One's Note

総論的勉強法・使用教材紹介・起案記録

本試28年商法 構成メモ

1.雑感

設問1はオーソドックスな問題、設問2⑴⑵は条文・制度趣旨に立脚した三段論法が要求される問題、設問3は初めて内部統制システムに関して取締役が負う責任を問う問題であった。内部統制システムに関する問題を復習できる数少ない過去問。423Ⅰ責任はこすられまくったテーマであるが、その分損害の算定や因果関係の認定にひねりが加えられている。

2.構成メモ

設問1(1)

1 取締役会決議の手続に瑕疵があった場合の効力

 原則無効、但し法的安定性の要請に照らし具体的事情の下瑕疵が治癒される

2 個別具体的検討

(1)招集通知に目的事項を記載しなかったこと

ア 目的事項の記載が要求される場合には、366Ⅱ・367Ⅱのように明文で要求される

 →368Ⅰがこのような明文を設けていない以上、上記に該当しない場合には目的事項の記載 は必要ないと解すべき

イ 本件招集通知は366Ⅱ・367Ⅱに該当しない

 →招集通知に目的事項を記載しなかったことは決議の瑕疵を構成しない

(2)Aに対する招集通知を欠いたこと 

ア 招集通知の欠缺は368Ⅰに違反し、原則として決議の瑕疵を構成するが、当該取締役に対する通知がなされたとしても決議に影響がなかったと認められる特段の事情がある場合には、例外的に瑕疵を構成しないと考える

イ Aは特別利害関係取締役、決議には参加出来ない(369Ⅱ)

 また、決議の不当性を回避するため、特別利害関係人は審議にも参加できないと考えるべき

 →決議に影響を及ぼさない特段の事情があったといえ、瑕疵を構成しない

⑶招集通知に記載の無い事項を決議したこと

 取締役に出席義務があり、役会にはあらゆる議題があがりうることが想定されている以上、招集通知に記載のない事項を決議したことは瑕疵を構成しない

3 結論

本件取締役会決議は有効

 

設問1(2)

1 取締役の報酬請求権の存否

定款・総会・役会で具体的内容が確定してはじめて発生する

(1)報酬総額を総会決議で定め、配分を役会に一任する事の可否

361の趣旨:お手盛りの防止 総会で上限さえ定めればかかる弊害は防止出来る

→総会決議で上限を定め役会に配分を一任することも可能

(2)総会決議・役会決議をもってAの報酬請求権は具体化する

2 役会によって具体的な報酬金額が定められたあとに役会決議によって報酬の減額の決議がなされた場合の報酬請求の可否

ア 原則:報酬額が確定した以上それは契約内容として双方を拘束するから、事後的な減額 決議にかかわらず取締役は当初の報酬額分の支払を請求可

  例外:当該取締役が減額に同意していた場合はその額に減額される 従前から役職に応 じた報酬が支払われる旨の慣行があり、当該取締役がその旨認識したうえで役職の変更に 応じていた場合には黙示的同意を認めることが出来る

イ Aは平取の報酬月額が50万円であるとの慣行は認識していたから、その限度では減額に 関する黙示的同意があったといえる。もっとも、月額20万円への減額は慣行を逸脱するものでありおよそAの同意は認められない

  よって、月額50万円への減額のみ認められる

3 結論

Aは月額50万円の報酬を請求出来る

 

設問2(1)

1 339Ⅱに基づく損害賠償請求

 残存任期8年の報酬総額相当の損害賠償を請求

2 「正当な理由」の存否

ア 合理的な経営判断の結果会社に損害が生じたことをもって「正当な理由」に含めることの肯否

 →会社経営の萎縮を招くことから、ただちにあたるとするのは妥当でない。取締役の善管注意義務に照らし、経営判断の過程に著しく不合理な点があったと認められる場合に限り、「正当な理由」にあたる

イ 本件のAでの事業展開の失敗は適切な経営判断の結果生じたもの

 →解職の「正当な理由」にはあたらない

3 結論

 Aの損害賠償請求は認められる。計算すると、50万円×12ヶ月×8=4800万円。なお、残存任期が長期であることから、その後の退任の可能性に鑑みて損害賠償額が減額されることはありうる。

 

設問2(2)

