本試23年商法 構成メモ
1 雑感
傾向が安定したH23以降の本試商法でも一番キツかった。
➀事前に知っていないと焦る分配可能額の計算を設問1で要求してくる②問題となる瑕疵が多く、分量が多い③現場思考を要する論点がいくつかある と、時間切れを誘う要因がいくつもある。
設問1では、分配可能額の計算に手間取り条文の指摘にとどまったうえ、自己株式取得手続そのものの瑕疵と総会決議の瑕疵を区別できていなかった。設問3では、462を指摘するだけで、欠損填補責任や任務懈怠責任に言及しきれなかった。
2 構成メモ
設問1前段
1.分配可能額(446,461Ⅱ,計算規則149)
→分配可能額は、変動がない限りその他資本剰余金+その他利益剰余金
→資料3によれば、分配可能額は5億円
にもかかわらずBに25億円を交付している
→財源規制違反(461条1項3号)
2.自己株式取得手続
160Ⅱの通知を怠ったこと
→160Ⅱ、Ⅲについては、161条、162条の適用除外規定がある。
本件で、甲社が株式1株の取得と引き換えにBに交付する金銭は市場価格の2.5割増しとされているから、161条の特則は適用されない。
また、本問ではBがAから相続した甲社株式を甲社が取得しようとする場面であるため、162条が適用されそうであるが、甲社は公開会社なので(162条1号)、162条本文の特則は本件において適用されない。よって、160条2項所定の通知をしなかったことがまず問題となる。
→自己株式取得の効力に直接かかわる自己株式取得手続違反であり、決議取消事由にはならない。
3.160Ⅳにより議決権を行使できない株主が議決権を行使したこと
→決議方法法令違反
裁量棄却を検討
設問1後段
1.分配可能額を超えた自己株式取得の効力
:有効説・無効説両論ありうる
→無効説が通説(財源規制の趣旨を徹底する)。この場合、Bの株式の帰趨(金銭返還と株式返還の義務は同時履行関係に立つか)を決めなければならない(採点実感)
※有効説は、原状回復義務(民法121-2Ⅰ)が同時履行関係になることをもって無効説を批判する。もっとも、無効説はこれに対し、462条1項が不都合性を解消する規定であることを再反論している。
※自分としては有効説でいいと考える。理由は以下の通り。
➀有効と解しても分配を受けた者が返還義務を負うことには変わりない。
②無効説に立つと、株式の売主は462Ⅰの義務を履行しなくても株主たる地位を失っていないことになるため、総会決議の効力に問題が生じうる。
③会社が当該株式を処分してしまった場合には決議の効力がさらに覆される可能性があり、法的安定性を欠く
→無効説は分配可能額を超えた自己株式取得の効力をめぐる問題を端的に解決できるものではない(田中)
2.自己株式取得手続違反があった場合の取得の効力
手続に瑕疵のある自己株式取得→原則無効。 但し善意無重過失の第三者に対抗できない
LQ292
3.総会決議の瑕疵と自己株式取得の効力
総会決議が取り消されない限り、自己株式取得は有効のままとなる。逆に、取り消された場合は株式の帰趨が問題となると思われる
設問2
1.自己株式処分無効の訴えによらなければ効力を否定出来ない
2.自己株式処分の無効事由に関する論証
3.今回は有利な処分価格での自己株式処分であるため、199Ⅱにより総会決議が必要
総会特別決議が取り消される→有利な価格での自己株式処分が決議なくしてなされたことになる
◇決議の瑕疵となりうる事由
⑴乙が決議に参加している点→831Ⅰ③の取消事由
持株価値の希釈化
⑵説明義務を尽くされていない点→831Ⅰ①
199Ⅲの説明義務:有利発行を正当化するだけの説明
314Ⅰの説明義務:議題に関する質問について株主を納得させるだけの説明
本件では、199Ⅲの説明義務は尽くされていたから、株主の質問について回答を拒絶したことについて314条1項違反があるかが問題となる。
→314Ⅰ但し書、及び会社法施行規則71条の拒絶事由があるかを検討
本件で乙に有利な処分価格(市場価格での80%の価格)での株式処分をした理由は、乙社との交渉の結果
これを明らかにしたところで甲社・乙社の企業秘密が明らかになることはないから、「株式会社その他の者…の権利を侵害することとなる場合」(規則71条2号)にはあたらない。
→説明拒絶事由は認められないから、説明拒絶は314Ⅰ本文に違反し決議取消事由を構成する
裁量棄却の余地もないので、決議は取り消されることになる
4.決議を欠く有利発行の効力
有効(判例)、つまり無効事由にはならない
以上より、本件自己株式処分は有効
設問3
1 自己株式取得について
⑴ 462条の責任
2項の注意義務を尽くせば責任は免れる
→粉飾決算は極めて巧妙で会計監査人にも見抜けないもの
→誤った貸借対照表を前提にした自己株式取得であれば財源規制に反しないから、Cは注意義務を尽くしたというべき
⑵ 欠損填補責任(465)→但し書で免責の余地があることに言及
⑶ 任務懈怠責任(423)→諸法令違反
法令違反はあるので、市場価格との差額5億円について賠償する責任を負う
2 自己株式処分について
任務懈怠責任(423)→諸法令違反
逸失利益4億円を賠償する責任を負う 以 上