One's Note

一橋ロー入試対策情報・司法試験過去問・修習雑記

予備令和元年憲法 構成メモと考察

 以前構成メモの順番を宣言した気がしますが、僕の復習の便宜上こっちを先にあげておきます。

 

1.雑感

 エホバと日曜授業参観事件を足して2で割ったような事例で、旧司H12のアレンジ?という感じがした。分量的にきつく、後述する教育を受ける自由に言及する余裕はないように思える。

 

2.構成メモ

第1 法律上の争訟性

1 

⑴ 「法律上の争訟」(裁判所法3Ⅰ)といえるためには、①具体的な法律関係・権利義務の存否に関する紛争で、法律の適用により終局的に解決することが可能なものであること、②一般市民法秩序に直接の関係を有する紛争であり、裁判所の審判が可能であることと言える必要

⑵ 主張方法によって①をみたすことは可能だが、本件では学校における低評定が争われているため②が問題になる

  確かに、退学と異なり、評定そのものは対内的な問題であるから、②をみたさないとの反論もありうる

  しかし、成績評定は高校進学に際して選抜資料とされるため、乙中学校内にとどまる問題にはならない

→一般市民法秩序と直接の関係を有するから、②をみたす

2 低評価を争う場合、これは法律上の争訟にあたる

第2 Xの体育成績につき低い評定をしたことの問題

1 

⑴ Xの信教の自由を侵害しないか

⑵ 憲法の前国家的性格に照らし、権利の性質上外国人に保障が及ばないと解されるものを除き外国人にも憲法上の権利が保障される(マクリーン)

→20Ⅰ前段で外国人にも信教の自由が保障されることに言及。

  XはB教の信者で、家庭内以外において肌・髪を露出したり体型の分かる服装をしたりしないという行為は、B教の戒律の実践

→水泳の授業についてB教の上記戒律を実践するため、見学する行為は信教の自由として20Ⅰ前段で保障

⑶ 本件でXは戒律に従い水泳を見学し、自主的にレポートを提出していたが2の低評定をつけられ、それが原因で高校を不合格になった

 →Xの上記行為の自由が制約されている  

⑷ 信教の自由は個人の人格的生存と不可分の関連を有する重要な権利+水泳が各学年で必修であることとの関係上、回避できない制約を受ける

 →厳格な審査基準の下、①代替措置を設けず、他の生徒と一律の基準で成績評定を付する目的がやむにやまれぬ必要不可欠のものと認められ、②当該手段が目的達成のために必要最小限といえなければ、当該低評定は20Ⅰに違反する

  成績評定に関しては学校及び教員に裁量が認められること、低評定による信教の自由への制約は間接付随的なものにとどまることから、審査基準は緩やかにすべきとの反論が考えられる

確かに、成績評定に際し学校・教員に裁量が認められる。また、本件低評定はB教を信仰していることを直接の理由とするものではない

 しかし、運動が得意であるXに2がついたことに、水泳の授業に参加できなかったことが影響しているのは明らか。そして、その不利益は自らの将来にかかわる重大なもの

→間接的制約とはいえ、その程度は強いから、審査基準はなお厳格にすべき

2 個別具体的検討

⑴ ①について

 代替措置をとらず一律取扱いをするのは、政教分離原則(20条3項)への抵触を避けるためとの学校の主張

 代替措置が「宗教的活動」にあたるなら、憲法上の要請をみたす目的はやむにやまれぬ必要不可欠な目的といえる

(ア) 政教分離原則は、国家と宗教とが相当の限度を超えて関わり合うことを防止することをもって、少数者の信教の自由を確保するもの

 →B教信者につき代替措置を設けることが、国家と宗教との相当の限度を超えた関わり合いと評価されるなら、代替措置は政教分離原則に反する

  代替措置は宗教性が明らかでないから、①’行為の目的が宗教的意義を有し、②’当該行為が一般人をして特定の宗教を援助助長促進し又は圧迫干渉しているものと認められる場合は相当の限度を超えた関わり合いを有する「宗教的活動」にあたると評価される

(イ) 代替措置は、宗教上水泳に参加できない者について、水泳の参加に代えて別途課題等を課すことにより、当該部分の成績評価を行おうとするものであって、その目的に何ら宗教的意義は見出されない

 →①’に該当しない

  また、授業参加に代わる負担を求めるのであるから、他の生徒に比してXを優位に取り扱うことにはならず、援助助長促進といった効果は認められない。そして、生徒の宗教的多様性に配慮した措置をとっているのであるから、特定の宗教について圧迫干渉する効果を有することにもならない

 →②’に該当しない

  よって、代替措置をとっても政教分離原則には反しないから、成績評価につき一律の扱いをする目的はやむに已まれぬ必要不可欠のものとは言えない(①不充足)

⑵ ②について

  たしかに、政教分離原則との抵触の回避という目的と成績評価一律取扱いという手段との間には適合性が認められる

しかし、前述の通り、戒律の内容上、生徒がB教の戒律を厳守する信者であるかは外観から容易に判断しうる。また、代替措置を怠学の口実としているかは教師が生徒に確認することで判断可能

→代替措置の要望が真に信仰に基づくものかを判断することは困難でない

また、仮にXの要望に応えたとしても、同様の理由で代替措置を希望する生徒は多くて4分の1にとどまるから、水泳授業の実施に大きな影響は生じないと考えられる

 よって、代替措置というより制限的でない手段によっても、政教分離原則への抵触は回避できるから、一律取扱いには必要性・相当性が認められず、必要最小限度の手段とは言えない(②不充足)

3 以上より、Xにつき代替措置を認めず2の評定をつけたことは、20Ⅰ前段に違反する

                                                                           以上

3.考察

⑴ 政教分離原則に関して

 分析本でも指摘されていなかったのだが、政教分離原則に関する問題が出た場合は、国家がいかなる形で何に関与するのかを明らかにしたうえで根拠条文をあげなければならないはず。今回の場合、学校が成績評定に際し特定の宗教を信仰する生徒に代替措置を認めることは、いずれの条文に抵触するのかを指摘しなければならない。

 神戸高専剣道受講拒否事件判決(最判平8.3.8)では、代替措置を認めることが特定の宗教を援助する事にはならないとして、20条3項への抵触を否定している(この判例は裁量統制の判断枠組みを採用しているが、必ずしもその判断枠組みに即した検討をする必要はないだろう)。

 日本語としては、20Ⅰの「特権」を付与する場合に該当するのではないか、という問題意識が素直にも思えるが、ここにいう「特権」は宗教団体に向けられたものである必要があるから、個人への特権付与はこれにあたらない。

 そして、20Ⅲの「宗教的活動」は宗教教育を例にとった規定であり、目的効果基準を満たす行為であればこれに該当する。

 