1 ①訴えをもってAの解任を請求する際の手続

Bは甲社発行済株式の20%を保有しているから、854Ⅰ①の原告適格を有する

そこで、Aが会社資金の流用という「役員の職務の執行に関」する「不正の行為」をしたことを理由として、854Ⅰの訴えを、株主総会から30日以内に、甲社及びAを被告として(855)、甲社本店所在地を管轄する地方裁判所に提起することになる(856)

2 ②会社法上の問題点

(1)総会が流会した場合も「当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたとき」にあたるか

(2)解任の訴えの趣旨→流会の場合も含まれると考えるべき

(3)この要件もみたす

(4)よって、Bは解任の訴えを適法に提起出来る

 

設問3

1 Cの損害賠償責任(423Ⅰ)

(1)「役員等」

(2)「その任務を怠った」

ア 内部統制システム構築義務

甲社は大会社なので構築義務を負う(330,民法644。348Ⅳ参照)

→履践している

イ 運用義務違反

Dについて監視義務を負うか(非上程事項に関する監視義務の有無)

もっとも、信頼の原則

Cについては運用義務に違反していないと考えられる

ウ 事前報告義務(357Ⅰ)

 履践していないのは事実 だが、認定するにしても従業員の内部通報をDが隠匿しているため、故意重過失がないといえる

(3)損害賠償責任否定

2 Dの損害賠償責任(423Ⅰ)

(1)「役員等」

(2)「その任務を怠った」

ア 構築義務はC同様履践

イ 運用義務については違反したことが明らか

ウ 事前報告義務も懈怠している

(3)「故意又は重過失」

少なくとも重過失があるといえる

(4)「損害」の発生

水増し行為の発覚後に甲社が支払った3000万円が損害)

(5)因果関係

3000万円については因果関係が認められる

(6)Dは甲社に対し3000万円の損害賠償責任を負う

 

【解説・補足】

設問1(1)

 答案構成例では、Aに対する招集通知を欠いた点の処理において、Aは決議に参加できない以上決議に影響を及ぼさないと認定している。

 もっとも、特別利害関係取締役が参加できないのは決議であり、審議自体には参加できるのではないかという問題が存在し、その帰結によっては書き方が変わり得る。

 あり得る立場は、①決議への不当な影響を排除する立場から、審議にすら参加できないとする②条文文言に即し、審議には参加できるとする の2つだろう。

 私見としては、答案がシンプルに書ける①がよいように思われる。

設問1(2)

 典型的な問題なので、特に補足なし

設問2(1)

 解任に際しての損害賠償請求の可否。339Ⅱの趣旨が解任された取締役の保護にあることから、経営判断の失敗を正当な理由として取締役の責任に転嫁できるかを考える。経営判断の原則が妥当する場面においてさえ取締役の損害賠償請求権を当然に奪えるとすれば、取締役の萎縮の防止という経営判断原則の趣旨を没却することになる。したがって、当然には「正当な理由」には含まれないと考えるべきであろう。

設問2(2)

 設問前段では形式的に手続の流れだけを書き、設問後段は要件充足性を検討する中で問題になる点を書けばよい。現場思考色の強い問題なので、自分なりに解任の訴えの趣旨を考えてそこから結論を出せばOK。

設問3

内部統制システム構築義務・運用義務の問題。構築義務については問題ないと思われる(なお、下の※参照)。Dについてはストレートに運用義務違反を指摘できるが、CについてはDの監視義務を懈怠したといえるかが問題になってくる。

また、取締役は事前報告義務を負っているため、その違反についても検討する余地があるように思われるが、出題趣旨・採点実感においてその言及はされていない。

 

※事例が似ている判例として最判平21.7.9(百選52)がある。本設問にあるような巧妙な違法行為をも防止できるだけの内部統制システムを構築する義務を負うかが問題となった。

 判例は、原則としては通常想定される不正行為を防止しうる程度のシステムを構築しておけば足り、従前に似たような違法行為があった等当該違法行為を予想すべき特段の事情があった場合には、それを防止できるだけのシステムを構築する義務を負うとしている。

 ただし、この判例は350条の「過失」として内部統制システム構築義務違反が認められるかを検討しているため、本問に直接射程が及ぶものではない。もしCもDも運用義務を適切に履践していたとしたら、構築義務違反のところで展開する実益もあるかもしれないが。

 

                                     以上