One's Note

一橋ロー入試対策情報・司法試験過去問・修習雑記

本試平成24年民法 構成メモ(改正法準拠)

1. 雑感

 改正による影響を露骨に受けている過去問の1つで、40点もの配点がある設問2は殆ど条文摘示で終わってしまう。当時は現場で混合寄託契約を考え、妥当な結論を導く処理が求められたことだろう。

他の設問はオーソドックスで、丁寧に条文・要件を挙げて検討していくのが差をつけるポイントになると思う。

設問3は債務不履行責任における債務不履行の有無と損害の範囲が問題になっており、後者は書き方に悩んだ。

2. 構成メモ

 

 設問1
1 小問⑴
⑴ Fの主張は、Bが甲土地の所有権を有することを前提にして、AB間の売買契約により甲土地の所有権がAに移転し(555,176)、Aを単独相続したことによりFが所有権を取得したというもの(882,887Ⅰ,896本文)
Bが甲土地の所有権を有していれば主張は基礎づけられるので、この点について検討する
⑵ BはDの唯一の子でありDの妻はすでに死亡しているので、DがCから甲土地を単独相続したといえればBが単独相続により甲土地の所有権を取得することになる
 もっとも、Cの相続人はDだけでなくEもいる→遺産分割協議が行われた事情はないので、甲土地はDEに共同相続され、Dは甲土地につき2分の1の持分を有するにとどまる(898,899)
 したがって、Dを相続するBは甲土地の2分の1の持分を相続するに過ぎないから同土地の所有権を有していない
⑶ よって、FがEに対し甲土地の所有権が自己にあることを主張することはできない
2 小問⑵
⑴ 長期取得時効による時効取得の条文上の要件は、①20年間②所有の意思をもって③平穏かつ公然と④他人の物を⑤占有したこと(以上につき162条1項)、及び⑥取得時効の援用(145条)である
⑵ ①について、ある時点での占有及びそこから20年経過した時点での占有を証明すればその間継続して占有したものと推定される(186Ⅱ) また、Fは占有者たるAの承継人であるから、Aの占有を併せて主張できる(187Ⅰ)
 Aが甲土地に直接的な支配を及ぼし占有を開始したのは、柵で囲み看板を立てた1990年11月20日。Fはこの時点での占有及び2010年11月20日時点での占有を証明すれば①をみたす
②③は186Ⅰにより推定されるところ、これを覆す事情はないからみたす
⑤もみたす
⑥について、Aは1990年11月15日にBから甲土地を買い受けている この下線部事実によれば、甲土地はAが占有を開始した時点でAの所有だったことになるから、「他人の物」にあたらず⑥をみたさないのではないか 占有客体が「他人の物」であることは時効取得の要件となるかが問題になる
取得時効の趣旨は、長期間継続した事実上の状態を法的に保護すること及び所有権の帰趨をめぐる立証の困難性を解消する点にある 占有客体が自己の物でも他人の物でも、上記趣旨が及ぶことには変わりない
→条文上の「他人の物」は占有客体の例示であり、実体法上の要件ではないと解すべき
→下線部の事実は取得時効の成立を妨げるものではなく、法律上の意義を有しない

設問2
1⑴ 寄託契約書6条・665-2Ⅱに基づく返還請求が認められるか
⑵ 混合寄託契約該当性
665-2Ⅰに照らし混合寄託契約に該当するかを検討
・「複数の者が寄託した」→FGが寄託している
・「物の種類又は品質が同一」→和風だし2000箱は種類及び品質が同一
・「各寄託者の承諾を得た」→寄託契約書3条により承諾がされている
→混合寄託契約に該当
→665-2Ⅱ・寄託契約書6条に基づきGのHに対する返還請求権は基礎づけられる
⑶ Hの主張
665-2Ⅲにより、Gが返還請求できるのは500箱
この主張が認められるか。寄託契約書には665-2Ⅲに対応する規定がないところ、本件寄託契約によって同条の適用は排除されるかが問題になる
665-2Ⅲは、寄託物の割合に応じた数量の返還を認め、返還を受けられなかった分については別途損害賠償請求を認めることで寄託者間の公平を維持する趣旨の規定
→趣旨を尊重するべく、契約内容の合理的解釈からこれと異なる合意がされたと認められない限り、本条の適用は排除されないと解する
→寄託契約書4条が寄託した物の数量の「割合」に応じた持分権を確認している 他にこれと異なる割合での権利を認める規定がないことから、FGH間の契約は寄託者間で公平を図る内容であったと解釈するのが合理的 割合も665-2Ⅲと対応しているから、これと異なる合意をしていたとは認められない
→665-2Ⅲの適用は排除されない
→Hの主張は正当。1000箱滅失しているから、Gはそれぞれの持分に応じて500箱の返還を請求できるにとどまる

