本試30年商法 構成メモ
1. 雑感
設問1では会計帳簿閲覧請求に関する論点が初めて出た。知らなかったので書くのに手間取った。設問2は問題文で論ずべき点が制限されていることや、契約内容⑶の存在から120条への誘導がされていると分かる。また、脚注で述べた通り本件決議2は取消しの訴え自体が不適法となりうるため、その立場を採る場合は構成の段階から工夫が必要となる。設問3は見るからに現場思考で飛びつきたくなるが、論じるべき点は売渡し請求の可否だけではない。決議取消し系が来たら必ず特別利害関係株主の存在を疑うべしと学ばされた。
なお、この年については自主ゼミメンバーと議論をしつつ参考答案を書き下ろした。7枚に収まる現実的な答案で、A評価に相当するものと自負している。脚注も含め参考にしていただけたら幸いである。
2. 参考答案
第1 設問1
1
(1)Dは、会社法433条1項にしたがい会計帳簿の閲覧請求をしている。
ア Dは甲社株式を200株有しているところ、これは「発行済株式の...百分の三...以上」にあたるから、閲覧請求者としての適格を有する。
イ また、Dは甲社の「営業時間内」に本件閲覧請求をしている。
ウ そして、Dはリベートを受け取っている疑いのあるAの、取締役としての損害賠償責任の有無を検討するためとして、総勘定元帳及びその補助簿のうち仕入取引に関する部分について本件閲覧請求をしている。したがって、「当該請求の理由を明らかにして」いるといえる。*1
(2) 以上より、Dの請求は基礎づけられる。
2(1) これに対し、甲社は432条2項各号に該当する事由があると主張して本件閲覧請求を拒むことが考えられる。本件では1号及び3号該当性が問題となる。
⑵3号該当性*2
3号は、閲覧請求者が①閲覧を求めている株式会社の業務と「実質的に競争関係にある事業」を②「営み、又はこれに従事するもの」である場合に、当該閲覧請求を拒めるとする。
ア ②要件
Dは乙社の事業を「営み、又はこれに従事するもの」にあたるか。
Dは経営には全く関与していないことから、乙社の事業に対する影響力を有していないようにも思える。
しかし、Dは乙社の全株式を保有しているため、乙社の経営を意のままにすることができる。また、乙社代表取締役Fの親であるから、その密接な人的関係に照らせば、FがDの意思に沿った行動をすることが考えられる。したがって、DはFを通じて乙社を経営しているとみてよい。
よって、Fは乙社の事業を「営み、又はこれに従事するもの」にあたるから、Dもこれに該当し、②をみたす。
イ ①要件
(ア) 3号が拒絶事由として定められている趣旨は、競業者が内部情報を利用して当該株式会社の利益を害することを防止する点にある。そこで、「実質的に競争関係にある」といえるかは、内部情報を利用されることにより当該株式会社の利益が害される蓋然性があるか否かを客観的に判断することによって検討する。
(イ) 本件で、Dが全株式を有する乙社は甲社と同じハンバーガーショップを経営している。そのため、甲社の機密情報が乙社に利用される懸念は存する。
もっとも、甲社は関西への出店を予定しておらず、関西で店舗を展開する乙社と地域における競合は生じない。そのため、乙社が本件閲覧請求によって得た情報で有利に事業を遂行したとしても、甲社の利益が害される蓋然性があるとまではいえない。
したがって、乙社の事業は甲社と「実質的に競争関係にある」とはいえず、①をみたさない。
ウ よって、3号には該当しない。
⑶1号該当性
本件閲覧請求は「株主...の権利の確保又は行使に関する調査以外の目的」でされたものにあたるか。
確かに、Dが本件閲覧請求の理由として提示したのは株主として取締役の責任追及をするか否かにかかる事項である。そうすると、上記の目的でなされたものとはいえないとも思える。
しかし、Dが本件閲覧請求をした本来の目的は自己の保有する株式を買い取らせることにあり、閲覧請求の理由と関連性を有しないものである。
したがって、本件閲覧請求は上記の目的でされたものといえる。
よって、本件閲覧請求には1号に該当する事由がある。
3 以上より、甲社は1号該当事由がある旨主張して432条2項に基づき本件閲覧請求を拒むことができる。
第2 設問2(1)
1 前提となる問題
