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一橋ロー入試対策情報・司法試験過去問・修習雑記

ご報告/本試平成25年民事訴訟法 構成メモ

0.ご報告

お久しぶりです。記事の併合はあまりすべきではないと思いますが、大した分量もありませんのでここでご報告させていただきます。

この度、令和2年度予備試験に最終合格いたしました。本試まで気を緩めることなく、精進したいと思います。

 

2月は、民事訴訟法・商法・経済法について仕上げる時期となっています。そのため、復習の際に作成したメモをこちらに貼ることにします。経済法なんかは情報が少ないので、もしかすると参考になるかもしれません。

しばらくは民事訴訟法の復習になります(自主ゼミメンバー向けの解説レジュメ、という体をとっているので生意気な書き方ですがご了承ください)。

 

 

1. 雑感

個人的に民事訴訟法の本試験はフィードバックが少なく、解いたのを契機として重要判例を見直すくらいでいいのではないかと思っている。この問題も例に漏れずそうで、百選掲載判例をいくつかさらえるという意味では良かった。

また、個人的に民事訴訟法本試を解いて気づいた「悩みを見せる」型(以前ブログでも言及しています)が実践的に学べるという点でも良問だと思う。

 

2. 構成メモ

【設問1】
最判昭47.2.15(百選23)の射程が及ばないことを示す問題。判例がいかなる事情のもとで判示をしたかを指摘し、本問では判例と事情が異なること(=ゆえに、確認の利益を肯定する根拠を欠くこと)を示す。

 

1.一般論
 過去の法律関係を対象とする確認の訴えは、確認の利益を欠く。既に変動した法律関係を確認しても、現在の紛争を解決することには役立たないのが通常だからである。
 したがって、現在の法律関係に引き直して確認をするべきである。

2.最判昭47.2.15
 被相続者に多数の相続財産があるところ、その財産を共同相続人の誰か一人に全て相続させる旨の遺言につき効力が争われた。
 上記原則論にしたがい現在の法律関係に引き直すならば、相続人一人ひとりに対し、各財産につき共有持分権の確認を求めることになる。しかし、これは非常に煩雑であり、財産につき確認もれが生じる場合もある(相続人が多くても、それらの者に対し持分権を確認すること自体はそこまで煩雑ではないだろう。問題は相続財産が多いことである)。
 そうだとすれば、全財産に共通する遺言という法律行為の無効を既判力によって確認するほうが、紛争解決としては適切といえる。
 このような事情のもと、昭和47年判決は確認の利益を認めた。

最判昭47.2.15論証化
過去の法律関係を対象とする確認の訴えは、原則として確認の利益が認められない。既に法律関係が変化した後になって過去の法律関係を確認しても現在の紛争の解決には資さないのが通常だからである。しかし、過去の法律関係の無効を確認し既判力で確定する方が、それから派生する現在の紛争を解決する方法として適切ならば、例外的に訴えの利益が認められると考える。*1

3 本問との事案の違い
上記判例事案においては、相続財産が多数存在することが確認の利益を基礎づける大きな要素になっていた。

 しかし、本問では甲1という1つの財産しか問題になっていない。とすると、現在の関係に引き直して共有持分権の確認を求めることはなんら煩雑ではない。

 したがって、あえて遺言の無効であることにつき既判力をもって確認しなくても、端的に現在の法律関係につき確認を求めれば紛争解決としては十分である。
 よって、上記判例の射程は及ばず、一般論に従って判断すべきである(=確認の利益は認められない)。

【設問2】
最判昭51.7.19(百選12)の理解を問う問題。
 当事者適格の定義を最初に述べたあと、遺言執行段階においては遺言執行者(民法1012Ⅰ)が相続人の法定訴訟担当として当事者適格を有することに言及。

 逆に考えれば、移転登記手続等の遺言執行が完了すれば登記についての権利義務は受遺者に帰属するにいたるから、当事者適格は受遺者に認められる。このことを端的に論じればOK。

