One's Note

一橋ロー入試対策情報・司法試験過去問・修習雑記

本試平成26年民事訴訟法 構成メモ

 

1. 雑感

 

判例の射程を検討させる設問1、参考判例つきの現場思考といえる設問2、「悩みを見せる」型の設問3のオーソドックスな出題。誘導が明確で判例の内容も問題中で言及されているので、特有の出題形式に慣れる題材にはいい。

今回は、一文一義・規範に対応した評価・配点に即した分量を意識して答案を作成した。うまくいっているだろうか。

2. 起案

【設問1】

1 訴訟行為も当事者の意思表示を前提とする以上、私法の規定の類推適用を受けうる。では、私法上の表見法理は訴訟行為に適用されるか。

2 判例と事案の相違

⑴ 昭和45年判決(以下、「本件判決」という。)は、①訴訟行為は取引行為と異なり取引安全を図る必要がないこと②手続の安定を図るべきことに照らし、表見法理である会社法354条は訴訟行為には適用されない旨判示している。

⑵①について

 訴訟上の和解は、期日において当事者が訴訟物につき互譲することによって当事者間の紛争を解決する手続である。

 確かに、期日においてなされる以上、訴訟上の和解は訴訟行為としての側面を有している。

 しかし、当事者間における互譲が基礎となっている点で、訴訟上の和解は私法上の行為としての側面をも有しているというべきである。

 したがって、本件判決の事案と異なり、訴訟上の和解においても取引安全を図るべき要請は妥当するから、私法上の表見法理の適用は妨げられない。

⑶②について

 本件判決は、判決が確定していない段階においては訴訟行為が積み重なっていくことから、私法上の表見法理の適用を認めると当事者の主観によってそれ以降の訴訟行為の効力が左右され、手続の安定が害されるとする。

 しかし、訴訟上の和解は確定判決と同じ効力を有するから(民事訴訟法267条、以下法名略)、それ以降の訴訟行為の積み重なりはない。したがって、表見法理の適用によりそれ以降の訴訟行為の効力が左右されることはないから、本件判決の指摘は妥当しない。

3 私法上の表見法理の適用を否定することにより生じる不都合

⑴ 前述の通り、訴訟上の和解には訴訟行為としての側面と私法上の行為としての側面がある。したがって、訴訟行為としては表見法理の適用がなくその効力が認められなかったとしても、私法上の行為としては表見法理が適用されて効力が認められうる余地がある。これは、訴訟上の和解が有する執行力(民事執行法22条7号参照)を期待して互譲に応じた当事者の合理的意思に反する。

⑵ 上記のような不都合が生じることから、私法上の表見法理の適用により訴訟行為としての効力を維持する必要性は高い。

4 以上より、本件の事案は本件判決と事案を異にするため、私法上の表見法理の適用を認めてもこれに抵触することはない。また、上記の不都合性を回避すべく、私法上の表見法理の適用を認める必要性も高い。

 したがって、本件における訴訟上の和解が無効であるとのDの主張は妥当でなく、なおその効力が認められる。

【設問2】

1 Aの代理人L2は、55条2項2号に従い訴訟上の和解をすることについて授権されているところ、和解条項に謝罪・誓約の文言を含めることはその権限の範囲に含まれていたといえるか。

2⑴ 訴訟上の和解の内容は、相手方の主張や態度により刻々と変化するから、柔軟な解決を実現するべく訴訟代理人には和解に関して広汎な代理権を認めるべきである。一方で、無制限に代理権を認めると当事者本人が和解内容の予測することは困難になり、本人の自己決定権を害しかねない。

 そこで、ある事項が和解の代理権に含まれるかは、①その事項が互譲による当該紛争の解決に必要かつ有用であるか②本人にとって、その事項が当該紛争の解決方法として予測可能であるかによって決すべきである。

⑵ 本件において、XはAらの要望する賠償金の減額に応じる条件として、事件のことを反省して謝罪し、二度と同じような事件を起こさない旨の約束を和解条項に加えることを提示していた。A及びL2としては、賠償金についてXらに譲歩してもらいつつ紛争を解決するためには、Xの要望に応える他なかったことになる。したがって、第1項として謝罪・誓約の文言を和解条項に加えることが、互譲による紛争の解決に必要かつ有用であったといえる(①)。

 また、不法行為に基づく損害賠償請求を受けた者が、被害者に対し賠償金を支払うとともに、謝罪をして同様の事件を起こさない旨誓約することは、社会的通念上自然な行動であるといえる。したがって、Aをして賠償金の支払に応じることとともに謝罪・誓約をすることは、Xとの紛争の解決方法として十分予測可能である(②)。

3 以上より、和解条項に謝罪・誓約の文言を含めることは、L2が授権された権限の範囲に含まれていたといえる。よって、本件における訴訟上の和解は有効である。

【設問3】

1 本件の和解により、A及びB社のXに対する損害賠償債務は150万円を超えて存在しないことにつき既判力が生じる。したがって、後になって同一の不法行為を原因とする後遺症損害が発生した場合に、Xがそれについて損害賠償を請求することは、上記の既判力に抵触するから、原則として許されない。

 しかし、請求時点で発生しうるすべての損害について予測・算定し請求するのは不可能に近い。にもかかわらず、上記原則を徹底して和解成立後に生じた後遺症損害につき損害賠償請求を一切認めないとすることは、被害者に対する損害の填補により不法行為を受ける前の状態と同じ状態を実現しようとする民法709条の趣旨に反する。そこで、既判力に抵触するとのAらの主張に対する反論を検討する。

⑴ 既判力の縮小

既判力(114条)による主張の遮断が認められる根拠は、手続保障の充足を前提とした自己責任にある。そして、既判力が基準時、すなわち事実審の口頭弁論終結時点で生じるとされるのは(民事執行法35条2項参照)、口頭弁論終結時まで当事者は主張及び証拠の提出が可能だからである。

そうだとすれば、当事者が事実審口頭弁論終結時までに生じた事由について、それを主張することができなかった正当な理由がある場合には、自己責任を問うことはできないと考えるべきである。

後遺症損害については、その原因となる事故の時点で発生を予測することが困難であり、十分な手続保障が及んでいないといえるため、被害者をしてその主張を要求することは被害者救済の観点からみて酷である。117条が定期金賠償の場合において基準時後の算定基礎変更を認めているのも、同様の趣旨によるものと考えられる。さらに、本件のように第一回期日の段階で訴訟上の和解によって訴訟が終了したような場合、後遺症損害の発生の予測及びその主張の機会は極めて限定されることから、一層手続保障が不十分といえる。したがって、後遺症損害に基づく損害賠償請求権の部分については、自己責任の追及は妥当でなく、既判力の生じる範囲には含まれないと解すべきである。

 以上より、本件訴訟上の和解により生じる既判力が、後遺症損害の部分にかかる主張に抵触しない限度で縮小されるとの反論が基礎づけられる。

⑵ 既判力の不発生

 和解調書に確定判決と同一の既判力が生じるといっても、和解調書には判決の主文(114条1項)に対応する部分が無いため、既判力が生じる客観的範囲については訴訟上の和解の内容を解釈することによって決するのが妥当である。そこで、当事者における訴訟上の和解の成立経緯や既判力との抵触が問題となった事実の生じた経緯に照らし、その客観的範囲を画定する。

 Xに後遺症損害が生じたのは、事故発生時から半年も経過した後のことであり、検査入院時にも病院から特段の指摘もなかった。また、当初の損害実費が330万円であったにもかかわらず賠償額はその半分以下の150万円にと大幅に減額されている。したがって、X及びAらとしては、将来の損害については考慮に入れず、Aの真摯な反省と誓約を条件に互譲の合意をしたと考えられる。

 よって、本件における既判力は、既発生の損害についてAらのXに対して負う損害賠償債務が150万円を超えて存在しないことについて生じると解すべきである。

以上より、訴訟上の和解の成立当時未発生であった本件後遺障害に基づく損害賠償請求権の不存在については既判力が生じないとの反論が基礎づけられる。

                                     以上

ご報告/本試平成25年民事訴訟法 構成メモ

0.ご報告

お久しぶりです。記事の併合はあまりすべきではないと思いますが、大した分量もありませんのでここでご報告させていただきます。

この度、令和2年度予備試験に最終合格いたしました。本試まで気を緩めることなく、精進したいと思います。

 

