One's Note

一橋ロー入試対策情報・司法試験過去問・修習雑記

本試平成27年民事訴訟法 構成メモ

 

1. 雑感

 設問1は、知っている部分(第一・第二の点)についてはその通り書けばいいのだが、第三の点は正直考えたことがなかったのでその場で理屈をこねくり回した。

設問2と設問3は「ロースクール演習民事訴訟法」に類題があるので、書ける人はしっかり書けるんだろう。配点が同じということは分量も大体同じくらいになるはずだが、設問2は設問3よりもだいぶ短くなった。

 

2. 構成メモ

 

【設問1】

1⑴ 平成3年判決が、本訴及び別訴が併合審理されている場合においても別訴請求債権を自働債権とする相殺の抗弁を不適法とする理由は、弁論の分離(152Ⅰ)により判断が区々となって既判力が矛盾抵触するおそれが否定出来ないからである

しかし、反訴については本訴と同一手続内で審理され、弁論の分離(152Ⅰ)が禁止されると解される→本訴請求権及び反訴請求権について合一的に審理がされることが保障されるから、本訴判決及び反訴判決が確定したとしても、両者の既判力が矛盾抵触するおそれはない

⑵ 反訴での請求が本訴における相殺の抗弁との関係で予備的反訴に位置づけられた場合、相殺の抗弁につき既判力ある判断がされたならば、反訴での請求については審理されないから、反訴原告が享受する利益は前者のみとなる また、相殺の抗弁につきそのような判断がされない場合には、相殺に供した反訴請求権の存在が認められないということになるから、反訴原告がそれについて債務名義を得ることはない

 よって、平成3年判決のいう二重の利益の享受は生じ得ない

⑶ したがって、平成18年判決と同様の事例である本件において反訴請求債権を自働債権として本訴請求債権と相殺する抗弁を適法と解しても、平成3年判決とは抵触しない

2⑴処分権主義に抵触しない理由

ア 処分権主義の一般論証→処分権主義に抵触するかは①反訴原告の合理的意思に合致するか②当事者にとって不意打ちとならないか、という観点から検討

イ たしかに、予備的反訴として扱われることによりYの意思にかかわらず審理の順位を決定されることになる

しかし、Yとしては反訴請求権につき簡易迅速かつ確実な回収が行えればよい→反訴で請求認容判決を得られる場合はもちろん、本訴で相殺の抗弁が認められることにより反訴の審理なくXの請求を免れることのいずれであっても、Yの合理的意思には合致しているといえる(①)

 また、Xの損害賠償請求権は、請負契約に基づく報酬請求権との関係では代金減額請求権としての側面を有する→相殺の抗弁が認められようが本案判決を得ようがXにとって利益となるし、そのような処理がなされることはXYの予測の範囲内(②)

 したがって、平成18年判決がいうような取扱いをしたとしても処分権主義には抵触しない

⑵反訴被告の利益を害しない理由

 反訴請求について本案判決を得ることによる原告の利益は、反訴請求権の存否について既判力のある判断を行ってもらうことにより、以後当該請求権を行使されることを防止することにある

もっとも、相殺の抗弁が認められれば114Ⅱで反訴請求債権の不存在について既判力が生じることから、反訴請求について本案判決を得なくてもその後に反訴請求権を行使されることは防止できる 

したがって、訴えの変更の手続きを要せずして予備的反訴として扱われても、反訴被告の利益が害されることにはならない

【設問2】

1⑴ 第一審判決を取り消してXの請求を棄却する旨の判決が確定した場合には、XtoY損害賠償請求権の不存在につき既判力が生じるが(114Ⅰ)、YtoX報酬請求権の存否に関して既判力は生じない

⑵ 第一審判決が控訴棄却判決により確定した場合、XtoY損害賠償請求権の不存在のみならず、相殺の主張に係るYtoX報酬請求権の不存在についても既判力が生じる

⑶ 両者を比較した場合、前者の判決をすると第一審判決が控訴棄却によって確定した場合と異なり、Yは別訴においてXに対し改めて報酬請求することができるようになる これは許されるのか

ア 不利益変更禁止の原則、一般論を展開

イ 控訴審が1⑴の判決をして確定した場合、XはYtoX報酬請求権について改めて請求をされ得る地位に立たされる これは第一審判決との関係で不利益変更にあたるから、許されない

2 控訴審としては控訴棄却判決によって第一審判決を維持するべき

【設問3】

1 Yの主張

不当利得返還請求が認められる要件は、①利得②損失③①と②の因果関係④法律上の原因がないこと

YはXに対し請負契約に基づく報酬請求権を有しているところ、XのYに対する損害賠償請求権を受働債権とする相殺により、Xは請負代金の支払を免れる一方(①)、Yは請負代金の請求が出来なくなっている(②) ①と②との間には因果関係が認められるところ(③)、XのYに対する損害賠償請求権は存在していない以上相殺は認められないはずであるから、Xの利得には法律上の原因はない(④)

2 既判力に関する検討

⑴ 前訴の訴訟物→債務不履行(契約内容不適合)に基づく損害賠償請求権 後訴の訴訟物→不当利得に基づく損害賠償請求権なので、両者は同一ではない

もっとも、不当利得返還請求権の発生要件④に照らすと、後訴の訴訟物は前訴の訴訟物である債務不履行に基づく損害賠償請求権が不存在でないと認められないことになる

→2つの訴訟物は実体法上両立しない矛盾関係にある

→前訴確定判決の既判力は後訴に及ぶ

⑵ 相殺を主張した者が受働債権について免れる一方で、相殺後に自働債権を行使することができるという二重の利益を享受することを防止する必要がある

→114Ⅰにより、受働債権であるXtoY損害賠償請求権の不存在につき既判力が生じ、114Ⅱにより、自働債権であるYtoX報酬請求権の不存在につき既判力が生じると解する この既判力はXY間について生じる(115Ⅰ①)

⑶ YtoX報酬請求権の不存在について既判力が生じる結果、後訴裁判所はYによる不当利得返還請求が認められるか審理するに際し、YtoX報酬請求権が存在しないことを前提にすることになる

→Yの損失を基礎づける事実について不存在であることを前提とするから、②が認められずYの請求は認められない

3 以上より、Yの請求は114Ⅱにより認められない             以上

本試平成25年経済法 構成メモ

 

1. 雑感

 

 第1問が価格カルテル、第2問が不公正な取引方法(拘束条件付取引)。

・第1問

価格カルテルとなると、意思の連絡・競争の実質的制限について重点的に論じなければならず、必然的に分量が増える。拾うべき事情も多いので、考慮要素を前出しする等して事情を使う場所を振り分けるのが大切だと思う。また、単に事実を摘示して評価を加えるのみならず、規範に対応させた評価まですることで説得力を持たせなければ差がつかない。

以下の起案はこの記事を作成する過程でそのまま書き下ろしたもの(一部に表記の簡略化がある)。何も見ずだいたい1.5hで書いているので現実的な出来かなあと思っているが、4枚に収めるには相当詰めて書かないとだめかもしれない。

・第2問

ゼミにて起案したもの。なぜか結論→理由という変わった構成にしているが、普通に書く方が目立たないと思う...。

「不当に」のあてはめは、ガイドラインと異なりあくまで一般的な判断枠組みをとっている。拘束条件付取引については、ガイドラインや基本書に即して行為類型ごとに整理しておくとあてはめがしやすくなるのでお勧め。

 

2. 起案

 

【第1問】

設問1

1 不当な取引制限(独占禁止法2条6項、以下法名略)に該当し、3条後段に違反しないか。

⑴4社及びYはいずれも甲の製造販売業者→「事業者」(2Ⅰ前段)にあたり、同一商品をめぐり競争関係に立つから相互に「他の事業者」(2条6項)にあたる。

ア 「共同して」とは、意思の連絡をいう。ここにいう意思の連絡とは、複数の事業者が相互にその行為を認識ないし予測し、これと歩調を合わせる意思があることを意味する。その判断に際しては①事前の交渉の有無②交渉の内容③事後の行動の一致の有無を考慮する。

イ A社ないしD社

(ア)4社は以前甲の値上げについて交渉・合意したことがあり、2回とも成功している→そうだとすれば、再び4社の中で値上げの打診が行われれば、いずれの会社も値上げを相互に予測しえたといえる。

(イ)A社から甲の販売価格を1キロあたり10円をめどに引き上げることについての打診あり。Dはこれに賛成している→この時点でA社の値上げを予測しこれと歩調を合わせる意思があったといえる。

