One's Note

一橋ロー入試対策情報・司法試験過去問・修習雑記

2021 TKC模試雑感と復習・今後受験される方へ【長文】

 

お久しぶりです。

 

司法試験直前期なので、短答・論文に向けた追い込みを進めています。

そんな中、先月受けたTKC模試も返ってきていますので、この段階で復習することにしました。ここ4日間で全体的に見直し、関連するテーマについても知識を確認しています。

 

月並みながら復習していて思ったのは、「模試はしょせん模試」「採点者の力量による得点のばらつきがあまりに大きい」ということです。

形こそ本試にそっくりなものの、問題・論述例がいかにも予備校の答練で、個々の論点が設問ごとにバラバラに聞かれている印象を受けました。

合格推定圏内でしたが、個々の論点では理解の雑なところがあったし、時間切迫の答案も2通作ってしまったので、しっかり最後の詰めをしていこうと思います。

以下では、2021TKC模試の"復習実感"及び今後受験される方への個人的なアドバイスを書いておきます。

 

出題内容に言及するほか、否定的な評価を多分に含むことをご了承ください(高評価じゃなかったやつの戯言と思ってください)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第1 復習雑感

1.選択科目(経済法)

出題の予想されている非ハードコアカルテルと、行為類型の多い拘束条件付取引・再販売価格拘束(委託販売)のセット。

問題文が箇条書きに近く、最初なんだこれはと思いましたが、本試のR2がまさにそんな感じだったので、雰囲気を真似たんだと思います。芸が細かい。

いずれもこれまでに出題のなかったテーマで、委託販売の方は自分もマークしてなかったので結構助かりました。

素点は高く、極めて優秀との講評がついており舞い上がりましたが調整で20点下がりました。残念。

 

2.公法系

憲法

コスプレイヤーの公園利用を制限する立法の憲法適合性を論じさせる問題。憲法要改善の自分としては「なるほど」と思う出題でした。

しかし、論述例が微妙でした。論述例はいくつか言及していない事実があったほか、分けるべきところを分けておらず、判例泉佐野の射程を検討せずにそのまんま貼り付けています(出題趣旨では射程を検討して欲しかったとあるのに…)。

 

ずっと憲法は水物だと思っていましたが、模試でさらにその考えを強めました。理論面詰めるより多数派にまぎれる書き方にとどめて他の科目に力を注いだ方がいい、と。

すなわち、判例の立場に言及するといっても、判断枠組みのところで使うとなると大抵は比較衡量なわけで、あてはめはスカスカになるのがオチです。あてはめを充実させようとなると学者がいわば片面的に整理した(というと芦部先生に怒られるかもしれませんが)審査基準論と整合させることになるんでしょうけど、それには正確な理解が求められ、かなりの労力を要します。その分民事系や刑事系の理解を詰めた方が総合点は上がります。

 

断片的ですが復習メモを残しておきます。構成自体は参考答案・論述例よりまともだと思います。細かいあてはめ部分は割愛しています。

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第1 個人利用に対する規制

1 文面上の問題

⑴「不適切衣装」を着用しての利用が禁止されているが、何が「他の公園利用客に対して著しく不安若しくは恐怖を覚えさせるようなもの」に該当するか不明確

⑵「表現」該当性への言及、萎縮効果の回避の要請→徳島市公安条例展開

 

⑶ あてはめ

 武具や防具、妖怪やゾンビが印刷されたTシャツに対し「著しく不安若しくは恐怖を覚える」かは人によって異なる→これらの衣装を着用して本件公園を利用しようとする者にとっては、その衣装を着用しての本件公園の利用が許されるか否かの判断を可能ならしめる基準を読み取ることができない

→例示などをしないと漠然不明確故に無効とされ得る

2 開放エリアにおける規制

⑴開放エリアにおいて、コスプレして本件公園を利用する行為が規制される→当該行為をする自由を制約し憲法21Ⅰに反しないか

⑵制約があることの指摘

保障面については1で言及済み

⑶判断枠組み

・権利の重要性

反対意見:低価値表現を含む+模倣であり自己実現・自己統治に資さないから重要な権利ではない

確かに、残虐表現を時として伴う また、模倣の側面が強く、民主政の過程との関連性もうすいことは否めない

しかし、全てのコスプレが残虐表現を伴うわけではない

また、衣装の作成・着用やシーンの再現には収集した情報を自分で再構成する知的作業が伴う→自己実現の価値を有する

さらに、開放エリアは伝統的PFともいえるので、権利の重要性高まる

・制約の強度

今回の規制が表現内容規制なのか表現内容中立規制なのか

開放エリアにおける不適切衣装の着用を一律に禁じる(案3Ⅰ)→衣装の内容にかかわらない、表現内容中立規制

→LRA

⑷個別具体的検討

3 有料エリアにおける規制

⑴ 同じく21Ⅰに反しないかが問題

⑵ 保障、制約はほぼ同じ

⑶ 判断枠組み

・権利の重要性

有料エリアは、入場料を払えばだれでも入れる点で駅構内に類似した空間といえる+パブリックフォーラムである無料エリアと隣接しており、利用者層こそ異なるが公園としての利用形態が著しく異なるわけではない→同様に重要と考えてよい(現場思考)

・制約の強度

不適切衣装の着用を原則禁じる+許可にあたっては衣装の内容を審査する(案3Ⅱ、Ⅲ)→衣装が伝達する内容に着目した規制、すなわち表現内容着目規制

→厳格審査基準

⑷個別具体的検討

第2 集団利用に対する規制

1 

⑴コスプレ集会も「集会」にあたり、21Ⅰで保障される

⑵案4Ⅰはコスプレ集会を原則として禁止しているので、上記行為の自由を制約している

⑶判断枠組み

問題点①:コスプレ集会をする自由が重要な権利といえるか?言い換えれば、成田新法事件の示した保障根拠がどこまで妥当するのか

コスプレ集会に民主政の一過程を担う側面はなく、重要ではないとの反論が想定される

判例:①集会は国民が様々な情報意見に接することで自己の思想や人格を形成発展させることに資する

   ②集会は相互に意見や情報を伝達し交流する場として重要

事案:①各人が自分で再構成した情報を見せ合い表現することで、自己の思想や人格の形成発展に資する

   ②劇中シーンの再現は複数人のコスプレイヤーによって成立することもある→本件公園でのコスプレ集会は、コスプレイヤーが相互に意見や情報をやり取りする場として重要

→重要な権利といえる

⑴案4Ⅲが「正当な理由」のある場合に限り不許可に出来るとしているところ、重要な権利に対し許可制という強度の制約を課していることに照らし、集団利用に対する規制を憲法21Ⅰに反しないように運用するには、かかる「正当な理由」について厳格に解釈すべきである

泉佐野市民会館事件判決は同様の規定を定めた条例につき厳格な解釈を採ったが、判例は他の者の立ち入りが制限される屋内において行われる政治集会に関する事例であった 

今回の事例は、他の者が出入りしうる屋外で行われるものであるし、内容もコスプレをして劇中シーンの再現などをするもの

→管理権との調整を図る必要性が判例の事案に比べて高い+コスプレ集会を行う自由も重要な権利ではあるが、自己統治の価値を有する政治的集会には劣る

判例よりは緩やかに解釈すべき。

具体的には、「正当な理由」とは、コスプレ集会を保障することの重要性よりも、それによって公園を利用する者の心理的平穏や子供の健全な発達が害される危険を回避する必要性が優越する場合を言うと解する そして、ここにいう危険とは、具体的なものであって危険の発生が客観的事実から相当の蓋然性をもって予測されるものをいう                                                

                                    以上

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行政法

判例をスクラップにして事実いじって出した感じでした。ローの期末レポートそっくり。論述例と解説は分かりやすかったです。ただここまでストレートな出題はないかと...

TKC...というか伊藤塾行政法の答練系結構強いんですよね。

 

3.民事系

民法

出題予想としてなかなか狙っているなあ、という問題でした。出題も近時の本試に近い。JR東海事件は今年の設問3のダークホースなんじゃないかと思っています。

論述例・解説共に文句は特になかったです。

 

⑵商法

事業譲受人に対する債務履行請求は、過去にコンプリ答練とかでも出ていました。正直本試で出すのか分かりませんが、演習題材としては助かりました。他の設問は差し障りのない感じでしたね。428Ⅱによる適用除外が会社を代表して直接取引をした取締役にも適用されるか、という話はリークエでもあっさりとしか載っておらず、完全に盲点でした。

 

民事訴訟

所有権確認の訴えの請求原因事実を前提にして考えさせるのはびっくりしました。釈明義務も正面からは久しく聞かれてないので、しっかり復習しました。

…が、設問3は良問とはいえないんじゃないでしょうか。

前訴で釈明義務違反があったことを前提に、「前訴確定判決の既判力が後訴に作用しないとの立論をせよ」という問いでした。

私の理解ですが、既判力って⑴作用する場面か(訴訟物を比較検討する)⑵作用するとして何に生じるか(範囲を検討する)⑶範囲内の事項について前訴確定判決の既判力が後訴でどう作用するか(積極的作用・消極的作用を検討する)という3つのレベルで検討する事項があります。

上の問いって、⑴の問題であるようにも⑵の問題であるようにも取れませんかね?仮に⑴だとすると、まさしく114Ⅰの原則をひっくり返す話なので、もはや再審の方に話が近づきます(理論的には相当厳格に検討する必要があるんじゃないでしょうか)。⑵は良くある話ですが、問題文からはイマイチ当事者の主張が分かりません。自分の答案では混乱して結局ぼかして書きましたが、ここに関しては「悪くない論証です」「検討はきちんとできています」との指摘しかなく、模試の論述例を読んでもどのレベルで話をしているのか分かりませんでした。あんまり気にしすぎない方が良いのかもしれませんね。

あと過去問を見ていて思うんですが、既判力の縮減ってちょっと乱暴な議論じゃありませんか?