2月は、民事訴訟法・商法・経済法について仕上げる時期となっています。そのため、復習の際に作成したメモをこちらに貼ることにします。経済法なんかは情報が少ないので、もしかすると参考になるかもしれません。

しばらくは民事訴訟法の復習になります(自主ゼミメンバー向けの解説レジュメ、という体をとっているので生意気な書き方ですがご了承ください)。

 

 

1. 雑感

個人的に民事訴訟法の本試験はフィードバックが少なく、解いたのを契機として重要判例を見直すくらいでいいのではないかと思っている。この問題も例に漏れずそうで、百選掲載判例をいくつかさらえるという意味では良かった。

また、個人的に民事訴訟法本試を解いて気づいた「悩みを見せる」型(以前ブログでも言及しています)が実践的に学べるという点でも良問だと思う。

 

2. 構成メモ

【設問1】
最判昭47.2.15(百選23)の射程が及ばないことを示す問題。判例がいかなる事情のもとで判示をしたかを指摘し、本問では判例と事情が異なること(=ゆえに、確認の利益を肯定する根拠を欠くこと)を示す。

 

1.一般論
 過去の法律関係を対象とする確認の訴えは、確認の利益を欠く。既に変動した法律関係を確認しても、現在の紛争を解決することには役立たないのが通常だからである。
 したがって、現在の法律関係に引き直して確認をするべきである。

2.最判昭47.2.15
 被相続者に多数の相続財産があるところ、その財産を共同相続人の誰か一人に全て相続させる旨の遺言につき効力が争われた。
 上記原則論にしたがい現在の法律関係に引き直すならば、相続人一人ひとりに対し、各財産につき共有持分権の確認を求めることになる。しかし、これは非常に煩雑であり、財産につき確認もれが生じる場合もある(相続人が多くても、それらの者に対し持分権を確認すること自体はそこまで煩雑ではないだろう。問題は相続財産が多いことである)。
 そうだとすれば、全財産に共通する遺言という法律行為の無効を既判力によって確認するほうが、紛争解決としては適切といえる。
 このような事情のもと、昭和47年判決は確認の利益を認めた。

最判昭47.2.15論証化
過去の法律関係を対象とする確認の訴えは、原則として確認の利益が認められない。既に法律関係が変化した後になって過去の法律関係を確認しても現在の紛争の解決には資さないのが通常だからである。しかし、過去の法律関係の無効を確認し既判力で確定する方が、それから派生する現在の紛争を解決する方法として適切ならば、例外的に訴えの利益が認められると考える。*1

3 本問との事案の違い
上記判例事案においては、相続財産が多数存在することが確認の利益を基礎づける大きな要素になっていた。

 しかし、本問では甲1という1つの財産しか問題になっていない。とすると、現在の関係に引き直して共有持分権の確認を求めることはなんら煩雑ではない。

 したがって、あえて遺言の無効であることにつき既判力をもって確認しなくても、端的に現在の法律関係につき確認を求めれば紛争解決としては十分である。
 よって、上記判例の射程は及ばず、一般論に従って判断すべきである(=確認の利益は認められない)。

【設問2】
最判昭51.7.19(百選12)の理解を問う問題。
 当事者適格の定義を最初に述べたあと、遺言執行段階においては遺言執行者(民法1012Ⅰ)が相続人の法定訴訟担当として当事者適格を有することに言及。

 逆に考えれば、移転登記手続等の遺言執行が完了すれば登記についての権利義務は受遺者に帰属するにいたるから、当事者適格は受遺者に認められる。このことを端的に論じればOK。

*2

【設問3】
1.小問(1)
問い方がややこしいが、「相続による財産取得」の要件事実を本問の具体的事情を使って表現するとどうなりますか、という問題。実際にG・Hが前訴・後訴でどのような主張をしているかとは無関係に、どのような主張をすべきであるかを書けばOK。したがって、前訴基準や後訴基準のいずれか、など考えなくてもよい。
要件事実自体は(a)被相続人の財産所有(b)被相続人の死亡(c)自身が相続人であることであるから、➀Jの乙土地もと所有②JF間の乙土地売買③Fの死亡④G・HがFの子であること と整理される(これをアプローチAとする)。
なお、出題趣旨・採点実感によれば、(a)について➀②のように分けずに、①’Fが死亡時点に乙土地を所有していたこととしても問題ない(これをアプローチBとする)。
2.小問(2)
さて、小問(1)で整理した要件事実を前提として、前訴におけるG・Hの主張にこれらの事実があらわれているかを検討する。弁論主義の第一テーゼに反しないかが問題になる。
【アプローチA】
①Hは乙土地のJもと所有を認めており、Gも乙土地の前主がJである旨主張しているから、Jの乙土地もと所有について権利自白が成立する。よって、判決の基礎とすることが可能。
②ここについては被告Fのみが主張しているところ、これを判決の基礎とすることができるか。主張共通の問題がここで出てくる。主張共通を認めても弁論主義第1テーゼには反しないから、判決の基礎とすることが出来る。
③F死亡は、Gの「生前」という発言が手がかりになる。死亡の事実・死亡日時を明らかにさせれば、判決の基礎とすることが可能。
④Gが「父」と述べていることから、判決の基礎とすることが出来る。
【アプローチB】
①’について、GはFのもと所有につき主張していないため、主張共通の問題となる。アプローチAと同様に処理すれば、判決の基礎とすることができる。
②③④は同様に判決の基礎とすることが出来る。
よって、裁判所は小問(1)の請求原因を判決の基礎とすることができる。

*3

【設問4】
まず、原則に従った場合の帰結を述べる。次に、原則を徹底することによる不都合を述べ、修正規範の構成に移る。最後に、修正規範にあてはめて結論を導く。修正規範の導出にあっては、平成10年判決の論拠を確認した上で、これを反対解釈するのがわかりやすい。
出題趣旨・採点実感を参考に、答案の骨組みを示す。

1 原則論
共有持分権は所有権に実体法上包含されている→所有権確認請求の全部棄却により、所有権の不存在及び共有持分権の不存在につき既判力が生じる。
そうすると、Gの主張は既判力に抵触し封じられることになる。

2 不都合性の指摘
Hの主張は、GH両者の請求が棄却されたのを奇貨としてその既判力を持ち出し、Gの主張を封じたものである。しかし、前訴では相続による共有持分権の有無について互いに争っておらず、この点についての紛争は未解決のままであった。にもかかわらず、既判力によりGの主張を封じるのは、Gの審理(の継続)に対する期待を害するものではないか。

3 修正規範の構成
(1)平成10年判決
 一個の金銭債権の数量的一部請求の当否を判断するにあたっては、債権全部について審理判断することが必要になる。
 そして、数量的一部請求を全部または一部棄却する旨の判決は、債権の全部について行われた審理の結果に基づいて、①当該債権が全く存在しない(一部として請求された額に満たない額しか存在しない)との判断を示すものであり、後に残部として請求しうる部分が存在しないとの判断を示すものに他ならない。そうすると、残部請求は実質的に前訴の請求・主張を蒸し返すものであって、被告の紛争解決に対する合理的期待に反する。
 したがって、かかる請求は特段の事情がない限り信義則に反し許されないものと解する。
(2)判例が論拠としている部分
 前訴で実体的に審理された事項について存在しないと判断された(語弊を恐れずに言うなら、一方の勝ち・他方の負けになる形での判断がされた)こと。
十分な主張反論の末に負けた以上、それと包含関係にある部分について訴訟物が別だからと言って争うのは蒸し返しになる、すなわち相手方の紛争解決に対する合理的期待に反する。
 
(3)修正規範
 そうだとすると、前訴で審理されていない事項については、後訴で主張しても紛争の蒸し返しにはならないはず(むしろ、主張した者の審理継続に対する期待が信義則上保護されるべき)。

 そこで、前訴訴訟物と後訴訴訟物とが実体的に包含関係にあるとしても、後訴訴訟物につき前訴において審理されていなかった場合には、信義則上主張は遮断されないと考える。

4 あてはめ
 前訴において共有持分権については審理されておらず、もっぱら所有権の帰趨についてのみ争っていた。したがって、Gが共有持分権につき審理を継続してもらう期待は信義則上保護される。

 よって、Hの主張に対し、上記の理由からGの主張は信義則によっては遮断されないとの主張をすることができる。
                                    

 