⑵ 外国人の教育を受ける権利に関して

 宗教上の理由で水泳に参加できない生徒について、代替措置も認めないことは、その生徒が体育科目について教育を受ける権利を制約していることと等しい。

 もっとも、一般に、外国人には社会権(=not自由権)は保障されないと解されている。では、上記問題意識が外国人に妥当するのか。

 私見に過ぎないが、義務教育については外国人であれ日本人であれ、教育を受けることができるという権利原形がすでに獲得されているように思う。剣道受講拒否事件で裁判所が代替措置をとらせることを検討したのも、それを行わないことによって生徒の科目教育を受ける権利が侵害されたことになるからだろう(もし純粋な請求権と捉えるなら、自分の意思で受講を拒否した生徒に権利侵害はなく、代替措置をとる必要もないと考えられるためである)。つまり、教育を受ける権利に関しては、上記の一般論は妥当しないと考えるべきではないか。

 そうすると、代替措置をとる要請(→教育を受ける権利の保障、今回のように信教上の理由から不利益を被る場合には信教の自由も)と、宗教的中立性の要請(→政教分離原則の遵守)とが、緊張関係に立ちうるのである。

 ...出題趣旨を読む限りはこのような問題意識を感じ取ってほしいようだけれども、答案用紙4枚で法律上の争訟性と人権問題2つを書くのは正直厳しい。教育を受ける権利について言及するなら、外国人にも保障が及ぶかについてのみ厚く書き、他の所は信教の自由で検討していることから簡潔に指摘するにとどめるのがベターか。

 

                                   以 上

本試令和元年商法 構成メモ

1. 雑感

 設問1が手続比較、設問2が新株予約権無償割当ての差止請求の可否、設問3が総会・役会間における権限分配という何もかもが新しい問題だった。設問3はローで扱っていたため、先生の見解に従い処理した。仮に決議を有効と解した場合、決議順守義務と任務懈怠責任との緊張関係が生じる。総会決議に従ったことを任務懈怠と評価することは難しいため、取締役は責任を負わないことになるが、それは換言すれば無責任経営を招きかねないということである。そのため、個別事情の下それを考慮すべきであったのに考慮せずに総会決議に従ったときは任務懈怠が認められるといったアプローチを採る必要がある(下記構成メモ参照)。

2. 構成メモ

設問1

1 甲社の臨時株主総会を乙社自らが招集する場合

(1)297Ⅰに基づく招集請求

(2)297Ⅳ各号のいずれかに該当する場合には、裁判所の許可を得て自ら招集可

(3)株主自らが招集決定をし(298)、総会の二週間前までに招集通知を発し(299)、必要に応じて株主総会参考書類・議決権行使書面(298Ⅰ③の事項を定めた場合)を株主に交付する(301,302)

298Ⅰ括弧書参照

 

2 甲社の定時株主総会開催にあたり株主提案権を行使する場合

303Ⅰに基づく株主提案権の行使

甲社は監査役会設置会社なので、取締役会設置会社にあたる(327Ⅰ②)

→少数株主要件・総会の日の八週間前までの期間制限が課される(303Ⅱ,Ⅲ)

 

3 両者の比較

(1)乙社自らの総会招集のメリット・デメリット

メリット:自らがイニシアチブを取って総会を開催出来るため、後者と異なり会社が開催に消極的な場合でも自らの要求を実現しやすい

デメリット:招集手続を自ら行う必要があるため後者より負担が大きい

(2)株主提案権行使のメリット・デメリット

メリット:前者より小さい負担で自らの要求を実現しうる

デメリット:前者と比べ期間制限がタイト・会社が提案を採用しない可能性があり、要求が実現するとは限らない

 

設問2

 

1 乙社の主張

新株予約権無償割当て(277)についても、247の類推適用により差止請求ができる

②本件新株予約権無償割当ては乙社のみを差別的に取り扱うもので株主平等原則(109)に違反し、247①に該当する

➂本件新株予約権無償割当ては経営権を維持する目的でなされた「著しく不公正な方法」により発行されたものであり、247②に該当する

 

2 各主張の当否

(1)①について

事前に差し止めることにより既存の株主の利益を保護を図るという247の趣旨は新株予約権無償割当てにも妥当→類推適用可

(2)②について

ア 新株予約権無償割当てが新株予約権者の差別的な取扱いを内容とするものであっても、これは株式の内容等に直接関係するものではないから、直ちに株主平等の原則に反するということはできない 

  →しかし、278 Ⅱは、株主に割り当てる新株予約権の内容が同一であることを前提としているものと解される

 →109 Ⅰに定める株主平等の原則の趣旨は,新株予約権無償割当ての場合についても及ぶというべき

 → 当該取扱いが衡平の理念に反し、相当性を欠くといえる場合、同原則の趣旨に反すると考える

イ 個別具体的検討

 乙社の従前の投資手法からすると、乙社は甲社の事業により利益をうむ意図がない

 また、甲社の事業に対し理解を示していない

→乙社による経営支配権の取得に伴い、甲社の存立・発展が阻害されるおそれがあり、甲社の企業価値がき損され、会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されかねない

また、適法な株主総会において株主の過半数である67%の賛成を得ている

→本件新株予約権無償割当ては係る危険を回避し会社の利益及び株主の共同の利益を守る目的でなされたものであり、目的は衡平の理念に反せず正当

 ほか、乙社に対しては買い増しを行わない旨確約した場合に甲社が新株予約権を全部無償取得する経済的補償措置も講じている

→手段として相当性を欠くものではない

 よって、株主平等原則の趣旨には反しないから、主張②は妥当でない

(3)➂について

ア 株主に割り当てられる新株予約権の内容に差別のある新株予約権無償割当てが、主として経営支配権を維持するためになされた場合、その新株予約権無償割当ては原則として「著しく不公正な方法」によるものと解すべき とする見解がある

 しかし、資金調達を目的とするものではない以上、「不公正な方法」あたるか否かは個別具体的事情に照らして必要性・相当性が認められるかで判断すべき 

 具体的には、当該割当てがなされた経緯や買収者への損害回復措置の有無などの諸般の事情に照らし、それが会社の企業価値ひいては株主の共同の利益を維持するためにされた相当なものと評価できる場合には、2 号には該当しない

イ 個別具体的検討 

 本件新株予約権無償割当ては甲社が経営権を維持する目的で行ったもの

 もっとも、前述の通り、乙社による投機的買収を防ぐ目的で行われた 乙社に対しては救済措置も講じられていたことに照らすと、甲社の企業価値ひいては株主の共同の利益を維持すべく行われたものといえる

→「著しく不公正な方法による発行」とはいえない

よって、主張➂も妥当でない

 

設問3

 

1 本件決議1の効力

(1)定款変更により取締役会の業務に属する事項を株主総会決議によってもすることが出来るようにすることが許されるか

→295Ⅱ,309Ⅴの趣旨:大規模会社において経営に属する事項を取締役の決定に委ねることで機動的経営を確保する

→原則として公開会社においては権限委任は許されないが、株主の意思を尊重する要請も鑑み、公開会社の場合小規模であれば併存型の権限委任は許されると考えるべき

(2)甲社は上場会社であり相当程度の規模を有すると考えられる→併存型権限委任は不可

(3)かかる定款変更をみとめる本件決議1は無効

2 Aの責任

(1)「役員等」

充足

(2)「任務を怠った」

善管注意義務違反(本件決議1が無効である以上、本件決議2に従う必要はなかったにもかかわらず、他の取締役の意見や損害の見込みを重く考慮せずに売却に踏み切った)