一方、Cは意見を留保し、Bは値上げは時期尚早であるとしている→したがって、両社ともにA社が再び値上げを計画していることについては認識・予測できたといえるが、これをもってただちにA社と歩調を合わせる意思があったとはいえない。

(ウ)A社がB・C・D社に対し8月分からの販売価格を値上げする旨のメールを送信したところ、A社の値上げ発表からわずか数日で、A社と同じく8月販売分からの値上げについて顧客と交渉を開始している。また、いずれの会社においても値上げ幅はほぼA社と一致している→値上げ実施時期及び値上げ幅がおおかた一致しており、その発表時期も極めて近接しているから、偶然に4社の発表時期が重なったということは考えにくい。各社が独自の判断で値上げ実施時期・値上げ幅を検討した事実もないから、4社は相互に甲の値上げについて歩調を合わせる意思があったと認められる

→4社については意思の連絡が認められるから、「共同して」の要件をみたす

ウ Y社

(ア)以前に4社と値上げについて交渉したことはないため、事前に4社の値上げを予測することは通常ない。また、4社もY社の値上げを認識・予測しえない

(イ)YはA社の新聞発表を受けて値上げに踏み切っているだけで、4社との交渉はない

(ウ)値上げの実施時期は4社と同じであるが、事前に交渉がないこと、4社と相互に値上げを認識・予測しうる関係になかったことに照らすと、歩調を合わせる意思があったことを推認させるものではない

→Yと4社との意思の連絡は認められないから、「共同して」の要件をみたさない

⑶「相互に...拘束」とは、当該合意が①共通の目的の達成に向けられた②事業活動を相互に制約するものであることをいう

 4社間での合意は、いずれも甲の値上げという目的の達成に向けられた(①)、甲の販売価格決定という事業活動を相互に制約するものである(②)→「相互に...拘束」の要件をみたす

⑷「一定の取引分野」とは、①商品・役務の範囲②地理的範囲によって画定される市場をいう ①②の範囲は、主として需要者にとっての代替性を考慮し、必要に応じて供給者にとっての代替性も考慮する

①につき、甲に代替する製品はないから、甲と画定される。

②につき、甲は日本全国に需要者がおり、東日本地区と西日本地区とに範囲が分けられる。需要者の取引先は固定的であることに照らすと、地区間で需要者にとっての代替性は認められない。また、工場立地等の関係より、一方の地区で製造していた事業者が他方の地区に進出することは困難であるから、地区間で供給者にとっての代替性も認められない。よって、②は西日本地区と画定される。

したがって、「一定の取引分野」は西日本地区における甲の製造販売市場と画定される(以下、「本件市場」という)

⑸「競争を実質的に制限する」とは、競争自体が減少し、市場における諸般の条件をある程度自由に左右できる状態をもたらすこと、すなわち市場支配力の形成・維持・強化をもたらすことをいう。

本件では、本件市場において82パーセントものシェアをしめる4社によって値上げの合意がされていることから、価格競争の回避に与える影響は強い。

一方で、X社及びY社の供給余力は乏しいため、有効な競争圧力として機能するとは認められない。上記シェアが10数年変化しておらず、顧客が固定的であることからしても、競争的行為に出るより協調することによって利益を上げるインセンティブの方が強く働くと考えられる

→本件における合意は、本件市場における市場支配力の強化をもたらすと認められ、「競争を実質的に制限する」といえる

⑹ 本件のようなハードコアカルテルについて、「公共の利益に反して」いることは明らかである。

3 以上より、4社の行為は不当な取引制限にあたり3条前段に違反する。Y社の行為は独占禁止法に違反しない。

設問2

1 4社の行為は不当な取引制限に該当し3条後段に違反しないか

⑴4社がそれぞれ「事業者」「他の事業者」にあたることは前述の通りである

⑵4社は平成23年2月15日の部長会において甲の値上げについて合意しているから、明示の意思連絡が認められ、「共同して」をみたす

ア もっとも、C社はその後4月販売分の値上げについて交渉を行わず、同年4月10日の部長会について欠席している。そこで、合意からの離脱が認められないか検討する

 不当な取引制限の処罰根拠は相互拘束による競争制限にあるから、合意からの離脱が認められるためには、内心において離脱を決心したにとどまらず、少なくとも離脱者の行動等から他の合意参加者が離脱者の離脱意思をうかがい知るに十分な事情が存在していたことが必要と解する

イ C社は離脱に際し、他の3社に何ら連絡をとっていないため、離脱意思を明らかにしていない。また、欠席の連絡についても虚偽の連絡をしているため、3社としては合意から離脱する意思にもとづいて部長会を欠席したことをうかがい知ることができない。したがって、C社は内心において離脱を決心していたにとどまり、他の3社をして離脱意思をうかがい知るに足りる十分な事情は存在していなかったから、合意からの離脱は認められない

⑷ 値上げの合意が4社を「相互に...拘束」することは前述の通りである。

⑸ 「一定の取引分野」である本件市場において「競争を実質的に制限する」といえるか検討する。

 4社の本件市場シェアが82パーセントにのぼること、及びX社Y社の供給余力の乏しさに照らすと、4社の合意は前述と同様市場支配力を維持・強化するものといえる。たしかに、D社は大口取引先に拒否され値上げ交渉に失敗しているが、少なくとも値下げに関しては行えなくしている以上、競争制限効果を否定するものではない。

 よって、4社の合意は「一定の取引分野」における「競争を実質的に制限する」といえる

⑹ 「公共の利益に反して」いることは前述と同様明らかである。

3 よって、4社の行為は不当な取引制限に該当し、3条後段に違反する。

                                    以上

 
【第2問】

1 結論
X社の実施しようとしている方策①②は、独占禁止法2条9項6号を受けた一般指定12 項に規定される拘束条件付取引に該当し、法19 条に違反する。
2 理由
⑴ X社は、食品メーカーであるから、「事業者」(2条1項)にあたる。
⑵ では、X社は、方策①②により薬局・薬店に対し「拘束」(一般指定12 項)を課したといえるか。
「拘束」があるといえるためには、必ずしもその取引条件に従わなければならないことが契約上の義務として定められている必要はなく、条件に従わない場合に何らかの経済的不利益を伴うことにより現実にその実効性が確保されていれば足りる。
本件で、X社が甲の名で販売している製品αは、栄養の体内吸収率の点で他社製品よりも優れ、X社の知名度や有名タレントを起用したCMによって高い人気を得ており、市場占有率は40%と2位以下を大きく引き離している。そして、甲を指名して購入する消費者も少なくないことから、販売業者としては甲を取り扱うことが事業継続の上で必要不可欠となっている。
かかる事情に照らすと、方策①を実効化する手段として設けられた方策②は、X社の①の要請に従わない場合に甲を取り扱えないという、事業者にとり経済上重大な不利益が伴うことになる。甲の供給停止はX社が容易に行えることからすれば、事業者が条件に従わない場合の経済上の不利益により、要請の実効性を現実に担保しているものと認められる。したがって、X社の方策①②は、薬局・薬店に対し「拘束」を課すものである。
⑶ 上記の「拘束」は「不当に」なされたものか。
ア 「不当に」とは、自由競争減殺を意味する公正競争阻害性をいう。
自由競争減殺の有無の判断にあっては、影響を受ける取引分野を画定することが有益である。市場については①商品役務の範囲②地理的範囲によって画定する。その際には需要者にとっての代替性を考慮し、必要に応じて供給者にとっての代替性も考慮する。
イ ①について、αには類似品βが存在するが、栄養機能の点でαに大きく異なり、需要者にとっての代替性もほとんどないことから、①についてはαと画定する。
②について、X社は甲を日本全国で販売していることから、日本全国と画定される。
以上より、本件で検討すべき取引分野は日本全国のα販売市場である。
ウ では、X社の拘束には公正競争阻害性が認められるか。
まず、αについては消費者が価格より品質を優先していることから、価格競争がほとんど存在しない。したがって、販売価格は基本的に小売価格によることになるが、新たに登場したネット販売業者は、甲をそれよりも低価格で販売することにより、甲ブランド内における競争を喚起していたものといえる。
しかし、多くのα販売業者が方策①に従うと考えられ、その実効性が方策②で確保されていることからすると、X社の「拘束」によりネット販売業者への甲の横流しは容易に遮断される。また、代理店卸売の体系が採られているので、卸売段階においてブランド内での価格競争は生じにくい。
そうすると、本件拘束により甲のブランド内競争は回避されることになる。
そして、α市場にはシェア10パーセント を超える事業者が3社存在するが、前述した消費者の傾向からして価格競争に対するインセンティブははたらかない。また、製法や原料の点で新規参入にコストがかかることから、新規事業者の参入による競争圧力もはたらかない。
よって、本件拘束は、α販売市場における価格競争の回避をもたらす蓋然性が高いといえるから、「不当に」されたものといえる。
⑷ もっとも、方策①②は甲のブランドイメージ保護のためになされたとして、正当化事由が認められないか。
公正競争阻害性が認められる場合であっても、自由競争経済秩序の維持という公益と当該行為により守られる利益とを比較衡量して、独禁法の究極の目的(1 条)に反しない場合には、不公正な取引方法には該当しない。この目的に反しないかは、当該行為の目的の正当性及び手段としての相当性の観点から判断する。
ア a の点について
甲のもつ優れた栄養機能を十分に発揮させることは、他社製品との差別化を図るうえで重要であるから、その目的は競争促進の観点からして正当といえる。しかし、用法等の説明はネット上の画面で行うことも十分可能であり、目的達成のためにはネット業者にその説明の表示を義務付ければ足りるの
であるから、横流しを禁じるという方策は手段としての相当性を欠く。
イ b の点について
a と同様、甲の品質保持が他社製品との差別化を図るうえで重要となるから、流通段階での品質保持を要求する事には目的としての正当性が認められる。しかし、ネット販売においても冷蔵保管やクール便での配達を義務付けることで十分目的は達成可能であり、横流しの禁止まで講じることは手段としての相当性を欠く。
以上より、X 社の方策①②に正当化事由は認められない。
⑸ よって、上記の結論が導かれる。
                                     以上