                                     以上

*1:法律行為を含まない遺言については判例の射程が及ばない。

*2:cf.相続財産管理人(民法936Ⅰ)は、相続人に「代わって」相続財産の管理・清算を行うだけであり、相続人の法定代理人であるにとどまる。したがって、当事者適格は依然相続人にある。最判昭47.11.9(百選A5)。

*3:「裁判所が適切に釈明権を行使したならば」とは、不明確な事実につき釈明を求める消極的釈明を意味する、とのこと。採点実感としては、F死亡の事実及びFGの親子関係については主張にあらわれていたことを前提にしている。そうだとすると、求釈明などなくても裁判所は請求原因事実を判決の基礎と出来るはずである。ぶんせき本は、問題の記載は不適切であったのではないかと評価している。下線部についてはあらわれていなかったと読むのが穏当かもしれない。

各試験における答案構成時間

こんにちは。

 

質問箱にて、一橋ロー入試の際の答案構成時間を教えて欲しい旨の質問をいただきました。

 

この「答案構成時間」は自分もいつも悩んでいまして、本試の際もどうしようか考えているところです。そこで、この質問に解答させていただくと同時に、簡単に自分の考えているところをまとめてみることにしました。

 

 

1.答案構成時間:起案時間=1:3を基準に考える

 

ちゃんとした理由を聞いたことはないのですが、この割合が途中答案を書かないための一つの目安とされています。予備であれば15分→55分、本試験であれば30分→90分となります。周りに聞いてみても、この時間配分にしている人が多いです。

 

2.出力速度・分量からの調整

 

もっとも、この時間配分は全科目共通というわけではありません。構成に時間はかかるが書くこと自体はそれほど多くない民訴、逆に構成に時間はかからないものの事実摘示と評価が重要となる憲法・刑事法、問題文自体が長く構成に時間を要する行政法というように、科目によってばらつきがあります。

 

したがって、1の標準時間を科目に応じて上下させる必要が出てきます。ここの上下の程度は筆記速度にも依存するので、普段の演習や答練などで調整することになるでしょう。

 

3.各試験における答案構成時間(自分の場合)

【一橋ロー入試】

憲法 30分

民法(45分×2) 10分×2 

民事訴訟法(45分) 15分(民事訴訟法を先に解いた)

刑法 60/135 20分 

刑事訴訟法 75/135 20分 

 

【予備試験】

憲法 20分(行政法から先に解いた)

行政法 10分

民法 15分

商法 10分(商法→民事訴訟法→民法の順で解いた)

民事訴訟法 15分

刑法 20分(刑事訴訟法を先に解いた)

刑事訴訟法 10分

法律実務基礎科目 20分×2

一般教養 20分

 

【本試験の予定】

経済法1 20分

経済法2 20分

憲法 30分

行政法 35分

民法 30分

商法 35分

民事訴訟法 35分

刑法 30分

刑事訴訟法 30分 

 

                                     以上

 

 

 

 

【長文・2021/1/22追記】令和2年予備試験論文式試験雑感

こんにちは。

先日24日・25日にかけて予備試験論文式試験が行われました。受験された皆様、本当にお疲れ様でした。

自分も受験してきたので、直前及び2日間の感想を述べたいと思います。みんなのために...ではなく、本試に際して自分がどのようにコンディショニングすればいいのか覚えておくためです。 かなり長いうえ、問題内容にモロ踏み込むのでご注意を。

 

 

 

 

1.直前の行動

自主ゼミを利用して、各科目についてブランクができないように演習を行っていた。しかし、模擬裁によって直前期の確認が若干しにくくなったため、ラスト1週間はアウトプットをせずに実務基礎のノートと全科目の論証集を確認することにした。

憲法についてはDK先生の論文処理手順マニュアルを一部改筆したもの、行政法・商法・民事訴訟法・刑法・刑事訴訟法・刑事実務基礎については自作ノート、民法についてはAG論証集、民事実務基礎については辰巳のハンドブックを裁断したものを利用した(当日持っていったのもこれらのみ)。全部見る時間はないので、ゼミで使った覚えのない論証や最近改筆した部分についてのみ見直しを行った。前日は近くのスーパー銭湯でしっかりリフレッシュして就寝。

 

2.1日目

朝早く起きてフルグラを流し込み、体を軽く温めて電車に乗る。電車の中では行政法のノートと刑事訴訟法のノートを見返していた。

五反田駅に7時50分ころに着いた。体がこわばるような寒い青空の下、受験生と思しき人々が歩みを同じくしていた。大荷物の人や軽装の人、色んな人が否が応でも目に付く。EDMを聴きながらTOCに到着。まあまあな数の受験生が入口で各々のノートを見返しつつ、開場を待っている。伊藤真先生や他の予備校講師の方々が応援に来てくださっていた...のだが、自分は直接お世話になっていないので見るだけにとどめた。この時間に見返す内容って、正直あまり頭に入らないんだな...と思いながらもページをめくる。

しばらくして開場し、誘導されてエレベータに乗る。検温センサーの前を通って試験室へ。だだっ広い会議場に長机とパイプ椅子が並べられ、机上には法文と公法系の解答用紙が配布されていた。

着席し、筆記具と受験票とストップウォッチを置く。手をあっためるために、裏紙に公法で使いそうな用語を書きなぐっていた。

席で勉強するのも落ち着かないので、廊下に出てノートを見る。通り過ぎる人は「何見てんのこいつ」というような顔をしていたが当然だ、自作だもの。

9時になったので席に戻り、長ーい説明を聞く。この時間にも頭にいれた拙い知識が漏れ出ていく感じがした。

 

いよいよ試験開始、自分は行政法・答案構成10→起案55,憲法・答案構成15,起案60で書くことにして行政法からスタート。

設問から見ますかねー、とページをめくってみると、設問1は本件条項の法的拘束力の有無、設問2は通知の処分性とあった。法的拘束力の有無?なんの話だ?と思いながら問題文を読み進めた。あー、いわゆる紳士協定絡みの問題か。判断枠組み覚えてないわ。基本行政法に載ってたのにな。問題文に「開発事業許可制度をめぐる法内容に言及してね」みたいなことが書いてあったので、とりあえずこれをヒントに考える。まあ当事者の任意で締結したものにしても、法の内容とか趣旨に反してるものに拘束力認めるのはやりすぎだよな...これを規範にしてあてはめてみるか。合意の内容は…Bの以後の開発について一切認めないとするもの。そして、問題文には本件条項に関連する基準は法や命令にないとある。え、だとするとこんな合意に拘束力認めてもいいの?ダメでしょ。ということで、法的拘束力を否定する立論を組み立てた。都市開発許可制度は土地の乱開発を防ぎつつ発展をも目指すもので、開発の回数制限などを設けていないのは事業の流動性・発展可能性に鑑みて事後的な開発を許す趣旨にでたもの。本件条項は周辺の環境悪化に配慮したもので、乱開発防止という観点には合致するが、事業の流動性・発展可能性を考慮していない点で法の内容に即していない。だから、今回の条項はあくまでBに対して「厳しく念押し」するために設けられたもので、法的拘束力を有しない、とした。

設問2は…通知という事実行為の処分性。法律を見ると、事前協議なく開発した場合指導or勧告→勧告にかかわらず開発した場合違反是正措置命令等が発せられる、とあった。なんか予備H23に似てるような...あれは否定筋だった気もするけど。今回は当事者目線での主張とあったので、処分性を認める方向で頑張ることにした。反論は➀「指導だったら命令されないから法効果なくね」と②「命令段階で争えばよくね」かなあ。取りあえず書こう...➀については、この通知は命令までいくことをもってBの土地開発を制限する法効果性を有するとし、反論に対しては、指導があっても市が本件条項に従って事前協議応じない限り是正の余地がないんだから、勧告しかされんだろうという無茶な再反論を展開。②については、土地開発にかかるコストの点から、開発着手前に取り消す実益があると再反論。

なんかもやもやするけど時間なので終わらせよう。次だ次。

憲法を開くと、三者間でもLOでもない、単に憲法適合性を論ぜよという問い。去年もそうだけど、旧試形式に原点回帰したのかな。まあまともな判断だと思う。

テーマはメディアの取材制限法令の憲法適合性。うーん、あまり考えたことがない...取材の自由が21Ⅰで「保障」されるわけではないことくらいしかわかんないな。なんか犯罪等の定義と取材方法の制限範囲が怪しいので、ひとまず明確性原則と過度広汎性について軽くご挨拶しておいた。実体審査については制約態様がそんなにきつくないことを指摘して判断へ移行。手段審査のところで、メディアスクラムが起きるのは特定の事件とされているから、目的との関係では手段が広汎なんじゃないかという議論を展開。社会の関心なんていつ何に向くか分からないから、保護のためには取材規制となる対象事件を広く取っておく必要がある、として手段の広汎性を否定。最終的には今回の立法は憲法21Ⅰに反しない、と書いて終わり。