(3)故意又は重過失

少なくとも重過失あり

(4)「損害」の発生

50億円をくだらない損害

(5)任務懈怠と損害の因果関係

あり

(6)Aは甲社に対し423Ⅰの責任を負う

 

【解説】

設問1について

・制度比較なので、原告の主張に沿う形で条文を拾えるだけ拾ってそれぞれのメリット・デメリットを書けばよい。

・株式保有期間要件の「引き続き」に注意。その期間中、ずっと比率が下回らなかったことに言及する必要がある。

 

設問2について

最判平19.8.7 百選 100 ブルドッグソース事件。平等原則の趣旨に反しないと評価するにあたり、裁判所は①利益の帰属主体である株主の大多数が賛成していたこと②手続的な瑕疵がないこと③買収者に対する経済的補償がなされていることを考慮している。

 

 設問3について

判例は非公開会社についてであるところ、答案構成例は無責任経営の弊害を考慮して、公開会社については部分的にしか併存型権限移譲を認めない見解をとった。

併存型権限移譲を認める場合は、本件決議1が有効となるから、取締役に対し拘束力を生じることになる(355)。この場合、決議を遵守したことを理由に安易な免責を認めると無責任経営の危険が生じるので、慎重に任務懈怠を認定すべきであろう。私見であるが、総会決議に背いてでも個別的事情を配慮して業務を決定すべき特段の事情があった場合には、総会決議に従ったことが善管注意義務違反を構成すると考えることになろう(修了生の方はそのアプローチもありうるといっていた)。

                                     以上

本試30年商法 構成メモ

1. 雑感

設問1では会計帳簿閲覧請求に関する論点が初めて出た。知らなかったので書くのに手間取った。設問2は問題文で論ずべき点が制限されていることや、契約内容⑶の存在から120条への誘導がされていると分かる。また、脚注で述べた通り本件決議2は取消しの訴え自体が不適法となりうるため、その立場を採る場合は構成の段階から工夫が必要となる。設問3は見るからに現場思考で飛びつきたくなるが、論じるべき点は売渡し請求の可否だけではない。決議取消し系が来たら必ず特別利害関係株主の存在を疑うべしと学ばされた。

 なお、この年については自主ゼミメンバーと議論をしつつ参考答案を書き下ろした。7枚に収まる現実的な答案で、A評価に相当するものと自負している。脚注も含め参考にしていただけたら幸いである。

2. 参考答案

第1 設問1

1  

(1)Dは、会社法433条1項にしたがい会計帳簿の閲覧請求をしている。

ア Dは甲社株式を200株有しているところ、これは「発行済株式の...百分の三...以上」にあたるから、閲覧請求者としての適格を有する。

イ また、Dは甲社の「営業時間内」に本件閲覧請求をしている。

ウ そして、Dはリベートを受け取っている疑いのあるAの、取締役としての損害賠償責任の有無を検討するためとして、総勘定元帳及びその補助簿のうち仕入取引に関する部分について本件閲覧請求をしている。したがって、「当該請求の理由を明らかにして」いるといえる。*1

(2)   以上より、Dの請求は基礎づけられる。

2(1) これに対し、甲社は432条2項各号に該当する事由があると主張して本件閲覧請求を拒むことが考えられる。本件では1号及び3号該当性が問題となる。

⑵3号該当性*2

3号は、閲覧請求者が①閲覧を求めている株式会社の業務と「実質的に競争関係にある事業」を②「営み、又はこれに従事するもの」である場合に、当該閲覧請求を拒めるとする。

ア ②要件

Dは乙社の事業を「営み、又はこれに従事するもの」にあたるか。

Dは経営には全く関与していないことから、乙社の事業に対する影響力を有していないようにも思える。

しかし、Dは乙社の全株式を保有しているため、乙社の経営を意のままにすることができる。また、乙社代表取締役Fの親であるから、その密接な人的関係に照らせば、FがDの意思に沿った行動をすることが考えられる。したがって、DはFを通じて乙社を経営しているとみてよい。

よって、Fは乙社の事業を「営み、又はこれに従事するもの」にあたるから、Dもこれに該当し、②をみたす。

イ ①要件

(ア) 3号が拒絶事由として定められている趣旨は、競業者が内部情報を利用して当該株式会社の利益を害することを防止する点にある。そこで、「実質的に競争関係にある」といえるかは、内部情報を利用されることにより当該株式会社の利益が害される蓋然性があるか否かを客観的に判断することによって検討する。

(イ) 本件で、Dが全株式を有する乙社は甲社と同じハンバーガーショップを経営している。そのため、甲社の機密情報が乙社に利用される懸念は存する。

もっとも、甲社は関西への出店を予定しておらず、関西で店舗を展開する乙社と地域における競合は生じない。そのため、乙社が本件閲覧請求によって得た情報で有利に事業を遂行したとしても、甲社の利益が害される蓋然性があるとまではいえない。

したがって、乙社の事業は甲社と「実質的に競争関係にある」とはいえず、①をみたさない。

ウ よって、3号には該当しない。

⑶1号該当性

本件閲覧請求は「株主...の権利の確保又は行使に関する調査以外の目的」でされたものにあたるか。

確かに、Dが本件閲覧請求の理由として提示したのは株主として取締役の責任追及をするか否かにかかる事項である。そうすると、上記の目的でなされたものとはいえないとも思える。

しかし、Dが本件閲覧請求をした本来の目的は自己の保有する株式を買い取らせることにあり、閲覧請求の理由と関連性を有しないものである。

したがって、本件閲覧請求は上記の目的でされたものといえる。

よって、本件閲覧請求には1号に該当する事由がある。

3 以上より、甲社は1号該当事由がある旨主張して432条2項に基づき本件閲覧請求を拒むことができる。

第2 設問2(1)

1 前提となる問題

(1) 「株主等」であるCは、本件決議1・2のあった平成27年3月25日から「三箇月以内」である平成27年4月15日に本件決議取消しの訴え(831条)の訴えを提起していることから、同条1項柱書の訴訟要件をみたしている。

(2) また、本件決議2は否決決議であるところ、否決決議を取り消したとしても法律関係には何ら変動が生じないことから、本件決議2の取消しの訴えについては不適法であり認められない。*3

以下、各本件決議についてCの立場から主張されると考えられる点、及びその主張の当否について検討する。

2 本件決議1について

本件決議1に際してはAがDの議決権を代理行使しているところ、これは甲社による利益供与(120条1項)の影響を受けたものであるから、決議の方法に法令違反があるとして決議取消事由を構成する(831条1項1号)との主張が考えられる。これは認められるか。

(1)利益供与(120条1項)該当性

ア 利益供与の対象

本件では後述するようにAが甲社の株主ではないGに対して「財産上の利益の供与」をしているが、120条1項は「何人に対しても」としていることから、この点は問題ない。

イ「財産上の利益の供与」

甲社はGの丙銀行に対する債務を連帯保証するに際し、保証料を取らない旨の合意をしている。本来であれば60万円をくだらなかった保証料の支払を免れさせている点で、これは「財産上の利益の供与」にあたる。