設問3
1 
⑴ 「債務の本旨に従った履行をしない」
Hは無償寄託契約により負う注意義務(659)に違反したといえるか
自己物であっても、山菜おこわ500箱は相当な価値を有するものであるから、通常人であれば他人から盗取されないよう施錠して管理する
Hは質屋を営んだ経験もあるから、自己の物であっても通常人より注意能力が劣っていたとは考えられない
→Hは自己の財産に対するのと同一の注意義務として、山菜おこわを管理するに際し施錠する義務を負っていた
→山菜おこわの滅失はHの施錠忘れが原因であるから、Hは上記注意義務に違反したといえ、この要件をみたす
⑵ 「これによって生じた損害」
上記債務不履行との因果関係が認められる「損害」の範囲を検討する
416Ⅰは「通常生ずべき損害」として債務不履行と相当因果関係を有するものを「損害」とする旨定めている。2項は債務不履行時に「当事者」、すなわち債務者が「予見すべきであった」事情を判断基底に加え、これと相当因果関係を有するものをも「損害」とする旨定めている
・FQの契約が解除されたことにより逸失した利益である300万円は「通常生ずべき損害」だから、損害賠償請求できる。
・全店舗販売ができなくなったことの損害は「通常生ずべき損害」ではない
また、FはHに寄託するに際し交渉に入ったことを伝えているが、全店舗販売がされることは寄託段階において確実ではなかったから、Hをして山菜おこわが滅失すれば交渉打ち切りによる大きな損害が生じうることを予見することは容易ではなかった
→交渉打ち切りにより山菜おこわを取り扱ってもらえなくなることはHが「予見すべきであった」事情ではないから、判断基底に加えられない
よって、交渉打ち切りによる逸失利益は「これによって生じた損害」にあたらない
2 FはHに対し415Ⅰに基づき交渉打ち切りによる逸失利益の賠償を請求することはできない
                                                                                                                                                                                 以上

 

                      

本試平成18年刑法 構成メモ

1. 雑感

 

 正当防衛は新判例を踏まえたR3での出題が予想されている。R2の出題がH19の焼き直しに近かったことを考えると、正当防衛における急迫性の限界事例ともいえるH18もアレンジされる可能性がある。ということで、新判例の基準を使って再検討することにした。

しかし、H18で一番難しいのは正当防衛の検討そのものではなく、丙の致死結果を生じさせた暴行が特定されていないことである。ここの処理は構成段階で深く考える必要があり、刑法では珍しい水面下での思考が要求される。

分析本の再現答案や趣旨・実感を参照していないので参照の際は注意して欲しい。

2. 構成メモ

第1 各人が帰責される行為の確定

1 丙は左頸部切創及び左上腕部切創の傷害を負い、前者による頸動脈損傷で死亡している

しかし、各傷害結果が甲乙のいずれの暴行から生じたか明らかでない

→各人が責任を負う行為について確定する

2 乙が丙をカッターで切りつけた行為について

⑴甲は共謀共同正犯として責任を負うか

成立要件を論証

⑵意思の連絡

問題の事実から甲乙間に意思連絡があったといえるか?

「カッターの受け渡し」については少なくとも認識を共同していた。しかし、甲について「乙が渡したナイフで丙を切りつけること」までの認識があったといえるだろうか。

◆肯定方向

カッターナイフを渡せといったら、そいつはカッターを使って切りつけるのが普通。

現状乙は興奮して胸倉をつかんでいるのだから、切りつけもありうる

◆否定方向

乙は甲ほど粗暴な性格ではないことからすると、いきなりカッターで切りつけるまでには至らない可能性が高い。

乙は完全に頭に血がのぼっており、甲と共同して犯行を実現する意思を有していなかったのではないか。

→意思連絡を肯定

(2)共謀に基づく共同実行

乙の切りつけ

⑶正犯意思

あり

→乙の切りつけ行為について、甲も共同正犯として責任を負う

3 甲が丙をカッターで切りつけた行為について

甲乙間で前述の共謀が成立する前の行為なので、乙が共同正犯として罪責を負うことはない

→207条の要件を充足することはない(同一の機会性は認められないだろう)

→甲のみが責任を負う*1

 

第2 乙の罪責

1 カッターで切りつけた行為

傷害罪の構成要件に該当(捜査結果から、いずれかの切創傷害については責任を負う。ただし、死亡との因果関係は不明のため致死結果は帰責不可)