本試平成26年経済法 構成メモ

 比較的レア?な本試経済法の復習メモです。といっても、平成26年度以前は「1冊だけで経済法」に載っていますが。

 

 

1. 雑感

 第1問が排他条件付取引+私的独占、第2問が不当な取引制限(入札談合)という、R3で狙われそうな行為類型の組み合わせ。極端な捻りはないので、淡々と事実摘示・評価を繰り返して要件を検討することになる。

・第1問について

不公正な取引方法については、毎度「正当化理由になりそうな事情をどこで検討するか」で悩まされる。

いつかの採点実感で、不公正な取引方法において正当化理由を検討する場合、条文上の何かしらの文言に引き付ける形で検討すべし、という指摘がされていたと思うので、今回の起案では、「不当に」に引き付ける形で展開した。

・第2問について

この手の問題は適用法条について悩まなくていいものの、事実にひねりがあるため摘示と評価をおろそかにすると書き負けやすい。基本合意の存在の推認など、丁寧に書くように努めたが、成功しているかは不明。

 

2. 起案

 

【第1問】
1 A社の行為は排他条件付取引(一般指定11項)に該当し、独占禁止法19条(以下法名略)に反しないか。
2⑴ A社は甲製品を製造販売するメーカーであるから、「事業者」(2条1項前段)にあたる。
⑵ A社が「相手方が競争者と取引しないことを条件として」取引したといえるためには、相手方による取引条件の遵守が契約上義務付けられているか、それに従わない場合に経済上の不利益を課すことによって現実に実効性が確保されている必要がある。
 A社は大口利用者向け販売業者に対し、購入に占める自社製品の割合の多寡に応じた割戻金を支払う旨約束している。これにより、A社は大口利用者向け販売業者をしてA社製の甲を取り扱うインセンティブを与え、他社製の甲を排除させようとしているものと認められる。大口利用者向け販売業者としては、A社製の甲を相当割合確保しておくことが重要となっている。そうすると、大部分の大口利用者向け販売業者はA社から割戻金を受け取ることとなるから、他社製甲の取扱量を減らしてA社製甲の取扱量を増やさない場合には他の競争者より受け取れる割戻金が少なくなるという経済上の不利益を負う。したがって、A社の取引条件については現実に実効性が確保されているから、「相手方が競争者と取引しないことを条件として」取引するものにあたる。
⑶ア 「不当に」とは、自由競争減殺を意味する公正競争阻害のおそれがあることをいう。ここにいう公正競争阻害のおそれは、市場閉鎖効果が生じる場合、すなわち当該行為により新規参入や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するおそれが生じる場合に認められる。
イ 市場閉鎖効果の有無を検討するにあたっては、行為の影響が及ぶ取引の範囲を画定することが有益である。そこで、①商品・役務の範囲②地理的範囲から市場を画定する。その際には、主に需要者にとっての代替性を考慮し、必要に応じて供給者にとっての代替性を考慮する。
(ア) 甲製品の用途には乙も用いることができるが、品質面において甲に大きく劣るため、需要者にとっての代替性はない。また、大口利用者向けの甲と小口利用者向けの甲とでは取引数量や取引価格に大きな差が存在するため、両者には需要者にとっての代替性がない。よって、①は大口利用者向けの甲と画定される。
(イ) 甲については日本全国に大口利用者、および販売業者が存すること甲は海外でも製造されているが、殆ど輸入がされていないことから、国産の甲と海外製の甲とで需要者にとっての代替性はないと考えられる。したがって、②は日本国内と画定される。
以上より、国内の大口利用者向け甲の販売市場(以下、「本件市場」という。)における市場閉鎖効果の有無を検討する。
ウ A社は国内における甲製品の販売シェアで70%を占め、本件市場において最も有力な地位にある。また、A社製の甲は強いブランド力を有しているため、大口利用者向け販売業者としてはA社製甲を確保しておくことが重要になっている。そのような地位にあるA社が上記の取引条件を導入すれば、大口利用者向け販売業者は競争上不利な地位に立たないようにA社製甲の取扱比率を上昇させ、従来からA社製甲のみを取り扱う業者はその方針を継続すると考えられる。したがって、A社の行為には、新規参入者や既存の競争者の取引先を奪うことで本件市場から排除し、又は取引機会の減少を生じさせるおそれがある。よって、形式的には市場閉鎖効果が認められ、「不当に」の要件をみたす。
⑷ もっとも、A社の行為は、自社製品の販売先を確保することで甲製品の製造コストを大幅に削減する目的でなされている。そこで、独占禁止法の究極の目的(1条)に反しないといえ、実質的には「不当」性が認められないのではないか。上記の究極の目的に反しないかは、①行為の目的の正当性②目的達成のために当該行為をする必要性・相当性で判断する。
 製造コストの削減は、それが販売価格に還元されるのであれば、競争促進に向けられた目的と言えるから、正当性が認められる。
 しかし、A社がこれまで高水準の価格を維持してきていることからみても、削減された製造コストが販売価格に還元されるとは考えられない。よって、目的としての正当性は認められない(①不充足)。
また、製造コストの削減は原材料や製造過程の見直しから検討すべきであり、最初から取引先を囲い込むことは手段としての相当性を欠く(②不充足)。
よって、A社の行為は1条の定める目的に反しないとはいえず、なお「不当」性が認められる。
⑸ 以上より、A社の行為は排他条件付取引に該当し、19条に違反する。
3⑴ また、A社の行為は私的独占(2条5項)に該当し、3条前段に違反しないか。
⑵ A社が「事業者」にあたるのは前述の通りである。
⑶ 「排除」(2条5項)とは、人為的行動によって他の事業者の事業活動の継続や新規参入を困難にする蓋然性のある行為をいう。なお、公正競争阻害のおそれが認められる行為については、これにあたることは明らかである。したがって、A社の行為は「排除」にあたる。
⑷ 「一定の取引分野」としては、本件市場が画定される。
⑸ 「競争を実質的に制限する」とは、競争自体が減少して市場の諸般の条件をある程度自由に左右できる状態をもたらすこと、すなわち市場支配力の形成・維持・強化をいう。
 A社の行為は、前述の通り大口利用者向け販売業者の囲いこみによって既存の甲メーカーの事業活動の継続を困難にし、甲の製造販売を計画している事業者の新規参入を断念させるものである。実際に、新規参入を計画していた事業者は計画を取りやめ、既存のメーカーも取引機会を失って市場から撤退し、取引数量も減少を余儀なくされていることからも、これは明らかである。

 したがって、A社の行為は本件市場における市場支配力を強化するものであるから、「競争を実質的に制限する」といえる。

⑹ 以上より、A社の行為は私的独占に該当し、3条前段に違反する。
                                    以上

 


