【使用教材紹介11】事例研究刑事法Ⅱ 刑事訴訟法
お久しぶりです。長引く外出自粛にもだんだんうんざりしてきましたね...
本日紹介するのは、こちらの教材です。
【教材利用の目的:論証の修正・実務見解からあてはめの相場観をつかむ・過去問演習後のステップアップ】
刑事訴訟法の演習書というとメジャーなのは古江本ですが、私は論点についての整理よりもあてはめのしかたを学びたかったため、実務家も執筆しているこちらの本を選びました。なので、古江本の内容については残念ながら知らないままです。ではまいりましょう。
この本の最大の特長は、前述の通り「実務家が執筆に参加している」という点にあります。
完全な私見ですが、「あてはめ勝負」という受験界の言葉が一番妥当するのは、憲法ではなく刑事系だと思っています。*1
すなわち、刑法・刑訴では多くの受験生が完璧な論証を書いてきますから、理論部分だけでは相対評価ではねるのが難しいです。そうすると、①事実を適示し②適切な評価を与えるだけでなく、③それが定立した規範との関係でどう評価されるかを丁寧に書くのが、高評価を得るために重要になってきます。...先生の請け売りですが。
この本では、与えられた各事例において、学者からの視点のみならず「実務家なら事実をどう評価するか」という言及がなされています。出題者側が想定しているあてはめの相場をみることが出来るのです。判例を読み込んでいないのが悪いんですが、どうもあてはめの指針が分からんなあと思っていた私には非常に有用でした。
また、あてはめについての解説が充実していることと関連して、結論までの一つの思考筋が示されているということも一つの特長です。演習書にありがちなデメリットとして、結論について明確な言及がないというものがありますが、この本ではその点がカバーされています。*2
もう一つの特長は、各問題に関連する論点について充実した解説がなされていることです。職務質問、別件逮捕、強制捜査などの捜査段階の話から、訴因特定や変更といった公訴提起段階の話、そして違法収集証拠排除法則・自白法則・伝聞法則の証拠法の話まで幅広く記述がなされています。ここの記述がなかなか秀逸で、予備校テキストでは手が届かない部分まで掘り下げてくれており、学説・判例・実務の鼎立状況が分かりやすく整理されています(そのうえで、執筆者が妥当と考える見解も示されています)。私も読んでいて理解の誤りを認識することが多々ありました。国木先生の論証にも、事例研究に依拠していると思われる部分があります。理論面についてはリークエや古江本、緑本etc.の著名な基本書が存在するため、この本ならではの良さであるとまでいうことはできませんが、演習しながらしっかりした解説が読めるというのはなかなか便利です。刑訴を一周したばかりという場合は、解説だけざっと読むのもありかなと思います。問題数は14とそこまで多くありませんから、短時間で読むことができます。取り扱う分野の関係上、ローの刑事系授業ともシナジーが強いです。
この本は記述のバランスが非常によいのですが、敢えて注意すべき点をあげるとすれば、「難易度が高いこと」「網羅性はやや低いこと」です。かすがい外しの起訴のような多面的思考を要する問題、基礎知識や判例理解を組み合わせて解かなければならない問題など、一周目の段階ではかなり骨の折れる問題が多く入っている印象です。また、事例の後ろについている課題についても時々「なんだそれ?」となるものが入っています(ローや図書館など文献にアクセスできる環境が必要です)。
典型的な論点についても一定程度演習できますが、言及されていないものもあるので注意してください。この本に本格的に着手するのは、予備や本試の過去問を終えてからで十分と思われます。
以上