One's Note

総論的勉強法・使用教材紹介・起案記録

本試平成26年民事訴訟法 構成メモ

 

1. 雑感

 

判例の射程を検討させる設問1、参考判例つきの現場思考といえる設問2、「悩みを見せる」型の設問3のオーソドックスな出題。誘導が明確で判例の内容も問題中で言及されているので、特有の出題形式に慣れる題材にはいい。

今回は、一文一義・規範に対応した評価・配点に即した分量を意識して答案を作成した。うまくいっているだろうか。

2. 起案

【設問1】

1 訴訟行為も当事者の意思表示を前提とする以上、私法の規定の類推適用を受けうる。では、私法上の表見法理は訴訟行為に適用されるか。

2 判例と事案の相違

⑴ 昭和45年判決(以下、「本件判決」という。)は、①訴訟行為は取引行為と異なり取引安全を図る必要がないこと②手続の安定を図るべきことに照らし、表見法理である会社法354条は訴訟行為には適用されない旨判示している。

⑵①について

 訴訟上の和解は、期日において当事者が訴訟物につき互譲することによって当事者間の紛争を解決する手続である。

 確かに、期日においてなされる以上、訴訟上の和解は訴訟行為としての側面を有している。

 しかし、当事者間における互譲が基礎となっている点で、訴訟上の和解は私法上の行為としての側面をも有しているというべきである。

 したがって、本件判決の事案と異なり、訴訟上の和解においても取引安全を図るべき要請は妥当するから、私法上の表見法理の適用は妨げられない。

⑶②について

 本件判決は、判決が確定していない段階においては訴訟行為が積み重なっていくことから、私法上の表見法理の適用を認めると当事者の主観によってそれ以降の訴訟行為の効力が左右され、手続の安定が害されるとする。

 しかし、訴訟上の和解は確定判決と同じ効力を有するから(民事訴訟法267条、以下法名略)、それ以降の訴訟行為の積み重なりはない。したがって、表見法理の適用によりそれ以降の訴訟行為の効力が左右されることはないから、本件判決の指摘は妥当しない。

3 私法上の表見法理の適用を否定することにより生じる不都合

⑴ 前述の通り、訴訟上の和解には訴訟行為としての側面と私法上の行為としての側面がある。したがって、訴訟行為としては表見法理の適用がなくその効力が認められなかったとしても、私法上の行為としては表見法理が適用されて効力が認められうる余地がある。これは、訴訟上の和解が有する執行力(民事執行法22条7号参照)を期待して互譲に応じた当事者の合理的意思に反する。

⑵ 上記のような不都合が生じることから、私法上の表見法理の適用により訴訟行為としての効力を維持する必要性は高い。

4 以上より、本件の事案は本件判決と事案を異にするため、私法上の表見法理の適用を認めてもこれに抵触することはない。また、上記の不都合性を回避すべく、私法上の表見法理の適用を認める必要性も高い。

 したがって、本件における訴訟上の和解が無効であるとのDの主張は妥当でなく、なおその効力が認められる。

【設問2】

1 Aの代理人L2は、55条2項2号に従い訴訟上の和解をすることについて授権されているところ、和解条項に謝罪・誓約の文言を含めることはその権限の範囲に含まれていたといえるか。

2⑴ 訴訟上の和解の内容は、相手方の主張や態度により刻々と変化するから、柔軟な解決を実現するべく訴訟代理人には和解に関して広汎な代理権を認めるべきである。一方で、無制限に代理権を認めると当事者本人が和解内容の予測することは困難になり、本人の自己決定権を害しかねない。

 そこで、ある事項が和解の代理権に含まれるかは、①その事項が互譲による当該紛争の解決に必要かつ有用であるか②本人にとって、その事項が当該紛争の解決方法として予測可能であるかによって決すべきである。

⑵ 本件において、XはAらの要望する賠償金の減額に応じる条件として、事件のことを反省して謝罪し、二度と同じような事件を起こさない旨の約束を和解条項に加えることを提示していた。A及びL2としては、賠償金についてXらに譲歩してもらいつつ紛争を解決するためには、Xの要望に応える他なかったことになる。したがって、第1項として謝罪・誓約の文言を和解条項に加えることが、互譲による紛争の解決に必要かつ有用であったといえる(①)。