【第2問】
1 15社の行為は不当な取引制限(独占禁止法2条6項、以下法名略)に該当し、3条後段に違反しないか。
2⑴ A社ないしO社の15社は、いずれも建設業者であるから「事業者」(2条1項前段)にあたる。また、各社はX市発注の特定舗装工事をめぐり競争関係にあるから、相互に「他の事業者」にあたる(2条6項)。
⑵「共同して」とは、明示的又は黙示的な意思の連絡が認められることを意味する。入札談合の存在は基本合意と個別調整の二つから認定されるところ、基本合意の存在があった場合には意思の連絡が認められると解する。基本合意の存在が明示的に認められない場合でも、個別調整の存在を間接事実として基本合意の存在が推認できるならば、意思の連絡を認め得る。
 本件において、15社がX市発注の特定舗装工事50件について受注予定者を決定する旨の明示的な合意は存在しない。
 もっとも、50件中40件については、受注希望者を確認した上で、希望者が1社のみならその業者を受注予定者とし、希望者が複数いる場合には受注希望者間で受注予定者を決定していたことが認められる。また、受注予定者は入札価格を決定したうえで他者の入札すべき価格を決定し、その旨連絡していた。15社のいずれも同様の行為をしており、しかも受注予定者は地域性や継続性と言った諸般の事情を考慮したうえで決定されていた。15社間でこのような詳細な調整を行うことは、大枠となる基本合意がなければ著しく困難である。

 したがって、15社間において、40物件について基本合意がされたことが推認される。よって、意思の連絡があったといえ、「共同して」をみたす。
 一方、50件中10件については、受注希望の表明及び価格の連絡が行われた事実は確認されていないから、基本合意の存在を推認することはできない。したがって、10物件については15社の意思の連絡があったとはいえず、「共同して」をみたさない。
⑶ 「相互に…拘束」とは、当該合意が①共通の目的の達成に向けられたものであって②行為者のそれぞれの事業活動を制約することをいう。本件基本合意は、高価格で工事を受注するという共通の目的の達成に向けられている(①充足)。また、15社の入札価格決定という事業活動を相互に制限するものである(②充足)。A社ないしD社は50物件のうちいずれも落札していないが、自社が受注予定者となることを期待して受注予定者の落札に協力し、他社の入札価格決定に制約を加えていた以上、この結論を覆すものではない。したがって、「相互に…拘束」をみたす。
⑷ 「一定の取引分野」は、①一定の期間内において②特定の官公庁等が発注する③特定の商品・役務の入札市場として画定される。入札談合においては、基本合意の期間内におけるすべての入札が影響を受けていると考えられるから基本合意の対象期間内におけるすべてがその範囲内に含まれると解する。
 本件においては、①平成24年4月1日から平成25年3月31日までの間に②X市が発注する③特定の条件をみたした道路舗装工事50件が「一定の取引分野」として画定される。
⑸ 「競争を実質的に制限する」とは、当該合意によって、競争自体が減少し市場における諸般の条件をある程度自由に左右できる状態をもたらすこと、すなわち市場支配力の形成・維持・強化をいう。
 本件の入札に参加できるのはA社ないしO社及び5社の20社のみであるところ、本件の基本合意はそのうち75パーセントを占める業者によってなされているから、入札をめぐる競争の回避に強い影響を与えたと認められる。50物件の落札率が平均して97パーセントと極めて高かったことからも、競争回避に対する影響が強いことがうかがえる。
 また、40物件のうち37物件が15社のうちいずれかの業者によって落札されていること、受注調整のなかった10物件のうち7物件についても当事者たる15社のうちいずれかの業者によって落札されていることから、アウトサイダーである5社は競争圧力としては有効に機能していなかったと認められる。
 したがって、本件における基本合意は、本件の入札市場における市場支配力を形成したものといえる。
 以上より、本件の基本合意は「競争を実質的に制限する」ものといえる。
3 よって、15社の行為は不当な取引制限にあたり、3条後段に違反する。
                                     以上

本試平成26年民事訴訟法 構成メモ

 

1. 雑感

 

判例の射程を検討させる設問1、参考判例つきの現場思考といえる設問2、「悩みを見せる」型の設問3のオーソドックスな出題。誘導が明確で判例の内容も問題中で言及されているので、特有の出題形式に慣れる題材にはいい。

今回は、一文一義・規範に対応した評価・配点に即した分量を意識して答案を作成した。うまくいっているだろうか。

2. 起案

【設問1】

1 訴訟行為も当事者の意思表示を前提とする以上、私法の規定の類推適用を受けうる。では、私法上の表見法理は訴訟行為に適用されるか。

2 判例と事案の相違

⑴ 昭和45年判決(以下、「本件判決」という。)は、①訴訟行為は取引行為と異なり取引安全を図る必要がないこと②手続の安定を図るべきことに照らし、表見法理である会社法354条は訴訟行為には適用されない旨判示している。

⑵①について

 訴訟上の和解は、期日において当事者が訴訟物につき互譲することによって当事者間の紛争を解決する手続である。

 確かに、期日においてなされる以上、訴訟上の和解は訴訟行為としての側面を有している。

 しかし、当事者間における互譲が基礎となっている点で、訴訟上の和解は私法上の行為としての側面をも有しているというべきである。

 したがって、本件判決の事案と異なり、訴訟上の和解においても取引安全を図るべき要請は妥当するから、私法上の表見法理の適用は妨げられない。

⑶②について

 本件判決は、判決が確定していない段階においては訴訟行為が積み重なっていくことから、私法上の表見法理の適用を認めると当事者の主観によってそれ以降の訴訟行為の効力が左右され、手続の安定が害されるとする。

 しかし、訴訟上の和解は確定判決と同じ効力を有するから(民事訴訟法267条、以下法名略)、それ以降の訴訟行為の積み重なりはない。したがって、表見法理の適用によりそれ以降の訴訟行為の効力が左右されることはないから、本件判決の指摘は妥当しない。

3 私法上の表見法理の適用を否定することにより生じる不都合

⑴ 前述の通り、訴訟上の和解には訴訟行為としての側面と私法上の行為としての側面がある。したがって、訴訟行為としては表見法理の適用がなくその効力が認められなかったとしても、私法上の行為としては表見法理が適用されて効力が認められうる余地がある。これは、訴訟上の和解が有する執行力(民事執行法22条7号参照)を期待して互譲に応じた当事者の合理的意思に反する。

⑵ 上記のような不都合が生じることから、私法上の表見法理の適用により訴訟行為としての効力を維持する必要性は高い。

4 以上より、本件の事案は本件判決と事案を異にするため、私法上の表見法理の適用を認めてもこれに抵触することはない。また、上記の不都合性を回避すべく、私法上の表見法理の適用を認める必要性も高い。

 したがって、本件における訴訟上の和解が無効であるとのDの主張は妥当でなく、なおその効力が認められる。

【設問2】

1 Aの代理人L2は、55条2項2号に従い訴訟上の和解をすることについて授権されているところ、和解条項に謝罪・誓約の文言を含めることはその権限の範囲に含まれていたといえるか。

2⑴ 訴訟上の和解の内容は、相手方の主張や態度により刻々と変化するから、柔軟な解決を実現するべく訴訟代理人には和解に関して広汎な代理権を認めるべきである。一方で、無制限に代理権を認めると当事者本人が和解内容の予測することは困難になり、本人の自己決定権を害しかねない。

 そこで、ある事項が和解の代理権に含まれるかは、①その事項が互譲による当該紛争の解決に必要かつ有用であるか②本人にとって、その事項が当該紛争の解決方法として予測可能であるかによって決すべきである。

⑵ 本件において、XはAらの要望する賠償金の減額に応じる条件として、事件のことを反省して謝罪し、二度と同じような事件を起こさない旨の約束を和解条項に加えることを提示していた。A及びL2としては、賠償金についてXらに譲歩してもらいつつ紛争を解決するためには、Xの要望に応える他なかったことになる。したがって、第1項として謝罪・誓約の文言を和解条項に加えることが、互譲による紛争の解決に必要かつ有用であったといえる(①)。

 また、不法行為に基づく損害賠償請求を受けた者が、被害者に対し賠償金を支払うとともに、謝罪をして同様の事件を起こさない旨誓約することは、社会的通念上自然な行動であるといえる。したがって、Aをして賠償金の支払に応じることとともに謝罪・誓約をすることは、Xとの紛争の解決方法として十分予測可能である(②)。

3 以上より、和解条項に謝罪・誓約の文言を含めることは、L2が授権された権限の範囲に含まれていたといえる。よって、本件における訴訟上の和解は有効である。

【設問3】

1 本件の和解により、A及びB社のXに対する損害賠償債務は150万円を超えて存在しないことにつき既判力が生じる。したがって、後になって同一の不法行為を原因とする後遺症損害が発生した場合に、Xがそれについて損害賠償を請求することは、上記の既判力に抵触するから、原則として許されない。