指示に従うだけなら、既判力及ぶ場合の不都合性指摘して、既判力の正当化根拠書いて、今回妥当しないこと書いて終わりです。でも、既判力の範囲(ないし作用場面)を不文の規律でぐにゃぐにゃ動かしたら114条の意義が薄れるし、処分権主義との関係でも問題になるんじゃないでしょうか。自分はいっつもこの手の議論がきた時信義則で保護すればいいんじゃないの、と思っています。まあ、聞かれた以上は書きますが…。

色々書きましたが、要は「こすられまくってるところを聞くなら、問いはもう少し具体的にしてほしいなと思った」ってことです。

 

4.刑事系

⑴刑法

設問1は令和元年重判掲載の偽計業務妨害事例、設問2は過剰防衛の量的過剰と共同正犯、設問3は設問2の結論を変える構成を考えさせる問題。

個人的に今回の模試で一番作問が悪いと感じたのは刑法です。

設問1は令和元年重判の事例(名古屋地裁金沢支部平30.10.30)をもとに作られてますが、重判読んでないんじゃ?と思わざるを得ませんでした。

この重判の判旨と解説を読めば、「妨害された「業務」はどれか」について論じたものであることはすぐわかります(「偽計業務妨害の対象業務は、飽くまで、被告人の本件行為がなければ遂行されたはずの…刑事当直等の業務をいうのであり、…被告人の任意同行、取調べ等の本件捜査ではない」という判示)。

これを前提にすると、➀偽計業務妨害罪の「業務」に権力的公務を含むか(偽計は強制力で排除できないため、本罪との関係では権力的公務も「業務」に含まれる、と解する見解があります)という見解分岐がまずあります。そして、➁「業務」には権力的公務を含まないと解した場合、今回妨害された業務が職質等の権力的公務であると考えるなら本罪は不成立、宿直等非権力的公務が害されたといえるなら本罪は成立ということになります。③そこで、以下裁判例の判示に即して今回害される(危険が生じた)「業務」について厚く論じる…という流れになるはずです(裁判例がこういう流れで検討しています)。私は、この流れで答案を書きました。

一方、模試の答案例では、「業務」について権力的公務以外の公務も含むというお決まりの論証だけ貼り付け、あっさりと非権力的公務が害されたと認定。そして、「妨害」のところで偽計業務妨害罪が抽象的危険犯か侵害犯かという論点を大展開。ここで犯罪の成否を分けています。対立しているわりに書けることはないので、当然、分量も少ないです。

この"題意"をくみ取れなかった結果、答案はなかなか酷い点数になりました。

偽計業務妨害罪の性質を聞きたいなら、この裁判例を持ってくる必要が全くありません。なぜこのような論述例にしたのか作成者に聞いてみたいところですね。

 

設問2は、第1暴行について新しい「急迫」性の判断基準を踏まえて共同正犯・正当防衛の成否を論じさせ、第2暴行について共謀の射程と因果関係を問い、付加的に死体遺棄の主観で傷害致死を実現した場合の処理を求めるもの。

侵害の「急迫」性自体はホットなので予想通りの出題でしたが、共同正犯や抽象的事実の錯誤も絡まっててなかなか重い問題でした。

第1行為について、論述例をみると傷害致死に問疑していますが、Cが気絶したのは第2行為なので適切ではないんじゃないでしょうか(第1暴行では鼻折ってるだけです。第1暴行で検討するにしても、Dの第2行為・甲の運搬/遺棄行為が介在しており、かつそれが死亡に大きく寄与しているので因果関係が否定されると思います)。

あとは、正当防衛の検討における「急迫」性のあてはめが雑な感じしますね。事実を羅列しているだけです。たしかに、新判例って考慮要素がかなり具体的で、規範に対応した評価を改めてする必要があるか?という気はします。しかし、規範定立の段階で論述例も使っている「緊急状況」性を基礎づける、とかワンクッションを挟んだ方がより説得的ではないでしょうか。

第2行為については、最判平6.12.6を用いて甲も罪責を負うか検討する必要があります。私はこの判例を十分に理解しておらず、専ら共謀の射程に位置づけられるものかと思っていましたが、そうではないんですね。規範を判例が出している以上、それに即して書かなくちゃいけないなと痛感しました。

砂末吸引のオチはお決まりなんですが、死体遺棄罪(190条)の規定探すのに時間をとられ、過失致死まで書く時間がなくなってしまいました。反省。

 

設問3は、設問2で第1行為に正当防衛が成立することを前提に、甲がなお傷害罪の共同正犯を負う(つまりDの第2行為について共同正犯として責任を負う)構成を検討せよというもの。

設問2で判例の出した規範の理論的位置づけが複数あるにもかかわらず、ある1つの見解に立たないと題意に沿って解くことが出来ないという悪問です。本試と異なり、1つしか道が許されていないのが致命的。問題設計自体がおかしいという意味では設問1より酷いかもしれません。

正当防衛後の追撃行為につき、正当防衛にしか関与していない者が共同正犯として責任を負うかは、➀共犯関係からの離脱があったかで処理するアプローチと、②共謀の射程が及んでいたかで処理するアプローチとがあります(解説・答案例は個々の分岐自体を放棄していると思います)。

前掲判例の判示を読む限り、「共同意思から離脱したかどうかではなく」と言っているので、②の方が判例に親和的な気もします。

しかし、新たな共謀があったと評価できる事実のない本問では、設問2での検討と事実評価を変えることによってしか共謀の射程が及んでいたということができません。つまり、②の立場でいくと殆ど書くことがなく、点数がもらえないわけです。

➀の立場にたてば、様々な判例の出した基準に従って離脱の有無を検討することになりますが、本問と同様の事例下で解消が認められることはまずないと思いますので、共同正犯の成立を肯定することは容易です(Dの行為を止めていないといった事情をふんだんに使えます)。もっとも、少なくとも前掲判示の文言とは真っ向から対立する処理なので、一言くらい理由がないと矛盾論述になってしまうと思うのですが、答案例・解説では一切の理由付けがありませんでした(今年の採点実感曰く、違う見解を紹介する場合に他説批判や理由付けは必要ないとのことなので、それを踏まえているのかもしれません。が、判例の規範を設問2で使っておいて平然と共犯関係からの離脱として論じるのは流石に矛盾記述と評価されると思います)。

まとめると、設問3は判例と親和的とは思われない特定の見解にたった場合に点が高くなる設計になっています(普段とっている見解と異なる立場からの立論を求められることもありうると考えてこのような出題にしているそうですが、作問者側がその要請に十分応えられていません)。

 

刑事訴訟法

設問1小問1は、➀おとり捜査の適法性に関する一般論②重大な違法のあるおとり捜査により公訴提起された場合に裁判所が採るべき措置③重大な違法のあるおとり捜査によって得られた証拠の証拠能力について問うものでした。おとり捜査は長い間出題がありませんし、任意処分の限界を超えて収集された証拠の証拠能力については確立した判例がありません。怪しいから確認しておこう、という主旨でしょうね。

➀について

自分はおとり捜査の適法性判断基準について、総合衡量で判断する立場を採用しています。論述例も同様の立場に立っているようです(なお、有名な最決平16.7.12は「少なくとも」の留保がついているため、判断基準としての汎用性はありません。が、さも一般的な要件として使っている答案や論証例が多いように思います)。

なお、添削者いわく「おとり捜査の適法性に関しては独自の判断枠組みでなく判例に従ったものを書きましょう」とのことでした。独自...?そして判例とはどの判例を指しているんでしょうか…。一般的に使える判例規範があるなら是非知りたいところです。これで平成16年決定とか言われたらがっかりしますが。

➁について

裁判所が違法の宣言をしないと将来の違法捜査抑止につながらんしなあと思って公訴棄却判決をすべきと書きました。違法の宣言、といっておきながら何に違反するのか書けていませんでした。適正手続の要請(憲法31条)に違反する、など示した方が良かったです。リークエ第2版の278頁に載っていました。

③について

重大な違法性を有するおとり捜査によって収集された証拠の証拠能力に関しては定説がないので、リーディングケースである昭和53年判決の枠組みを修正するか、同じ枠組みの中でうまく説明をつけるかのどちらかによることになると思います。

最大の障壁は、判例が「令状主義の精神を没却する」と修飾して違法の重大性要件を加重している部分ですね。仮にそのまま規範を使った場合、おとり捜査により収集された証拠を違法収集証拠排除法則により排除する余地はなくなります(任意処分には令状主義が妥当しないからです。実際、任意処分の違法を理由に物的証拠を排除した実例は存在しません)。

この結論が妥当でないとするなら、判断枠組みを修正する必要があります。加重機能を殺すわけにはいきませんから、自白法則・違法排除説にならって「憲法刑事訴訟法の所期する基本原則を没却するような重大な違法」とでもするのがいいでしょうか。

もう一つのアプローチとしては、前掲判決の枠組みを維持しつつ、おとり捜査にも妥当すると解することが考えられます。

前掲平成16年決定調査官解説では、「司法の廉潔性を維持するという思想はおとり捜査にも妥当するはずであるから、おとり捜査が(違法収集証拠)排除法則の適用される一場面となることは自然の成り行きといえよう」との指摘がされています(解説286-287頁)。

また、おとり捜査ではなくなりすまし捜査についての見解ではありますが、「なりすまし捜査から現行犯逮捕を経て差押えへと至る一連の証拠収集過程」を観察して、令状主義の精神を没却する重大な違法がある場合には違法収集証拠排除法則が適用される、との構成も考えられます(葛野尋之「なりすまし捜査の違法性と収集証拠の許容性」法律時報90.5.146-147)。

私は判例の規範を示しつつも、なるべくそのままの規範で説明することにし、葛野先生の見解を採りました。何で一般的ではないものを書いたのか、と言われそうですが、ローの演習ゼミで扱ったからです。