…なんか薄っぺらいような...他の人権も問題になるんだろうか...でも思いつかない。というところで試験時間終了。

お昼ごはんは、試験のときのお決まりであるミックスサンドとほうじ茶。片手で食べられるから、ノートを見返せる。あまり落ち着かない状況の中、刑事系の最終確認をした。

刑事系は自分にとって因縁がある。学部4年で論文不合格の決定的な原因となったのが刑事系なのだ。当時の成績は790位、その中で刑事系はF・Eだったのだが、刑法は問題文を読み違えて実行者と共謀者を逆に書き、検討する罪責も間違えるという圧倒的Fをかました。刑訴でも、変な思い付きからわけのわからない法理論を展開して終了。それ以来刑事系は「苦手科目」としてこびりつき、卒業までの間はひたすらその克服に力を費やした。ローでは友人に事例演習教材のゼミを組んでもらい刑法を特訓。刑訴も問研からやり直した。なんとしても今回はしくじらないぞ、と息巻いていた。

予備の刑訴は例年問題文がそんなに長くないので、答案構成に時間がかからない。そこで、刑訴答案構成10→起案55、刑法答案構成15→起案60とした。

そして刑訴を開く。一事不再理効の範囲か。怪しいと思って確認しておいてよかった。ただ問題は、頭の中にある「イワミヨサゴロー」の呪文。これは何かというと、「免訴判決に一事不再理効が生じるか」という問題提起について肯定するときの根拠条文のごろ合わせである(183条1項,435条6号)。今回の問題には関係ない話。しかし、何の論点に関する話だったかが思い出せず、一回書かずに答案を埋めた。

その後「なんだっけなあの条文のやつ...確か免訴判決に一事不再理効生じるかってやつだけど...でも講義では一事不再理効が出たらこの語呂を必ず思い出せって言ってたしな...もっと普遍的な問題提起なんだろうな」という思考過程を経た結果、「弁護人が形式判決求めることが出来るのかってやつだっけ」と誤った方向に走り、わざわざ答案を修正してミスを披露。書くんじゃなかった。

残り時間で刑法へ。「丙」という文字が見えたので、うげ、共犯かと思ったら問われているのは甲の罪責だけだった。ざっと見た感じ、養子縁組とあったので「あー偽造絡みか」と考える。事例演習教材であったな。最初から読み進めると賃貸借契約に関する話だった。目的を隠しての申込みね...利得詐欺か?行為自体は単なる申込みだし、挙動による欺罔の話になるかな。で、甲には支払意思も能力もあるから、財産的損害に向けられた行為なのかも問題になると。詐欺の論点はそこくらいかな。契約書作成行為は有印私文書偽造、交付行為が同行使か。偽造のところで名義人が誰かを厚く書こう。で、侵害を誤認した攻撃。んー、死んでるし誤想過剰防衛なのかな...。若干気になるのは誤認について過失があったと匂わせる記述。誤想防衛の成否には影響しない、最悪準用される36Ⅱの減免に際して考慮すればいいって書いたが、どうなんだろう。*1そして最後丙の腹を蹴ったことには傷害罪が成立するけど、傷害致死に吸収だろうな。罪数処理して終わり。これはみんな書けただろうが、自分にとってはFにならないことが大事だ。

刑訴に若干モヤモヤが残るが、刑事系も終了。初日最後は一般教養。こればっかりは現代文的に考えるしかない。

問題文を開いてびっくり。こんな長かったっけ?ていうかギリシャ神話ってなんだ。クレオンとアンティゴネの主張の要約、対立軸の抽出、現代において同様の対立軸が見られる例と、各立場からの主張の提示。

…んー、アンティゴネは国王の掟を破ったが不変の掟に従っただけ、不変の掟に逆らう掟には従う必要がないって言ってるのか。自然法と実定法みたいな話だな。対してクレオンは永遠の掟なんてないのだ、掟は守られてこそ意味があるみたいなことを言ってる。何であれ、掟を破ったアンティゴネの行為は許されないと主張しているわけか。

 対立軸については、行為の是非を判断するに際して規律自体を重視するのか、それともその行為自体を重視するのか、と定立した。現代だと安楽死とか尊厳死をめぐる議論がこれに近いような...。規律を重視するなら、殺人にあたり医療の本旨に反する安楽死尊厳死は許されない。一方で行為自体を重視するなら、これは自己決定の究極的場面であるから、個人の尊厳を尊重すべき。よって安楽死尊厳死も許されることになろうって感じか。

 気になるのは、「みんなが従ってるからいいんだ」「怖くて口に出せてないだけ」の部分について言及していないこと。個人的には上の部分に比べて重視するところではない感じもしたが...。

 へとへとになりつつも書き終え、何とか初日を終えた。帰路では刑事実務基礎のノートを見返し、家では最低限民事執行保全のところと準備書面の書き方だけ確認した。

 

3.2日目

 前日と同じ電車で五反田についたが、早くいっても開場待ちするだけなので朝食がてらカフェによることにした。この時間に空いているのはヴェローチェだけ。クリームパンとココアを頼むがやはりそわそわする。民事実務をほどほどに確認して、TOCに向かった。

 一科目目の実務基礎科目。時間配分は素直に1:1で、民事実務基礎から始めた。訴訟物やら請求の趣旨はうろ覚えながら書く。初歩的ながら、物権的請求の時「所有権に基づく○○としての...」の○○の最後に「権」ってついたっけ?と思いながら書いた。請求の趣旨は若干書き方が違ったので減点されると思われる。

 仮執行宣言の申立てをしなかった理由については、民執177あたりに意思表示擬制の規定があったし、それのことかなあと思いつつ記載。

 問題はYの再抗弁あたりから。94Ⅱの再抗弁...善意のことを書けばいいんだけど、何について知らなかったと書けばいいのかが思い出せなかった。結局○○所有でないことにつき知らなかったと書いたが、正確ではなかった。

 そして、今回できなかったのが2つの再々抗弁の検討。消滅時効の再抗弁に対する再々抗弁だから検討しうるものは限定されるのだが、問題文には時効完成前の弁済と時効完成後の弁済くらいしかヒントになる記述がない。前者が承認による時効更新を基礎づける事実、後者は時効援用権の喪失を基礎づける事実なのだろうか(ここが間違っているかもしれない)。再々抗弁のうち一つが主張自体失当になるらしいが、ここがイマイチ良く分からなかった。大島本では、時効完成後の利益の放棄と時効完成後の承認とがa+bの関係になる旨説明がされている。これを説明させたい問題だったと思われるが、そうすると再々抗弁は本来3つ検討できることになるのではないか(もしかすると、時効完成前の承認については再々抗弁にならないのかもしれない)。直感的に、時効完成後の承認は時効完成前の債務承認との関係で過剰主張になると書いたが間違っているだろう。

 準備書面については、認定される事実を有利・不利で振り分け、前者は力説して後者には反論を加える形で展開した。

 若干引きずりつつも刑事実務基礎へ、うげ、犯人性関連が2問も...。ひと通り書きはしたが、時間のなさから推認過程などが雑にしか書けなかったのが惜しい。公判前については条文指摘して終わり。ここもあてはめが雑やったなあ...具体的事実に即してって書いてあるのに。最後の勾留をどうにかして解け、という問題は勾留の執行停止を促すのが最初に思いつく。次に問題文中の裁量棄却却下決定に着目し、抗告の規定を引っ張り出した。

 正直言って実務基礎はいずれも誤りや記述の雑さが自覚できたので、書き負けていると考えられる。要件事実論は好きだが、もう少しきちんとやらないと修習で痛い目を見そうだ。

 ひとまず昼食。おにぎりを食べ、各まとめノートをざっと見返す。答案構成に時間のかからない商法→起案量の少ない民訴→時間をかけたい民法の順で解く計画を立てた。

 さて、商法。問題文を開くとなにやら怪しい空気が..。一問目は取締役の責任とその追及方法を書けというもので、追及方法は847-3と847だろうと目星をつけたが、Aの責任をどうやって書くべきか自信を持てなかった。子会社への監視義務みたいな適当なことを書いて認定したので、この点は減点必至だろう。やれやれ。