ウ「株主の権利の行使に関し」

本件契約(3)に照らせば、上記の「財産上の利益の供与」は、甲社が自身にとって望ましくない株主であるDの議決権行使を阻む目的で、第三者であるGにDの株式取得のインセンティブを付与したものである。したがって、「株主の権利の行使に関し」てなされたものといえる。

エ「当該株式会社...の計算においてするもの」

甲社が保証料の支払を受けるとすれば、その利益は甲社に帰属していたのであるから、 本件利益供与は「当該株式会社...の計算においてするもの」にあたる。*4

(2) 以上より、CはAによるDの議決権の代理行使は利益供与の影響を受けてなされたものであるとして、120条1項に違反し決議取消事由を構成する旨主張することができる。

3 本件決議2について

(1) AがCの説明を途中で打ち切り決議に移ったことは、315条に違反し831条1項1号の決議取消事由に該当しないか。

ア 株主総会議長には議事進行について裁量が認められているため、説明の打ち切りも含め議事の進行に必要な措置をとることができる(315条)。しかし、株主の適切な議決権行使の要請から、無制限に認められるべきではない。

そこで、説明の打ち切りは、正当な理由が認められる場合にのみ許容されると考える。

本件のような取締役解任決議においては、解任の理由が取締役に対する損害賠償の要否に関わってくるため(339条2項)、特に重要である。そのため、解任理由の説明を打ち切ることは特段の事情がない限り正当な理由のないものとしてみるべきである。

イ 本件で、AはCがAを解任する旨の議案を提出した理由について説明しようとする前にこれを制止している。これは専らAがリベート受取りの嫌疑について明らかにされることを防止すべく行ったものといえ、正当な理由はなく、打ち切りを許容する特段の事情もない。

したがって、本件説明の打ち切りは、Cの裁量を逸脱したものであり、315条に違反する。

(2) もっとも、前述したように、本件決議2の取消しの訴えは不適法却下されることとなるから、訴えにおいてこの主張は認められない。

第3 設問2(2)

1 Cは、株主代表訴訟を通じてAに対し423条に基づく損害賠償請求を、Gに対し120条3項に基づく利益の返還請求をするよう甲社に求める訴えを提起し、仮にこの請求から60日経過しても甲社が提訴しない場合には自ら提訴することになる(847条1項、3項)。

Cは公開会社でない甲社の「株主」であるから、上記の訴訟の原告たりうる(847条2項、1項)。

2 Aに対する請求

Aは423条1項の責任を負うか。

(1) Aは甲社の代表取締役であるから、「役員等」にあたる。

(2) 「任務を怠った」とは忠実義務(355条)及び善管注意義務・忠実義務(330条,民法644条)に違反することをいうところ、 前述のようにAはGに対する利益供与行為(120条1項)をしているから、法令に違反し忠実義務に違反したものとして「任務を怠った」といえる。また、少なくともCには重大な過失も認められる。

(3) 上記の任務懈怠行為により、会社には少なくとも860万円の「損害」が生じている。

(4) よって、Aは甲社に対し423条に基づく損害賠償責任を負い、かかるCの主張は認められる。

3 Gに対する請求

GはAから「利益の供与を受けた者」にあたるから、当該利益として本来支払うべきであった保証料相当額の60万円及び甲社がGに代わって弁済した800万円について返還する責任を負う(120条3項)。したがって、Cの上記の主張は認められる。

第4 設問3

1 Bは「当該決議の取消しにより株主...となる者」として、平成27年7月3日から「三箇月以内」に、Cの売渡し請求に関する議案の決議を取り消す訴えを提起することにより本件請求の効力を否定することが考えられる(831条1項)。

ここで、Cによる議決権行使があったことは831条1項3号の決議取消事由を構成するか。

Cは売渡請求をした本人であり、かかる決議が可決することで自分のみがBの株式を取得することが出来ることとなる。したがって、「決議について特別の利害関係を有する株主」にあたる。

そして、決議に際してCのみが議決権行使をした結果これが可決されBが株式を失ってていることから、Bに著しい不利益が生じる決議がされたといえ、「著しく不当な決議がされた」ことが認められる。

よって、Bはこの主張により本件請求の前提となった株主総会決議を取り消し、本件請求の効力を争うことが出来る。

なお、この瑕疵が決議に影響を及ぼすことは明らかであるから、裁量棄却(831条2項)の余地はない。

2 また、BはCの本件請求が権利濫用(民法1条2項)にあたるとの主張をすることが考えられる。これは認められるか。

(1) 甲社定款9条は、会社法174条に従い定められたものであり、Cの本件請求もこれに基づいてなされたものであるから、本件請求自体は適法である。

(2) もっとも、この株式売渡請求は権利の濫用(民法1条3項)にあたり許されないとのBの主張が考えられる。

 174条の趣旨は相続等の一般承継によって閉鎖会社にとって望ましくない者が株主と なることを防止し、もって既存株主の保護を図る点にある。

 そうだとすれば、本条に従い定められた定款に基づく請求は、株式取得の原因となった事由によっても株主の構成が従前から変化しない場合にまで認める必要はないことになる。

 そこで、定款自治及び既存株主の保護の要請と株式の承継取得人の保護の要請との調整を図る見地から、株式取得の原因となった事由によっては株主の構成が従前と変わらない場合において、承継取得人を害する目的でなされた売渡し請求は、権利濫用にあたり許されないと考えるべきである。*5

(3) 本件で、BはAからの相続を原因として甲社の株式を取得しているところ、これによっても甲社の株主の構成は従前と変わらない。

また、Cは従前、Aの退任後はBが代表取締役となることに合意していたにもかかわらず、これに背いてBを排除し自らが代表取締役の地位にとどまるべく本件請求をしている。かかる事情に照らすと、本件請求はBを害する意図のもとになされたものと言わざるを得ない。

(4) したがって、Cの本件請求は権利濫用にあたるものとして許されないとのBの主張は認められる。

                                                                     以 上     

*1:2021/2/8追記:三段論法を徹底し、事情を拾いきるという観点からは、「433Ⅰが理由の提示を要求する趣旨が会社に対し開示を要する会計帳簿の範囲を認識させ、433Ⅱの拒絶事由の有無を判断する資料を与えることにあることに照らし、「理由を明らかにし」たといえるためには、示された理由が会社をして①請求と関連性のある会計帳簿を特定でき②拒絶事由の有無につき判断できる程度に具体的なものである必要がある」という規範を定立したうえであてはめる方がよい。

*2:1号が認められ、3号が認められない関係上、認められない3号を先に検討している。

*3:争いがあるが、近時の裁判例では訴えを不適法としているため、それに従った。ここで本件決議2について検討を終わることもできるが、問題文の事情を使いつつ裁判例への理解を示すために一応の先出しをし、最後に再確認している。