 しかし、請求時点で発生しうるすべての損害について予測・算定し請求するのは不可能に近い。にもかかわらず、上記原則を徹底して和解成立後に生じた後遺症損害につき損害賠償請求を一切認めないとすることは、被害者に対する損害の填補により不法行為を受ける前の状態と同じ状態を実現しようとする民法709条の趣旨に反する。そこで、既判力に抵触するとのAらの主張に対する反論を検討する。

⑴ 既判力の縮小

既判力(114条)による主張の遮断が認められる根拠は、手続保障の充足を前提とした自己責任にある。そして、既判力が基準時、すなわち事実審の口頭弁論終結時点で生じるとされるのは(民事執行法35条2項参照)、口頭弁論終結時まで当事者は主張及び証拠の提出が可能だからである。

そうだとすれば、当事者が事実審口頭弁論終結時までに生じた事由について、それを主張することができなかった正当な理由がある場合には、自己責任を問うことはできないと考えるべきである。

後遺症損害については、その原因となる事故の時点で発生を予測することが困難であり、十分な手続保障が及んでいないといえるため、被害者をしてその主張を要求することは被害者救済の観点からみて酷である。117条が定期金賠償の場合において基準時後の算定基礎変更を認めているのも、同様の趣旨によるものと考えられる。さらに、本件のように第一回期日の段階で訴訟上の和解によって訴訟が終了したような場合、後遺症損害の発生の予測及びその主張の機会は極めて限定されることから、一層手続保障が不十分といえる。したがって、後遺症損害に基づく損害賠償請求権の部分については、自己責任の追及は妥当でなく、既判力の生じる範囲には含まれないと解すべきである。

 以上より、本件訴訟上の和解により生じる既判力が、後遺症損害の部分にかかる主張に抵触しない限度で縮小されるとの反論が基礎づけられる。

⑵ 既判力の不発生

 和解調書に確定判決と同一の既判力が生じるといっても、和解調書には判決の主文(114条1項)に対応する部分が無いため、既判力が生じる客観的範囲については訴訟上の和解の内容を解釈することによって決するのが妥当である。そこで、当事者における訴訟上の和解の成立経緯や既判力との抵触が問題となった事実の生じた経緯に照らし、その客観的範囲を画定する。

 Xに後遺症損害が生じたのは、事故発生時から半年も経過した後のことであり、検査入院時にも病院から特段の指摘もなかった。また、当初の損害実費が330万円であったにもかかわらず賠償額はその半分以下の150万円にと大幅に減額されている。したがって、X及びAらとしては、将来の損害については考慮に入れず、Aの真摯な反省と誓約を条件に互譲の合意をしたと考えられる。

 よって、本件における既判力は、既発生の損害についてAらのXに対して負う損害賠償債務が150万円を超えて存在しないことについて生じると解すべきである。

以上より、訴訟上の和解の成立当時未発生であった本件後遺障害に基づく損害賠償請求権の不存在については既判力が生じないとの反論が基礎づけられる。

                                     以上

ご報告/本試平成25年民事訴訟法 構成メモ

0.ご報告

お久しぶりです。記事の併合はあまりすべきではないと思いますが、大した分量もありませんのでここでご報告させていただきます。

この度、令和2年度予備試験に最終合格いたしました。本試まで気を緩めることなく、精進したいと思います。

 

2月は、民事訴訟法・商法・経済法について仕上げる時期となっています。そのため、復習の際に作成したメモをこちらに貼ることにします。経済法なんかは情報が少ないので、もしかすると参考になるかもしれません。

しばらくは民事訴訟法の復習になります(自主ゼミメンバー向けの解説レジュメ、という体をとっているので生意気な書き方ですがご了承ください)。

 

 

1. 雑感

個人的に民事訴訟法の本試験はフィードバックが少なく、解いたのを契機として重要判例を見直すくらいでいいのではないかと思っている。この問題も例に漏れずそうで、百選掲載判例をいくつかさらえるという意味では良かった。

また、個人的に民事訴訟法本試を解いて気づいた「悩みを見せる」型(以前ブログでも言及しています)が実践的に学べるという点でも良問だと思う。

 

2. 構成メモ

【設問1】
最判昭47.2.15(百選23)の射程が及ばないことを示す問題。判例がいかなる事情のもとで判示をしたかを指摘し、本問では判例と事情が異なること(=ゆえに、確認の利益を肯定する根拠を欠くこと)を示す。

 

1.一般論
 過去の法律関係を対象とする確認の訴えは、確認の利益を欠く。既に変動した法律関係を確認しても、現在の紛争を解決することには役立たないのが通常だからである。
 したがって、現在の法律関係に引き直して確認をするべきである。

2.最判昭47.2.15
 被相続者に多数の相続財産があるところ、その財産を共同相続人の誰か一人に全て相続させる旨の遺言につき効力が争われた。
 上記原則論にしたがい現在の法律関係に引き直すならば、相続人一人ひとりに対し、各財産につき共有持分権の確認を求めることになる。しかし、これは非常に煩雑であり、財産につき確認もれが生じる場合もある(相続人が多くても、それらの者に対し持分権を確認すること自体はそこまで煩雑ではないだろう。問題は相続財産が多いことである)。
 そうだとすれば、全財産に共通する遺言という法律行為の無効を既判力によって確認するほうが、紛争解決としては適切といえる。
 このような事情のもと、昭和47年判決は確認の利益を認めた。

最判昭47.2.15論証化
過去の法律関係を対象とする確認の訴えは、原則として確認の利益が認められない。既に法律関係が変化した後になって過去の法律関係を確認しても現在の紛争の解決には資さないのが通常だからである。しかし、過去の法律関係の無効を確認し既判力で確定する方が、それから派生する現在の紛争を解決する方法として適切ならば、例外的に訴えの利益が認められると考える。*1

3 本問との事案の違い
上記判例事案においては、相続財産が多数存在することが確認の利益を基礎づける大きな要素になっていた。

 しかし、本問では甲1という1つの財産しか問題になっていない。とすると、現在の関係に引き直して共有持分権の確認を求めることはなんら煩雑ではない。

 したがって、あえて遺言の無効であることにつき既判力をもって確認しなくても、端的に現在の法律関係につき確認を求めれば紛争解決としては十分である。
 よって、上記判例の射程は及ばず、一般論に従って判断すべきである(=確認の利益は認められない)。

【設問2】
最判昭51.7.19(百選12)の理解を問う問題。
 当事者適格の定義を最初に述べたあと、遺言執行段階においては遺言執行者(民法1012Ⅰ)が相続人の法定訴訟担当として当事者適格を有することに言及。

 逆に考えれば、移転登記手続等の遺言執行が完了すれば登記についての権利義務は受遺者に帰属するにいたるから、当事者適格は受遺者に認められる。このことを端的に論じればOK。

*2

【設問3】
1.小問(1)
問い方がややこしいが、「相続による財産取得」の要件事実を本問の具体的事情を使って表現するとどうなりますか、という問題。実際にG・Hが前訴・後訴でどのような主張をしているかとは無関係に、どのような主張をすべきであるかを書けばOK。したがって、前訴基準や後訴基準のいずれか、など考えなくてもよい。
要件事実自体は(a)被相続人の財産所有(b)被相続人の死亡(c)自身が相続人であることであるから、➀Jの乙土地もと所有②JF間の乙土地売買③Fの死亡④G・HがFの子であること と整理される(これをアプローチAとする)。
なお、出題趣旨・採点実感によれば、(a)について➀②のように分けずに、①’Fが死亡時点に乙土地を所有していたこととしても問題ない(これをアプローチBとする)。
2.小問(2)
さて、小問(1)で整理した要件事実を前提として、前訴におけるG・Hの主張にこれらの事実があらわれているかを検討する。弁論主義の第一テーゼに反しないかが問題になる。
【アプローチA】
①Hは乙土地のJもと所有を認めており、Gも乙土地の前主がJである旨主張しているから、Jの乙土地もと所有について権利自白が成立する。よって、判決の基礎とすることが可能。
②ここについては被告Fのみが主張しているところ、これを判決の基礎とすることができるか。主張共通の問題がここで出てくる。主張共通を認めても弁論主義第1テーゼには反しないから、判決の基礎とすることが出来る。
③F死亡は、Gの「生前」という発言が手がかりになる。死亡の事実・死亡日時を明らかにさせれば、判決の基礎とすることが可能。
④Gが「父」と述べていることから、判決の基礎とすることが出来る。
【アプローチB】
①’について、GはFのもと所有につき主張していないため、主張共通の問題となる。アプローチAと同様に処理すれば、判決の基礎とすることができる。
②③④は同様に判決の基礎とすることが出来る。
よって、裁判所は小問(1)の請求原因を判決の基礎とすることができる。