 設問2は467Ⅰ②-2のことを聞いているのは分かったが、当初括弧書きを逆に読んでしまい、「え、これ該当しないやんけ」という変な結論になった。あとで急いで書き直した。また自己株式取得についても適当に条文を引っ張って終わり。一人会社と株主総会決議の関係とか、変に考えさせないでくれ...。なお、設問2にある分配可能額の説明は、今回の自己株式取得が適法に行えることを示す(461Ⅰ②)にとどまると思われ、手続面には関連しないので答案では言及しなかった。

 適当に書き終えて民訴法へ。いずれの設問も判例への言及を要求しているようだ。でも何聞いてるんだこれ...。しかも問題文をみると、本訴で債務不存在確認請求してるところに給付請求の反訴が提起されていた。いや、本訴却下じゃん。設問1はなんで裁判所の心証を書いてるんだ...訴訟要件欠缺してるけど本案についての心証を抱いているときに本案判決できるかって話か?あれは請求棄却の時の話だし、新堂説とってもあんまり実益ないしなあ...迷いつつ、新堂説を展開しながら結局却下する迂遠な答案になった。

 設問2はどうやら一部請求で請求棄却された後の残部請求の可否と、損害賠償請求に係る前訴確定判決が出た後に後訴で後遺症に基づく損害賠償請求をすることの可否が聞かれてるっぽい。前者について判例にしたがえば、後訴での請求は無理そうだな。でも、後遺症に関する判例を援用すると、後遺症に基づく損害賠償請求権の存否までは審理されていたとはいえないから、なお後訴請求しても判例に抵触しないのかもしれない。とりあえずその方向で書こうか...。このあたりからマスクのせいで酸欠になりはじめ、頭痛がしていた。

 民訴も書き終えて、残り1時間20分で民法に突入。設問をみると、1問目は無権代理人が後見人に就任したときの追認拒絶の可否が聞かれているようだ。これ付箋でわざわざ追加したやつだな。確か後見人の地位に鑑みて、本人と同じ地位に立ってする追認拒絶が否定されるわけではなかったはず...請求はできないってことでいいや。117Ⅰで責任追及できるしOKとしておこう。*2

 さて設問2だ。詐欺取消しして抹消登記手続請求したいけどAが渋っている場面で、債権者Dが取り得る方法を複数かけ、か。まあ1個は詐害行為取消だろう。もう一個は詐欺取消に基づく原状回復義務履行請求権の代位行使かな。他もあるだろうが頭が痛くて余裕がない。

 詐害行為の要件検討していこう...被保全債権よし、無資力よし、詐害行為よし、問題はAの詐害意思だ...売却代金を債務弁済のあてにしようとしていることからみると、本件不動産の売却がDを害することについて認識していない気がするぞ。ここで切れる気がする。

 債権者代位については消極要件が問題になるのかな。取消権については120Ⅰあるし一身専属権ではないだろうな。423Ⅱ本文は検討するまでもなさそう。3項は正直良く分からんが、民執177Ⅰが意思表示の強制を認めてるんだし問題ないだろう。こっちは行けそうだな。記述終わり。

 頭がくらくらするなか、最後の民事系科目の試験時間が終了した。へとへとになりながら、ローの同期と夕食を取り、肩の荷が下りたにもかかわらずがちがちの体を引きずって帰路についた。

4.全体を通して

 学部4年の時とは違い、「ああ…終わった」という科目はありませんでした。もちろん書き間違えた場所やもっと丁寧に書きたかった場所は山ほどありますが、ここは普段の書き方の悪さが出ただけだろう、しょうがないと割り切るしかありません。また、出題分野については、基本的には今までにやった教材と自作ノートで対応できていることが分かりました。

 あとは評価を待ち、本試に向けた調整の参考にしたいと思います。一科目はAが欲しい、と思っていましたが...どの科目も書き方が薄かったり誤りがあったりで、正直厳しいかもしれません。

 

【2021/1/21追記】

予備試験論文式試験に合格していました。憲法の評価は予想より低かったのですが、そのつもりで残りの期間を充ててあるのでまあ良いでしょうという感じ。今回の出題で決め切って良いのか不明なものの、刑事系はある程度苦手意識を克服できたんじゃないでしょうか。ほかはおおむね予想通りとなりました。

憲法はもう少し点を取る書き方の習得が必要ですね。本試までの当分の課題となりそうです。

他科目については、事実摘示の漏れ・評価の拙さ・小論点の取りこぼしや積極ミスといった詰めの甘い部分を仕上げていくことになると思います。

ひとまず、口述試験で落とされないように必死で勉強します。

 

 

                                    以上

 

*1:誤想過剰防衛において、誤認について過失があった場合は誤想過剰防衛の成否にかかわらず過失犯が成立します。したがって、傷害致死罪は成立するものの36Ⅱの任意的減免が行われ、これとは別に過失致死罪が成立するというのが正しい構成と思われます。自作ノートにばっちり書いてあるのに忘れました。

*2:付箋によると、無権代理人のした行為が本人の利益と相反しない場合は後見人の就任とともに行為の効果が本人に帰属し(判例)、利益相反がある場合は本人の保護の要請と相手方の保護の要請とを比較して前者が後者に優越するときに限り追認拒絶しうる、とのことです。自分の構成はこの分岐を意識できていないので雑ですね...。

予備令和元年憲法 構成メモと考察

 以前構成メモの順番を宣言した気がしますが、僕の復習の便宜上こっちを先にあげておきます。

 

1.雑感

 エホバと日曜授業参観事件を足して2で割ったような事例で、旧司H12のアレンジ?という感じがした。分量的にきつく、後述する教育を受ける自由に言及する余裕はないように思える。

 

2.構成メモ

第1 法律上の争訟性

1 

⑴ 「法律上の争訟」(裁判所法3Ⅰ)といえるためには、①具体的な法律関係・権利義務の存否に関する紛争で、法律の適用により終局的に解決することが可能なものであること、②一般市民法秩序に直接の関係を有する紛争であり、裁判所の審判が可能であることと言える必要

⑵ 主張方法によって①をみたすことは可能だが、本件では学校における低評定が争われているため②が問題になる

  確かに、退学と異なり、評定そのものは対内的な問題であるから、②をみたさないとの反論もありうる

  しかし、成績評定は高校進学に際して選抜資料とされるため、乙中学校内にとどまる問題にはならない

→一般市民法秩序と直接の関係を有するから、②をみたす

2 低評価を争う場合、これは法律上の争訟にあたる

第2 Xの体育成績につき低い評定をしたことの問題

1 

⑴ Xの信教の自由を侵害しないか

⑵ 憲法の前国家的性格に照らし、権利の性質上外国人に保障が及ばないと解されるものを除き外国人にも憲法上の権利が保障される(マクリーン)

→20Ⅰ前段で外国人にも信教の自由が保障されることに言及。

  XはB教の信者で、家庭内以外において肌・髪を露出したり体型の分かる服装をしたりしないという行為は、B教の戒律の実践

→水泳の授業についてB教の上記戒律を実践するため、見学する行為は信教の自由として20Ⅰ前段で保障

⑶ 本件でXは戒律に従い水泳を見学し、自主的にレポートを提出していたが2の低評定をつけられ、それが原因で高校を不合格になった

 →Xの上記行為の自由が制約されている  

⑷ 信教の自由は個人の人格的生存と不可分の関連を有する重要な権利+水泳が各学年で必修であることとの関係上、回避できない制約を受ける

 →厳格な審査基準の下、①代替措置を設けず、他の生徒と一律の基準で成績評定を付する目的がやむにやまれぬ必要不可欠のものと認められ、②当該手段が目的達成のために必要最小限といえなければ、当該低評定は20Ⅰに違反する

  成績評定に関しては学校及び教員に裁量が認められること、低評定による信教の自由への制約は間接付随的なものにとどまることから、審査基準は緩やかにすべきとの反論が考えられる