(1) 「株主等」であるCは、本件決議1・2のあった平成27年3月25日から「三箇月以内」である平成27年4月15日に本件決議取消しの訴え(831条)の訴えを提起していることから、同条1項柱書の訴訟要件をみたしている。
(2) また、本件決議2は否決決議であるところ、否決決議を取り消したとしても法律関係には何ら変動が生じないことから、本件決議2の取消しの訴えについては不適法であり認められない。*3
以下、各本件決議についてCの立場から主張されると考えられる点、及びその主張の当否について検討する。
2 本件決議1について
本件決議1に際してはAがDの議決権を代理行使しているところ、これは甲社による利益供与(120条1項)の影響を受けたものであるから、決議の方法に法令違反があるとして決議取消事由を構成する(831条1項1号)との主張が考えられる。これは認められるか。
(1)利益供与(120条1項)該当性
ア 利益供与の対象
本件では後述するようにAが甲社の株主ではないGに対して「財産上の利益の供与」をしているが、120条1項は「何人に対しても」としていることから、この点は問題ない。
イ「財産上の利益の供与」
甲社はGの丙銀行に対する債務を連帯保証するに際し、保証料を取らない旨の合意をしている。本来であれば60万円をくだらなかった保証料の支払を免れさせている点で、これは「財産上の利益の供与」にあたる。
ウ「株主の権利の行使に関し」
本件契約(3)に照らせば、上記の「財産上の利益の供与」は、甲社が自身にとって望ましくない株主であるDの議決権行使を阻む目的で、第三者であるGにDの株式取得のインセンティブを付与したものである。したがって、「株主の権利の行使に関し」てなされたものといえる。
エ「当該株式会社...の計算においてするもの」
甲社が保証料の支払を受けるとすれば、その利益は甲社に帰属していたのであるから、 本件利益供与は「当該株式会社...の計算においてするもの」にあたる。*4
(2) 以上より、CはAによるDの議決権の代理行使は利益供与の影響を受けてなされたものであるとして、120条1項に違反し決議取消事由を構成する旨主張することができる。
3 本件決議2について
(1) AがCの説明を途中で打ち切り決議に移ったことは、315条に違反し831条1項1号の決議取消事由に該当しないか。
ア 株主総会議長には議事進行について裁量が認められているため、説明の打ち切りも含め議事の進行に必要な措置をとることができる(315条)。しかし、株主の適切な議決権行使の要請から、無制限に認められるべきではない。
そこで、説明の打ち切りは、正当な理由が認められる場合にのみ許容されると考える。
本件のような取締役解任決議においては、解任の理由が取締役に対する損害賠償の要否に関わってくるため(339条2項)、特に重要である。そのため、解任理由の説明を打ち切ることは特段の事情がない限り正当な理由のないものとしてみるべきである。
イ 本件で、AはCがAを解任する旨の議案を提出した理由について説明しようとする前にこれを制止している。これは専らAがリベート受取りの嫌疑について明らかにされることを防止すべく行ったものといえ、正当な理由はなく、打ち切りを許容する特段の事情もない。
したがって、本件説明の打ち切りは、Cの裁量を逸脱したものであり、315条に違反する。
(2) もっとも、前述したように、本件決議2の取消しの訴えは不適法却下されることとなるから、訴えにおいてこの主張は認められない。
第3 設問2(2)
1 Cは、株主代表訴訟を通じてAに対し423条に基づく損害賠償請求を、Gに対し120条3項に基づく利益の返還請求をするよう甲社に求める訴えを提起し、仮にこの請求から60日経過しても甲社が提訴しない場合には自ら提訴することになる(847条1項、3項)。
Cは公開会社でない甲社の「株主」であるから、上記の訴訟の原告たりうる(847条2項、1項)。
2 Aに対する請求
Aは423条1項の責任を負うか。
(1) Aは甲社の代表取締役であるから、「役員等」にあたる。
(2) 「任務を怠った」とは忠実義務(355条)及び善管注意義務・忠実義務(330条,民法644条)に違反することをいうところ、 前述のようにAはGに対する利益供与行為(120条1項)をしているから、法令に違反し忠実義務に違反したものとして「任務を怠った」といえる。また、少なくともCには重大な過失も認められる。