すると添削者からは「任意処分には令状主義の精神は妥当しないのではありませんか?」との指摘が。いやそれはわかってますよ…答案にもその旨書いてあるんですけどね。ちなみに参考答案では、「令状主義の精神を没却する」との記載部分に指摘・減点はありませんでした。採点者の違いですかね。

論述例はどう書いてるんだろうか、と思ったら、昭和53年判例の「令状主義の精神を没却する」を削って終わり。これだと判例の理解(要件を加重している部分)を示していることにもならないので自分のより酷いのでは…?参考答案にも論述例と同じように書いているものがありましたが、意図的に加重部分を抜いたのかは不明です。

設問1小問2は自ら書いたおとり捜査の適法性の判断基準に従いあてはめるだけなので割愛。

設問2は捜査報告書の証拠能力を問うもの。こすられまくった伝聞の問題です。本試に倣ったのか「複数の要証事実を想定」せよとありますが、立証趣旨がないのって実務的にあり得ない設定じゃないですかね…でもとにかく考えるしかありません。

捜査報告書の伝聞証拠該当性・適用される伝聞例外規定への言及はお約束。

…と思ったのですが、私の答案はここの段階で減点されており、見ると「伝聞証拠の定義は正確に押さえましょう」とありました。

私の書いた伝聞証拠の定義は、「公判外の供述を内容とする供述又は書面で、要証事実との関係で供述内容・記載内容が真実であることの証明に用いられるもの」です。添削者はこのうち下線部分を修正し、「の真実性が問題になるもの」と書き直し、2点減点していました。

私の書いた定義はおおむねリークエと同じですし、ローでも減点・指摘されたことはありません。添削者は「内容が真実であることの証明に用いられる」=「真実性が問題になる」という関係を理解していないと思われます。

一番問題になるのは、捜査報告書に添付されているラインのスクショ部分。ここにある会話部分は伝聞証拠にあたり、別途伝聞例外の検討を要するのか検討することになります。

前述の通りなぜか立証趣旨の言及がありませんので、争点になっている部分から要証事実を考えていきます。

乙は犯行への関与を否認しているので、まずはスクショ部分を乙の犯人性の立証に用いることが考えられるはずです。つまり、スクショ部分の会話の存在及び内容が証明できれば、20日に甲が大麻1包を所持していた事実、及び乙方から大麻が発見された事実と併せて、乙の犯行への関与、すなわち乙が大麻を保管していた事実が推認できます。この場合はラインの会話内容の真実性を証明するために会話部分を用いるわけではありませんから、伝聞証拠にはあたりません。

添削者は「甲に関与していたというだけでは犯人性が推認できません」と指摘していました。私の答案では客観的事実との合致を所与の前提としてしまっていたため、手痛いミスです。

問題は、もう一つ要証事実を考えなければならないこと。他に思いついたのが故意の立証だけだったので、故意があったことが要証事実だ!と思いました。

しかし、この検討は間違っていました。まず、故意があったことが要証事実とした場合、少なくとも会話内容から乙の故意が証明できなければなりませんが、残念ながら乙は「うん」「うるさい」しか言っておらず、乙の故意を証明できるだけの自然的関連性がありません。

再整理すると、乙の故意を立証するために、スクショの会話部分を要証事実とすることになります。この場合、会話の存在及び内容から乙が甲から受け取ったチョコを少なくとも違法薬物と認識していたことが推認できるので、やはり非伝聞になります。

しかし、下線部を見ていただくと分かる通り、要証事実はいずれも「会話の存在及び内容」です。要証事実を複数想定するという問いに応えられていないことになります。

論述例では、「甲が乙に大麻樹脂を預けたこと」と、「チャット履歴の存在及び内容」となっていました。前者の場合スクショ部分を甲の会話内容が真実であることの証明に用いるので伝聞証拠にあたり、甲は供述不能ではないので伝聞例外の要件をみたしません。一方、後者の場合は会話の存在自体から乙の犯人性を推認できるので非伝聞になります。

複数の要証事実を想定することが求められている問題では、争点に照らして証明・推認したい事実を考えた後、その推認過程の中で当該証拠はいかなる事実を「証明」できるのか慎重に考えねばなりませんね。本試一か月前になって今更何を言ってるんだ、と自分にがっかりしますが笑。

設問3は、反対尋問を経ない公判供述の証拠能力という、今まで問われたことがない論点が問われました。模試では以下のような記述をしました。

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公判供述について、反対尋問を経なかった場合は憲法37Ⅱとの関係で問題が生じる。

ある見解は反対審問権を保障する見地から一切証拠能力を認めないとするが、伝聞証拠でも反対尋問に代わる正確性の保障がある場合には証拠能力が認められるのだから(322-324)、これと平仄を合わせるべき。

→具体的事情に照らし、正確性の保障があったといえるから証拠能力あり。

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問題点として、まず伝聞証拠に該当しないことの言及がありません。設問2で伝聞証拠の定義を公判廷での反対尋問を経ない供述としていた場合、Aの証言は伝聞証拠にあたるので反対審問権の話など無関係に伝聞例外の検討をすればいいだけです。一方、大多数が採用していると思われる前述した定義にあてはめると、伝聞証拠ではないので証拠能力が認められそう、という話になり、固有の論証を展開することになります。

第2の問題点は、固有の論証を忘れており、伝聞例外の規定の準用に近いことを述べているにとどまることですね。自分の用意していた立場が証拠能力完全否定説で、肯定する見解の書き方を押さえていなかったことが原因です。問題文は明らかに伝聞例外らしき事情を検討して欲しそうでしたから(A死んでますし)、ええ!?と思って焦ってでっち上げました。

解説を見る限り、完全否定説はそもそもあるのかも怪しいですね笑 なんで自説にしていたのか分かりません。これを機に自説を改め、きっちり復習しようと思います。本番じゃなくて良かった…。

 

第2 今後受験される方へ

総括すると、TKC模試は

➀科目間で問題の質に差がある

②各論証・あてはめは微妙(伊藤塾に依拠していると思うが、自分が知っている伊藤塾の論証の劣化版が使われていることがままある)

③採点者の実力に大きく左右される

という3つの特徴を有しています。今後模試を受験される方は、以下の点を留意されると良いかと思います。

■受験に際して

・ピーキングの練習にする

・中日を含む5日間の過ごし方を確認する

・時間配分を意識する

■答案返却・復習に際して

・採点方法が本試と違う以上、論文の素点や調整後の得点を気にし過ぎない(これは僻み抜きです 高得点に越したことはありませんが)

・採点者の実力はわからないので、その影響が小さいと考えられる事実のあてはめで点を取れているか/定型的な論証で点を取れているかを重視する

 

                                     以上

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本試平成18年憲法(LO型に改題) 構成メモ

 

 最終調整段階にあって一番の課題が憲法で、現在時間不足を解消するために色々と試行錯誤しているところです。今回はH18をLO型に改題し、改善点を洗い出す形で構成の練習をしました。

改題は以下の通りで、争訟性を前提としないものにしました。これに伴い、訴訟選択や国賠・損失補償に関する論点、法律施行後に関する事実は削除しています。

【設問(改題) T社及び立案担当者から相談を受けた弁護士の立場にたって、警告表示法の憲法適合性を論じなさい。必要に応じて、判例や異なる立場にも言及すること。】

復習にあたっては、以下の「憲法ガール remake edition」を参考にしました。

 

憲法ガール Remake Edition

憲法ガール Remake Edition

  • 作者:大島 義則
  • 発売日: 2018/01/26
  • メディア: 単行本
 

 

 

1. 雑感

元々の出題では三者対立型で訴訟選択・国賠訴訟・損失補償も論じさせるので、極めて分量が多い。各人権に関する検討が薄くなるので、正直良い問題ではないと思う。

問題となるのは、消極的表現の自由・営業の自由・財産権。他にも喫煙の自由や購入者の情報受領権、刑罰法規の明確性など書こうと思えばいくらでも出てくるが、特に問題になる点について厚く論じるのが大事(自分はこれが出来ていない。問題点抽出後、何についてフォーカスするかもう少し慎重になりたい)。

以下は箇条書きで思ったことを書いておく。

・消極的表現の自由については、保障段階で判例を想起するのが難しい。というか無理だった。

・通常人からみても表現主体が製造業者だとは思わないから表現の自由の問題じゃない、というのは言われてみればその通りである。

・特定警告文のうちオだけは違憲になると考えた時、どのように摘示するのが適切か分からなかった。

・按摩師等法違反事件や国有農地特措法事件など、判旨をしっかり理解できていないものが多い。これも時間ロスにつながっている。

 

 

2. 構成メモ

 


⑴ 一般警告文及び特別警告文の表示を義務付ける旨定める警告表示法3条1項、4条、5条(以下、「本件規定」とする)は、たばこ製造業者が自己と異なる見解をパッケージに表示しない自由を侵害し憲法21条1項に違反しないか
⑵ 消極的表現の自由が保障されるか
(サンケイ新聞事件参照)
⑶ もっとも、上記自由に対する制約がない
確かに、5条は特定の見解を表示するように強制するものである 
しかし、通常人は政府が表示主体であると認識するはずだから、自己と異なる見解の表示を不特定多数人に強制される場面とはいえない
⑷ したがって、本件規定はたばこ製造業者の消極的表現を侵害するものではない