確かに、成績評定に際し学校・教員に裁量が認められる。また、本件低評定はB教を信仰していることを直接の理由とするものではない

 しかし、運動が得意であるXに2がついたことに、水泳の授業に参加できなかったことが影響しているのは明らか。そして、その不利益は自らの将来にかかわる重大なもの

→間接的制約とはいえ、その程度は強いから、審査基準はなお厳格にすべき

2 個別具体的検討

⑴ ①について

 代替措置をとらず一律取扱いをするのは、政教分離原則(20条3項)への抵触を避けるためとの学校の主張

 代替措置が「宗教的活動」にあたるなら、憲法上の要請をみたす目的はやむにやまれぬ必要不可欠な目的といえる

(ア) 政教分離原則は、国家と宗教とが相当の限度を超えて関わり合うことを防止することをもって、少数者の信教の自由を確保するもの

 →B教信者につき代替措置を設けることが、国家と宗教との相当の限度を超えた関わり合いと評価されるなら、代替措置は政教分離原則に反する

  代替措置は宗教性が明らかでないから、①’行為の目的が宗教的意義を有し、②’当該行為が一般人をして特定の宗教を援助助長促進し又は圧迫干渉しているものと認められる場合は相当の限度を超えた関わり合いを有する「宗教的活動」にあたると評価される

(イ) 代替措置は、宗教上水泳に参加できない者について、水泳の参加に代えて別途課題等を課すことにより、当該部分の成績評価を行おうとするものであって、その目的に何ら宗教的意義は見出されない

 →①’に該当しない

  また、授業参加に代わる負担を求めるのであるから、他の生徒に比してXを優位に取り扱うことにはならず、援助助長促進といった効果は認められない。そして、生徒の宗教的多様性に配慮した措置をとっているのであるから、特定の宗教について圧迫干渉する効果を有することにもならない

 →②’に該当しない

  よって、代替措置をとっても政教分離原則には反しないから、成績評価につき一律の扱いをする目的はやむに已まれぬ必要不可欠のものとは言えない(①不充足)

⑵ ②について

  たしかに、政教分離原則との抵触の回避という目的と成績評価一律取扱いという手段との間には適合性が認められる

しかし、前述の通り、戒律の内容上、生徒がB教の戒律を厳守する信者であるかは外観から容易に判断しうる。また、代替措置を怠学の口実としているかは教師が生徒に確認することで判断可能

→代替措置の要望が真に信仰に基づくものかを判断することは困難でない

また、仮にXの要望に応えたとしても、同様の理由で代替措置を希望する生徒は多くて4分の1にとどまるから、水泳授業の実施に大きな影響は生じないと考えられる

 よって、代替措置というより制限的でない手段によっても、政教分離原則への抵触は回避できるから、一律取扱いには必要性・相当性が認められず、必要最小限度の手段とは言えない(②不充足)

3 以上より、Xにつき代替措置を認めず2の評定をつけたことは、20Ⅰ前段に違反する

                                                                           以上

3.考察

⑴ 政教分離原則に関して

 分析本でも指摘されていなかったのだが、政教分離原則に関する問題が出た場合は、国家がいかなる形で何に関与するのかを明らかにしたうえで根拠条文をあげなければならないはず。今回の場合、学校が成績評定に際し特定の宗教を信仰する生徒に代替措置を認めることは、いずれの条文に抵触するのかを指摘しなければならない。

 神戸高専剣道受講拒否事件判決(最判平8.3.8)では、代替措置を認めることが特定の宗教を援助する事にはならないとして、20条3項への抵触を否定している(この判例は裁量統制の判断枠組みを採用しているが、必ずしもその判断枠組みに即した検討をする必要はないだろう)。

 日本語としては、20Ⅰの「特権」を付与する場合に該当するのではないか、という問題意識が素直にも思えるが、ここにいう「特権」は宗教団体に向けられたものである必要があるから、個人への特権付与はこれにあたらない。

 そして、20Ⅲの「宗教的活動」は宗教教育を例にとった規定であり、目的効果基準を満たす行為であればこれに該当する。

 

⑵ 外国人の教育を受ける権利に関して

 宗教上の理由で水泳に参加できない生徒について、代替措置も認めないことは、その生徒が体育科目について教育を受ける権利を制約していることと等しい。

 もっとも、一般に、外国人には社会権(=not自由権)は保障されないと解されている。では、上記問題意識が外国人に妥当するのか。

 私見に過ぎないが、義務教育については外国人であれ日本人であれ、教育を受けることができるという権利原形がすでに獲得されているように思う。剣道受講拒否事件で裁判所が代替措置をとらせることを検討したのも、それを行わないことによって生徒の科目教育を受ける権利が侵害されたことになるからだろう(もし純粋な請求権と捉えるなら、自分の意思で受講を拒否した生徒に権利侵害はなく、代替措置をとる必要もないと考えられるためである)。つまり、教育を受ける権利に関しては、上記の一般論は妥当しないと考えるべきではないか。

 そうすると、代替措置をとる要請(→教育を受ける権利の保障、今回のように信教上の理由から不利益を被る場合には信教の自由も)と、宗教的中立性の要請(→政教分離原則の遵守)とが、緊張関係に立ちうるのである。

 ...出題趣旨を読む限りはこのような問題意識を感じ取ってほしいようだけれども、答案用紙4枚で法律上の争訟性と人権問題2つを書くのは正直厳しい。教育を受ける権利について言及するなら、外国人にも保障が及ぶかについてのみ厚く書き、他の所は信教の自由で検討していることから簡潔に指摘するにとどめるのがベターか。

 

                                   以 上

本試令和元年商法 構成メモ

1. 雑感

 設問1が手続比較、設問2が新株予約権無償割当ての差止請求の可否、設問3が総会・役会間における権限分配という何もかもが新しい問題だった。設問3はローで扱っていたため、先生の見解に従い処理した。仮に決議を有効と解した場合、決議順守義務と任務懈怠責任との緊張関係が生じる。総会決議に従ったことを任務懈怠と評価することは難しいため、取締役は責任を負わないことになるが、それは換言すれば無責任経営を招きかねないということである。そのため、個別事情の下それを考慮すべきであったのに考慮せずに総会決議に従ったときは任務懈怠が認められるといったアプローチを採る必要がある(下記構成メモ参照)。

2. 構成メモ

設問1

1 甲社の臨時株主総会を乙社自らが招集する場合

(1)297Ⅰに基づく招集請求

(2)297Ⅳ各号のいずれかに該当する場合には、裁判所の許可を得て自ら招集可

(3)株主自らが招集決定をし(298)、総会の二週間前までに招集通知を発し(299)、必要に応じて株主総会参考書類・議決権行使書面(298Ⅰ③の事項を定めた場合)を株主に交付する(301,302)

298Ⅰ括弧書参照

 

2 甲社の定時株主総会開催にあたり株主提案権を行使する場合

303Ⅰに基づく株主提案権の行使

甲社は監査役会設置会社なので、取締役会設置会社にあたる(327Ⅰ②)

→少数株主要件・総会の日の八週間前までの期間制限が課される(303Ⅱ,Ⅲ)

 

3 両者の比較

(1)乙社自らの総会招集のメリット・デメリット

メリット:自らがイニシアチブを取って総会を開催出来るため、後者と異なり会社が開催に消極的な場合でも自らの要求を実現しやすい

デメリット:招集手続を自ら行う必要があるため後者より負担が大きい

(2)株主提案権行使のメリット・デメリット

メリット:前者より小さい負担で自らの要求を実現しうる

デメリット:前者と比べ期間制限がタイト・会社が提案を採用しない可能性があり、要求が実現するとは限らない

 

設問2

 

1 乙社の主張

新株予約権無償割当て(277)についても、247の類推適用により差止請求ができる

②本件新株予約権無償割当ては乙社のみを差別的に取り扱うもので株主平等原則(109)に違反し、247①に該当する

➂本件新株予約権無償割当ては経営権を維持する目的でなされた「著しく不公正な方法」により発行されたものであり、247②に該当する

 

2 各主張の当否

(1)①について

事前に差し止めることにより既存の株主の利益を保護を図るという247の趣旨は新株予約権無償割当てにも妥当→類推適用可

(2)②について

ア 新株予約権無償割当てが新株予約権者の差別的な取扱いを内容とするものであっても、これは株式の内容等に直接関係するものではないから、直ちに株主平等の原則に反するということはできない 

