 

                                                                          以 上