*3

【設問4】
まず、原則に従った場合の帰結を述べる。次に、原則を徹底することによる不都合を述べ、修正規範の構成に移る。最後に、修正規範にあてはめて結論を導く。修正規範の導出にあっては、平成10年判決の論拠を確認した上で、これを反対解釈するのがわかりやすい。
出題趣旨・採点実感を参考に、答案の骨組みを示す。

1 原則論
共有持分権は所有権に実体法上包含されている→所有権確認請求の全部棄却により、所有権の不存在及び共有持分権の不存在につき既判力が生じる。
そうすると、Gの主張は既判力に抵触し封じられることになる。

2 不都合性の指摘
Hの主張は、GH両者の請求が棄却されたのを奇貨としてその既判力を持ち出し、Gの主張を封じたものである。しかし、前訴では相続による共有持分権の有無について互いに争っておらず、この点についての紛争は未解決のままであった。にもかかわらず、既判力によりGの主張を封じるのは、Gの審理(の継続)に対する期待を害するものではないか。

3 修正規範の構成
(1)平成10年判決
 一個の金銭債権の数量的一部請求の当否を判断するにあたっては、債権全部について審理判断することが必要になる。
 そして、数量的一部請求を全部または一部棄却する旨の判決は、債権の全部について行われた審理の結果に基づいて、①当該債権が全く存在しない(一部として請求された額に満たない額しか存在しない)との判断を示すものであり、後に残部として請求しうる部分が存在しないとの判断を示すものに他ならない。そうすると、残部請求は実質的に前訴の請求・主張を蒸し返すものであって、被告の紛争解決に対する合理的期待に反する。
 したがって、かかる請求は特段の事情がない限り信義則に反し許されないものと解する。
(2)判例が論拠としている部分
 前訴で実体的に審理された事項について存在しないと判断された(語弊を恐れずに言うなら、一方の勝ち・他方の負けになる形での判断がされた)こと。
十分な主張反論の末に負けた以上、それと包含関係にある部分について訴訟物が別だからと言って争うのは蒸し返しになる、すなわち相手方の紛争解決に対する合理的期待に反する。
 
(3)修正規範
 そうだとすると、前訴で審理されていない事項については、後訴で主張しても紛争の蒸し返しにはならないはず(むしろ、主張した者の審理継続に対する期待が信義則上保護されるべき)。

 そこで、前訴訴訟物と後訴訴訟物とが実体的に包含関係にあるとしても、後訴訴訟物につき前訴において審理されていなかった場合には、信義則上主張は遮断されないと考える。

4 あてはめ
 前訴において共有持分権については審理されておらず、もっぱら所有権の帰趨についてのみ争っていた。したがって、Gが共有持分権につき審理を継続してもらう期待は信義則上保護される。

 よって、Hの主張に対し、上記の理由からGの主張は信義則によっては遮断されないとの主張をすることができる。
                                    

 

                                     以上

*1:法律行為を含まない遺言については判例の射程が及ばない。

*2:cf.相続財産管理人(民法936Ⅰ)は、相続人に「代わって」相続財産の管理・清算を行うだけであり、相続人の法定代理人であるにとどまる。したがって、当事者適格は依然相続人にある。最判昭47.11.9(百選A5)。

*3:「裁判所が適切に釈明権を行使したならば」とは、不明確な事実につき釈明を求める消極的釈明を意味する、とのこと。採点実感としては、F死亡の事実及びFGの親子関係については主張にあらわれていたことを前提にしている。そうだとすると、求釈明などなくても裁判所は請求原因事実を判決の基礎と出来るはずである。ぶんせき本は、問題の記載は不適切であったのではないかと評価している。下線部についてはあらわれていなかったと読むのが穏当かもしれない。

各試験における答案構成時間

こんにちは。

 

質問箱にて、一橋ロー入試の際の答案構成時間を教えて欲しい旨の質問をいただきました。

 

この「答案構成時間」は自分もいつも悩んでいまして、本試の際もどうしようか考えているところです。そこで、この質問に解答させていただくと同時に、簡単に自分の考えているところをまとめてみることにしました。

 

 

1.答案構成時間:起案時間=1:3を基準に考える

 

ちゃんとした理由を聞いたことはないのですが、この割合が途中答案を書かないための一つの目安とされています。予備であれば15分→55分、本試験であれば30分→90分となります。周りに聞いてみても、この時間配分にしている人が多いです。

 

2.出力速度・分量からの調整

 

もっとも、この時間配分は全科目共通というわけではありません。構成に時間はかかるが書くこと自体はそれほど多くない民訴、逆に構成に時間はかからないものの事実摘示と評価が重要となる憲法・刑事法、問題文自体が長く構成に時間を要する行政法というように、科目によってばらつきがあります。

 

したがって、1の標準時間を科目に応じて上下させる必要が出てきます。ここの上下の程度は筆記速度にも依存するので、普段の演習や答練などで調整することになるでしょう。

 

3.各試験における答案構成時間(自分の場合)

【一橋ロー入試】

憲法 30分

民法(45分×2) 10分×2 

民事訴訟法(45分) 15分(民事訴訟法を先に解いた)

刑法 60/135 20分 

刑事訴訟法 75/135 20分 

 

【予備試験】

憲法 20分(行政法から先に解いた)

行政法 10分

民法 15分

商法 10分(商法→民事訴訟法→民法の順で解いた)

民事訴訟法 15分

刑法 20分(刑事訴訟法を先に解いた)

刑事訴訟法 10分

法律実務基礎科目 20分×2

一般教養 20分

 

【本試験の予定】

経済法1 20分

経済法2 20分

憲法 30分

行政法 35分

民法 30分

商法 35分

民事訴訟法 35分

刑法 30分

刑事訴訟法 30分 

 

                                     以上

 

 

 

 

【長文・2021/1/22追記】令和2年予備試験論文式試験雑感

こんにちは。

先日24日・25日にかけて予備試験論文式試験が行われました。受験された皆様、本当にお疲れ様でした。

自分も受験してきたので、直前及び2日間の感想を述べたいと思います。みんなのために...ではなく、本試に際して自分がどのようにコンディショニングすればいいのか覚えておくためです。 かなり長いうえ、問題内容にモロ踏み込むのでご注意を。

 

 

 

 

1.直前の行動

自主ゼミを利用して、各科目についてブランクができないように演習を行っていた。しかし、模擬裁によって直前期の確認が若干しにくくなったため、ラスト1週間はアウトプットをせずに実務基礎のノートと全科目の論証集を確認することにした。

憲法についてはDK先生の論文処理手順マニュアルを一部改筆したもの、行政法・商法・民事訴訟法・刑法・刑事訴訟法・刑事実務基礎については自作ノート、民法についてはAG論証集、民事実務基礎については辰巳のハンドブックを裁断したものを利用した(当日持っていったのもこれらのみ)。全部見る時間はないので、ゼミで使った覚えのない論証や最近改筆した部分についてのみ見直しを行った。前日は近くのスーパー銭湯でしっかりリフレッシュして就寝。

 

2.1日目

朝早く起きてフルグラを流し込み、体を軽く温めて電車に乗る。電車の中では行政法のノートと刑事訴訟法のノートを見返していた。

五反田駅に7時50分ころに着いた。体がこわばるような寒い青空の下、受験生と思しき人々が歩みを同じくしていた。大荷物の人や軽装の人、色んな人が否が応でも目に付く。EDMを聴きながらTOCに到着。まあまあな数の受験生が入口で各々のノートを見返しつつ、開場を待っている。伊藤真先生や他の予備校講師の方々が応援に来てくださっていた...のだが、自分は直接お世話になっていないので見るだけにとどめた。この時間に見返す内容って、正直あまり頭に入らないんだな...と思いながらもページをめくる。

しばらくして開場し、誘導されてエレベータに乗る。検温センサーの前を通って試験室へ。だだっ広い会議場に長机とパイプ椅子が並べられ、机上には法文と公法系の解答用紙が配布されていた。