2 罪責

傷害罪が成立し、甲とは同罪の限度で共同正犯となる

 

第3 甲の罪責

1.丁をバットで殴った行為

傷害罪(204条)

(1)構成要件該当性

現にけがをしているので、実行行為性を厚く論じる必要まではない。

傷害結果も端的に認定すればよい。

故意は特に問題のない限り「欠けるところはない」で流せばよい

(2)違法性

「急迫」性を基礎づける積極事情・消極事情をピックアップする

規範:正当防衛は、公的機関に救済を求める余裕がない緊急の事態において、私人による対抗行為を例外的に許容する趣旨の規定である

したがって、侵害の「急迫」性については、上記法の趣旨から、対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況に照らして判断すべきである

そして、上記の法の趣旨に照らして対抗行為が許容されないといえる場合には「急迫」性が否定される

急迫性を肯定する方向の事情

・甲は当初からバットを振ったわけではなく、殴られたのに怒って振った(対抗行為に及んだ際の意思)

→積極的な加害意思に基づく行動とはいえない。

・バットで肩しか狙ってない→枢要部を狙っておらず、積極的な加害意思があるとはいえない(対抗行為自体の状況)

急迫性を否定する方向の事情

・甲丙丁の不仲→口論が喧嘩に発展する可能性は高かった(侵害の予期)

・侵害も、胸倉をつかむというもので予期と齟齬するものではない(侵害の予期)

・降りなければ喧嘩にならないのに、降りていった(侵害の回避可能性)

→警察等への通報が十分可能であり、緊急の事態だったとはいえない

・バット・カッターナイフを持って行っている

→侵害に対する事前準備をしていた(事前準備)。私的闘争に近く、緊急事態とはいえない。(これだけでは積極的加害意思を認定できない)

まとめ

公的機関に救済を求める余裕がない緊急の事態にあるとは言えず、対抗行為が許容される状況だったとは認められないから、「急迫」性はない。違法性は阻却されない

⑶傷害罪成立

2.丙をカッターで切りつけた行為(自身による切りつけ行為と乙の切りつけ行為とを合わせて検討する)

(1)構成要件該当性

傷害致死

※自身の切りつけ行為と乙の切りつけ行為のいずれから生じた結果についても罪責を負うから、死亡結果についても帰責できる

(2)違法性阻却

急迫不正の侵害は問題なく認められよう。

問題は相当性。すでに丙が手で肩をつかんでいることを前提に採り得る手段を考える

素手で払う

体格差がある以上振り払うのは不可能に近い

・カッターで脅す

既に手がかかっており、脅すのでは防衛に足りない(可能性がある)

・カッターで切る

ひるませるには有効。しかし、部位としては足や手の先でも良く、肩をめがけて切る必要まではない

→「やむを得ずにした」とはいえない

→過剰防衛が成立

※正当防衛の否定が若干無茶。しかし、仮にここで正当防衛の成立を認めた場合、誰にも致死結果を帰責することができなくなる。酷な要求をする分量刑上考慮する、という処理の方が結論としては妥当と考え、このようにした。*2

傷害致死罪が成立するが、過剰防衛により刑が任意的に減免される

3.丙の顔面を殴った行為

暴行罪

4.罪数

①丁に対する傷害罪②丙に対する傷害致死罪③暴行罪が成立。③は②に吸収、②は傷害罪の限度で甲と共同正犯になり、刑が任意的に減免される 両者は併合罪

                                     以上

 

 

                      

*1:H28,R2で207条の適用に関する判例が出され、意思連絡の有無は不問になり、機会の同一性が要求されることになりました。今回の場合、甲の切りつけについては乙との意思連絡を認めることができないほか、乙による切りつけとの機会の同一性もないので、乙が致死結果について責任を負うと解するのは難しいでしょう。

*2:致死結果を帰責させるという結論ありきの思考過程です。自身の切りつけ行為と乙の切りつけ行為を別個に捉える→前者について正当防衛の成立を認め、後者について死亡結果との因果関係を否定して傷害罪の限度で成立させる、というのもありだろうと思います。弁護士の先生との検討会では両方のアプローチを検討しましたが、本文の処理の方が穏当ではないかという結論に至っています。

本試平成21年刑法 構成メモ

1. 雑感

今回の問題で厚く論じるべきは、①乙にA社の預金に関して占有が認められるか②乙が途中で甲の意図に気付いていることから、甲にいかなる犯罪が成立するかの2点であろう。

間接正犯と途中知情については、平成24年でも出題されている。主観と客観との齟齬に着目して共犯の錯誤という形で処理すればよいと思う。

 