⑴ では、本件規定は、たばこ製造業者が包装について自由に表現内容を決定する自由を侵害し、21条1項に違反しないか
⑵ たばこの箱の包装→広告スペースであり、そのデザインを決定する自由は表現の自由として21条1項で保障される
 ここで、営利的表現は民主的政治過程に直接かかわる情報の伝達を含まないため自己実現の価値に乏しいことから、表現の自由としてではなく営業の自由の一環として保障されるに過ぎないとの見解がある
 しかし、営利的表現は多様な情報の流通を確保することで、受け手である消費者が自律的に判断することを支援するものであるから、消費者の知る権利に資する したがって、知る権利を実質的に保障する見地から、営利的表現の自由についても表現の自由として保障されると解する
⑶ 営利的表現に対する規制について、必要かつ合理的なものであれば憲法適合性が認められるとした判例がある(按摩師等法違反事件参照)
確かに、表現された情報の真偽は消費者が客観的に判断することができるため、営利的表現に対する規制が恣意的になる恐れは低いから、憲法適合性はこの判例に従い緩やかに審査すべきとも思える
しかし、3条1項、4条、5条は特定の見解を表示するように強制するものであるから、表現内容規制と同等の強度を有する制約であり事案が異なる
 そこで、規制の目的が重要で、当該目的を達成するより制限的でない手段が他に存在しないといえる場合に限り合憲と解する
⑷ 消費者に対したばこのリスクに関する客観的な情報を提供することで、生命身体の安全を守るという目的は重要
 一般警告文・特別警告文は、喫煙が喫煙者及び周囲の者にもたらす健康上のリスクについて客観的事実に対する評価を述べるもの→タバコ購入数を抑制することが見込まれるので、目的との関連性は認められる
 たばこの危険性の認知度についてみると肺がんのリスクに関する認知度は高いが、心臓病や脳卒中のリスクについてはいずれも半数を下回るほか、依存性についても約半数が認識しているにとどまる→タバコの包装部分を用いて情報を提供する必要性は高い
一般警告文及び特別警告文(5条1項ア~エ)は、客観的事実への評価を述べるにとどまる スペースとの関係である程度端的な表現にする必要があるから、これ以上制限的でない方法はないといえる
ただし、オについては事実に対する評価ではなく、情報提供を超えて消費者に対する意思決定に介入するものであり必要性及び最小限度性を欠く
⑸ 以上より、本件規定のうち5条1項オは21条1項に反する 他は反しない

⑴本件規定はたばこの販売事業に影響を与える点で販売業者の営業の自由を侵害し22条1項に反しないか
⑵営業の自由の保障
(小売市場事件参照)
⑶警告表示の強制は消極目的であるから、その名目の下濫用的な規制が行われる危険性がある
→規制が目的達成のために必要かつ合理的といえる場合に限り22条1項に反しないと解する
⑷目的は2⑷で述べた通りであり、重要
 手段について、消費者のリスク認知度の低さ・端的な表現の必要性から、警告文を表示させる必要性は認められる
 しかし、消費者への情報提供を超えた意思決定への介入まですることによって、たばこ販売業者が損害を被るのは合理性を欠くといえる
 したがって、営業の自由に対する制約は必要かつ合理的とはいえない
⑸ 以上より、本件規定のうち5条1項オは22条1項にも反する 他は反しない

⑴ 警告表示法には経過措置が定められていないが、これは在庫につき処分方法を制限する点でたばこの製造販売業者の財産権を侵害し29条2項に反しないか
⑵ 所有する財産の処分権は29条1項で保障されるところ、経過措置がないことによって製造販売業者は処分権を制約されている
⑶ 29Ⅱは法律により財産権の内容を事後的に変更することをも予定しているから、抽象的な財産権の制約に過ぎない場合は諸般の事情を総合的に勘案し、事後的変更による制約が合理的である限り合憲となる(国有農地特措法事件参照)
しかし、警告表示法3条3項、4項、9条は同法の規定に違反する在庫について販売を認めず、回収・廃棄の対象としているため、製造販売業者は自社在庫に関する処分権という抽象的な権利のみならず、すでに販売したたばこについても回収を余儀なくされる形で既存の売買契約による処分権をも遡及的に剥奪されている しかも罰則が設けられているので(10条以下)、その制約は強度
判例とは事案を異にし、憲法適合性は厳格に判断される 具体的には、目的が重要で手段と目的との間に実質的関連性が認められる場合にのみ合憲と解する
⑷3条3項、4項を制定するに際し経過措置を設けなかったのは、規定されている表示のないたばこが販売されることにより消費者に健康上の危険が生じることを防止するためと考えられる しかし、そのような危険が切迫している事情は存しない したがって、抽象的な危険を想定して経過措置を設けないことが重要な目的ということはできない
 また、たばこのリスクに関する情報を消費者に提供するという公共の利益は実現され得るが、それに比して在庫の処分権が遡及的に剥奪されるという不利益はあまりに過大であり、手段としての相当性を欠く
よって、目的と手段との間に実質的関連性は認められない
⑸ 以上より、警告表示法に経過措置が定められていないことは29条2項に違反する
                                    以上

本試平成30年民事訴訟法 構成メモ

 

1. 雑感

 設問1は「ロースクール演習民事訴訟法」に類題がある。が、どうも誘導がうまくない気がする。課題⑴では別訴提起と反訴提起の双方が書けてしまうところ、もし別訴提起の可否まで論じると課題⑵で何を論じるべきか分からない「行き止まり」状態になるのである。

自分はまさにそうなり、迷走した結果課題⑴で別訴提起を、課題⑵で管轄のみを論じる一番ヤバイ答案を書いてしまった(間違いなく不良に該当する)。反訴を書けていない時点でだめなので言い訳にもならないが、管轄だけで構成を絞らせるのは乱暴だと思う...。

設問2は文書提出命令であり、規範を準備していなかったので現場思考ででっちあげた。起案では求める結論に一直線に向かう形で書いてしまったが、実際には比較衡量の規範をきちんと立ててから検討すべきだった。ここも反省事項であった。復習していて再認識したが、文書提出義務の判断基準って基本的には比較衡量のようだ。連続して出題されているので、R3では出さないで欲しいところ。

設問3は補助参加の可否について問うもの。主張⑴と⑵は逆のほうが論ずべきことが明確なんじゃないかと思う。主張⑴は条文上認められないのが明らかでしょ、と思ったが、45Ⅰ但し書に該当するかを検討する形にした。主張⑵はお決まりの補助参加の利益の問題。

 

2. 構成メモ

 

【設問1】

1 課題⑴

⑴訴状の送達によりBの訴えは係属中→重複起訴該当性が問題

・当事者の同一性→明らか

・事件の同一性→訴訟物はAのBに対する不法行為に基づく損害賠償請求権のうち150万円を超える部分について共通する

⑵Aの訴えは不適法却下とも 

・しかし、債務者により債権者の権利実現を引き延ばすことを認めるのは妥当でない

→Aの訴えを適法とする構成を検討する

⑶反訴と構成すればどうか(反訴構成、別訴構成のいずれも考えることができるが、乙地裁に提起するとあるので、課題⑵と分ける観点からこちらでは反訴を検討)

・反訴要件検討→充足

・反訴は本訴と併合審理されるので重複起訴の弊害は生じない

・なお、Aの訴え提起によりBの訴えの利益が否定されるためBの訴えの利益が問題になる

→第1回口頭弁論期日前で訴訟資料がないためBに不利益とならないので、Bの訴えは不適法却下される

以上より反訴とすることで適法に提起可能

⑷ Cをも共同被告とできるか

・共同訴訟の要件(38前段)

「同一の事実上及び法律上の原因に基づく」といえるので充足

・反訴でCを被告に加えることができるか―主観的追加的併合の可否

・一般論としては否定∵併合前の訴訟資料が流用されるか明らかでなく訴訟の複雑化を招く

しかし、第1回口頭弁論期日前で訴訟資料がないので、追加しようとする被告Cにとって不利益はなく、訴訟の複雑化も生じない

→主観的追加的併合も認められると解する

→Cも共同被告とできる

2 課題⑵

⑴こちらの場合も重複起訴の問題になるが、甲地裁には反訴提起ができないため、別訴提起を適法にできる構成を検討する

⑵別訴であっても、それが不適法とされると債務者により債権者の権利実現を引き延ばすことを認めることになる

→審理重複部分は150万円を超えている部分にとどまるほか、Bの訴えにつき移送(16Ⅰ)したうえでの弁論併合をすればその弊害は生じない また、訴訟資料がない段階なので弁論併合を強制してもBに不利益は生じない

⑶ AはBとCに対する別訴を適法に提起できる

【設問2】

1 220④ハに該当するとの反論

2⑴ 規範定立(現場思考)

220④ハの趣旨は、第三者の機密情報が公にされることで第三者に不利益を及ぼし、ひいては円滑な職務執行を害することを防止する点にある

→第三者が当該文書の開示により被る不利益と開示の必要性とを比較衡量して、前者が優越する場合には、作成者の黙秘の義務が免除されていない限り当該文書はハにあたると解する

⑵あてはめ・結論

診療記録にはAに関する事項しか記載されていないところ、Aは診療記録の一部を謄写して提出しているから、文書の秘密性を放棄している→開示により被る不利益は小さい

一方で、損害賠償額を争うBとしては、自己と損害の因果関係とを把握するために診療記録を開示する必要性が大きい

また、D病院の医師について黙秘の義務が免除されたといえるか問題になるが、Aが一部の診療記録を提出していることから黙秘の義務は免除されているといえる

→ハに該当しない

→想定される反論は妥当しない

3 Dは220④で文書提出義務を負う

【設問3】

1 主張⑴の当否

⑴43Ⅱ、45Ⅰ本文より、第一審で参加していなかった者が控訴と共にする補助参加は45Ⅰ但し書に抵触しない限り出来る→但し書の意義のQ

⑵(現場思考)但し書→本文で補助参加人の独立性を定めつつ、本訴を前提として参加が認められている点では従属性をも有していることを確認する規定

そこで、但し書は訴訟経過により訴訟当事者ですらなしえなくなった訴訟行為をさすと解する

⑶ 本件では控訴期間を徒過していないので、AもCも控訴できる→但し書の場合にあたらず、控訴提起は45Ⅰ本文でできる

→Cの主張⑴は認められない

2 主張⑵の当否

⑴ 補助参加の利益についての一般論証

⑵ あてはめ

控訴審判決の主文で示されるAのCに対する損害賠償請求権の有無、及び理由中の判断におけるCの過失の有無は、BがCに対して求償権(民法442Ⅰ)を行使しうるか否かという法的地位に事実上の影響を及ぼす