  →しかし、278 Ⅱは、株主に割り当てる新株予約権の内容が同一であることを前提としているものと解される

 →109 Ⅰに定める株主平等の原則の趣旨は,新株予約権無償割当ての場合についても及ぶというべき

 → 当該取扱いが衡平の理念に反し、相当性を欠くといえる場合、同原則の趣旨に反すると考える

イ 個別具体的検討

 乙社の従前の投資手法からすると、乙社は甲社の事業により利益をうむ意図がない

 また、甲社の事業に対し理解を示していない

→乙社による経営支配権の取得に伴い、甲社の存立・発展が阻害されるおそれがあり、甲社の企業価値がき損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されかねない

また、適法な株主総会において株主の過半数である67%の賛成を得ている

→本件新株予約権無償割当ては係る危険を回避し会社の利益及び株主の共同の利益を守る目的でなされたものであり、目的は衡平の理念に反せず正当

 ほか、乙社に対しては買い増しを行わない旨確約した場合に甲社が新株予約権を全部無償取得する経済的補償措置も講じている

→手段として相当性を欠くものではない

 よって、株主平等原則の趣旨には反しないから、主張②は妥当でない

(3)➂について

ア 株主に割り当てられる新株予約権の内容に差別のある新株予約権無償割当てが、主として経営支配権を維持するためになされた場合、その新株予約権無償割当ては原則として「著しく不公正な方法」によるものと解すべき とする見解がある

 しかし、資金調達を目的とするものではない以上、「不公正な方法」あたるか否かは個別具体的事情に照らして必要性・相当性が認められるかで判断すべき 

 具体的には、当該割当てがなされた経緯や買収者への損害回復措置の有無などの諸般の事情に照らし、それが会社の企業価値ひいては株主の共同の利益を維持するためにされた相当なものと評価できる場合には、2 号には該当しない

イ 個別具体的検討 

 本件新株予約権無償割当ては甲社が経営権を維持する目的で行ったもの

 もっとも、前述の通り、乙社による投機的買収を防ぐ目的で行われた 乙社に対しては救済措置も講じられていたことに照らすと、甲社の企業価値ひいては株主の共同の利益を維持すべく行われたものといえる

→「著しく不公正な方法による発行」とはいえない

よって、主張➂も妥当でない

 

設問3

 

1 本件決議1の効力

(1)定款変更により取締役会の業務に属する事項を株主総会決議によってもすることが出来るようにすることが許されるか

→295Ⅱ,309Ⅴの趣旨:大規模会社において経営に属する事項を取締役の決定に委ねることで機動的経営を確保する

→原則として公開会社においては権限委任は許されないが、株主の意思を尊重する要請も鑑み、公開会社の場合小規模であれば併存型の権限委任は許されると考えるべき

(2)甲社は上場会社であり相当程度の規模を有すると考えられる→併存型権限委任は不可

(3)かかる定款変更をみとめる本件決議1は無効

2 Aの責任

(1)「役員等」

充足

(2)「任務を怠った」

善管注意義務違反(本件決議1が無効である以上、本件決議2に従う必要はなかったにもかかわらず、他の取締役の意見や損害の見込みを重く考慮せずに売却に踏み切った)

(3)故意又は重過失

少なくとも重過失あり

(4)「損害」の発生

50億円をくだらない損害

(5)任務懈怠と損害の因果関係

あり

(6)Aは甲社に対し423Ⅰの責任を負う

 

【解説】

設問1について

・制度比較なので、原告の主張に沿う形で条文を拾えるだけ拾ってそれぞれのメリット・デメリットを書けばよい。

・株式保有期間要件の「引き続き」に注意。その期間中、ずっと比率が下回らなかったことに言及する必要がある。

 

設問2について

最判平19.8.7 百選 100 ブルドッグソース事件。平等原則の趣旨に反しないと評価するにあたり、裁判所は①利益の帰属主体である株主の大多数が賛成していたこと②手続的な瑕疵がないこと③買収者に対する経済的補償がなされていることを考慮している。

 

 設問3について

判例は非公開会社についてであるところ、答案構成例は無責任経営の弊害を考慮して、公開会社については部分的にしか併存型権限移譲を認めない見解をとった。

併存型権限移譲を認める場合は、本件決議1が有効となるから、取締役に対し拘束力を生じることになる(355)。この場合、決議を遵守したことを理由に安易な免責を認めると無責任経営の危険が生じるので、慎重に任務懈怠を認定すべきであろう。私見であるが、総会決議に背いてでも個別的事情を配慮して業務を決定すべき特段の事情があった場合には、総会決議に従ったことが善管注意義務違反を構成すると考えることになろう(修了生の方はそのアプローチもありうるといっていた)。

                                     以上

本試30年商法 構成メモ

1. 雑感

設問1では会計帳簿閲覧請求に関する論点が初めて出た。知らなかったので書くのに手間取った。設問2は問題文で論ずべき点が制限されていることや、契約内容⑶の存在から120条への誘導がされていると分かる。また、脚注で述べた通り本件決議2は取消しの訴え自体が不適法となりうるため、その立場を採る場合は構成の段階から工夫が必要となる。設問3は見るからに現場思考で飛びつきたくなるが、論じるべき点は売渡し請求の可否だけではない。決議取消し系が来たら必ず特別利害関係株主の存在を疑うべしと学ばされた。

 なお、この年については自主ゼミメンバーと議論をしつつ参考答案を書き下ろした。7枚に収まる現実的な答案で、A評価に相当するものと自負している。脚注も含め参考にしていただけたら幸いである。

2. 参考答案

第1 設問1

1  

(1)Dは、会社法433条1項にしたがい会計帳簿の閲覧請求をしている。

ア Dは甲社株式を200株有しているところ、これは「発行済株式の...百分の三...以上」にあたるから、閲覧請求者としての適格を有する。

イ また、Dは甲社の「営業時間内」に本件閲覧請求をしている。

ウ そして、Dはリベートを受け取っている疑いのあるAの、取締役としての損害賠償責任の有無を検討するためとして、総勘定元帳及びその補助簿のうち仕入取引に関する部分について本件閲覧請求をしている。したがって、「当該請求の理由を明らかにして」いるといえる。*1

(2)   以上より、Dの請求は基礎づけられる。

2(1) これに対し、甲社は432条2項各号に該当する事由があると主張して本件閲覧請求を拒むことが考えられる。本件では1号及び3号該当性が問題となる。

⑵3号該当性*2

3号は、閲覧請求者が①閲覧を求めている株式会社の業務と「実質的に競争関係にある事業」を②「営み、又はこれに従事するもの」である場合に、当該閲覧請求を拒めるとする。

ア ②要件

Dは乙社の事業を「営み、又はこれに従事するもの」にあたるか。

Dは経営には全く関与していないことから、乙社の事業に対する影響力を有していないようにも思える。

しかし、Dは乙社の全株式を保有しているため、乙社の経営を意のままにすることができる。また、乙社代表取締役Fの親であるから、その密接な人的関係に照らせば、FがDの意思に沿った行動をすることが考えられる。したがって、DはFを通じて乙社を経営しているとみてよい。

よって、Fは乙社の事業を「営み、又はこれに従事するもの」にあたるから、Dもこれに該当し、②をみたす。

イ ①要件

(ア) 3号が拒絶事由として定められている趣旨は、競業者が内部情報を利用して当該株式会社の利益を害することを防止する点にある。そこで、「実質的に競争関係にある」といえるかは、内部情報を利用されることにより当該株式会社の利益が害される蓋然性があるか否かを客観的に判断することによって検討する。

(イ) 本件で、Dが全株式を有する乙社は甲社と同じハンバーガーショップを経営している。そのため、甲社の機密情報が乙社に利用される懸念は存する。

もっとも、甲社は関西への出店を予定しておらず、関西で店舗を展開する乙社と地域における競合は生じない。そのため、乙社が本件閲覧請求によって得た情報で有利に事業を遂行したとしても、甲社の利益が害される蓋然性があるとまではいえない。

したがって、乙社の事業は甲社と「実質的に競争関係にある」とはいえず、①をみたさない。

ウ よって、3号には該当しない。

⑶1号該当性

本件閲覧請求は「株主...の権利の確保又は行使に関する調査以外の目的」でされたものにあたるか。

確かに、Dが本件閲覧請求の理由として提示したのは株主として取締役の責任追及をするか否かにかかる事項である。そうすると、上記の目的でなされたものとはいえないとも思える。

しかし、Dが本件閲覧請求をした本来の目的は自己の保有する株式を買い取らせることにあり、閲覧請求の理由と関連性を有しないものである。

したがって、本件閲覧請求は上記の目的でされたものといえる。

よって、本件閲覧請求には1号に該当する事由がある。

3 以上より、甲社は1号該当事由がある旨主張して432条2項に基づき本件閲覧請求を拒むことができる。

第2 設問2(1)