監禁や偽計業務妨害などのマイナー犯罪もついでに聞かれているが、上の論点に比べれば難しくない。

 

 

2. 構成メモ

 

乙の罪責

1 A社名義の口座から80万円を送金した行為(「本件送金行為」)

預金通帳等を受け取っている点を考慮すれば単純横領罪

2 同口座から現金120万円を引き出した行為(「本件出金行為」)

単純横領罪

3 甲をかくまうために駆け付けた警察に対し虚偽の説明をした行為

犯人隠避罪

4 罪数

①A社との関係で横領罪②甲との関係で横領罪③犯人隠避罪

併合罪

 

甲の罪責

1 乙の本件送金行為

業務上横領罪の間接正犯が成立するか

乙は甲の指示に従っていたものの、甲の意図を見抜いた上でそれに協力する形で本件送金行為を行った

→乙の意思決定の欠如を利用したとはいえないので、間接正犯は成立しない

業務上横領罪の間接正犯を実現する主観で、単純横領罪の教唆犯の客観を実現した

単純横領罪の教唆犯の成立要件検討

共犯の錯誤の処理→重なりあうのは単純横領罪の教唆犯の限度

※ぶんせき本は、乙が故意ある幇助的道具であるとして甲に間接正犯を認めているが、これは厳しいのではないか。

基本刑法の立場に従うならば、故意ある幇助的道具である被利用者は、自ら構成要件を実現する意思で構成要件該当行為をしている以上正犯として罪責を負い、利用者には教唆犯が成立することになるから、間接正犯の問題にならないはずである。

また、そもそも甲の犯意に便乗したに過ぎない乙が「道具」といえるかという問題もある。指示に従ったことをもって間接正犯性を肯定するなら、組長が手下に犯罪を指示したような典型的な共謀共同正犯場面でも間接正犯が成立することになってしまう。果たして本問の事情から、甲が乙の意思決定の自由の欠如を利用した(=道具として一方的に利用した)と説得的に述べることが可能かは慎重に検討する必要がある。*1

乙の正犯性を否定し、送金行為が甲との関係で幇助犯にとどまると解した場合には、非占有者・非業務者が加功した場合に成立する犯罪というお決まりの問題も出てくる。自分は正犯性を肯定しているので書いていない。

2 乙の本件出金行為

業務上横領罪の間接正犯は成立しない

(教唆犯の構成要件も満たさない)

3 乙を車のトランクに閉じ込めた行為

監禁罪

→特定の場所からの脱出を不可能又は著しく困難にする行為だが、被害者による承諾があれば構成要件該当性が否定される

しかし、犯罪を隠蔽する目的での監禁に社会的な相当性はないから、構成要件該当性は否定されない

→成立

4 虚偽の通報をした行為

偽計業務妨害

5 罪数

①横領罪の教唆犯②監禁罪③偽計業務妨害

併合罪

 

                                     以上

 

                      

*1:出題趣旨や採点実感では、間接正犯を肯定するルートも可としています。もっとも、その場合には乙の途中知情や正犯性といった本問の特殊事情を踏まえて説得的に論証しなければなりません。

本試平成24年刑法 構成メモ

 

1. 雑感

 新傾向での出題を予想する受験生が思いつきやすいであろう「業務上横領罪と背任罪の区別」「名義人の意義」「業務上横領罪に加功した者に成立する犯罪」という論点をすべて含んでいるため、直前期の確認として復習した。今回の出題で厚く論じたのは、判例と異なる処理をする最後の点のみ。

なお、甲の抵当権設定行為、甲乙の本件土地売却行為については詐欺罪の成立を検討する余地もある。Dの主観に関する事情は、同行為が財産的損害に向けられた「欺」く行為といえるかというところで用いることになる。メインは業務上横領罪だと思うので必須ではないだろうが、ここまで含めて書ききればAは確実だろう。

名義人に関してはいずれのアプローチも考えうる。ここで採るアプローチによって罪名・適用法条が変わってくるので、起案の際は決め打ちするのがベターかもしれない。

 

2. 構成メモ

 

甲の罪責

1 A社所有の本件土地に抵当権を設定する契約(以下、「本件抵当権設定契約」)を締結した行為

A社との関係で業務上横領罪

※A社のために事務を処理する者が本件土地に抵当権を設定しているため背任罪と業務上横領罪のいずれに問疑すべきか問題になるが、両罪が法条競合の関係にあるため、業務上横領罪を先に検討。今回は業務上横領罪が成立する