→補助参加の利益を有する

⑶ Cの主張⑵は認められない

3 丙裁判所は控訴を適法と判断すべき

                                     以上

【2021/2/23修正】本試平成22年刑事訴訟法 構成メモ

 

1. 雑感

 The・物量ゲー。とにかく書くことが多い。捜査➀②はごみの持ち帰り・開披・内容物であるメモ片の復元についての問題である。領置の典型事例だが、占有取得段階・開披段階でそれぞれ検討すべき被制約利益が複数あるため、論ずべき点がとても多くなる。

捜査③は当初「必要な処分」(111Ⅱ)の問題かと思ったが、検討中に「捜索差押許可状でそこまでできるのかって話なのかなあ」となり、若干方針転換した。両論ありうるので結果的にはどっちでも良かった。

設問2はおとり捜査の適法性・秘密録音の適法性、そのうえ伝聞法則まで問うとんでもないボリューム(しかも検証調書に準じた検討をさせる最多量タイプ)。

時間内で書きあげるには、設問2をさっさと書き上げることが肝要だと思う(最悪そっちから入ってもいいかもしれない)。

2. 構成メモ

【 設問1】
1 捜査①
⑴ 公道上のゴミ袋の持ち帰り
 領置(221)として許容されるか
「遺留した物」の意義を示す
 公道上に甲が置いて行った→「被疑者が遺留した物」にあたる
→領置としての必要性・相当性が認められれば許容
→適法
⑵ 開披・内容物の確認
ア 強制処分性
 内容物について知られないという権利は重要か?
→公道上に置かれたごみなので第三者の接近は想定される、重要でない
→強制の処分にはあたらない
イ「必要な処分」(222Ⅰ前段・111Ⅱ)or任意処分の限界
証拠物としての関連性を確認するために必要 /内容物の確認は必然的に選択される手段であるから相当
⑶ 復元
必要な処分(111Ⅱ)として許容されるか
領置目的の達成に必要+記載内容が読み取れる程度に裁断されていただけなので、その復元は手段として相当
2 捜査②
⑴ 集積所内への立入り、ごみ袋の開披・内容物の確認
 強制処分該当性のQ
 マンション敷地内に甲が置いて行った
→マンション管理者の敷地内に侵入されない権利を侵害+合理的意思に反する
→捜索にあたる。令状を得ていないので違法*1
⑵ 持ち帰りと復元
持ち帰りは領置になるが、マンション管理者の占有がなお及んでいるため「遺留した物」にはあたらない
→違法
復元についても、違法に収集された押収物について「必要な処分」が許される余地はないから違法
3 捜査③
捜索差押許可状で押収物の復元・分析まですることが出来るか
→予定されているプライバシー侵害を超えるか否かの問題
→可視性・可読性の失われた情報を復元するだけで、情報の破壊や改変に至るものではない
よって、予定されていた以上のプライバシー侵害は伴わない
したがって、令状の効力(or「必要な処分」)として押収物の復元・分析も出来る
→適法
【設問2】
1 前提になる捜査の適法性
⑴乙・丙に捜査協力をとりつけて、甲に対する拳銃譲渡の働きかけをさせ、甲がこれに応じたところを逮捕した
→おとり捜査の適法性のQ
⑵ おとり捜査は将来の事件に関する捜査であるが*2、拳銃譲渡が将来において行われる蓋然性があることから許容
 また、被疑者の意思決定の自由を制約するわけではないので強制処分にもあたらない
 もっとも、おとり捜査は国家が詐術を用いて犯罪を行わせ、法益侵害の危険を惹起する側面がある
→おとり捜査が任意処分として許容されるかは、おとり捜査の必要性と相当性を考慮して決する
⑶あてはめ
 甲らに犯罪の嫌疑アリ
 拳銃は殺傷能力の高い凶器→譲渡罪は重大犯罪につながる→早期に犯人確保をする必要性
 一方、密行性が高く、法禁物の取引に過ぎないので直接の被害者もいない
 また、甲らは拳銃の売却を慎重に行っており通常の方法では捜査が困難
→おとり捜査の必要性あり
 乙から甲への働きかけは執拗なものではない
 拳銃密売が過去から継続的に行われていることからして、甲は機会があれば犯行に出ると考えられた
→おとり捜査の相当性あり
→おとり捜査は適法
⑷秘密録音(①―③)
予備で出題済み。強制処分ではないが会話の相手方の了承を得ていない点で会話の内容について知られない自由は制約される
→任意処分の限界を超えるか検討
必要性
相当性
→いずれも適法
2 捜査報告書の証拠能力
実況見分調書とパラレルに考えるのがポイント
⑴伝聞証拠該当性の定義
⑵本件では甲の犯人性が争点→捜査報告書に記載されている通り、甲乙間及び甲丙間の会話が存在した事実が認められれば、甲の犯人性を推認することができる
→要証事実は、甲乙間及び甲丙間の会話が存在したこと
捜査報告書は公判外における録音をKが反訳して記載したもの→要証事実との関係で記載内容が真実であることの証明に用いられる→伝聞証拠にあたる
⑶伝聞例外の検討 
Kの供述書であるが、捜査報告書は口述より書面による報告が適切である点で検証調書と共通
→321Ⅲを準用し、Kが真正に作成したものである旨証言すれば証拠能力が認められる
⑷甲乙間、甲丙間の会話及び乙による説明を記載した部分についての検討
この部分に、別途伝聞法則の適用があるか
→要証事実との関係で内容の真実性が問題になるか検討
ア 甲乙間、甲丙間の会話部分
要証事実は、甲乙間、甲丙間において記載されている会話が存在したこと
→その存在をもって、甲による拳銃譲渡の事実を推認しようとするものであり、会話の内容の真実性は問題にならない
→この部分は伝聞証拠に該当せず、別途伝聞法則は適用されない
イ 乙による説明を記載した部分
要証事実は、甲が乙に対し拳銃2丁を譲渡したことになる(?)
乙自らが知覚・記憶した会話内容を供述した部分→その内容が真実であることをもって、甲乙間、甲丙間において記載されている通りの会話が存在したことを証明する
記載中の乙の説明そのものを、会話の存在を証明する独立の証拠として用いる
→この部分は伝聞証拠にあたり、別途伝聞法則の適用を受ける
(ア)伝聞例外の検討(2021/2/23修正)
甲→乙→ICレコーダー→K→捜査報告書
当該記載部分については乙の供述録取書とみることができる。なお、321Ⅰ柱書より署名押印が必要とも思えるが、準用される321ⅢによりKに対し公判廷で反訳の正確性を吟味することは可能である。そこで、要件をみたすかぎり、乙の署名押印は不要と解する*3

→323③には該当しないうえ、321Ⅰ①②にもあたらないので、321Ⅰ③を検討
(イ)あてはめ
・乙は死亡しているので「供述することができない」場合にあたる
・「証拠として欠くことのできない」場合とは、その証拠が採用されない場合事実認定に著しい差が生じることを意味する
→録音においては甲乙が売買の目的物を何としているかが判然としない→乙の説明部分によって、目的物が拳銃であることが明らかになる。この部分が証拠として採用されない場合、甲の拳銃譲渡の事実を認定することは困難になる
→事実認定に著しい差が生じるのでこれをみたす
・絶対的特信性
乙による説明は、甲との会話の直後、記憶の鮮明なうちになされたものであり正確性が高い
乙の説明内容が、乙方においてリンゴの入った段ボール及び拳銃2丁が発見されたという客観的事実と整合
→供述の正確性が担保されているので、これをみたす
→この部分は321Ⅰ③の要件をみたし、証拠能力が認められる
3 結論
本件捜査報告書は、Kが真正に作成されたことを供述すれば、321Ⅲの準用及び321Ⅰ③により証拠能力が認められる                       

                                    以上

*1:近時の裁判例で、マンション内のごみステーションにあったゴミ袋を持ち帰った行為が適法とされた事例があった。

*2:ここについて書いている人はほとんどいないが、おとり捜査が将来捜査にあたることは確かなので論証すべき、というのがゼミの先生の談。基本的に認められるので、一言で認定すればいい

*3:ぶんせき本の答案構成例では供述書になっているが、疑問がある。供述書とは、原供述者が自ら作成した書面をいう。この定義に照らすと、乙の説明部分が供述書としての性質を有するというためには、捜査報告書のうち乙の説明部分は乙自らが記載したのと同視できるといえなければならない。この理解によって検討すると、「乙の説明部分は、ICレコーダーによる録音過程と、Kによる反訳過程を経るところ、前者は機械的過程であるから伝聞法則の適用がない。後者についても、反訳である以上伝聞性を帯びない。したがって、乙が自ら記載したのと同視できるから、供述書としての性質を有するといえる」ということになろうか。しかし、反訳を機械的録取過程と同視してしまうのはどう考えても無理があるように思える。そこで次に、供述録取書として捉えるアプローチを検討してみる。解釈上は素直なのだが、このアプローチを採る場合、乙の署名押印は必要なのではないかがなお問題になる。機械的録音により署名押印が不要になるのは、原供述者による録取の正確性を確認する必要がない場合、すなわち原供述者→書面等の間にある録取過程が機械的にされている場合である。しかし、今回の場合、乙→ICレコーダー→Kの部分が機械的にされており、ICレコーダー(乙)→K→捜査報告書の録取過程についてはなお正確性を確認する必要が残っている。したがって、乙の署名押印が必要だったのではないか、ということになるのである。ここで、捜査報告書の証拠能力が認められるためには、321ⅢよりKが公判廷において証人尋問を受け、捜査報告書の真正な成立を述べなければならないことになっていることに思い至る。いずれにせよ公判廷で反対尋問にさらされるのならば、反訳の正確性についても公判廷で吟味することが可能であるから、伝聞法則を適用する趣旨が妥当しないのではないか。したがって、反訳に係る録取過程については、乙の署名押印による正確性の担保を要しないと考えることができる。出題趣旨に特に言及はないが、厳密にはここまで論証する必要があると思われる。