*4:2020/2/8追記:イーエも、解釈論を示したうえであてはめる方がよい。

*5:これについては完全な私見であり、他の構成も採りうるであろう。

本試29年商法 構成メモ

1. 雑感

 現場思考の少ない堅実な問題だと感じた。設問1が設立に関するもので、地味に出題の少ない分野のためギクッとしたのは内緒。設問2は書くべきことが非常に多く、瞬時に構成できないと設問3で詰む(最悪、決議瑕疵のうち代理行使の部分は書かないか簡潔に書いてもいいかも)。設問3は端数株買取請求・反対株主の株式買取請求を書けば足りるが、前者は知らないと書けない。逆に知っていれば2つとも条文適用で終わるのだが、こういうところこそ問題提起→条文要件呈示・要件解釈→あてはめ・結論という書き方を徹底するのが重要だと思う。

2. 構成メモ

 設問1(1)

1

⑴ まずは、設立中の会社と成立後の会社の同一性について論証

⑵ 発起人の権限の範囲について論証。その後、事務所の賃貸借契約と事務員雇用契約が設立のために事実上必要とされる行為にあたることを述べる(開業準備行為の定義にはあたらないはず)

⑶ これに要した費用は「設立に関する費用」(28④)に該当するため、定款に記載があれば会社に帰属

 甲社の定款には設立費用につき80万円とする記載があるが、本件で債務の合計額は100万円である

  このように設立費用が定款記載額を超えている場合、債務が会社と発起人のいずれに帰属するか問題となる

  判例は定款記載額の限度で会社に帰属し、超えた分について発起人に帰属するとする

  しかし、どの債権者が会社に請求できるのか不明確であるため支持しえない

  そこで、定款記載額を超えている場合には、一切が発起人に帰属し、債務弁済後各発起人が記載分について会社に請求できるとすべき

2 甲社は請求を拒める

 

 設問1(2)

1 定款記載なき財産引受けの効力と追認の可否

 判例は否定しているので、それに従って端的に否定するのが答案戦略上ベター。

 

2 事後設立

 総会特別決議が必要。

 

設問2

1訴訟要件―原告適格に注意(831Ⅰ柱書後段、234Ⅰ)

※端数株ときたら234に気を付ける

2 

(1)Kによる議決権代理行使

ア Kは乙社の株主ではないのに、議決権を代理行使している 310Ⅰの存在から、議決権代理行使を株主に限る定款の定めの有効性が問題になる

→有効。

イ Kの議決権行使は定款に違反するか

 Kは1200株を有し乙社の経営にも関心を有していると考えられるから、総会かく乱の防止という定款の趣旨が妥当しない

→定款に違反しない

よって、Kが議決権を行使したことは決議の瑕疵を構成しない

(2)甲社の議決権行使

 甲社が特別利害関係株主にあたることを述べる。株式併合により甲社以外が議決権を失うため、支配権を獲得するという他の株主と共通しない利益を得る。

「著しく不当な決議がされた」→当該決議により他の株主に著しい不利益が生じること。上記と同様の理由で、他の株主は議決権を失うという不利益を被る

→議決取消事由になる

(3)Lの議決権行使拒否

Lは基準日時点で名義書換未了の株主であるため、130Ⅰが相続による株式取得にも適用されるなら行使拒否は相当

しかし、相続を「譲渡」と同視するのは難しい 相続の場合には議決権行使につき空白が生じるおそれあり+事務処理便宜を図る要請に乏しい+174条により関係簡易化が可能

→相続には適用されない(「譲渡」に相続は含まれない)

とすると、Lの議決権行使拒否は105Ⅰ③違反であり、831Ⅰ①に該当

他の株主に係る瑕疵の主張の可否についても言及忘れないこと。

議決権行使の侵害は重大→831Ⅱの余地なし

 

※この構成を採るのはいいのだが、I・Lの居住実態等問題文に記載のある事情を使うことがないため若干気になる。

(4)併合理由の説明の欠缺

180Ⅳの「必要となる理由」の内容について意義を展開(例えば、株主が株式併合の妥当性を判断するに足りるのに必要となる重要な事項など)。それに本来の目的も含まれていたことを述べ、180Ⅳ違反を認定。831Ⅰ①該当のため裁量棄却(831Ⅱ)が問題となるが、その余地はないだろう

 

※特定の株主のみが議決権を行使できるようにする株式の併合は株主平等原則に反するとして、決議内容の法令違反を理由とする株主総会決議無効確認の訴え(830)についても言及しうるが、分量上かなり厳しい。

 

 設問3

1 株式の併合により生じる端数株の処理(235Ⅰ,Ⅱ・234Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ,Ⅴ)について論じる 出題趣旨に言及はあるが、気づかないとかなり思いつきにくい。

2 それに加え、株式の買取請求(182-4)を論じる。本問では議決権が行使できる立場にありながら、不当拒絶により行使できなかったLが反対株主(182-4Ⅱ①)に該当するかが問題になる

→Lは通知をしていることから、総会においても反対したことが合理的に推認できる+不当に拒絶した乙社は、信義則上Lが1号に該当しないことを主張できない

(②に該当しない)

→該当する

→株式買取請求可

 

                                                                         以 上

本試28年商法 構成メモ

1.雑感

設問1はオーソドックスな問題、設問2⑴⑵は条文・制度趣旨に立脚した三段論法が要求される問題、設問3は初めて内部統制システムに関して取締役が負う責任を問う問題であった。内部統制システムに関する問題を復習できる数少ない過去問。423Ⅰ責任はこすられまくったテーマであるが、その分損害の算定や因果関係の認定にひねりが加えられている。

2.構成メモ

設問1(1)

1 取締役会決議の手続に瑕疵があった場合の効力

 原則無効、但し法的安定性の要請に照らし具体的事情の下瑕疵が治癒される

2 個別具体的検討

(1)招集通知に目的事項を記載しなかったこと

ア 目的事項の記載が要求される場合には、366Ⅱ・367Ⅱのように明文で要求される

 →368Ⅰがこのような明文を設けていない以上、上記に該当しない場合には目的事項の記載 は必要ないと解すべき

イ 本件招集通知は366Ⅱ・367Ⅱに該当しない

 →招集通知に目的事項を記載しなかったことは決議の瑕疵を構成しない

(2)Aに対する招集通知を欠いたこと 

ア 招集通知の欠缺は368Ⅰに違反し、原則として決議の瑕疵を構成するが、当該取締役に対する通知がなされたとしても決議に影響がなかったと認められる特段の事情がある場合には、例外的に瑕疵を構成しないと考える

イ Aは特別利害関係取締役、決議には参加出来ない(369Ⅱ)

 また、決議の不当性を回避するため、特別利害関係人は審議にも参加できないと考えるべき

 →決議に影響を及ぼさない特段の事情があったといえ、瑕疵を構成しない

⑶招集通知に記載の無い事項を決議したこと

 取締役に出席義務があり、役会にはあらゆる議題があがりうることが想定されている以上、招集通知に記載のない事項を決議したことは瑕疵を構成しない

3 結論

本件取締役会決議は有効

 

設問1(2)