着席し、筆記具と受験票とストップウォッチを置く。手をあっためるために、裏紙に公法で使いそうな用語を書きなぐっていた。

席で勉強するのも落ち着かないので、廊下に出てノートを見る。通り過ぎる人は「何見てんのこいつ」というような顔をしていたが当然だ、自作だもの。

9時になったので席に戻り、長ーい説明を聞く。この時間にも頭にいれた拙い知識が漏れ出ていく感じがした。

 

いよいよ試験開始、自分は行政法・答案構成10→起案55,憲法・答案構成15,起案60で書くことにして行政法からスタート。

設問から見ますかねー、とページをめくってみると、設問1は本件条項の法的拘束力の有無、設問2は通知の処分性とあった。法的拘束力の有無?なんの話だ?と思いながら問題文を読み進めた。あー、いわゆる紳士協定絡みの問題か。判断枠組み覚えてないわ。基本行政法に載ってたのにな。問題文に「開発事業許可制度をめぐる法内容に言及してね」みたいなことが書いてあったので、とりあえずこれをヒントに考える。まあ当事者の任意で締結したものにしても、法の内容とか趣旨に反してるものに拘束力認めるのはやりすぎだよな...これを規範にしてあてはめてみるか。合意の内容は…Bの以後の開発について一切認めないとするもの。そして、問題文には本件条項に関連する基準は法や命令にないとある。え、だとするとこんな合意に拘束力認めてもいいの?ダメでしょ。ということで、法的拘束力を否定する立論を組み立てた。都市開発許可制度は土地の乱開発を防ぎつつ発展をも目指すもので、開発の回数制限などを設けていないのは事業の流動性・発展可能性に鑑みて事後的な開発を許す趣旨にでたもの。本件条項は周辺の環境悪化に配慮したもので、乱開発防止という観点には合致するが、事業の流動性・発展可能性を考慮していない点で法の内容に即していない。だから、今回の条項はあくまでBに対して「厳しく念押し」するために設けられたもので、法的拘束力を有しない、とした。

設問2は…通知という事実行為の処分性。法律を見ると、事前協議なく開発した場合指導or勧告→勧告にかかわらず開発した場合違反是正措置命令等が発せられる、とあった。なんか予備H23に似てるような...あれは否定筋だった気もするけど。今回は当事者目線での主張とあったので、処分性を認める方向で頑張ることにした。反論は➀「指導だったら命令されないから法効果なくね」と②「命令段階で争えばよくね」かなあ。取りあえず書こう...➀については、この通知は命令までいくことをもってBの土地開発を制限する法効果性を有するとし、反論に対しては、指導があっても市が本件条項に従って事前協議応じない限り是正の余地がないんだから、勧告しかされんだろうという無茶な再反論を展開。②については、土地開発にかかるコストの点から、開発着手前に取り消す実益があると再反論。

なんかもやもやするけど時間なので終わらせよう。次だ次。

憲法を開くと、三者間でもLOでもない、単に憲法適合性を論ぜよという問い。去年もそうだけど、旧試形式に原点回帰したのかな。まあまともな判断だと思う。

テーマはメディアの取材制限法令の憲法適合性。うーん、あまり考えたことがない...取材の自由が21Ⅰで「保障」されるわけではないことくらいしかわかんないな。なんか犯罪等の定義と取材方法の制限範囲が怪しいので、ひとまず明確性原則と過度広汎性について軽くご挨拶しておいた。実体審査については制約態様がそんなにきつくないことを指摘して判断へ移行。手段審査のところで、メディアスクラムが起きるのは特定の事件とされているから、目的との関係では手段が広汎なんじゃないかという議論を展開。社会の関心なんていつ何に向くか分からないから、保護のためには取材規制となる対象事件を広く取っておく必要がある、として手段の広汎性を否定。最終的には今回の立法は憲法21Ⅰに反しない、と書いて終わり。

…なんか薄っぺらいような...他の人権も問題になるんだろうか...でも思いつかない。というところで試験時間終了。

お昼ごはんは、試験のときのお決まりであるミックスサンドとほうじ茶。片手で食べられるから、ノートを見返せる。あまり落ち着かない状況の中、刑事系の最終確認をした。

刑事系は自分にとって因縁がある。学部4年で論文不合格の決定的な原因となったのが刑事系なのだ。当時の成績は790位、その中で刑事系はF・Eだったのだが、刑法は問題文を読み違えて実行者と共謀者を逆に書き、検討する罪責も間違えるという圧倒的Fをかました。刑訴でも、変な思い付きからわけのわからない法理論を展開して終了。それ以来刑事系は「苦手科目」としてこびりつき、卒業までの間はひたすらその克服に力を費やした。ローでは友人に事例演習教材のゼミを組んでもらい刑法を特訓。刑訴も問研からやり直した。なんとしても今回はしくじらないぞ、と息巻いていた。

予備の刑訴は例年問題文がそんなに長くないので、答案構成に時間がかからない。そこで、刑訴答案構成10→起案55、刑法答案構成15→起案60とした。

そして刑訴を開く。一事不再理効の範囲か。怪しいと思って確認しておいてよかった。ただ問題は、頭の中にある「イワミヨサゴロー」の呪文。これは何かというと、「免訴判決に一事不再理効が生じるか」という問題提起について肯定するときの根拠条文のごろ合わせである(183条1項,435条6号)。今回の問題には関係ない話。しかし、何の論点に関する話だったかが思い出せず、一回書かずに答案を埋めた。

その後「なんだっけなあの条文のやつ...確か免訴判決に一事不再理効生じるかってやつだけど...でも講義では一事不再理効が出たらこの語呂を必ず思い出せって言ってたしな...もっと普遍的な問題提起なんだろうな」という思考過程を経た結果、「弁護人が形式判決求めることが出来るのかってやつだっけ」と誤った方向に走り、わざわざ答案を修正してミスを披露。書くんじゃなかった。

残り時間で刑法へ。「丙」という文字が見えたので、うげ、共犯かと思ったら問われているのは甲の罪責だけだった。ざっと見た感じ、養子縁組とあったので「あー偽造絡みか」と考える。事例演習教材であったな。最初から読み進めると賃貸借契約に関する話だった。目的を隠しての申込みね...利得詐欺か?行為自体は単なる申込みだし、挙動による欺罔の話になるかな。で、甲には支払意思も能力もあるから、財産的損害に向けられた行為なのかも問題になると。詐欺の論点はそこくらいかな。契約書作成行為は有印私文書偽造、交付行為が同行使か。偽造のところで名義人が誰かを厚く書こう。で、侵害を誤認した攻撃。んー、死んでるし誤想過剰防衛なのかな...。若干気になるのは誤認について過失があったと匂わせる記述。誤想防衛の成否には影響しない、最悪準用される36Ⅱの減免に際して考慮すればいいって書いたが、どうなんだろう。*1そして最後丙の腹を蹴ったことには傷害罪が成立するけど、傷害致死に吸収だろうな。罪数処理して終わり。これはみんな書けただろうが、自分にとってはFにならないことが大事だ。

刑訴に若干モヤモヤが残るが、刑事系も終了。初日最後は一般教養。こればっかりは現代文的に考えるしかない。

問題文を開いてびっくり。こんな長かったっけ?ていうかギリシャ神話ってなんだ。クレオンとアンティゴネの主張の要約、対立軸の抽出、現代において同様の対立軸が見られる例と、各立場からの主張の提示。

…んー、アンティゴネは国王の掟を破ったが不変の掟に従っただけ、不変の掟に逆らう掟には従う必要がないって言ってるのか。自然法と実定法みたいな話だな。対してクレオンは永遠の掟なんてないのだ、掟は守られてこそ意味があるみたいなことを言ってる。何であれ、掟を破ったアンティゴネの行為は許されないと主張しているわけか。

 対立軸については、行為の是非を判断するに際して規律自体を重視するのか、それともその行為自体を重視するのか、と定立した。現代だと安楽死とか尊厳死をめぐる議論がこれに近いような...。規律を重視するなら、殺人にあたり医療の本旨に反する安楽死尊厳死は許されない。一方で行為自体を重視するなら、これは自己決定の究極的場面であるから、個人の尊厳を尊重すべき。よって安楽死尊厳死も許されることになろうって感じか。

 気になるのは、「みんなが従ってるからいいんだ」「怖くて口に出せてないだけ」の部分について言及していないこと。個人的には上の部分に比べて重視するところではない感じもしたが...。

 へとへとになりつつも書き終え、何とか初日を終えた。帰路では刑事実務基礎のノートを見返し、家では最低限民事執行保全のところと準備書面の書き方だけ確認した。

 