 

2 A社が本件抵当権設定契約を承認した旨の議事録(「本件議事録」)を作成した行為

無印or有印私文書偽造

本件議事録も「事実証明に関する文書」に該当することは認められる

Q作成者は甲だが、名義人は誰か

アプローチ1 文書に表示された意思観念に基づく法律効果が帰属する主体、すなわち「A社社員総会」と捉える

アプローチ2 文書に表示された意思観念が帰属する主体、すなわち「A社社員の互選により選任された甲」と捉える

→いずれのアプローチを採るにせよ、作成者と名義人との人格の同一性を偽ったと認められるから「偽造」したといえる

→アプローチ1によるなら無印私文書偽造罪(159Ⅲ)が、アプローチ2によるなら有印私文書偽造罪(159Ⅰ)が成立する 今回はアプローチ1を採用する

3 本件議事録をDに交付した行為

同文書行使罪

4 本件土地をEに売却した行為

⑴A社との関係で業務上横領罪

既遂時期は登記を移転した時点

⑵Dとの関係で背任罪

5 罪数

①業務上横領罪②無印私文書偽造罪③同文書行使罪④業務上横領罪⑤背任罪が成立。②③が牽連犯、④⑤が観念的競合。これと①とが併合罪

 

乙の罪責

甲がEに本件土地を売却した行為

⑴ 業務上横領罪の共謀共同正犯

Q共謀共同正犯の成立要件をみたしている(狭義の共犯との区別のため、正犯意思は厚く書く)が、単純横領と業務上横領のいずれに問疑するか

判例は業務上の占有者を構成的身分として65Ⅰを適用し業務上横領罪の成立を認めつつ、科刑については単純横領を基準とする(∵占有者たる身分の者が加功した場合、65Ⅱで単純横領が成立するにとどまることとの均衡)

しかし、成立する犯罪と科刑がずれるのは罪刑法定主義の観点から支持できない

乙は占有者たる身分を有していない→65Ⅰで単純横領罪の共謀共同正犯が成立すると解すべき       

⑵背任罪の共謀共同正犯

成立

2 罪数

①横領罪の共同正犯②背任罪の共同正犯が成立、①②は観念的競合             

                                     以上

 

                      

本試令和2年刑法 構成メモ

 

1. 雑感

 

 新傾向の出題3年目。設問2の事実抜き出し問題は、相当因果関係説を採って犯罪の成立を否定させる変わったものが含まれていた。判例が因果関係の判断基準について明示していないうえ、複数の見解の想起が比較的簡単なので、TKC模試の刑法設問3よりはマシであろう。

しばらくの間は、強い誘導の下で①罪責を絞り理論的対立のある部分について重点的に論じさせる設問②これまで通り複数の罪責を処理させる設問③②の一部について異なる結論を導く構成を検討させる設問のセットが続くんだろうか。

2. 構成メモ

設問1

1 甲が暴力団員を装い、脅迫的言辞を用いてBに対し600万円を自己の口座に送金するよう申し向けた行為

Q1.詐欺罪と恐喝罪のいずれに問疑すべきか

Bが600万円を送金したのは、甲を暴力団員と誤信した結果弁済しないと家族などに危害を加えられると畏怖したから+甲が暴力団員を装ったのはあくまでBを畏怖させる一手段→恐喝罪に問疑

口座の金銭についてはその名義人が自由に引き出せることから、1項恐喝に問疑する

Q2.構成要件該当性

⑴「恐喝」

財産の処分行為に向けられた、反抗を抑圧するに至らない程度に人を畏怖させる暴行又は脅迫

→脅迫に該当

⑵「財物を交付させた」

畏怖に基づく交付行為があったといえる

⑶ 財産的損害

・①の見解

財産的損害は実質的に捉えるべき。恐喝がなければ600万円は交付しなかったといえるのだから、600万円全額が財産的損害となる。権利行使の手段として恐喝を行ったことは違法性のところで考慮すれば足りる

・②の見解

財産的損害は同じく実質的に捉えるべきであるが、意思に基づいて債務の弁済をしたに過ぎない以上、債務額を超える部分についてのみ財産的損害が生じたと考えるべき

したがって、100万円が財産的損害となる

・どちらが妥当か

恐喝により600万円を支払うのと、任意の弁済として600万円を支払うのとは質が異なり、別個の支払と評価できる

→実質的損害は600万。①によるべき

600万円が財産的損害となる

⑷恐喝行為・畏怖・600万円の交付・財産的損害との間に因果関係あり

⑸故意

甲はBを畏怖させ600万円を交付させることを認識認容して本件行為に及んでいる→故意あり

⑹Q3違法性が阻却されるか

恐喝罪の構成要件に該当する行為であっても、①権利行使という正当な目的があり、②権利の範囲内において行った行為で③その行為が社会的相当性の範囲内にあるといえる場合は違法性阻却