本試平成27年民事訴訟法 構成メモ

 

1. 雑感

 設問1は、知っている部分(第一・第二の点)についてはその通り書けばいいのだが、第三の点は正直考えたことがなかったのでその場で理屈をこねくり回した。

設問2と設問3は「ロースクール演習民事訴訟法」に類題があるので、書ける人はしっかり書けるんだろう。配点が同じということは分量も大体同じくらいになるはずだが、設問2は設問3よりもだいぶ短くなった。

 

2. 構成メモ

 

【設問1】

1⑴ 平成3年判決が、本訴及び別訴が併合審理されている場合においても別訴請求債権を自働債権とする相殺の抗弁を不適法とする理由は、弁論の分離(152Ⅰ)により判断が区々となって既判力が矛盾抵触するおそれが否定出来ないからである

しかし、反訴については本訴と同一手続内で審理され、弁論の分離(152Ⅰ)が禁止されると解される→本訴請求権及び反訴請求権について合一的に審理がされることが保障されるから、本訴判決及び反訴判決が確定したとしても、両者の既判力が矛盾抵触するおそれはない

⑵ 反訴での請求が本訴における相殺の抗弁との関係で予備的反訴に位置づけられた場合、相殺の抗弁につき既判力ある判断がされたならば、反訴での請求については審理されないから、反訴原告が享受する利益は前者のみとなる また、相殺の抗弁につきそのような判断がされない場合には、相殺に供した反訴請求権の存在が認められないということになるから、反訴原告がそれについて債務名義を得ることはない

 よって、平成3年判決のいう二重の利益の享受は生じ得ない

⑶ したがって、平成18年判決と同様の事例である本件において反訴請求債権を自働債権として本訴請求債権と相殺する抗弁を適法と解しても、平成3年判決とは抵触しない

2⑴処分権主義に抵触しない理由

ア 処分権主義の一般論証→処分権主義に抵触するかは①反訴原告の合理的意思に合致するか②当事者にとって不意打ちとならないか、という観点から検討

イ たしかに、予備的反訴として扱われることによりYの意思にかかわらず審理の順位を決定されることになる

しかし、Yとしては反訴請求権につき簡易迅速かつ確実な回収が行えればよい→反訴で請求認容判決を得られる場合はもちろん、本訴で相殺の抗弁が認められることにより反訴の審理なくXの請求を免れることのいずれであっても、Yの合理的意思には合致しているといえる(①)

 また、Xの損害賠償請求権は、請負契約に基づく報酬請求権との関係では代金減額請求権としての側面を有する→相殺の抗弁が認められようが本案判決を得ようがXにとって利益となるし、そのような処理がなされることはXYの予測の範囲内(②)

 したがって、平成18年判決がいうような取扱いをしたとしても処分権主義には抵触しない

⑵反訴被告の利益を害しない理由

 反訴請求について本案判決を得ることによる原告の利益は、反訴請求権の存否について既判力のある判断を行ってもらうことにより、以後当該請求権を行使されることを防止することにある

もっとも、相殺の抗弁が認められれば114Ⅱで反訴請求債権の不存在について既判力が生じることから、反訴請求について本案判決を得なくてもその後に反訴請求権を行使されることは防止できる 

したがって、訴えの変更の手続きを要せずして予備的反訴として扱われても、反訴被告の利益が害されることにはならない

【設問2】

1⑴ 第一審判決を取り消してXの請求を棄却する旨の判決が確定した場合には、XtoY損害賠償請求権の不存在につき既判力が生じるが(114Ⅰ)、YtoX報酬請求権の存否に関して既判力は生じない

⑵ 第一審判決が控訴棄却判決により確定した場合、XtoY損害賠償請求権の不存在のみならず、相殺の主張に係るYtoX報酬請求権の不存在についても既判力が生じる

⑶ 両者を比較した場合、前者の判決をすると第一審判決が控訴棄却によって確定した場合と異なり、Yは別訴においてXに対し改めて報酬請求することができるようになる これは許されるのか

ア 不利益変更禁止の原則、一般論を展開

イ 控訴審が1⑴の判決をして確定した場合、XはYtoX報酬請求権について改めて請求をされ得る地位に立たされる これは第一審判決との関係で不利益変更にあたるから、許されない

2 控訴審としては控訴棄却判決によって第一審判決を維持するべき

【設問3】

1 Yの主張

不当利得返還請求が認められる要件は、①利得②損失③①と②の因果関係④法律上の原因がないこと

YはXに対し請負契約に基づく報酬請求権を有しているところ、XのYに対する損害賠償請求権を受働債権とする相殺により、Xは請負代金の支払を免れる一方(①)、Yは請負代金の請求が出来なくなっている(②) ①と②との間には因果関係が認められるところ(③)、XのYに対する損害賠償請求権は存在していない以上相殺は認められないはずであるから、Xの利得には法律上の原因はない(④)

2 既判力に関する検討

⑴ 前訴の訴訟物→債務不履行(契約内容不適合)に基づく損害賠償請求権 後訴の訴訟物→不当利得に基づく損害賠償請求権なので、両者は同一ではない

もっとも、不当利得返還請求権の発生要件④に照らすと、後訴の訴訟物は前訴の訴訟物である債務不履行に基づく損害賠償請求権が不存在でないと認められないことになる

→2つの訴訟物は実体法上両立しない矛盾関係にある

→前訴確定判決の既判力は後訴に及ぶ

⑵ 相殺を主張した者が受働債権について免れる一方で、相殺後に自働債権を行使することができるという二重の利益を享受することを防止する必要がある

→114Ⅰにより、受働債権であるXtoY損害賠償請求権の不存在につき既判力が生じ、114Ⅱにより、自働債権であるYtoX報酬請求権の不存在につき既判力が生じると解する この既判力はXY間について生じる(115Ⅰ①)

⑶ YtoX報酬請求権の不存在について既判力が生じる結果、後訴裁判所はYによる不当利得返還請求が認められるか審理するに際し、YtoX報酬請求権が存在しないことを前提にすることになる

→Yの損失を基礎づける事実について不存在であることを前提とするから、②が認められずYの請求は認められない

3 以上より、Yの請求は114Ⅱにより認められない             以上

本試平成25年経済法 構成メモ

 

1. 雑感

 

 第1問が価格カルテル、第2問が不公正な取引方法(拘束条件付取引)。

・第1問

価格カルテルとなると、意思の連絡・競争の実質的制限について重点的に論じなければならず、必然的に分量が増える。拾うべき事情も多いので、考慮要素を前出しする等して事情を使う場所を振り分けるのが大切だと思う。また、単に事実を摘示して評価を加えるのみならず、規範に対応させた評価まですることで説得力を持たせなければ差がつかない。

以下の起案はこの記事を作成する過程でそのまま書き下ろしたもの(一部に表記の簡略化がある)。何も見ずだいたい1.5hで書いているので現実的な出来かなあと思っているが、4枚に収めるには相当詰めて書かないとだめかもしれない。

・第2問

ゼミにて起案したもの。なぜか結論→理由という変わった構成にしているが、普通に書く方が目立たないと思う...。

「不当に」のあてはめは、ガイドラインと異なりあくまで一般的な判断枠組みをとっている。拘束条件付取引については、ガイドラインや基本書に即して行為類型ごとに整理しておくとあてはめがしやすくなるのでお勧め。

 

2. 起案

 

【第1問】

設問1

1 不当な取引制限(独占禁止法2条6項、以下法名略)に該当し、3条後段に違反しないか。

⑴4社及びYはいずれも甲の製造販売業者→「事業者」(2Ⅰ前段)にあたり、同一商品をめぐり競争関係に立つから相互に「他の事業者」(2条6項)にあたる。

ア 「共同して」とは、意思の連絡をいう。ここにいう意思の連絡とは、複数の事業者が相互にその行為を認識ないし予測し、これと歩調を合わせる意思があることを意味する。その判断に際しては①事前の交渉の有無②交渉の内容③事後の行動の一致の有無を考慮する。

イ A社ないしD社

(ア)4社は以前甲の値上げについて交渉・合意したことがあり、2回とも成功している→そうだとすれば、再び4社の中で値上げの打診が行われれば、いずれの会社も値上げを相互に予測しえたといえる。

(イ)A社から甲の販売価格を1キロあたり10円をめどに引き上げることについての打診あり。Dはこれに賛成している→この時点でA社の値上げを予測しこれと歩調を合わせる意思があったといえる。

一方、Cは意見を留保し、Bは値上げは時期尚早であるとしている→したがって、両社ともにA社が再び値上げを計画していることについては認識・予測できたといえるが、これをもってただちにA社と歩調を合わせる意思があったとはいえない。

(ウ)A社がB・C・D社に対し8月分からの販売価格を値上げする旨のメールを送信したところ、A社の値上げ発表からわずか数日で、A社と同じく8月販売分からの値上げについて顧客と交渉を開始している。また、いずれの会社においても値上げ幅はほぼA社と一致している→値上げ実施時期及び値上げ幅がおおかた一致しており、その発表時期も極めて近接しているから、偶然に4社の発表時期が重なったということは考えにくい。各社が独自の判断で値上げ実施時期・値上げ幅を検討した事実もないから、4社は相互に甲の値上げについて歩調を合わせる意思があったと認められる