1 前提となる問題

(1) 「株主等」であるCは、本件決議1・2のあった平成27年3月25日から「三箇月以内」である平成27年4月15日に本件決議取消しの訴え(831条)の訴えを提起していることから、同条1項柱書の訴訟要件をみたしている。

(2) また、本件決議2は否決決議であるところ、否決決議を取り消したとしても法律関係には何ら変動が生じないことから、本件決議2の取消しの訴えについては不適法であり認められない。*3

以下、各本件決議についてCの立場から主張されると考えられる点、及びその主張の当否について検討する。

2 本件決議1について

本件決議1に際してはAがDの議決権を代理行使しているところ、これは甲社による利益供与(120条1項)の影響を受けたものであるから、決議の方法に法令違反があるとして決議取消事由を構成する(831条1項1号)との主張が考えられる。これは認められるか。

(1)利益供与(120条1項)該当性

ア 利益供与の対象

本件では後述するようにAが甲社の株主ではないGに対して「財産上の利益の供与」をしているが、120条1項は「何人に対しても」としていることから、この点は問題ない。

イ「財産上の利益の供与」

甲社はGの丙銀行に対する債務を連帯保証するに際し、保証料を取らない旨の合意をしている。本来であれば60万円をくだらなかった保証料の支払を免れさせている点で、これは「財産上の利益の供与」にあたる。

ウ「株主の権利の行使に関し」

本件契約(3)に照らせば、上記の「財産上の利益の供与」は、甲社が自身にとって望ましくない株主であるDの議決権行使を阻む目的で、第三者であるGにDの株式取得のインセンティブを付与したものである。したがって、「株主の権利の行使に関し」てなされたものといえる。

エ「当該株式会社...の計算においてするもの」

甲社が保証料の支払を受けるとすれば、その利益は甲社に帰属していたのであるから、 本件利益供与は「当該株式会社...の計算においてするもの」にあたる。*4

(2) 以上より、CはAによるDの議決権の代理行使は利益供与の影響を受けてなされたものであるとして、120条1項に違反し決議取消事由を構成する旨主張することができる。

3 本件決議2について

(1) AがCの説明を途中で打ち切り決議に移ったことは、315条に違反し831条1項1号の決議取消事由に該当しないか。

ア 株主総会議長には議事進行について裁量が認められているため、説明の打ち切りも含め議事の進行に必要な措置をとることができる(315条)。しかし、株主の適切な議決権行使の要請から、無制限に認められるべきではない。

そこで、説明の打ち切りは、正当な理由が認められる場合にのみ許容されると考える。

本件のような取締役解任決議においては、解任の理由が取締役に対する損害賠償の要否に関わってくるため(339条2項)、特に重要である。そのため、解任理由の説明を打ち切ることは特段の事情がない限り正当な理由のないものとしてみるべきである。

イ 本件で、AはCがAを解任する旨の議案を提出した理由について説明しようとする前にこれを制止している。これは専らAがリベート受取りの嫌疑について明らかにされることを防止すべく行ったものといえ、正当な理由はなく、打ち切りを許容する特段の事情もない。

したがって、本件説明の打ち切りは、Cの裁量を逸脱したものであり、315条に違反する。

(2) もっとも、前述したように、本件決議2の取消しの訴えは不適法却下されることとなるから、訴えにおいてこの主張は認められない。

第3 設問2(2)

1 Cは、株主代表訴訟を通じてAに対し423条に基づく損害賠償請求を、Gに対し120条3項に基づく利益の返還請求をするよう甲社に求める訴えを提起し、仮にこの請求から60日経過しても甲社が提訴しない場合には自ら提訴することになる(847条1項、3項)。

Cは公開会社でない甲社の「株主」であるから、上記の訴訟の原告たりうる(847条2項、1項)。

2 Aに対する請求

Aは423条1項の責任を負うか。

(1) Aは甲社の代表取締役であるから、「役員等」にあたる。

(2) 「任務を怠った」とは忠実義務(355条)及び善管注意義務・忠実義務(330条,民法644条)に違反することをいうところ、 前述のようにAはGに対する利益供与行為(120条1項)をしているから、法令に違反し忠実義務に違反したものとして「任務を怠った」といえる。また、少なくともCには重大な過失も認められる。

(3) 上記の任務懈怠行為により、会社には少なくとも860万円の「損害」が生じている。

(4) よって、Aは甲社に対し423条に基づく損害賠償責任を負い、かかるCの主張は認められる。

3 Gに対する請求

GはAから「利益の供与を受けた者」にあたるから、当該利益として本来支払うべきであった保証料相当額の60万円及び甲社がGに代わって弁済した800万円について返還する責任を負う(120条3項)。したがって、Cの上記の主張は認められる。

第4 設問3

1 Bは「当該決議の取消しにより株主...となる者」として、平成27年7月3日から「三箇月以内」に、Cの売渡し請求に関する議案の決議を取り消す訴えを提起することにより本件請求の効力を否定することが考えられる(831条1項)。

ここで、Cによる議決権行使があったことは831条1項3号の決議取消事由を構成するか。

Cは売渡請求をした本人であり、かかる決議が可決することで自分のみがBの株式を取得することが出来ることとなる。したがって、「決議について特別の利害関係を有する株主」にあたる。

そして、決議に際してCのみが議決権行使をした結果これが可決されBが株式を失ってていることから、Bに著しい不利益が生じる決議がされたといえ、「著しく不当な決議がされた」ことが認められる。

よって、Bはこの主張により本件請求の前提となった株主総会決議を取り消し、本件請求の効力を争うことが出来る。

なお、この瑕疵が決議に影響を及ぼすことは明らかであるから、裁量棄却(831条2項)の余地はない。

2 また、BはCの本件請求が権利濫用(民法1条2項)にあたるとの主張をすることが考えられる。これは認められるか。

(1) 甲社定款9条は、会社法174条に従い定められたものであり、Cの本件請求もこれに基づいてなされたものであるから、本件請求自体は適法である。

(2) もっとも、この株式売渡請求は権利の濫用(民法1条3項)にあたり許されないとのBの主張が考えられる。

 174条の趣旨は相続等の一般承継によって閉鎖会社にとって望ましくない者が株主と なることを防止し、もって既存株主の保護を図る点にある。

 そうだとすれば、本条に従い定められた定款に基づく請求は、株式取得の原因となった事由によっても株主の構成が従前から変化しない場合にまで認める必要はないことになる。

 そこで、定款自治及び既存株主の保護の要請と株式の承継取得人の保護の要請との調整を図る見地から、株式取得の原因となった事由によっては株主の構成が従前と変わらない場合において、承継取得人を害する目的でなされた売渡し請求は、権利濫用にあたり許されないと考えるべきである。*5

(3) 本件で、BはAからの相続を原因として甲社の株式を取得しているところ、これによっても甲社の株主の構成は従前と変わらない。

また、Cは従前、Aの退任後はBが代表取締役となることに合意していたにもかかわらず、これに背いてBを排除し自らが代表取締役の地位にとどまるべく本件請求をしている。かかる事情に照らすと、本件請求はBを害する意図のもとになされたものと言わざるを得ない。

(4) したがって、Cの本件請求は権利濫用にあたるものとして許されないとのBの主張は認められる。

                                                                     以 上     

*1:2021/2/8追記:三段論法を徹底し、事情を拾いきるという観点からは、「433Ⅰが理由の提示を要求する趣旨が会社に対し開示を要する会計帳簿の範囲を認識させ、433Ⅱの拒絶事由の有無を判断する資料を与えることにあることに照らし、「理由を明らかにし」たといえるためには、示された理由が会社をして①請求と関連性のある会計帳簿を特定でき②拒絶事由の有無につき判断できる程度に具体的なものである必要がある」という規範を定立したうえであてはめる方がよい。

*2:1号が認められ、3号が認められない関係上、認められない3号を先に検討している。

*3:争いがあるが、近時の裁判例では訴えを不適法としているため、それに従った。ここで本件決議2について検討を終わることもできるが、問題文の事情を使いつつ裁判例への理解を示すために一応の先出しをし、最後に再確認している。

*4:2020/2/8追記:イーエも、解釈論を示したうえであてはめる方がよい。

*5:これについては完全な私見であり、他の構成も採りうるであろう。