→少なくとも②はみたさないだろう。違法性は阻却されない

2 恐喝罪成立

設問2

1 事実① 混入させた睡眠薬が人を死亡させる危険性を有していなかった事実

理由 殺人罪の実行行為性がない

2 事実② Aが特殊な心臓疾患に起因する心不全で死亡した事実

理由 刑法上の因果関係を、条件関係を前提にして、行為から当該結果が生じたことが行為時点において一般人が認識し得た事実・行為者が認識していた事実を基礎にして相当といえるかで判断する

甲が睡眠薬入りワインを飲ませなければAは死亡しなかった→条件関係あり

Aの特殊な心臓疾患は、一般人として行為時点で認識できないし、甲も認識していなかった→因果関係の判断の基礎から除外される

→甲が睡眠薬入りワインを飲ませた行為からAの死亡結果が生じたことは相当とは言えない

3 事実③ 甲が睡眠薬で死ぬことはないと思っていた事実

理由 ワインを飲ませた時点でAが死亡することの認識認容を欠いている→殺人罪の故意がない

設問3

1 預金の払戻しを請求した行為

Aとの関係での横領罪(252)

Q.600万円は「自己の占有する他人の物」か

正当な預金の払戻権限を有する者は、預金債権を行使して銀行が占有する不特定物たる金銭を預金額の限度で自由に引き出せる

→銀行が保有する不特定物たる金銭について預金額の限度で法律上の支配力を及ぼしているといえる

→「自己が占有する」といえる

Aから使途を定めて委託されているが、刑法上金銭所有権は寄託者に帰属するから「他人の物」といえる

Q.既遂時期

払戻請求時点

2 Aに睡眠薬入りワインを飲ませた行為

⑴強盗殺人罪

Q1「強盗」該当性―第1行為が「暴行」たりうるか

肯定でよさそう

Q2「強盗」該当性―具体的な財産的利益の確実な移転に向けられたものといえるか

肯定できそう

Q3睡眠薬飲ませた行為と死亡との間の因果関係があるか

危険の現実化説に立てば肯定可能

Q4強盗殺人罪は殺人の故意ある場合も成立するが、睡眠薬飲ませる時点では甲に強盗殺人の故意なし。→第1行為を強盗殺人罪の実行の着手とみることができるか

→実行の着手は構成要件的結果発生の現実的危険性を惹起する行為

→実行行為と密接に関連し、法益侵害実現の現実的な危険性があれば実行の着手といえる

睡眠薬飲ませる行為を第1行為、ガスを発生させ吸引させる行為を第2行為とすると、人を死亡させる現実的危険性があるのは第2行為。ゆえに、第1行為が第2行為と密接に関連し一連一体と評価でき、第1行為の時点で死亡結果の発生に至る現実的危険性があるならば、第1行為をもって強盗殺人罪の実行の着手があったといえる

→本件では、①第1行為はAを動けない状態にし、第2行為を容易かつ確実に行うために必要不可欠であったといえる②Aが眠ってしまえばガスの発生は甲が任意に行える→障害となる事情なし③時間的場所的にも近接している

→第1行為は実行行為たる第2行為と密接に関連しており、第1行為の時点で死亡結果を実現する現実的危険性がある

→第1行為の時点で強盗殺人罪の実行の着手があったといえるから、甲にはそれに対応する故意もあった

因果関係も構成要件的評価において一致するから問題なし

→成立

3 Aの腕時計を上着のポケットに入れ持ち去った行為

窃盗罪 特に問題点なし

4 罪数

横領、強盗殺人、窃盗

→併合

                                     以上

本試平成27年刑法 構成メモ

 

1. 雑感

 占有がメインテーマの出題。行為者が3人いる時点で大変なのに、占有の有無を丁寧に検討する必要があるほか、正当防衛の検討までさせられる。占有の認定が重要であることは言うまでもないが、理論面で地味に難しいのが、カバンの取り返しについて、窃盗の既遂時期との関係でどの段階まで「急迫不正の侵害」があると認めるかという問題。

 