→4社については意思の連絡が認められるから、「共同して」の要件をみたす

ウ Y社

(ア)以前に4社と値上げについて交渉したことはないため、事前に4社の値上げを予測することは通常ない。また、4社もY社の値上げを認識・予測しえない

(イ)YはA社の新聞発表を受けて値上げに踏み切っているだけで、4社との交渉はない

(ウ)値上げの実施時期は4社と同じであるが、事前に交渉がないこと、4社と相互に値上げを認識・予測しうる関係になかったことに照らすと、歩調を合わせる意思があったことを推認させるものではない

→Yと4社との意思の連絡は認められないから、「共同して」の要件をみたさない

⑶「相互に...拘束」とは、当該合意が①共通の目的の達成に向けられた②事業活動を相互に制約するものであることをいう

 4社間での合意は、いずれも甲の値上げという目的の達成に向けられた(①)、甲の販売価格決定という事業活動を相互に制約するものである(②)→「相互に...拘束」の要件をみたす

⑷「一定の取引分野」とは、①商品・役務の範囲②地理的範囲によって画定される市場をいう ①②の範囲は、主として需要者にとっての代替性を考慮し、必要に応じて供給者にとっての代替性も考慮する

①につき、甲に代替する製品はないから、甲と画定される。

②につき、甲は日本全国に需要者がおり、東日本地区と西日本地区とに範囲が分けられる。需要者の取引先は固定的であることに照らすと、地区間で需要者にとっての代替性は認められない。また、工場立地等の関係より、一方の地区で製造していた事業者が他方の地区に進出することは困難であるから、地区間で供給者にとっての代替性も認められない。よって、②は西日本地区と画定される。

したがって、「一定の取引分野」は西日本地区における甲の製造販売市場と画定される(以下、「本件市場」という)

⑸「競争を実質的に制限する」とは、競争自体が減少し、市場における諸般の条件をある程度自由に左右できる状態をもたらすこと、すなわち市場支配力の形成・維持・強化をもたらすことをいう。

本件では、本件市場において82パーセントものシェアをしめる4社によって値上げの合意がされていることから、価格競争の回避に与える影響は強い。

一方で、X社及びY社の供給余力は乏しいため、有効な競争圧力として機能するとは認められない。上記シェアが10数年変化しておらず、顧客が固定的であることからしても、競争的行為に出るより協調することによって利益を上げるインセンティブの方が強く働くと考えられる

→本件における合意は、本件市場における市場支配力の強化をもたらすと認められ、「競争を実質的に制限する」といえる

⑹ 本件のようなハードコアカルテルについて、「公共の利益に反して」いることは明らかである。

3 以上より、4社の行為は不当な取引制限にあたり3条前段に違反する。Y社の行為は独占禁止法に違反しない。

設問2

1 4社の行為は不当な取引制限に該当し3条後段に違反しないか

⑴4社がそれぞれ「事業者」「他の事業者」にあたることは前述の通りである

⑵4社は平成23年2月15日の部長会において甲の値上げについて合意しているから、明示の意思連絡が認められ、「共同して」をみたす

ア もっとも、C社はその後4月販売分の値上げについて交渉を行わず、同年4月10日の部長会について欠席している。そこで、合意からの離脱が認められないか検討する

 不当な取引制限の処罰根拠は相互拘束による競争制限にあるから、合意からの離脱が認められるためには、内心において離脱を決心したにとどまらず、少なくとも離脱者の行動等から他の合意参加者が離脱者の離脱意思をうかがい知るに十分な事情が存在していたことが必要と解する

イ C社は離脱に際し、他の3社に何ら連絡をとっていないため、離脱意思を明らかにしていない。また、欠席の連絡についても虚偽の連絡をしているため、3社としては合意から離脱する意思にもとづいて部長会を欠席したことをうかがい知ることができない。したがって、C社は内心において離脱を決心していたにとどまり、他の3社をして離脱意思をうかがい知るに足りる十分な事情は存在していなかったから、合意からの離脱は認められない

⑷ 値上げの合意が4社を「相互に...拘束」することは前述の通りである。

⑸ 「一定の取引分野」である本件市場において「競争を実質的に制限する」といえるか検討する。

 4社の本件市場シェアが82パーセントにのぼること、及びX社Y社の供給余力の乏しさに照らすと、4社の合意は前述と同様市場支配力を維持・強化するものといえる。たしかに、D社は大口取引先に拒否され値上げ交渉に失敗しているが、少なくとも値下げに関しては行えなくしている以上、競争制限効果を否定するものではない。

 よって、4社の合意は「一定の取引分野」における「競争を実質的に制限する」といえる

⑹ 「公共の利益に反して」いることは前述と同様明らかである。

3 よって、4社の行為は不当な取引制限に該当し、3条後段に違反する。

                                    以上

 
【第2問】

1 結論
X社の実施しようとしている方策①②は、独占禁止法2条9項6号を受けた一般指定12 項に規定される拘束条件付取引に該当し、法19 条に違反する。
2 理由
⑴ X社は、食品メーカーであるから、「事業者」(2条1項)にあたる。
⑵ では、X社は、方策①②により薬局・薬店に対し「拘束」(一般指定12 項)を課したといえるか。
「拘束」があるといえるためには、必ずしもその取引条件に従わなければならないことが契約上の義務として定められている必要はなく、条件に従わない場合に何らかの経済的不利益を伴うことにより現実にその実効性が確保されていれば足りる。
本件で、X社が甲の名で販売している製品αは、栄養の体内吸収率の点で他社製品よりも優れ、X社の知名度や有名タレントを起用したCMによって高い人気を得ており、市場占有率は40%と2位以下を大きく引き離している。そして、甲を指名して購入する消費者も少なくないことから、販売業者としては甲を取り扱うことが事業継続の上で必要不可欠となっている。
かかる事情に照らすと、方策①を実効化する手段として設けられた方策②は、X社の①の要請に従わない場合に甲を取り扱えないという、事業者にとり経済上重大な不利益が伴うことになる。甲の供給停止はX社が容易に行えることからすれば、事業者が条件に従わない場合の経済上の不利益により、要請の実効性を現実に担保しているものと認められる。したがって、X社の方策①②は、薬局・薬店に対し「拘束」を課すものである。
⑶ 上記の「拘束」は「不当に」なされたものか。
ア 「不当に」とは、自由競争減殺を意味する公正競争阻害性をいう。
自由競争減殺の有無の判断にあっては、影響を受ける取引分野を画定することが有益である。市場については①商品役務の範囲②地理的範囲によって画定する。その際には需要者にとっての代替性を考慮し、必要に応じて供給者にとっての代替性も考慮する。
イ ①について、αには類似品βが存在するが、栄養機能の点でαに大きく異なり、需要者にとっての代替性もほとんどないことから、①についてはαと画定する。
②について、X社は甲を日本全国で販売していることから、日本全国と画定される。
以上より、本件で検討すべき取引分野は日本全国のα販売市場である。
ウ では、X社の拘束には公正競争阻害性が認められるか。
まず、αについては消費者が価格より品質を優先していることから、価格競争がほとんど存在しない。したがって、販売価格は基本的に小売価格によることになるが、新たに登場したネット販売業者は、甲をそれよりも低価格で販売することにより、甲ブランド内における競争を喚起していたものといえる。
しかし、多くのα販売業者が方策①に従うと考えられ、その実効性が方策②で確保されていることからすると、X社の「拘束」によりネット販売業者への甲の横流しは容易に遮断される。また、代理店卸売の体系が採られているので、卸売段階においてブランド内での価格競争は生じにくい。
そうすると、本件拘束により甲のブランド内競争は回避されることになる。
そして、α市場にはシェア10パーセント を超える事業者が3社存在するが、前述した消費者の傾向からして価格競争に対するインセンティブははたらかない。また、製法や原料の点で新規参入にコストがかかることから、新規事業者の参入による競争圧力もはたらかない。
よって、本件拘束は、α販売市場における価格競争の回避をもたらす蓋然性が高いといえるから、「不当に」されたものといえる。
⑷ もっとも、方策①②は甲のブランドイメージ保護のためになされたとして、正当化事由が認められないか。
公正競争阻害性が認められる場合であっても、自由競争経済秩序の維持という公益と当該行為により守られる利益とを比較衡量して、独禁法の究極の目的(1 条)に反しない場合には、不公正な取引方法には該当しない。この目的に反しないかは、当該行為の目的の正当性及び手段としての相当性の観点から判断する。
ア a の点について
甲のもつ優れた栄養機能を十分に発揮させることは、他社製品との差別化を図るうえで重要であるから、その目的は競争促進の観点からして正当といえる。しかし、用法等の説明はネット上の画面で行うことも十分可能であり、目的達成のためにはネット業者にその説明の表示を義務付ければ足りるの
であるから、横流しを禁じるという方策は手段としての相当性を欠く。
イ b の点について
a と同様、甲の品質保持が他社製品との差別化を図るうえで重要となるから、流通段階での品質保持を要求する事には目的としての正当性が認められる。しかし、ネット販売においても冷蔵保管やクール便での配達を義務付けることで十分目的は達成可能であり、横流しの禁止まで講じることは手段としての相当性を欠く。
以上より、X 社の方策①②に正当化事由は認められない。
⑸ よって、上記の結論が導かれる。
                                     以上

本試平成26年経済法 構成メモ

 比較的レア?な本試経済法の復習メモです。といっても、平成26年度以前は「1冊だけで経済法」に載っていますが。

 

 

1. 雑感

 第1問が排他条件付取引+私的独占、第2問が不当な取引制限(入札談合)という、R3で狙われそうな行為類型の組み合わせ。極端な捻りはないので、淡々と事実摘示・評価を繰り返して要件を検討することになる。

・第1問について

不公正な取引方法については、毎度「正当化理由になりそうな事情をどこで検討するか」で悩まされる。

いつかの採点実感で、不公正な取引方法において正当化理由を検討する場合、条文上の何かしらの文言に引き付ける形で検討すべし、という指摘がされていたと思うので、今回の起案では、「不当に」に引き付ける形で展開した。