(3) 上記の任務懈怠行為により、会社には少なくとも860万円の「損害」が生じている。
(4) よって、Aは甲社に対し423条に基づく損害賠償責任を負い、かかるCの主張は認められる。
3 Gに対する請求
GはAから「利益の供与を受けた者」にあたるから、当該利益として本来支払うべきであった保証料相当額の60万円及び甲社がGに代わって弁済した800万円について返還する責任を負う(120条3項)。したがって、Cの上記の主張は認められる。
第4 設問3
1 Bは「当該決議の取消しにより株主...となる者」として、平成27年7月3日から「三箇月以内」に、Cの売渡し請求に関する議案の決議を取り消す訴えを提起することにより本件請求の効力を否定することが考えられる(831条1項)。
ここで、Cによる議決権行使があったことは831条1項3号の決議取消事由を構成するか。
Cは売渡請求をした本人であり、かかる決議が可決することで自分のみがBの株式を取得することが出来ることとなる。したがって、「決議について特別の利害関係を有する株主」にあたる。
そして、決議に際してCのみが議決権行使をした結果これが可決されBが株式を失ってていることから、Bに著しい不利益が生じる決議がされたといえ、「著しく不当な決議がされた」ことが認められる。
よって、Bはこの主張により本件請求の前提となった株主総会決議を取り消し、本件請求の効力を争うことが出来る。
なお、この瑕疵が決議に影響を及ぼすことは明らかであるから、裁量棄却(831条2項)の余地はない。
2 また、BはCの本件請求が権利濫用(民法1条2項)にあたるとの主張をすることが考えられる。これは認められるか。
(1) 甲社定款9条は、会社法174条に従い定められたものであり、Cの本件請求もこれに基づいてなされたものであるから、本件請求自体は適法である。
(2) もっとも、この株式売渡請求は権利の濫用(民法1条3項)にあたり許されないとのBの主張が考えられる。
174条の趣旨は相続等の一般承継によって閉鎖会社にとって望ましくない者が株主と なることを防止し、もって既存株主の保護を図る点にある。
そうだとすれば、本条に従い定められた定款に基づく請求は、株式取得の原因となった事由によっても株主の構成が従前から変化しない場合にまで認める必要はないことになる。
そこで、定款自治及び既存株主の保護の要請と株式の承継取得人の保護の要請との調整を図る見地から、株式取得の原因となった事由によっては株主の構成が従前と変わらない場合において、承継取得人を害する目的でなされた売渡し請求は、権利濫用にあたり許されないと考えるべきである。*5
(3) 本件で、BはAからの相続を原因として甲社の株式を取得しているところ、これによっても甲社の株主の構成は従前と変わらない。
また、Cは従前、Aの退任後はBが代表取締役となることに合意していたにもかかわらず、これに背いてBを排除し自らが代表取締役の地位にとどまるべく本件請求をしている。かかる事情に照らすと、本件請求はBを害する意図のもとになされたものと言わざるを得ない。
(4) したがって、Cの本件請求は権利濫用にあたるものとして許されないとのBの主張は認められる。
以 上
*1:2021/2/8追記:三段論法を徹底し、事情を拾いきるという観点からは、「433Ⅰが理由の提示を要求する趣旨が会社に対し開示を要する会計帳簿の範囲を認識させ、433Ⅱの拒絶事由の有無を判断する資料を与えることにあることに照らし、「理由を明らかにし」たといえるためには、示された理由が会社をして①請求と関連性のある会計帳簿を特定でき②拒絶事由の有無につき判断できる程度に具体的なものである必要がある」という規範を定立したうえであてはめる方がよい。
*2:1号が認められ、3号が認められない関係上、認められない3号を先に検討している。
*3:争いがあるが、近時の裁判例では訴えを不適法としているため、それに従った。ここで本件決議2について検討を終わることもできるが、問題文の事情を使いつつ裁判例への理解を示すために一応の先出しをし、最後に再確認している。
*4:2020/2/8追記:イーエも、解釈論を示したうえであてはめる方がよい。