2. 構成メモ

甲の罪責

1 新薬開発課の部屋に立ち入った行為

建造物侵入罪

端的に認定でOK

2 新薬の書類を持ち出した行為

窃盗罪

⑴他人の財物

部長には書類の占有が認められるといってよい

もともとは新薬開発部におり、部長として書類の管理も任されていた

確かに後任の部長に引き継ぎ金庫の暗証番号も教えている

しかし、暗証番号自体に変化はないため甲も金庫を開けることができる

→甲は新薬の書類につき占有を喪失していない

もっとも、後任部長も新薬の書類について占有している

→後任部長との関係では「他人の財物」にあたる

⑵窃取

窃取の定義

→「窃取」にあたる

※既遂時点については、何故カバンに入れた段階で書類の支配が甲に移転したかを「答案に記載する」ことで説得的になる 例えばカバン内が私的領域と評価できるから、とか。

⑶ 故意及び不法領得の意思

端的に認定でOK

3 C所有のカバンを奪った行為

⑴ 問疑すべき罪

 強盗罪と窃盗罪の区別→「暴行」が人の反抗を抑圧するに足りるか

・暴行の態様

→そこまでには至らない(ひったくりの本質は、人の反抗を力づくに排除するわけではなく、反抗の余地がないことを利用して奪取する点にある。今回の行為態様で本当にそう言うことができるか、という話)。そこで窃盗罪と傷害罪に問疑

⑵ 窃取

端的に認定でOK

⑶故意及び不法領得の意思

 故意→客体を誤認識しているが、故意を阻却しない

 不法領得の意思→肯定(自己物として利用する意思あり)

⑷ 自己物の取戻し→正当防衛の成否

そもそもC所有のかばんなので、急迫不正の侵害がない→否定

※急迫不正の侵害の定義についてきちんと書くこと。

⑸ 責任故意の阻却―誤想防衛の成否

ア 規範/理論

イ 個別具体的検討

・窃盗罪はCが待合室を出て改札口に差し掛かった段階で既遂に達しており、「急迫不正の侵害」が終了しているとも

しかし、既遂に至った直後であれば、いまだ占有の侵害が現に存在しているといいうる

→本件でも、Cが持ち去ってから1分しか経過していないので、甲の主観では「急迫不正の侵害」が認められる

・「防衛の意思」→あり

・「やむを得ずにした」の定義

→あてはめ

必要性:電車に乗られた場合追跡が不可能・Cも話に応じずホームに向かおうとしていた

→電車に乗られる前にかばんを取り戻すために対抗行為をする必要があった

手段としての最小限度性:Cの体への接触を伴っていないが、転倒させるほどの力で引っ張っており、手段として必要最小限度であったとはいえない

→やむを得ずにしたとは言えない

⑹ 誤想過剰防衛の成否

・過剰性を基礎づける事情について誤認識していたとはいえない

→準用否定

⑺結論

窃盗罪成立。

⑻傷害罪

端的に傷害罪の成立を指摘。

→窃盗罪と同様誤想過剰防衛が成立。

4 罪数

①建造物侵入罪②窃盗罪③窃盗罪④傷害罪が成立、①②は牽連犯(54Ⅰ)、③と④とが観念的競合(同項)、両者が併合(45前段)

②③について36Ⅱが準用される旨論証

 

乙の罪責

1 甲の新薬書類持ち出しにつき窃盗罪の共謀共同正犯が成立するか

⑴ 共謀共同正犯の成立要件

⑵ あてはめ

 特に共謀の射程が問題になるが、乙が甲に異動の事実を伝えた後も新薬の書類と引き換えに300万円払う旨の意思表示をしている

→共謀成立時において、甲の所属部署にかかわらず犯行を実行することがその内容になっていたと認められる

→甲の行為は基づく実行といえる

⑶ 共犯の錯誤

共謀段階では業務上横領罪の主観であったが、客観的には窃盗罪を実現している

・抽象的事実の錯誤(主観>客観)

→重なり合う限度で軽い罪の故意が認められる

→懲役刑では上限に差がないが、罰金刑が定められている点で窃盗罪の方が軽い

物を領得することで財産権を侵害する点で両罪は共通

→乙には窃盗罪の限度で故意が認められる

2 乙には窃盗罪が成立し、甲と共同正犯になる

 