・第2問について

この手の問題は適用法条について悩まなくていいものの、事実にひねりがあるため摘示と評価をおろそかにすると書き負けやすい。基本合意の存在の推認など、丁寧に書くように努めたが、成功しているかは不明。

 

2. 起案

 

【第1問】
1 A社の行為は排他条件付取引(一般指定11項)に該当し、独占禁止法19条(以下法名略)に反しないか。
2⑴ A社は甲製品を製造販売するメーカーであるから、「事業者」(2条1項前段)にあたる。
⑵ A社が「相手方が競争者と取引しないことを条件として」取引したといえるためには、相手方による取引条件の遵守が契約上義務付けられているか、それに従わない場合に経済上の不利益を課すことによって現実に実効性が確保されている必要がある。
 A社は大口利用者向け販売業者に対し、購入に占める自社製品の割合の多寡に応じた割戻金を支払う旨約束している。これにより、A社は大口利用者向け販売業者をしてA社製の甲を取り扱うインセンティブを与え、他社製の甲を排除させようとしているものと認められる。大口利用者向け販売業者としては、A社製の甲を相当割合確保しておくことが重要となっている。そうすると、大部分の大口利用者向け販売業者はA社から割戻金を受け取ることとなるから、他社製甲の取扱量を減らしてA社製甲の取扱量を増やさない場合には他の競争者より受け取れる割戻金が少なくなるという経済上の不利益を負う。したがって、A社の取引条件については現実に実効性が確保されているから、「相手方が競争者と取引しないことを条件として」取引するものにあたる。
⑶ア 「不当に」とは、自由競争減殺を意味する公正競争阻害のおそれがあることをいう。ここにいう公正競争阻害のおそれは、市場閉鎖効果が生じる場合、すなわち当該行為により新規参入や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するおそれが生じる場合に認められる。
イ 市場閉鎖効果の有無を検討するにあたっては、行為の影響が及ぶ取引の範囲を画定することが有益である。そこで、①商品・役務の範囲②地理的範囲から市場を画定する。その際には、主に需要者にとっての代替性を考慮し、必要に応じて供給者にとっての代替性を考慮する。
(ア) 甲製品の用途には乙も用いることができるが、品質面において甲に大きく劣るため、需要者にとっての代替性はない。また、大口利用者向けの甲と小口利用者向けの甲とでは取引数量や取引価格に大きな差が存在するため、両者には需要者にとっての代替性がない。よって、①は大口利用者向けの甲と画定される。
(イ) 甲については日本全国に大口利用者、および販売業者が存すること甲は海外でも製造されているが、殆ど輸入がされていないことから、国産の甲と海外製の甲とで需要者にとっての代替性はないと考えられる。したがって、②は日本国内と画定される。
以上より、国内の大口利用者向け甲の販売市場(以下、「本件市場」という。)における市場閉鎖効果の有無を検討する。
ウ A社は国内における甲製品の販売シェアで70%を占め、本件市場において最も有力な地位にある。また、A社製の甲は強いブランド力を有しているため、大口利用者向け販売業者としてはA社製甲を確保しておくことが重要になっている。そのような地位にあるA社が上記の取引条件を導入すれば、大口利用者向け販売業者は競争上不利な地位に立たないようにA社製甲の取扱比率を上昇させ、従来からA社製甲のみを取り扱う業者はその方針を継続すると考えられる。したがって、A社の行為には、新規参入者や既存の競争者の取引先を奪うことで本件市場から排除し、又は取引機会の減少を生じさせるおそれがある。よって、形式的には市場閉鎖効果が認められ、「不当に」の要件をみたす。
⑷ もっとも、A社の行為は、自社製品の販売先を確保することで甲製品の製造コストを大幅に削減する目的でなされている。そこで、独占禁止法の究極の目的(1条)に反しないといえ、実質的には「不当」性が認められないのではないか。上記の究極の目的に反しないかは、①行為の目的の正当性②目的達成のために当該行為をする必要性・相当性で判断する。
 製造コストの削減は、それが販売価格に還元されるのであれば、競争促進に向けられた目的と言えるから、正当性が認められる。
 しかし、A社がこれまで高水準の価格を維持してきていることからみても、削減された製造コストが販売価格に還元されるとは考えられない。よって、目的としての正当性は認められない(①不充足)。
また、製造コストの削減は原材料や製造過程の見直しから検討すべきであり、最初から取引先を囲い込むことは手段としての相当性を欠く(②不充足)。
よって、A社の行為は1条の定める目的に反しないとはいえず、なお「不当」性が認められる。
⑸ 以上より、A社の行為は排他条件付取引に該当し、19条に違反する。
3⑴ また、A社の行為は私的独占(2条5項)に該当し、3条前段に違反しないか。
⑵ A社が「事業者」にあたるのは前述の通りである。
⑶ 「排除」(2条5項)とは、人為的行動によって他の事業者の事業活動の継続や新規参入を困難にする蓋然性のある行為をいう。なお、公正競争阻害のおそれが認められる行為については、これにあたることは明らかである。したがって、A社の行為は「排除」にあたる。
⑷ 「一定の取引分野」としては、本件市場が画定される。
⑸ 「競争を実質的に制限する」とは、競争自体が減少して市場の諸般の条件をある程度自由に左右できる状態をもたらすこと、すなわち市場支配力の形成・維持・強化をいう。
 A社の行為は、前述の通り大口利用者向け販売業者の囲いこみによって既存の甲メーカーの事業活動の継続を困難にし、甲の製造販売を計画している事業者の新規参入を断念させるものである。実際に、新規参入を計画していた事業者は計画を取りやめ、既存のメーカーも取引機会を失って市場から撤退し、取引数量も減少を余儀なくされていることからも、これは明らかである。

 したがって、A社の行為は本件市場における市場支配力を強化するものであるから、「競争を実質的に制限する」といえる。

⑹ 以上より、A社の行為は私的独占に該当し、3条前段に違反する。
                                    以上

 


【第2問】
1 15社の行為は不当な取引制限(独占禁止法2条6項、以下法名略)に該当し、3条後段に違反しないか。
2⑴ A社ないしO社の15社は、いずれも建設業者であるから「事業者」(2条1項前段)にあたる。また、各社はX市発注の特定舗装工事をめぐり競争関係にあるから、相互に「他の事業者」にあたる(2条6項)。
⑵「共同して」とは、明示的又は黙示的な意思の連絡が認められることを意味する。入札談合の存在は基本合意と個別調整の二つから認定されるところ、基本合意の存在があった場合には意思の連絡が認められると解する。基本合意の存在が明示的に認められない場合でも、個別調整の存在を間接事実として基本合意の存在が推認できるならば、意思の連絡を認め得る。
 本件において、15社がX市発注の特定舗装工事50件について受注予定者を決定する旨の明示的な合意は存在しない。
 もっとも、50件中40件については、受注希望者を確認した上で、希望者が1社のみならその業者を受注予定者とし、希望者が複数いる場合には受注希望者間で受注予定者を決定していたことが認められる。また、受注予定者は入札価格を決定したうえで他者の入札すべき価格を決定し、その旨連絡していた。15社のいずれも同様の行為をしており、しかも受注予定者は地域性や継続性と言った諸般の事情を考慮したうえで決定されていた。15社間でこのような詳細な調整を行うことは、大枠となる基本合意がなければ著しく困難である。

 したがって、15社間において、40物件について基本合意がされたことが推認される。よって、意思の連絡があったといえ、「共同して」をみたす。
 一方、50件中10件については、受注希望の表明及び価格の連絡が行われた事実は確認されていないから、基本合意の存在を推認することはできない。したがって、10物件については15社の意思の連絡があったとはいえず、「共同して」をみたさない。
⑶ 「相互に…拘束」とは、当該合意が①共通の目的の達成に向けられたものであって②行為者のそれぞれの事業活動を制約することをいう。本件基本合意は、高価格で工事を受注するという共通の目的の達成に向けられている(①充足)。また、15社の入札価格決定という事業活動を相互に制限するものである(②充足)。A社ないしD社は50物件のうちいずれも落札していないが、自社が受注予定者となることを期待して受注予定者の落札に協力し、他社の入札価格決定に制約を加えていた以上、この結論を覆すものではない。したがって、「相互に…拘束」をみたす。
⑷ 「一定の取引分野」は、①一定の期間内において②特定の官公庁等が発注する③特定の商品・役務の入札市場として画定される。入札談合においては、基本合意の期間内におけるすべての入札が影響を受けていると考えられるから基本合意の対象期間内におけるすべてがその範囲内に含まれると解する。
 本件においては、①平成24年4月1日から平成25年3月31日までの間に②X市が発注する③特定の条件をみたした道路舗装工事50件が「一定の取引分野」として画定される。
⑸ 「競争を実質的に制限する」とは、当該合意によって、競争自体が減少し市場における諸般の条件をある程度自由に左右できる状態をもたらすこと、すなわち市場支配力の形成・維持・強化をいう。
 本件の入札に参加できるのはA社ないしO社及び5社の20社のみであるところ、本件の基本合意はそのうち75パーセントを占める業者によってなされているから、入札をめぐる競争の回避に強い影響を与えたと認められる。50物件の落札率が平均して97パーセントと極めて高かったことからも、競争回避に対する影響が強いことがうかがえる。
 また、40物件のうち37物件が15社のうちいずれかの業者によって落札されていること、受注調整のなかった10物件のうち7物件についても当事者たる15社のうちいずれかの業者によって落札されていることから、アウトサイダーである5社は競争圧力としては有効に機能していなかったと認められる。
 したがって、本件における基本合意は、本件の入札市場における市場支配力を形成したものといえる。
 以上より、本件の基本合意は「競争を実質的に制限する」ものといえる。
3 よって、15社の行為は不当な取引制限にあたり、3条後段に違反する。
                                     以上