3.2日目

 前日と同じ電車で五反田についたが、早くいっても開場待ちするだけなので朝食がてらカフェによることにした。この時間に空いているのはヴェローチェだけ。クリームパンとココアを頼むがやはりそわそわする。民事実務をほどほどに確認して、TOCに向かった。

 一科目目の実務基礎科目。時間配分は素直に1:1で、民事実務基礎から始めた。訴訟物やら請求の趣旨はうろ覚えながら書く。初歩的ながら、物権的請求の時「所有権に基づく○○としての...」の○○の最後に「権」ってついたっけ?と思いながら書いた。請求の趣旨は若干書き方が違ったので減点されると思われる。

 仮執行宣言の申立てをしなかった理由については、民執177あたりに意思表示擬制の規定があったし、それのことかなあと思いつつ記載。

 問題はYの再抗弁あたりから。94Ⅱの再抗弁...善意のことを書けばいいんだけど、何について知らなかったと書けばいいのかが思い出せなかった。結局○○所有でないことにつき知らなかったと書いたが、正確ではなかった。

 そして、今回できなかったのが2つの再々抗弁の検討。消滅時効の再抗弁に対する再々抗弁だから検討しうるものは限定されるのだが、問題文には時効完成前の弁済と時効完成後の弁済くらいしかヒントになる記述がない。前者が承認による時効更新を基礎づける事実、後者は時効援用権の喪失を基礎づける事実なのだろうか(ここが間違っているかもしれない)。再々抗弁のうち一つが主張自体失当になるらしいが、ここがイマイチ良く分からなかった。大島本では、時効完成後の利益の放棄と時効完成後の承認とがa+bの関係になる旨説明がされている。これを説明させたい問題だったと思われるが、そうすると再々抗弁は本来3つ検討できることになるのではないか(もしかすると、時効完成前の承認については再々抗弁にならないのかもしれない)。直感的に、時効完成後の承認は時効完成前の債務承認との関係で過剰主張になると書いたが間違っているだろう。

 準備書面については、認定される事実を有利・不利で振り分け、前者は力説して後者には反論を加える形で展開した。

 若干引きずりつつも刑事実務基礎へ、うげ、犯人性関連が2問も...。ひと通り書きはしたが、時間のなさから推認過程などが雑にしか書けなかったのが惜しい。公判前については条文指摘して終わり。ここもあてはめが雑やったなあ...具体的事実に即してって書いてあるのに。最後の勾留をどうにかして解け、という問題は勾留の執行停止を促すのが最初に思いつく。次に問題文中の裁量棄却却下決定に着目し、抗告の規定を引っ張り出した。

 正直言って実務基礎はいずれも誤りや記述の雑さが自覚できたので、書き負けていると考えられる。要件事実論は好きだが、もう少しきちんとやらないと修習で痛い目を見そうだ。

 ひとまず昼食。おにぎりを食べ、各まとめノートをざっと見返す。答案構成に時間のかからない商法→起案量の少ない民訴→時間をかけたい民法の順で解く計画を立てた。

 さて、商法。問題文を開くとなにやら怪しい空気が..。一問目は取締役の責任とその追及方法を書けというもので、追及方法は847-3と847だろうと目星をつけたが、Aの責任をどうやって書くべきか自信を持てなかった。子会社への監視義務みたいな適当なことを書いて認定したので、この点は減点必至だろう。やれやれ。

 設問2は467Ⅰ②-2のことを聞いているのは分かったが、当初括弧書きを逆に読んでしまい、「え、これ該当しないやんけ」という変な結論になった。あとで急いで書き直した。また自己株式取得についても適当に条文を引っ張って終わり。一人会社と株主総会決議の関係とか、変に考えさせないでくれ...。なお、設問2にある分配可能額の説明は、今回の自己株式取得が適法に行えることを示す(461Ⅰ②)にとどまると思われ、手続面には関連しないので答案では言及しなかった。

 適当に書き終えて民訴法へ。いずれの設問も判例への言及を要求しているようだ。でも何聞いてるんだこれ...。しかも問題文をみると、本訴で債務不存在確認請求してるところに給付請求の反訴が提起されていた。いや、本訴却下じゃん。設問1はなんで裁判所の心証を書いてるんだ...訴訟要件欠缺してるけど本案についての心証を抱いているときに本案判決できるかって話か?あれは請求棄却の時の話だし、新堂説とってもあんまり実益ないしなあ...迷いつつ、新堂説を展開しながら結局却下する迂遠な答案になった。

 設問2はどうやら一部請求で請求棄却された後の残部請求の可否と、損害賠償請求に係る前訴確定判決が出た後に後訴で後遺症に基づく損害賠償請求をすることの可否が聞かれてるっぽい。前者について判例にしたがえば、後訴での請求は無理そうだな。でも、後遺症に関する判例を援用すると、後遺症に基づく損害賠償請求権の存否までは審理されていたとはいえないから、なお後訴請求しても判例に抵触しないのかもしれない。とりあえずその方向で書こうか...。このあたりからマスクのせいで酸欠になりはじめ、頭痛がしていた。

 民訴も書き終えて、残り1時間20分で民法に突入。設問をみると、1問目は無権代理人が後見人に就任したときの追認拒絶の可否が聞かれているようだ。これ付箋でわざわざ追加したやつだな。確か後見人の地位に鑑みて、本人と同じ地位に立ってする追認拒絶が否定されるわけではなかったはず...請求はできないってことでいいや。117Ⅰで責任追及できるしOKとしておこう。*2

 さて設問2だ。詐欺取消しして抹消登記手続請求したいけどAが渋っている場面で、債権者Dが取り得る方法を複数かけ、か。まあ1個は詐害行為取消だろう。もう一個は詐欺取消に基づく原状回復義務履行請求権の代位行使かな。他もあるだろうが頭が痛くて余裕がない。

 詐害行為の要件検討していこう...被保全債権よし、無資力よし、詐害行為よし、問題はAの詐害意思だ...売却代金を債務弁済のあてにしようとしていることからみると、本件不動産の売却がDを害することについて認識していない気がするぞ。ここで切れる気がする。

 債権者代位については消極要件が問題になるのかな。取消権については120Ⅰあるし一身専属権ではないだろうな。423Ⅱ本文は検討するまでもなさそう。3項は正直良く分からんが、民執177Ⅰが意思表示の強制を認めてるんだし問題ないだろう。こっちは行けそうだな。記述終わり。

 頭がくらくらするなか、最後の民事系科目の試験時間が終了した。へとへとになりながら、ローの同期と夕食を取り、肩の荷が下りたにもかかわらずがちがちの体を引きずって帰路についた。

4.全体を通して

 学部4年の時とは違い、「ああ…終わった」という科目はありませんでした。もちろん書き間違えた場所やもっと丁寧に書きたかった場所は山ほどありますが、ここは普段の書き方の悪さが出ただけだろう、しょうがないと割り切るしかありません。また、出題分野については、基本的には今までにやった教材と自作ノートで対応できていることが分かりました。

 あとは評価を待ち、本試に向けた調整の参考にしたいと思います。一科目はAが欲しい、と思っていましたが...どの科目も書き方が薄かったり誤りがあったりで、正直厳しいかもしれません。

 

【2021/1/21追記】

予備試験論文式試験に合格していました。憲法の評価は予想より低かったのですが、そのつもりで残りの期間を充ててあるのでまあ良いでしょうという感じ。今回の出題で決め切って良いのか不明なものの、刑事系はある程度苦手意識を克服できたんじゃないでしょうか。ほかはおおむね予想通りとなりました。

憲法はもう少し点を取る書き方の習得が必要ですね。本試までの当分の課題となりそうです。

他科目については、事実摘示の漏れ・評価の拙さ・小論点の取りこぼしや積極ミスといった詰めの甘い部分を仕上げていくことになると思います。

ひとまず、口述試験で落とされないように必死で勉強します。

 

 

                                    以上

 

*1:誤想過剰防衛において、誤認について過失があった場合は誤想過剰防衛の成否にかかわらず過失犯が成立します。したがって、傷害致死罪は成立するものの36Ⅱの任意的減免が行われ、これとは別に過失致死罪が成立するというのが正しい構成と思われます。自作ノートにばっちり書いてあるのに忘れました。

*2:付箋によると、無権代理人のした行為が本人の利益と相反しない場合は後見人の就任とともに行為の効果が本人に帰属し(判例)、利益相反がある場合は本人の保護の要請と相手方の保護の要請とを比較して前者が後者に優越するときに限り追認拒絶しうる、とのことです。自分の構成はこの分岐を意識できていないので雑ですね...。