1 取締役の報酬請求権の存否

定款・総会・役会で具体的内容が確定してはじめて発生する

(1)報酬総額を総会決議で定め、配分を役会に一任する事の可否

361の趣旨:お手盛りの防止 総会で上限さえ定めればかかる弊害は防止出来る

→総会決議で上限を定め役会に配分を一任することも可能

(2)総会決議・役会決議をもってAの報酬請求権は具体化する

2 役会によって具体的な報酬金額が定められたあとに役会決議によって報酬の減額の決議がなされた場合の報酬請求の可否

ア 原則:報酬額が確定した以上それは契約内容として双方を拘束するから、事後的な減額 決議にかかわらず取締役は当初の報酬額分の支払を請求可

  例外:当該取締役が減額に同意していた場合はその額に減額される 従前から役職に応 じた報酬が支払われる旨の慣行があり、当該取締役がその旨認識したうえで役職の変更に 応じていた場合には黙示的同意を認めることが出来る

イ Aは平取の報酬月額が50万円であるとの慣行は認識していたから、その限度では減額に 関する黙示的同意があったといえる。もっとも、月額20万円への減額は慣行を逸脱するものでありおよそAの同意は認められない

  よって、月額50万円への減額のみ認められる

3 結論

Aは月額50万円の報酬を請求出来る

 

設問2(1)

1 339Ⅱに基づく損害賠償請求

 残存任期8年の報酬総額相当の損害賠償を請求

2 「正当な理由」の存否

ア 合理的な経営判断の結果会社に損害が生じたことをもって「正当な理由」に含めることの肯否

 →会社経営の萎縮を招くことから、ただちにあたるとするのは妥当でない。取締役の善管注意義務に照らし、経営判断の過程に著しく不合理な点があったと認められる場合に限り、「正当な理由」にあたる

イ 本件のAでの事業展開の失敗は適切な経営判断の結果生じたもの

 →解職の「正当な理由」にはあたらない

3 結論

 Aの損害賠償請求は認められる。計算すると、50万円×12ヶ月×8=4800万円。なお、残存任期が長期であることから、その後の退任の可能性に鑑みて損害賠償額が減額されることはありうる。

 

設問2(2)

1 ①訴えをもってAの解任を請求する際の手続

Bは甲社発行済株式の20%を保有しているから、854Ⅰ①の原告適格を有する

そこで、Aが会社資金の流用という「役員の職務の執行に関」する「不正の行為」をしたことを理由として、854Ⅰの訴えを、株主総会から30日以内に、甲社及びAを被告として(855)、甲社本店所在地を管轄する地方裁判所に提起することになる(856)

2 ②会社法上の問題点

(1)総会が流会した場合も「当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたとき」にあたるか

(2)解任の訴えの趣旨→流会の場合も含まれると考えるべき

(3)この要件もみたす

(4)よって、Bは解任の訴えを適法に提起出来る

 

設問3

1 Cの損害賠償責任(423Ⅰ)

(1)「役員等」

(2)「その任務を怠った」

ア 内部統制システム構築義務

甲社は大会社なので構築義務を負う(330,民法644。348Ⅳ参照)

→履践している

イ 運用義務違反

Dについて監視義務を負うか(非上程事項に関する監視義務の有無)

もっとも、信頼の原則

Cについては運用義務に違反していないと考えられる

ウ 事前報告義務(357Ⅰ)

 履践していないのは事実 だが、認定するにしても従業員の内部通報をDが隠匿しているため、故意重過失がないといえる

(3)損害賠償責任否定

2 Dの損害賠償責任(423Ⅰ)

(1)「役員等」

(2)「その任務を怠った」

ア 構築義務はC同様履践

イ 運用義務については違反したことが明らか

ウ 事前報告義務も懈怠している

(3)「故意又は重過失」

少なくとも重過失があるといえる

(4)「損害」の発生

水増し行為の発覚後に甲社が支払った3000万円が損害)

(5)因果関係

3000万円については因果関係が認められる

(6)Dは甲社に対し3000万円の損害賠償責任を負う

 

【解説・補足】

設問1(1)

 答案構成例では、Aに対する招集通知を欠いた点の処理において、Aは決議に参加できない以上決議に影響を及ぼさないと認定している。

 もっとも、特別利害関係取締役が参加できないのは決議であり、審議自体には参加できるのではないかという問題が存在し、その帰結によっては書き方が変わり得る。

 あり得る立場は、①決議への不当な影響を排除する立場から、審議にすら参加できないとする②条文文言に即し、審議には参加できるとする の2つだろう。

 私見としては、答案がシンプルに書ける①がよいように思われる。

設問1(2)

 典型的な問題なので、特に補足なし

設問2(1)

 解任に際しての損害賠償請求の可否。339Ⅱの趣旨が解任された取締役の保護にあることから、経営判断の失敗を正当な理由として取締役の責任に転嫁できるかを考える。経営判断の原則が妥当する場面においてさえ取締役の損害賠償請求権を当然に奪えるとすれば、取締役の萎縮の防止という経営判断原則の趣旨を没却することになる。したがって、当然には「正当な理由」には含まれないと考えるべきであろう。

設問2(2)

 設問前段では形式的に手続の流れだけを書き、設問後段は要件充足性を検討する中で問題になる点を書けばよい。現場思考色の強い問題なので、自分なりに解任の訴えの趣旨を考えてそこから結論を出せばOK。

設問3

内部統制システム構築義務・運用義務の問題。構築義務については問題ないと思われる(なお、下の※参照)。Dについてはストレートに運用義務違反を指摘できるが、CについてはDの監視義務を懈怠したといえるかが問題になってくる。

また、取締役は事前報告義務を負っているため、その違反についても検討する余地があるように思われるが、出題趣旨・採点実感においてその言及はされていない。

 

※事例が似ている判例として最判平21.7.9(百選52)がある。本設問にあるような巧妙な違法行為をも防止できるだけの内部統制システムを構築する義務を負うかが問題となった。

 判例は、原則としては通常想定される不正行為を防止しうる程度のシステムを構築しておけば足り、従前に似たような違法行為があった等当該違法行為を予想すべき特段の事情があった場合には、それを防止できるだけのシステムを構築する義務を負うとしている。

 ただし、この判例は350条の「過失」として内部統制システム構築義務違反が認められるかを検討しているため、本問に直接射程が及ぶものではない。もしCもDも運用義務を適切に履践していたとしたら、構築義務違反のところで展開する実益もあるかもしれないが。

 

                                     以上

本試27年商法 構成メモ

1.雑感

 26年と似ていて、定義や条文の文言に忠実な思考が出来るかを問うている良問と感じた。設問1は構成こそメジャーだが、どこに問題が潜んでいるのか条文に紐づけるかたちで言語化するのに苦労した。設問2は当初問題点を無視した起案を書いてしまい可燃ごみを錬成してしまった。設問3は配点も低く聞いたことがない論点だったので現場思考で処理したが、ばっちり条文があるし判例も存在する、書けてしかるべき重要な問題であった。全体として論点は少ない分、一個一個をしっかり書くことが合格に必要なのだろう。時間内に書ききるには相当早く答案構成をする必要があるのではないだろうか。