 また、不法行為に基づく損害賠償請求を受けた者が、被害者に対し賠償金を支払うとともに、謝罪をして同様の事件を起こさない旨誓約することは、社会的通念上自然な行動であるといえる。したがって、Aをして賠償金の支払に応じることとともに謝罪・誓約をすることは、Xとの紛争の解決方法として十分予測可能である(②)。

3 以上より、和解条項に謝罪・誓約の文言を含めることは、L2が授権された権限の範囲に含まれていたといえる。よって、本件における訴訟上の和解は有効である。

【設問3】

1 本件の和解により、A及びB社のXに対する損害賠償債務は150万円を超えて存在しないことにつき既判力が生じる。したがって、後になって同一の不法行為を原因とする後遺症損害が発生した場合に、Xがそれについて損害賠償を請求することは、上記の既判力に抵触するから、原則として許されない。

 しかし、請求時点で発生しうるすべての損害について予測・算定し請求するのは不可能に近い。にもかかわらず、上記原則を徹底して和解成立後に生じた後遺症損害につき損害賠償請求を一切認めないとすることは、被害者に対する損害の填補により不法行為を受ける前の状態と同じ状態を実現しようとする民法709条の趣旨に反する。そこで、既判力に抵触するとのAらの主張に対する反論を検討する。

⑴ 既判力の縮小

既判力(114条)による主張の遮断が認められる根拠は、手続保障の充足を前提とした自己責任にある。そして、既判力が基準時、すなわち事実審の口頭弁論終結時点で生じるとされるのは(民事執行法35条2項参照)、口頭弁論終結時まで当事者は主張及び証拠の提出が可能だからである。

そうだとすれば、当事者が事実審口頭弁論終結時までに生じた事由について、それを主張することができなかった正当な理由がある場合には、自己責任を問うことはできないと考えるべきである。

後遺症損害については、その原因となる事故の時点で発生を予測することが困難であり、十分な手続保障が及んでいないといえるため、被害者をしてその主張を要求することは被害者救済の観点からみて酷である。117条が定期金賠償の場合において基準時後の算定基礎変更を認めているのも、同様の趣旨によるものと考えられる。さらに、本件のように第一回期日の段階で訴訟上の和解によって訴訟が終了したような場合、後遺症損害の発生の予測及びその主張の機会は極めて限定されることから、一層手続保障が不十分といえる。したがって、後遺症損害に基づく損害賠償請求権の部分については、自己責任の追及は妥当でなく、既判力の生じる範囲には含まれないと解すべきである。

 以上より、本件訴訟上の和解により生じる既判力が、後遺症損害の部分にかかる主張に抵触しない限度で縮小されるとの反論が基礎づけられる。

⑵ 既判力の不発生

 和解調書に確定判決と同一の既判力が生じるといっても、和解調書には判決の主文(114条1項)に対応する部分が無いため、既判力が生じる客観的範囲については訴訟上の和解の内容を解釈することによって決するのが妥当である。そこで、当事者における訴訟上の和解の成立経緯や既判力との抵触が問題となった事実の生じた経緯に照らし、その客観的範囲を画定する。

 Xに後遺症損害が生じたのは、事故発生時から半年も経過した後のことであり、検査入院時にも病院から特段の指摘もなかった。また、当初の損害実費が330万円であったにもかかわらず賠償額はその半分以下の150万円にと大幅に減額されている。したがって、X及びAらとしては、将来の損害については考慮に入れず、Aの真摯な反省と誓約を条件に互譲の合意をしたと考えられる。

 よって、本件における既判力は、既発生の損害についてAらのXに対して負う損害賠償債務が150万円を超えて存在しないことについて生じると解すべきである。

以上より、訴訟上の和解の成立当時未発生であった本件後遺障害に基づく損害賠償請求権の不存在については既判力が生じないとの反論が基礎づけられる。

                                     以上