*2

【設問3】
1.小問(1)
問い方がややこしいが、「相続による財産取得」の要件事実を本問の具体的事情を使って表現するとどうなりますか、という問題。実際にG・Hが前訴・後訴でどのような主張をしているかとは無関係に、どのような主張をすべきであるかを書けばOK。したがって、前訴基準や後訴基準のいずれか、など考えなくてもよい。
要件事実自体は(a)被相続人の財産所有(b)被相続人の死亡(c)自身が相続人であることであるから、➀Jの乙土地もと所有②JF間の乙土地売買③Fの死亡④G・HがFの子であること と整理される(これをアプローチAとする)。
なお、出題趣旨・採点実感によれば、(a)について➀②のように分けずに、①’Fが死亡時点に乙土地を所有していたこととしても問題ない(これをアプローチBとする)。
2.小問(2)
さて、小問(1)で整理した要件事実を前提として、前訴におけるG・Hの主張にこれらの事実があらわれているかを検討する。弁論主義の第一テーゼに反しないかが問題になる。
【アプローチA】
①Hは乙土地のJもと所有を認めており、Gも乙土地の前主がJである旨主張しているから、Jの乙土地もと所有について権利自白が成立する。よって、判決の基礎とすることが可能。
②ここについては被告Fのみが主張しているところ、これを判決の基礎とすることができるか。主張共通の問題がここで出てくる。主張共通を認めても弁論主義第1テーゼには反しないから、判決の基礎とすることが出来る。
③F死亡は、Gの「生前」という発言が手がかりになる。死亡の事実・死亡日時を明らかにさせれば、判決の基礎とすることが可能。
④Gが「父」と述べていることから、判決の基礎とすることが出来る。
【アプローチB】
①’について、GはFのもと所有につき主張していないため、主張共通の問題となる。アプローチAと同様に処理すれば、判決の基礎とすることができる。
②③④は同様に判決の基礎とすることが出来る。
よって、裁判所は小問(1)の請求原因を判決の基礎とすることができる。

*3

【設問4】
まず、原則に従った場合の帰結を述べる。次に、原則を徹底することによる不都合を述べ、修正規範の構成に移る。最後に、修正規範にあてはめて結論を導く。修正規範の導出にあっては、平成10年判決の論拠を確認した上で、これを反対解釈するのがわかりやすい。
出題趣旨・採点実感を参考に、答案の骨組みを示す。

1 原則論
共有持分権は所有権に実体法上包含されている→所有権確認請求の全部棄却により、所有権の不存在及び共有持分権の不存在につき既判力が生じる。
そうすると、Gの主張は既判力に抵触し封じられることになる。

2 不都合性の指摘
Hの主張は、GH両者の請求が棄却されたのを奇貨としてその既判力を持ち出し、Gの主張を封じたものである。しかし、前訴では相続による共有持分権の有無について互いに争っておらず、この点についての紛争は未解決のままであった。にもかかわらず、既判力によりGの主張を封じるのは、Gの審理(の継続)に対する期待を害するものではないか。

3 修正規範の構成
(1)平成10年判決
 一個の金銭債権の数量的一部請求の当否を判断するにあたっては、債権全部について審理判断することが必要になる。
 そして、数量的一部請求を全部または一部棄却する旨の判決は、債権の全部について行われた審理の結果に基づいて、①当該債権が全く存在しない(一部として請求された額に満たない額しか存在しない)との判断を示すものであり、後に残部として請求しうる部分が存在しないとの判断を示すものに他ならない。そうすると、残部請求は実質的に前訴の請求・主張を蒸し返すものであって、被告の紛争解決に対する合理的期待に反する。
 したがって、かかる請求は特段の事情がない限り信義則に反し許されないものと解する。
(2)判例が論拠としている部分
 前訴で実体的に審理された事項について存在しないと判断された(語弊を恐れずに言うなら、一方の勝ち・他方の負けになる形での判断がされた)こと。
十分な主張反論の末に負けた以上、それと包含関係にある部分について訴訟物が別だからと言って争うのは蒸し返しになる、すなわち相手方の紛争解決に対する合理的期待に反する。
 
(3)修正規範
 そうだとすると、前訴で審理されていない事項については、後訴で主張しても紛争の蒸し返しにはならないはず(むしろ、主張した者の審理継続に対する期待が信義則上保護されるべき)。

 そこで、前訴訴訟物と後訴訴訟物とが実体的に包含関係にあるとしても、後訴訴訟物につき前訴において審理されていなかった場合には、信義則上主張は遮断されないと考える。

4 あてはめ
 前訴において共有持分権については審理されておらず、もっぱら所有権の帰趨についてのみ争っていた。したがって、Gが共有持分権につき審理を継続してもらう期待は信義則上保護される。

 よって、Hの主張に対し、上記の理由からGの主張は信義則によっては遮断されないとの主張をすることができる。
                                    

 

                                     以上

*1:法律行為を含まない遺言については判例の射程が及ばない。

*2:cf.相続財産管理人(民法936Ⅰ)は、相続人に「代わって」相続財産の管理・清算を行うだけであり、相続人の法定代理人であるにとどまる。したがって、当事者適格は依然相続人にある。最判昭47.11.9(百選A5)。

*3:「裁判所が適切に釈明権を行使したならば」とは、不明確な事実につき釈明を求める消極的釈明を意味する、とのこと。採点実感としては、F死亡の事実及びFGの親子関係については主張にあらわれていたことを前提にしている。そうだとすると、求釈明などなくても裁判所は請求原因事実を判決の基礎と出来るはずである。ぶんせき本は、問題の記載は不適切であったのではないかと評価している。下線部についてはあらわれていなかったと読むのが穏当かもしれない。