2.構成メモ

【設問1】

⑴Bが乙社における洋菓子事業に関与したことは、競業取引(356条1項1号)にあたるか。

・競業取引該当性

※「ために」→356条1項1号の趣旨、すなわち取締役がその地位に基づいて得られた知見や

ノウハウを用いて、自己または第三者の利益を図ることにより、会社財産が流出毀損されることを防止し、もって会社財産を保護するという趣旨からは、計算においてと考えるべきである。

Bは乙社との関係では代表取締役等、会社を代表する地位にはない。

→乙社で陣頭指揮をとっていたことや、株式の保有率が90%に達していたこと、乙社人事にまで関与していたことからすれば、事実上乙社の主宰者として行動していたものと評価できる。

→Bは356Ⅰ①の行為主体にあたる

・「事業の部類に属する取引」

→前述の356条1項1号の趣旨から、当該会社の事業と市場・商品において競合する取引をいう。

そして市場の競合については、かかる趣旨に照らして、現時点で市場が重なっていなくとも、将来における当該地域への進出計画が相当程度具体性・確実性を有する場合は、市場の競合が認められる。

→両社とも洋菓子販売製造事業者なので、市場の競合がありうる。地理的市場についても、甲社の本拠地は関東だが、市場調査を委託するなど関西進出の計画が相当程度具体的かつ確実→将来において市場が競合し、利益衝突の可能性がある

したがって、Bのした取引は「事業の部類に属する取引」にあたる。

役会で重要な事実を開示して承認を得る必要があるが、役会でない場においてACに乙社事業に携わる旨述べただけであり、「重要な事実」の開示はない

→役会の承認なく行ったことは法令違反行為として任務懈怠を構成する

⑵引き抜き行為が忠実義務違反(355条)にあたるか。

→引き抜き行為が常に取締役の任務懈怠にあたるとすると、引き抜かれる側の転職を制限

することになり、職業選択の自由憲法22条1項)との関係で問題となる。

 そこで引き抜かれる者の従前の地位、引き抜きの目的・態様、引き抜きが当該会社に与える影

響等を総合考慮して、不当な態様による引き抜きと評価できれば、忠実義務違反が認めら

れる。

→Bは、工場長という工場稼働に不可欠な立場にあるEを専ら乙社のために引き抜いた。Eが従前転職したがっていたという事情もみられない。また、甲社に事前の相談もなく引き抜いている。そして、甲社は引き抜きにより工場の稼働停止という大きな影響を受けている。

→不当な引き抜き行為として善管注意義務に違反し、任務懈怠を構成する。

 

⑶損害額の算定

①引き抜きについては、300万円

②競業取引の損害額については、423条2項で損害の推定規定が設けられているが、「ため

に」を名義と解するか、計算と解するかによって、どの利益にかかる損害の推定を適用す

べきかが分かれる。前者の見解に立った場合、Bは乙社名義で取引をしていたから、乙社に

もたらされた増加利益が推定損害となる。すなわち営業利益の増加分800万円が損害額と

なる。

後者の見解に立った場合、取締役本人が得た利益を実質的に判断していくことになる。

すなわちBが顧問料として得た100万円/月、さらにBは乙社株式の9割を保有しているから、

乙社が得た利益はBの利益といえる。そこで増加営業利益800万円に0.9をかけた720万円を

Bの実質的な利益と評価することができる。

③市場調査のために支払った500万円

→競業取引によってでた損害といえるから、「ために」の意義につきいずれの見解に立っても損害に含まれる。

※競業取引前に行われているから不可避的出費として損害としない考え方もあるが、500万円費やしての市場調査をするということは、今後の関西進出が相当程度確実である事を示しているから、「よって」生じた損害といえるだろう。

まとめると、損害額は1520万円および顧問料100万円/月

⑷因果関係

⑸故意又は重大な過失

○(法令違反なので原則認定されるだろう)

 

【設問2】

事業譲渡(467条1項)該当性

 

1.「事業の…譲渡」:法解釈の統一性を図る観点から総則規定の事業譲渡と同一に解するべ

きである。また取引の安全・法的安定の見地から、その要件は明確である必要がある。

→①一定の事業目的のために組織化され有機的一体となって機能する財産の全部または重要

な一部を譲渡し、②これにより譲渡会社が当該財産により営んでいた営業活動が譲受人に受

け継がれ、譲渡会社がそれに応じて当然に競業避止義務を負うものをいう。

 そして、株主利益保護の点から、特約によって簡易に排除ができる競業避止義務は、事

業譲渡の効果であって、要件ではないと考えるべき。

→第1取引:洋菓子工場の土地・建物は洋菓子製造のために一体となって機能する財産。そして、これの譲渡により乙社は洋菓子製造業を受け継ぐ。よって、事業譲渡に該当。もっとも、これ単体では簡易授業譲渡になるので総会決議不要。

第2取引:のれんの譲渡なので事業譲渡にあたる。ただし、簡易事業譲渡なので決議は不要

→しかし本件では、S社からの反対が予期されていた。また、二つの取引は時間的に近接し

ていた。これらの事実から、第一取引・第二取引は株主総会決議規制を潜脱するために取引を分割したと考えられる。したがって、この二つを一個の行為と解釈して、事業譲渡該当性を検討すべき。

 

2「重要な」

質的(看板事業か否か)かつ量的(資産額的な観点)に判断。 

→洋菓子部門は甲社が有する2つの事業部門のうちの一方であり、甲社総資産額5億に対し

て売却した洋菓子部門の総額は2億5千万なので5分の1を超えており、「事業の重要な一部

の譲渡」にあたる。

 

3 手続規制とこれに違反してされた事業譲渡の効力

⑴ 株主総会特別決議が必要(309Ⅱ⑪)

 本件ではこれを経ていない

⑵ 総会決議なき事業譲渡の効力

 趣旨に照らせば無効

 

【設問3】

1 

 新株予約権発行無効の訴え(828Ⅰ④)は出訴期間(同号括弧書)を徒過しているので不可。争うには株式発行無効の訴えによるしかない(828Ⅰ②)

 発行無効事由→取引安全の要請よりも会社・既存株主の利益を保護する必要があるほど重大な法令違反 に限る

2

⑴ 新株予約権の募集内容の決定は、原則として総会決議による(238Ⅱ)。もっとも、総会決議によって、募集事項の決定を役会に委任することができるとされている(239Ⅰ柱書) 

 本件では募集事項の決定について総会決議をもって行ったのち、行使条件自体の内容について役会決議をもって決定している

  ここで、新株予約権の行使条件は「新株予約権の内容」にあたるのかが問題になる

 ・あたるなら、総会決議をもって決定しなければならず、役会への委任はできない(238Ⅰ①,Ⅱ,239Ⅰ)

