One's Note

一橋ロー入試対策情報・司法試験過去問・修習雑記

本試令和元年商法 構成メモ

1. 雑感

 設問1が手続比較、設問2が新株予約権無償割当ての差止請求の可否、設問3が総会・役会間における権限分配という何もかもが新しい問題だった。設問3はローで扱っていたため、先生の見解に従い処理した。仮に決議を有効と解した場合、決議順守義務と任務懈怠責任との緊張関係が生じる。総会決議に従ったことを任務懈怠と評価することは難しいため、取締役は責任を負わないことになるが、それは換言すれば無責任経営を招きかねないということである。そのため、個別事情の下それを考慮すべきであったのに考慮せずに総会決議に従ったときは任務懈怠が認められるといったアプローチを採る必要がある(下記構成メモ参照)。

2. 構成メモ

設問1

1 甲社の臨時株主総会を乙社自らが招集する場合

(1)297Ⅰに基づく招集請求

(2)297Ⅳ各号のいずれかに該当する場合には、裁判所の許可を得て自ら招集可

(3)株主自らが招集決定をし(298)、総会の二週間前までに招集通知を発し(299)、必要に応じて株主総会参考書類・議決権行使書面(298Ⅰ③の事項を定めた場合)を株主に交付する(301,302)

298Ⅰ括弧書参照

 

2 甲社の定時株主総会開催にあたり株主提案権を行使する場合

303Ⅰに基づく株主提案権の行使

甲社は監査役会設置会社なので、取締役会設置会社にあたる(327Ⅰ②)

→少数株主要件・総会の日の八週間前までの期間制限が課される(303Ⅱ,Ⅲ)

 

3 両者の比較

(1)乙社自らの総会招集のメリット・デメリット

メリット:自らがイニシアチブを取って総会を開催出来るため、後者と異なり会社が開催に消極的な場合でも自らの要求を実現しやすい

デメリット:招集手続を自ら行う必要があるため後者より負担が大きい

(2)株主提案権行使のメリット・デメリット

メリット:前者より小さい負担で自らの要求を実現しうる

デメリット:前者と比べ期間制限がタイト・会社が提案を採用しない可能性があり、要求が実現するとは限らない

 

設問2

 

1 乙社の主張

新株予約権無償割当て(277)についても、247の類推適用により差止請求ができる

②本件新株予約権無償割当ては乙社のみを差別的に取り扱うもので株主平等原則(109)に違反し、247①に該当する

➂本件新株予約権無償割当ては経営権を維持する目的でなされた「著しく不公正な方法」により発行されたものであり、247②に該当する

 

2 各主張の当否

(1)①について

事前に差し止めることにより既存の株主の利益を保護を図るという247の趣旨は新株予約権無償割当てにも妥当→類推適用可

(2)②について

ア 新株予約権無償割当てが新株予約権者の差別的な取扱いを内容とするものであっても、これは株式の内容等に直接関係するものではないから、直ちに株主平等の原則に反するということはできない 

  →しかし、278 Ⅱは、株主に割り当てる新株予約権の内容が同一であることを前提としているものと解される

 →109 Ⅰに定める株主平等の原則の趣旨は,新株予約権無償割当ての場合についても及ぶというべき

 → 当該取扱いが衡平の理念に反し、相当性を欠くといえる場合、同原則の趣旨に反すると考える

イ 個別具体的検討

 乙社の従前の投資手法からすると、乙社は甲社の事業により利益をうむ意図がない

 また、甲社の事業に対し理解を示していない

→乙社による経営支配権の取得に伴い、甲社の存立・発展が阻害されるおそれがあり、甲社の企業価値がき損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されかねない

また、適法な株主総会において株主の過半数である67%の賛成を得ている

→本件新株予約権無償割当ては係る危険を回避し会社の利益及び株主の共同の利益を守る目的でなされたものであり、目的は衡平の理念に反せず正当

 ほか、乙社に対しては買い増しを行わない旨確約した場合に甲社が新株予約権を全部無償取得する経済的補償措置も講じている

→手段として相当性を欠くものではない

 よって、株主平等原則の趣旨には反しないから、主張②は妥当でない

(3)➂について

ア 株主に割り当てられる新株予約権の内容に差別のある新株予約権無償割当てが、主として経営支配権を維持するためになされた場合、その新株予約権無償割当ては原則として「著しく不公正な方法」によるものと解すべき とする見解がある

 しかし、資金調達を目的とするものではない以上、「不公正な方法」あたるか否かは個別具体的事情に照らして必要性・相当性が認められるかで判断すべき 

 具体的には、当該割当てがなされた経緯や買収者への損害回復措置の有無などの諸般の事情に照らし、それが会社の企業価値ひいては株主の共同の利益を維持するためにされた相当なものと評価できる場合には、2 号には該当しない

イ 個別具体的検討 

 本件新株予約権無償割当ては甲社が経営権を維持する目的で行ったもの

 もっとも、前述の通り、乙社による投機的買収を防ぐ目的で行われた 乙社に対しては救済措置も講じられていたことに照らすと、甲社の企業価値ひいては株主の共同の利益を維持すべく行われたものといえる

→「著しく不公正な方法による発行」とはいえない

よって、主張➂も妥当でない

 

設問3

 

1 本件決議1の効力

(1)定款変更により取締役会の業務に属する事項を株主総会決議によってもすることが出来るようにすることが許されるか

→295Ⅱ,309Ⅴの趣旨:大規模会社において経営に属する事項を取締役の決定に委ねることで機動的経営を確保する

→原則として公開会社においては権限委任は許されないが、株主の意思を尊重する要請も鑑み、公開会社の場合小規模であれば併存型の権限委任は許されると考えるべき

(2)甲社は上場会社であり相当程度の規模を有すると考えられる→併存型権限委任は不可

(3)かかる定款変更をみとめる本件決議1は無効

2 Aの責任

(1)「役員等」

充足

(2)「任務を怠った」

善管注意義務違反(本件決議1が無効である以上、本件決議2に従う必要はなかったにもかかわらず、他の取締役の意見や損害の見込みを重く考慮せずに売却に踏み切った)

(3)故意又は重過失

少なくとも重過失あり

(4)「損害」の発生

50億円をくだらない損害

(5)任務懈怠と損害の因果関係

あり

(6)Aは甲社に対し423Ⅰの責任を負う

 

【解説】

設問1について

・制度比較なので、原告の主張に沿う形で条文を拾えるだけ拾ってそれぞれのメリット・デメリットを書けばよい。

・株式保有期間要件の「引き続き」に注意。その期間中、ずっと比率が下回らなかったことに言及する必要がある。

 

設問2について

最判平19.8.7 百選 100 ブルドッグソース事件。平等原則の趣旨に反しないと評価するにあたり、裁判所は①利益の帰属主体である株主の大多数が賛成していたこと②手続的な瑕疵がないこと③買収者に対する経済的補償がなされていることを考慮している。

 

 設問3について

判例は非公開会社についてであるところ、答案構成例は無責任経営の弊害を考慮して、公開会社については部分的にしか併存型権限移譲を認めない見解をとった。

併存型権限移譲を認める場合は、本件決議1が有効となるから、取締役に対し拘束力を生じることになる(355)。この場合、決議を遵守したことを理由に安易な免責を認めると無責任経営の危険が生じるので、慎重に任務懈怠を認定すべきであろう。私見であるが、総会決議に背いてでも個別的事情を配慮して業務を決定すべき特段の事情があった場合には、総会決議に従ったことが善管注意義務違反を構成すると考えることになろう(修了生の方はそのアプローチもありうるといっていた)。

                                     以上