丙の罪責

1 

⑴甲のかばんを持ち去った行為に窃盗罪が成立するか

⑵「他人の財物」に当たることは端的に認定。

⑶「窃取につき」前述の定義に従い検討すること、及び占有の考慮要素を先出し

⑷個別具体的検討

・占有肯定方向

 距離20m

 1分しか経過していない

 意図的に離れている

 待合室の出入り口は1か所のみ

 当時甲と丙のほかに出入りしていない

・占有否定方向

 甲はかばんについてみていない

 待合室は誰でも出入りでき、ガラス張りで外から内部状況が確認できる

→占有アリ、丙は甲のカバンを「窃取」したといえる

⑸ 故意及び不法領得の意思

 故意→○

 不法領得の意思→甲のカバンを窃取することによって留置施設にいって寒さをしのぐというのは、甲のカバンを経済的用法に従い利用処分することで得られる効用ではない

→利用処分意思がない

⑹ 窃盗罪は不成立

2 器物損害罪

⑴「損壊」の定義

⑵ 個別具体的検討

 カバンの持ち去りは甲がカバンを使用収益できなくする点で効用を害する

→損壊を肯定

⑶成立。ただし、自首(42Ⅰ)により刑が任意的に減免される

                                    以上

本試平成28年刑法 構成メモ

 

1. 雑感

 事務処理系の流れを汲んでいる問題。おそらく重点的に検討すべきは、甲について共犯関係の解消が認められるか・丙の金銭持ち去り行為に強盗罪の共同正犯が成立するか(承継的共同正犯の肯否)の2点。他は淡々と要件充足性を検討すれば良いだろう。

例年に比べると難易度は低かったように思われるが、丁などは明らかに時間超過を狙って付加されている。記述のメリハリ付けを強制するためだろう。

 

2. 構成メモ

 

乙の罪責

1 V方に立ち入った行為

2 Vの顔面を蹴りふくらはぎをナイフで刺すなどして現金を強取した行為

強盗致死罪(240条、236条1項)

各要件、とりわけ問題にならない(死亡結果も強盗の手段たる暴行から生じている)

3 罪数

①住居侵入罪②強盗殺人罪が成立、②は甲と共同正犯 両者は牽連犯

甲の罪責

1 乙のV方立入り行為について

共謀共同正犯の成立要件3つはこっちで論証・定立しておく

甲は中止指示をしたにもかかわらず、乙はその後にV方に立ち入っている→共犯関係の解消が認められるか

たしかに、甲が乙に対して支配的な地位にあるから、中止指示をもって解消が認められるとも

しかし、犯行に用いる凶器や開錠器具を購入する資金を提供している→物理的因果性が及んでおり、共犯関係の解消にはこれらを回収するなど物理的因果性を遮断する措置まで必要

甲はこのような措置をとっていないから、共犯関係の解消は認められない

共謀共同正犯の要件はいずれもみたす

2 乙が現金を強取した行為について

・共謀に基づく行為といえることは若干丁寧めに書いておく。

・強盗について共謀が認められるので、結果的加重犯である強盗致死罪についても共同正犯として責任を負う

3 罪数

①住居侵入罪の共同正犯②強盗致死罪の共同正犯 ①②は牽連犯

丙の罪責

1 V方に立ち入った行為について

住居侵入罪

2 現金を持ち去った行為について

共謀に基づき、強盗罪のうち財物奪取だけに関与した者の罪責

→承継的共同正犯の問題。書きやすいのは積極利用説。

→強盗罪については肯定できよう。もっとも、反抗抑圧状態を利用しただけで、顔面を蹴った行為やふくらはぎを刺した行為自体を自己の犯罪の実現のために利用したとは言えない

→致死結果については帰責されないので、強盗罪の限度で共同正犯が成立する

3 罪数

①住居侵入罪②強盗罪の共同正犯 ①②は牽連犯

丁の罪責

1 V方に立ち入った行為について

住居侵入罪

2 キャッシュカードをポケットに入れた行為について

窃盗罪

キャッシュカードの「財物」性

3 キャッシュカードの暗証番号を聞き出した行為について

2項強盗罪の成否の問題

・丁の脅迫は単体では本罪の「脅迫」たりえないとも思えるが、甲によって作出された犯行抑圧状態を継続させるに足りるものではあったから、なお「脅迫」にあたる

・財産上の利益の具体的かつ確実な移転に向けられていることを認定

成立

4 盗取したキャッシュカードで現金を引き出す意図の下ATMのあるX銀行Y支店に立ち入った行為

建造物侵入罪(管理権者の承諾の範囲外の立入りであることを端的に認定すればOK)
5 ATMから現金を引き出した行為

銀行に対する窃盗罪

6 罪数

①住宅侵入②窃盗罪③強盗罪④建造物侵入罪⑤窃盗罪

①②・①③が牽連犯、全体として科刑上一罪 ④⑤が牽連犯 両者が併合罪                                                                                               

                                    以上