 →総会決議がないため、新株予約権発行の瑕疵を構成する

 ・あたらないなら、役会決議への委任をすることも可能

 →役会決議がある以上、新株予約権発行の瑕疵を構成しない

※239Ⅰ各号の意義:「役会に委任する場合であっても、1号~3号に掲げる事項については委任する際の総会決議で定めておけ」という趣旨。

⑶ 新株予約権行使及び株式発行に関する瑕疵

上場条件を役会決議のみで事後的に廃止(変更)することは許されるか

ここは判例が存在するので重要。

◇判旨

株主総会決議による委任を受けて新株予約権の行使条件を定めた場合に、新株予約権の発行後に上記行使条件を変更することができる旨の明示の委任がある場合は格別、当該新株予約権の発行後に上記行使条件を取締役会決議によって変更することは原則として許されない。その取締役会決議は、委任に基づき定められた新株予約権の行使条件の細目的変更をするのにとどまるのでない限り無効と解するべきである(最判平24.4.24)

この判例に従うなら本件での取締役会決議は無効。とすると、株式発行は行使条件を満たしていないにもかかわらず行使された新株予約権に基づき発行されたことになる。

⑷ 行使条件不充足のまま新株予約権が行使され株式が発行されたことは、無効事由を構成するか

判例は肯定。∵株主の利益のために決定された行使条件に従わない株式発行がなされることは、株主総会決議を欠く株式発行と実質的に同様。そして、非公開会社では既存株主の持株比率が重要な利益であり、その低下を事後的に回復することが困難であることに照らすと、その瑕疵は重大といえる(取引安全の要請より既存株主の保護を図るべき)

⑸ 無効事由があるから、本件での甲社株式発行は無効。

                                                                           以 上

 

本試26年商法 構成メモ

1.雑感

 一番好きな問題。聞いてくる論点は基礎的なものが多いが、「条文をきちんと読んでいるか」を試されていると感じる。また、設問2では幅広く構成を検討し各構成の関係についても整理する必要があるので、純粋に会社法の復習・リハビリ問題として好適であろう(と自分は思っている)。

 

2.構成メモ

設問1

(1)新株発行不存在確認の訴えの提起

Cとしては新株発行不存在確認の訴え(829①)を提起し、株式発行不存在事由を主張する

→着目点:総会決議(199Ⅱ)があったと評価できるのか・Eが発行している点をどう評価するか

※非公開会社の募集株式発行に際しては201条の読み替えは生じない

反対事情

・株主全員が出席した会合で発行について話されており、一応総会の形をなしてはいる

出資の履行はされている(207Ⅸ④に該当するため検査役選任等は不要)

消極事情

・Cは出席こそしたが反対して退出、Aは態度保留、D,Eは賛成

→309Ⅰの定足数はみたしているが、過半数の賛成があったとは言えない

 にもかかわらず、賛成があったものとして株式を発行している

→総会決議があったと評価することはできないから、総会決議を欠く株式発行となる。非公開会社では少なくとも無効事由を構成する

 

・適法な選任手続を経ないEが代取として発行している

→株式発行は会社の業務執行に準じた取扱いを受けている(202Ⅲ,201Ⅰ,199Ⅱ。役会は業務執行の決定をするとされていることから(362Ⅱ➀)、株式発行についてこのような評価をすることができる。) 代表者が発行した場合はともかくとして、平取が発行した場合は正当な業務執行をしたとはいえず、瑕疵が大きい(おそらく無効事由)。今回の場合、本来取締役ですら無いEが発行しているため、その瑕疵は極めて重大といえ、不存在事由に該当する

 

※新株発行無効の訴え出訴期間徒過により不可。出訴期間徒過後における新株発行無効の訴え提起を認めた裁判例はあるが(名古屋地判平28.9.30)、射程が狭いので、安易に用いない方がいい。

(2)Eに交付された株式・本件建物・その使用利益についての処理

→不存在になった場合、839のように遡及効を否定する定めない

→遡及的効果を有すると考えるべき

では発行された株式及び出資された本件建物をめぐる法律関係はどうなるか?

【アプローチ1】840類推

840は無効の訴えが認容されたときの規定であるため直接適用出来ない

840は法律関係を覆すことにより法的安定性が害されるのを防ぐ趣旨で原状回復の範囲を制限したもの その趣旨は新株発行不存在確認の訴えについても妥当

→840類推の基礎あり

→株式については登記を変更することを請求可。引換えに、会社は財産の給付時における価額相当分の金銭を支払わなければならない もっとも、現物出資にかかる給付物の返還請求は出来ないことから、本件建物及びその使用利益の返還請求は出来ない

【アプローチ2】原状回復義務構成

民法121-2Ⅰの原状回復義務の履行を請求できるとする。

※不存在の契約に基づく履行の給付についても同条が直接適用・類推適用されるのかは不明。弁護士の先生曰く、適用自体は肯定しても問題ないと思われるとのこと

→株式・払込金銭の返還が必要。使用利益については、甲社が善意占有者であることから不当利得返還請求できない(民法189Ⅰ)

 

※不存在の主張が認められないとした場合は株式の帰属は変わらない。もっとも、Cは持株比率低下という損害を被っているので、429や民法709の適用の可否を検討することになる。だが、こちらは恐らく出題趣旨に沿っていない

 

設問2

Hの主張

354の類推適用により、甲社が本件借入れにつき責任を負う

→Eは本来取締役ではないので、354の直接適用は出来ない

908Ⅱの直適により、甲社が本件借入れにつき責任を負う

 甲社の主張

①Hの主張する①②についてのHの悪意重過失

借入れに際し、Eの説明があいまいであった→資格徴憑あり

Hには事業計画に関する資料の交付を求める等の調査義務が生じていた

Hは交付を一度求めたものの、結局見ないまま貸付けに応じた→重過失あり

②決議を欠く多額の借財

362Ⅳ②に該当し、取締役会によって決定する必要あり

※借入金が2億であり甲社の年商に匹敵することから、多額の借財にあたることは問題ないであろう

Hとの関係でEが取締役に当たるとしても、本件借入れは取締役会の決議を経ずしてなされたもの→民法93Ⅰ但し書類推適用により、悪意有過失の相手方との関係では多額の借財も無効と解する

Hに過失あり→本件借入れの効果は甲社に帰属しない

③Eの権限濫用      

Hとの関係でEが取締役に当たるとしても、本件借入れは妻Fが取締役を務める乙社に融資するという私的目的でなされたもの→代表権濫用にあたる民法107直適or類適(代表者は代理人ではないといえば類推になる)

Hに過失あり→本件借入れの効果は甲社に帰属しない

※③は、908Ⅱ類推適用によりHとの関係でEが代表取締役でないことを甲社が対抗できない場合に対応する主張。

 

設問3

D331Ⅴ・346Ⅰでなお「役員等」として責任を負う

→362Ⅱ②の監督義務を負う。Dとしては、他の株主に報告するか、監査役に報告すべきであった(357Ⅰ)

にもかかわらずこれをしていない

→任務懈怠あり

E

Eは甲社との関係では使用人に過ぎない(選任決議をかく登記簿上の取締役)。そこで、423責任を追求することが考えられる(類推)

さらに、本件土地の登記名義人はEのままであるため、土地の移転登記請求もしたいところであるが、取引によって負った責任も423の責任に含まれるかを論証する必要がある

含まれるとする自説にたつ限り、移転登記請求もすることが可能。

 

                                    以 上